国際競争力やGDPより『幸福度』を上げることを考えるべきだと思う
■若者にとって住みにくく生きづらい国になっている日本
日本が住みにくい国になってきているという実感は、誰もがそれぞれの立場で感じているところだと思う。例えば、雨宮処凛*1さんの言う『生きづらさ』は私が著書やブログを拝見しても、非常に切実な気持ちが伝わってくるし、私の友人やその子息からも、雨宮さんの話に共感できるという感想をよく聞くようになってきた。多少古いが、下記の通り、国際比較データを見ても、日本の中高生のありとあらゆる満足度が非常に低いことがわかる。
新千年生活と意識に関する調査(財団法人日本青少年研究所)2000年7月
日本、韓国、アメリカ、フランスの4カ国の中高生での比較
自分自身 「全く不満、満足でない」 31.1%(最下位)
家庭生活 「全く不満、満足でない」 20.2%(最下位)
学校生活 「全く不満、満足でない」 27.1%(最下位)
文化・余暇生活 「全く不満、満足でない」 19.7%(最下位)
友達関係 「全く不満、満足でない」 8.6%(第3位)
社会全般 「全く不満、満足でない」 36.7%(最下位)
■中年高男性を中心に増大する自殺
ただ、これが若者だけの問題かというと、けしてそうではない。厚生労働省大臣官房統計情報部 人口動態・保健統計課資料によると、平成15年には、人口10万人当たりの男性の自殺死亡率は38と過去最大となっている。
性・特定年齢別自殺死亡率(人口10万対)の年次推移を見ると、50才代男性の自殺が急増している。
平成15年 自殺死亡率(人口10万対)50〜54歳:66.0、55〜59歳:71.1
■幸福度国際比較
先ごろ発表された、アメリカの「ワールド・バリューズ・サーベイ(世界の価値観調査)」WVS Databaseの「幸福度調査」(WVS、本部:スウェーデン・ストックホルム。1981年以来、世界97カ国・35万人から集めたデータを分析)によると、1位はデンマーク、日本は約100カ国中43位という結果が出ているが、2〜5位まで並べてみると下記通りとなっている。
2位 プエルトリコ(アメリカ自治領)
3位 コロンビア
4位 アイスランド
5位 北アイルランド
同様の調査で、イギリスのレスター大学に所属する社会心理学分析の研究者エードリアン・ホワイト氏による調査(イギリスのシンクタンクのデータをベースに、約8万人に聞き取り調査を行った各種国際機関(ユネスコ、CIA、WHOなど)の発表済み報告書(100種以上)を分析。独自方法で計算した上で各国の「国民の幸福度」を順位付け)は2006年のデータだが、やはりデンマークが1位で、日本は178国中、90位となっている。
この調査での、2〜5位を同じく上げておくと、多少ヨーロッパ優位との印象を受けるが、下記の通りとなっている。
2位 スイス
3位 オーストリア
4位 アイスランド
5位 バハマ
■国際競争力ともGDPとも直接リンクしない幸福度
そもそも、幸福度というような、主観的な価値観に対して、客観的な評価を行うことは非常に難しいが、少なくとも二つの調査からは、日本が世界の中では幸福度が高い国とはとても言えないことがわかる。また、一目でわかるとおり幸福度とGDP(国内総生産)は直接リンクしていないことははっきりしている。
スイスのビジネススクールIMDによる国際競争力ランキングで、日本のラインキングが下がってきていることは、私のブログでも何度か取り上げたが(2007年24位)、このランキングとレスター大学の2006年の幸福度国際比較調査を並べた一覧表が、ビジネスウイーク誌のサイトに乗っていて、非常に興味深い。この競争力の上位3カ国は、米国、シンガポール、香港だが、幸福度ランキングでは、それぞれ23位、53位、63位と、国際競争力が幸福度とリンクしているというわけでもなさそうだ。(但し、幸福度でランクの高い、デンマーク、スイス、アイスランドは競争力でも、5 位、6位、7位と高位置にランクされている。)
http://bwnt.businessweek.com/interactive%5Freports/competitive%5Fcountries/
■『外こもり』するのも当然?
