インターネットを最も有効に活用したオバマ米大統領候補

大勢が決した米大統領選挙戦


米国大統領選挙戦は、大詰めを迎えつつある。15日の民主党オバマ氏と共和党マケイン氏の論戦を終えた直後のCNNの調査では、オバマ氏58%、マケイン氏31%と大差でオバマ氏の優勢が伝えられ、ここにきて、オバマ氏の優勢がはっきりして来ている。ワシントン・ポストシカゴ・トリビューン、 LAタイムズ等の新聞各社も続々とオバマ氏支持を表明している。


では、何がここまでオバマ氏の優勢をもたらしたのか。つい1〜2ヶ月前までは、マケイン氏の巻き返しが激しく、両者は拮抗していると伝えられたものだった。特に、8月29日に、マケイン氏が副大統領候補アラスカ州の女性知事、サラ・ペイリン氏を選んだ直後には、マケイン氏の支持率が10ポイント以上上昇した。ペイリン氏の好感度は、共和党、民主党の正副大統領候補の中で一番人気となったと言われていたものだ。雑誌SAPIOの10月8日号で、落合信彦氏など、オバマ陣営にとどめを刺したマケイン陣営の核弾頭』と絶賛する記事を寄稿している。


確かに、44才という若さ(オバマ氏より3才も若い)、元準ミス・アラスカという端麗な容姿ながら、5人の子持ちという良きアメリカを彷彿させる包容力もある。しかも、長男がイラクに派遣されている陸軍の兵士というのだから、エリート臭もせず白人労働者からの受けもいい。さらに興味深いのは、長女は未婚のまま妊娠中で、保守層からの反発も予想されなくはないのだが、実際のアメリカの家庭で典型的に起きている事例でもあり、むしろ共感を持って受け入れられたようだった。



評価が急落するペイリン氏


ところが、最近のアメリカの新聞の論調は、そのペイリン氏を選んだマケイン氏の無責任さを非難するものが多い。マケイン氏は現在72才。順調に大統領になれば、過去最高齢の大統領の誕生ということになる。しかも、過去に皮膚ガンを患って4回も手術しているという。あんのじょう、CNNの調査によれば、米国民の47%は高齢問題から1期目の4年間の執務に良好な健康状態で対処出来ないとの懸念を抱いている、という結果が出ている。 http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200810100009.html


マケイン氏が倒れれば、ペイリン氏が大統領に就任するわけだが、07年に初めてクゥエートを訪れるまで、国外に出た事も無かったというほどなのだから、外交能力を不安視されるのは当然だし、アラスカ州での行政経験があると行っても、かなりの賭けと言われても仕方がないだろう。



レッシグ教授のブログのインパク


今回の大統領選挙で、必ずしも充分な情報を得て来ていない事を自覚していた私は、ある時点からいくつかの情報源をインターネットで探してみたのだが、その中で一番琴線にふれたのは、クリエイティブ・コモンズや、インターネット関連の法律問題に係わる著作等を通じて、日本でも非常に著名な、ローレンス・レッシグスタンフォード大学教授のブログだった。ちなみに、レッシグ教授はオバマ氏を支持している。ある日、レッシグ教授のブログに、ABC放送のペイリン氏へのインタビュー番組をyoutubeに録画した動画が貼付けてあるのを観た私は、ペイリン氏の命脈が尽きたことを確信した。
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『On Pailin's experience』というタイトルがついたこの動画は、過去の副大統領候補の経歴に比べて自分は見劣りしない、とインタビューで答えるペイリン氏の発言を流した後、実際のアメリカの歴史に遡って、克明に副大統領の経歴をあたった上で、ペイリン氏と同等かそれ以下の経歴はわずか二人であることを暴露する。そして、過去副大統領が大統領に就任したパーセンテージが20%にものぼることを示した上で、マケイン氏が過去最高齢の大統領候補であること、それは歴史上もっとも経験が乏しい部類の副大統領候補を大統領にするリスクをおかすことだとする。


平時なら、そのリスクを取る事も選択肢の一つであるかもしれないが、今は平時ではない。 

  1. 1929年以来の金融恐慌 
  2. 中東戦争イラク、アフガン戦争)の最中 
  3. グローバル・ウオーミングが進行中 

という史上まれに見る未曾有の危機の中にある。そんなリスクは取れないと懇々と説明する。驚くべき説得力だ。このようなマテリアルを使ってインターネットで効果的に繰り返し強調されたら、どう見てもアメリカの国民はそんな賭けをする気にはならなくなるだろう。(私自身も充分説得された。)



インターネット選挙の本質を理解していたオバマ


そのレッシグ教授は、実はオバマ氏の選挙運動のインターネット・ポリシーのアドバイザーである。Tech­nology Review誌によると、今回の大統領選挙で、最もインターネットを活用して成功を治めたのはオバマだという。eメールも使えないマケイン氏とは言え、彼の陣営も、もちろんホームページを持ち、インターネットは使っているのだが、オバマ氏と比較すると、見劣りがするようだ。オバマ氏は選挙活動開始時点で、すでにインターネットを活動の中心においていたという。レッシグ教授もさることながら、もう一人重要な仕掛人がいる。ソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)の雄、Facebookの共同設立者、弱冠24才の Chris Hughes氏であるオバマ氏は当初から、Facebookを有効に活用して、ヒラリー・クリントン氏との民主党の指名争いにも勝ち抜いて来たようだ。

How Obama Really Did It



youtube & Facebook選挙


およそ一年まえ、今回の大統領選挙は、youtube選挙になるとも、セカンドライフ選挙になるとも言われていた。特に台頭しつつあった、セカンドライフをどのように使うのか、ということが注目されていたが、結局セカンドライフの勢いが収束した後は、どうやら、youtube & Facebook を戦略的に活用したオバマ候補が最終的な勝利者になりつつある。おそらく、今後詳細な研究レポートが沢山上がってくるだろう。日本にも少なからず影響が及んで行く筈だ。 楽しみに待つだけでなく、できるだけ積極的に情報を自分でも分析してみたいものだ。