サード・リアリティー

テクノロジーの進化は、しばしば、人々の意識を大きく変え、それぞれの関係性をも劇的に変えてしまうことがある。卑近な例で言えば携帯電話がそうだろう。携帯電話の普及は、すでに私たちの生活も社会も大きく変えてしまったし、今でも変えつつある。


今起きているインターネットがもたらす変化、そしてこれから起きるであろうもっと大きな変化は、人間の意識を変え、関係を変えて行く。今の生活や環境をそのまま便利にする、というような単線上の進歩をもたらすだけでは決してすまないはずだ。ある段階まで変化が起きてくると、環境、意識、関係が構造変化を起こして、いわば次元転換が起きてくるだろう。ちょうど、そのような考えを漠然と抱き、明確に言葉にできずにいた時に、楽天技術研究所代表の森正弥氏の『サード・リアリティー』という考え方に触れて、我が意を得た思いがした。


『サード・リアリティー』http://www.rakuten.co.jp/event/10th/tech/conference/doc/third_reality_20071113.pdf

楽天、「Web 3.0ではなく“サードリアリティ”を追求する研究所」について語る - CNET Japan


森氏が指摘されるように、所与のリアリティを超えるリアリティが断続的に出現してくるというイメージは、その細部は別としても、基本的なコンセプトに同意できると感じた。パラダイムシフトに繋がるようなリアリティの変革の出現に至る前の段階で、サード・リアリティーが出現するという把握も、非常に興味深い。私の理解が正しいとすると(間違っている可能性も多分にある)、変化は断続的に起きるが、不連続で小パラダイムシフトを伴う、ということになると考えられる。市場予測という点ではこれは非常に由々しい問題で、旧来の分析ツールが断続的に陳腐化していくことを意味する。大量消費・生産を前提としたマスマーケティングはますます難しくなるだろうし、常に変化する個々人とその関係性把握を断続的に行うことができるかどうかが、勝敗を大きく分けることになる。


では、来るサード・リアリティは、具体的にはどのようなものになるのだろうか。それを予想するに際して鍵となるのは、まずは時間と空間に関する変化だろう。


工業化(産業化)以前の農耕文明では、自然のリズムが時間の観念を支配しながらも、地域どうしの時間は統一性がなく、時空間はやわらかく存在していた。産業革命によって、工業化の波が押し寄せてくると、地域によってばらばらだった時間は統一され、空間は単調でユニバーサルになる。意識も標準化(平準化)が進み、人々は相対時間から絶対時間の中を生きるようになる。その結果、人間の労働を含めてすべてが計量化、数値化される。本来商品化が不可能なはずであった労働は商品化され、本来分割することが不可能であった生活は、工業生産のように分断され、無駄なものは切り捨てられて行く。人々はそういうリアリティを受け入れて、物的な豊かさを得て物的でない豊かさを失って来た。


インターネットの進化発展によって、時間や空間の制約が取り除かれるばかりか、すでに疑似同期化というような時空のリアリティの変化が起きて来ている。この先、想像以上のパラダイムシフトが起こる予感を非常に強く感じる。私もこのテーマには以前から関心を抱いており、もう少し探求して、今後ブログで展開してみようと考えている。