最近、『外こもりのススメ』*2という本を書いていた、ブロガーの安田 誠氏(本名:棚橋高秀氏)がタイで殺害された事件を契機に、あらためて、『外こもり』というキーワードで語られるような、日本でお金を貯めて、そのお金がなくなるまでタイ等の海外に住み着く若い日本人のことが話題となっているが、上記調査を見ると、客観的にも外ごもりをしたくなるような状況となってきていることを裏付けるデータのようにも読める。 実際、『外ごもり』を選ぶ人達は、日本がどんどん住み難くなっていると感じているという。(ちなみに、タイは国際競争力33位、幸福度76位。)
「端的に言えば、日本の社会に生きづらさを感じた人たちです。労働環境に適応できなかったり、人間関係に疲れたり、イヤになって日本を飛び出します。タイは気候も暖かく、人もアバウト過ぎるくらいおおらか。たとえ働かずにブラブラしていても、誰からも変な目で見られません。この居心地のよさに心が癒され、そのまま居ついてしまうパターンが多いようです」(同)
痛いニュース(ノ∀`) : 「外こもり」…日本で小金を稼ぎ、タイ辺りでのんびり暮らす若者が急増 - ライブドアブログ
■所得が多くなっても不幸になる?
最近は、秋葉原連続殺傷事件の影響もあってか、低所得層の拡大により社会的な不満が増大していることがクローズアップされることが多いという印象がある。低所得は不満の原因の一端であることは間違いないとは思うが、上記のような調査結果を見ると、問題は単純な経済力、所得格差の問題ではないのではないかと思われる。
また、所得が低すぎて結婚できないことが不満が高まる原因の一つという意見も多く、ここでも低所得化がやり玉に上がる事が多いのだが、海外の事例(昔の日本でも)では、独身でいると経済的に苦しい、という理由での結婚は非常に多いという。所得が低いから結婚できないというのは、本当なのだろうか。少なくとも、直接の原因ではないのではないか。
確かに、90年の初めには、国際競争力調査1位だった日本が、急激に競争力を落としていることは、中長期的な日本の将来のあり方を考えるにあたって、非常に重要な問題であることは間違いない。ただ、今のままでは、仮に日本の国際競争力が上がり、一人当たりのGDPが再び上昇しても、今より日本人の幸福度が上がり、住みやすく、生きやすい国になるとは考えにくい。むしろ、今の構造をそのままに、無理に競争力を上げようとすると、一層ひずみを大きくしてしまうのではないか。 経済問題の枠だけで考えていては、問題は解決しないばかりか、状況は悪化する可能性が高い。
ワールド・バリューズ・サーベイの調査結果では、幸福度は40カ国で上昇し、下降したのはわずか12カ国だったという。 日本は世界的に見ても特異な状況にあると言えそうだ。
『幸福を深く考えても抽象的でわかりにくいので、取り敢えず客観的な経済成長や国際競争力を上げることが、国民の最大多数の最大幸福を増大する』という信念に満ちたテーゼは、少なくとも今の日本では幻想であること、逆に幸福度を下げてしまう恐れさえあることをしっかりと認識することが重要だ。戦後の日本人は、極端な経済優先で来た事で、経済以外の幸福をもたらしてくれる価値を考える回路が壊れ、ひからびてしまっていると思う。なのに、グローバル化への対応の名の下に、さらに冷徹な経済競争をあおるのはいかがなものだろう。
■『幸福』についてもう一度考えてみよう
最も重要なのは、上記のような調査を行った結果として、幸福度を上げる要素は一体何なのかを明確にしていくことだと思う。 ビジネスウイークの記事によれば、まだ断片的な感想のレベルながら、いくつかヒントになる発言も見られるので、いくつか、ピックアップしておきたい。世界の幸福度は向上~国別ランキング調査:日経ビジネスオンライン そして、私自身ももっと整理して、言語化することを自らのミッションにしたいものだと思う。
- 必ずしも富そのものではなく、富を得ることで生き方を自由に選択できるようになったことが経済の繁栄と幸福度との関連は弱くなっている。
- 「資本主義の国」「人口の多い国」は「国民の幸福度」が低めに出る傾向があったようだ。経済発展が幸福度に及ぼす影響が薄れてきている。
- 貧しい国における幸福は、密に結びついた共同体の連帯意識、宗教的信念、愛国心などと重ね合わせることができる。
- 生活水準と幸福度の間には依然として強い相関関係があるものの、経済力の影響は非常に強いが、それがすべてではない。
- 社会の寛容性も、国民の幸福度を左右する重要な要素となっている。この25年の間に男女平等とマイノリティー(少数派)や同性愛者の受容が進んでいることが、欧州諸国が上位に入った大きな理由となっている。
- 博愛心と感謝の気持ち。どちらも明確にはとらえがたいものだが、人々の生活に幸福をもたらし、さらに拡充していくための有効なカギとなっている。
- 宗教や共同体の連帯意識がこの点で果たす役割は大きいが、肯定的な信念であればどんなものでも効果的だ。中南米の人たちはこのことを理解しているようだ。
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