供給者/開発者がはまる四つの落とし穴

過酷な現代の市場


今の日本の商品やサービスで、成長過程にあると言えるものは何だろう。


ついこの間まで、そう思われていたDVDレコーダーやデジタル・カメラ、薄型テレビなどはあっという間に成熟し、すでに過当競争が起き、コモディティと呼ぶしかない段階に入って来ている。もちろん、これらの商品開発を担当する技術者は、今も一層の高品質化、高機能化にしのぎを削っているであろうことは容易に想像できる。少なくとも、これらの商品が成長過程にあった時には、確かに技術開発による高機能化や高品質化に対して、消費者はちゃんと反応し、お金を払った。だから、高い技術を持つ会社が、ニッチマーケットに絞り込む戦略もそれなりに機能していた。



ところが、カテゴリーキラー*1と言われる、従来の競争相手以外の領域から突然参入するような競争者の影響もあり、過当競争が進んだ市場では、せっかく供給者が苦労して見つけたプロフィット・ゾーンにあっという間に、競合他社が殺到する。しかも、高機能化、高品質化もあるレベルに来ると、それ以上消費者が見分けることができない、あるいは、効用を感じないことから、技術開発投資の見合う価格を払ってもらえなくなる。もともと同じ業界に何社も凌ぎを削る日本の製造業など、ほとんどの商品がこのポスト成長段階に来ていると言えるのではないか。



供給者の認識ギャップ


この、供給者側が典型的に認識をあやまるケースは、大別すると次の四つにまとめることができそうだ。

1.商品価値に関する供給者と消費者の認識ギャップ
  
  商品開発を行う側は、プロとして、非常に微妙な差異や技術的優位性を見分け、
  しばし自己陶酔的な過大評価をしがちだが、消費者は、競合商品との間に
  相当大きな違いがないと見分けることができない。
  特に、過去に成功体験を持つシニアの
  技術者や経営者が決定権を持つ企業にこれが起こりがち。



2.企業間の競争のスピードの過小評価と競争慣行の変化への対応不全


  従来より開発競争のスピードが上がっており、投資回収の期間が短くなっていることが
  まだ認識されていないこと。
  さらに、従来なら、マーケットニッチとして、見逃されたようなプロフィット・ゾーンにも
  競合が殺到してしまい、従前の予想より、投資回収が難しくなっていることを
  認識していないこと。
  また、組織が肥大化して決定スピードが以前より遅くなっていることに気づかないケースも
  ここに入る。特にこれが日本の大企業では非常に多くなっている。



3.大きな組織での決定が『見えやすくわかりやすい』差異へと誘導しがちであること


  肥大化した組織では、商品開発の最終決定者が、市場や現場を知らない経営者や
  株主であることが多くなりがちだが、そうなるとどうしても、
  可視化され、ROIもきちんと計算されているような
  資料を元に判断することになる。ところが、『見えやすくわかりやすい』差異ほど
  競合他社にも追随されやすい
ことが見落とされている。
  市場を知る現場が提案する、追いつきにくい差異は、社内の説明が難しく、
  説得に時間がかかるか、わかりやすい差異に置き換えられてしまうことが起こりがち。



4.機能向上と消費者の効用が相反することに気づかないケース


  音声電話より機能は上のテレビ電話は結局普及しない
  人は突然準備なく人の前に出ることは嫌いなのだ。
  利便性/機能向上が消費者に受け入れられるとは限らない
  これは、市場を知るものにはよくわかっているのに、社内の決定機関では正しく
  理解されないことも多い。
  (すなわち、3と同様に現場がわかっていても見過ごされがちである。)



大きな組織ほどはまりがち


こうやって書いてみるとあたりまえに見えるが、それほど各社の理解が進んでいるようには見えない。そして、これはすべて大きな組織(大企業)で典型的に起きてしまう、逃れることが難しい問題点でもある。問題に対する処方箋はすでに市場での沢山良い例を見ることはできるが、取り入れることは難しいようだ。以前にも書いた、『大きな企業は弱い*2』という言い方に、リアリティがあるのが今日の経営環境である。