大きな企業は弱い?

昨日たまたま、BBTのテレビ番組を観ていたら、講師の一條和生氏が、『サイズを強みに生かす』と題して、比較的規模の大きな会社が、その強みを使って競争優位を出すためにはどうすればよいか、という課題について、GEの例を中心に、トヨタ等の例も引きながらお話をされていた。


確かに、GEもトヨタも持続的成長を現在でも続けているエクセレントカンパニーであり、その業績には文句のつけようがない。多くの企業からお手本とされてきたし、数えきれないくらい経営の本にも取り上げられて来ている。今回の一條先生のお話でも、サイズを強みに生かす仕掛けがどのようなものなのか、ということが取り上げられていた。GEの経営者を鍛え上げる教育のシステムは、何度話を聞いても、実に見事なものだと思う。


ただ、前振りというか、番組の始めのコメントが実に印象的だった。『最近は大きな会社の弱みということがしきりに言われるが、必ずしもそんなことはなく、サイズを強みに変えている優良企業もちゃんとあるのだ』というような内容だった。(必ずしも正確ではないかもしれないが、このような主旨のことに言及されたのは確かだと思う。) 大きな企業は弱い? 大企業は資金力、ネットワーク、豊富な人材等を利用できるため、強いのがあたりまえのはずなのだ。ところが、現実に昨今、そうではない事例は枚挙にいとまがない。組織が大きく、特に老朽化が進んだ企業は、情報流通は悪く、決断が遅く、社内政治に翻弄されて、額面通りの実力を発揮できないケースが増えて来ている。


ここで取り上げられた、GEやトヨタは、巨大な組織にも係わらず、トップの意思を末端まで徹底する手法を持ち、強固なカルチャーを作り上げており、そうであればこそ巨大組織の強みを享受できているともいえる。


しかしながら、GEやトヨタの例が、これからも、教科書としてお手本とされていく、ということについては、どうもそうではないのではないかと思えてならないのだ。これらの会社は今や、非常に特殊な例外であり、他社が安易にお手本としてしまうと、今よりもっと大きなジレンマに悩まされてしまうのではないか。GEにしてもトヨタにしても、これだけ強固なカルチャーは、先陣が血と汗で歴史を紡ぎ、物語をつくり上げることができて、初めて浸透したのだと思われる。単に箱と決まりとビジョンをつくって連呼してるだけでできるものではないはずだ。物語構築力、とでも言える他社が追随できない強みがあったからこそ、ライバルの浸透を許さなかったのだろう。それが簡単にマニュアルで真似できるとは、どうしても思えない。


加えて、先日例を引いた、中嶋聡『おもてなしの経営学の中で、ビル・ゲイツ『資金力と人的リソースを持っているマイクロソフトにしかできないことをしてこそ差別化できるんだ』と言ったというくだりがあるが、一時代前に明らかな正論であったろう、この考え方も、今や典型的なイノベーションのジレンマの温床となることが喝破され、『Fast eats slow.』に誰もがリアリティーを感じている現在、サイズが大きなことに明らかなリスクがあるのに、ある程度のメリットがあるからといって、サイズの大きさに執着するようなことがあってはいけない、というくらいでちょうどよいのではないだろうか。