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パーソナルデータ活用で米国に敗北が決定的! 起死回生の妙案はあるか?

 

 

先日( 2/9)、国際大学GLOCOM主催で行われた『パーソナルデータの自己活用と法的課題』というセミナーに出席した。これは、『マイデータ活用に関する連続セミナーシリーズ』の第2回目で、今回はマイデータ活用に関わる法的課題について講演およびパネルディスカッションが行われた。

 

開催概要は下記の通り。

 

 日時

201729日(木) 16001800

登壇者

板倉 陽一郎(弁護士、ひかり総合法律事務所)
川上 正隆(青山学院大学大学院法学研究科客員教授

会場

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

定員

80名(先着順)

概要

これまで、個人情報保護の議論においては、消費者の情報を事業者が活用する中で、個人の権利を保護するという形態が中心的に想定されてきました。しかし、個人情報の活用・流通をめぐっては、当事者である本人が積極的に関与し、本人の意思によって活用を行えるようにすべきとの考え方もあります。「情報銀行」や「マイデータ」、「PDS(パーソナル・データ・ストア)」と呼ばれるこうしたパーソナルデータの活用は、多くの分野でその適用可能性が考えられます。本連続セミナーでは、全3回の開催を通じて、こうしたパーソナルデータの自己活用について多方面から議論を行い、理解を深めることとします。
2回は、第1回で議論したPDS(パーソナル・データ・ストア)の考え方に対して、検討すべき法律的な論点やその解決の方向性について議論を行います。

 

パーソナルデータの自己活用と法的課題【マイデータ活用に関する連続セミナーシリーズ第2回】 | 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

 

 

 

 ◾️ 背景

 

本格的なビッグデータ利用の時代に入り、企業にとっては、情報利用の巧拙が決定的な競争要因となることが避けられない状況になってきており、中でも付加価値の大きい『消費者の情報』活用のニーズは高い。だが、個人情報の活用/流通にあたっては、当事者である本人が直接関与し、本人の意思で活用が行えるようにするべきという議論も根強い。これは、企業に自分の個人情報を預けることで、情報が自分の意図しない使い方をされて、その被害を被ったり、流出したりするリスクがあることを鑑み、個人の情報に関して、その裁量と責任を個人の側に戻しておくべきという個人の側のニーズもあるが、一方で、個人が漠然とした不安を抱えたままでは、JR東日本のICカード、Suicaの情報販売中止騒動のように、法的には個人情報販売に相当しないと考えられるケースでさえ、ユーザーの不安が煽られると、騒動になってしまうような事例もあって、分かり易い仕組みができることは、企業側にもメリットがあるという事情もある。この仕組みの具体策として、『情報銀行』、『マイデータ』『PDS(パーソナル・データ・ストア)』等のアイデアが出てきており、その法的な課題や問題点について議論された。

 

 

◾️ 登壇者

 

今回の登壇者は、政府部内で『情報銀行』等の検討に直接関与した、板倉陽一郎弁護士(ひかり総合法律事務所)と、在野の立場で検討の経緯を批判的に論評する川上正隆氏(青山学院大学大学院法学研究科客員教授)であり、自然、両者の活発な討論を期待させる取り合わせだった。だが、実際にはそれほど対立的な議論とはならず、板倉氏は川上氏の発言の主旨も理解しつつ、現実の着地点を探すことに苦慮しているとの心情を吐露していた。立場の異なる両者とはいえ、それぞれの立場で、企業の競争力、ひいては日本の国力そのものに直結しかねない大問題をなんとか軟着陸させようという誠意は十分に感じられる。そして、この議論を通じて、現在の日本が抱える構造問題が見事に浮かび上がってくる。

 

 

◾️ 川上氏の主張

 

両者の説明内容についていえば、やはり私自身が企業内で、常にビジネスの側からの視点でこの問題を見ている立場でもあり、一貫して事業者の立場からこの問題を語る川上氏のご意見にどうしても賛意を感じてしまう。

 

川上氏の主張のポイントは明快で、本来、『情報銀行』等の案件は、比較的限定的なビジネスモデル(事業案)であり、その範囲において該当する法律を考慮すればすむ問題のはずなのに、法律家や研究者の手にかかると、どうしてもビジネスモデルの範疇とは関係ない、広い範囲の法律問題まで検討の範囲に入れようとする傾向があると嘆く。そして、このようなことになってしまうのは、何より検討メンバーに事業者がいないことが原因とする。

 

 

◾️ Yahoo! の別所氏の嘆き

 

川上氏も説明の中で引用しているが、個人情報保護法改正の検討の途上で、政府の『パーソナルデータに関する検討会』事務局より、パーソナルデータ(個人に関する情報銀行)に関する制度の見直し方針が示された際に、このままでは『日本のITが完敗してしまう恐れもある』と強い異議を唱えていた人がいる。ヤフーの別所直哉執行役員である。

 

別所氏は、特に次の2点について、問題を指摘していた。

 

1. 第三者機関の設置

       萎縮効果や過度にプライバシー保護に偏った執行が行われる懸念。

 

2. プライバシー保護という基本理念を踏まえて判断という規定

    個人情報保護法が規定する範囲より広がり、プライバシーという

   あいまいな概念による恣意的な規制につながる恐れ

 

別所氏の主張する『日本のあり方』は、米国のデータ流通の形に近く、事業者にプライバシーポリシーの策定を義務づける等の業界の自主規制を促しつつも、自由なデータ流通を推進するあり方であり、実際、米国のIT大手である、GoogleAmazon等と直接に対峙している立場であれば当然の主張といえる。米国大手IT企業は、日本でも、日本のサービス事業者を蹴散らす勢いで活動していて、影響力は甚大だが、彼らの準拠法は大抵は米国法であり(日本法ではなく)、法律で明確に禁止されていなければ『やってよい』と解釈し、問題が起きれば裁判で決着をつける、という姿勢だ。法律に明確に記載してなければ、『原則禁止』として竦んでしまうか、監督官庁からのガイドライン等で、やってもよいとのお墨付きを得るまで動かない(動けない)日本企業とは正反対で、どちらが市場で競争に勝つかは火を見るより明らかだ。

 

別所氏もこの時すでに主張しているように、一定の条件を満たさない限りデータを流さないという方式はEUのデータ流通に近く、ITビジネスで米国に敗れたEUの後を追うことになると嘆いているが、その嘆きは残念ながらその後の議論に生かされることはなかったようだ。これはEUの例を見るまでもなく、日本のIT企業が何度も泣かされていた構図を今また繰り返している、いわば『デジャブ』である。カドカワの川上会長など一方でダブルスタンダードを黙認しているのであれば、海外のIT企業を日本の市場から締め出す、鎖国をするべき、と述べていたものだが、その嘆きも、結局虚空に虚しく響くばかりだった。

 

 

◾️ 明るい未来像を描けない需要家

 

しかも、これだけ分厚い法律議論を重ねた結果、事業者が『情報銀行』等の仕組みを活用したビジネスに明るい未来像を描いているかというと、とてもそうは思えない。会場の質疑等での事業者の声を聞いても、議論の行方はウオッチしているし、仕組みができれば参加する意向はあるが、ビジネス的に成立する目処はたたず、実験的な参加となるだろうという意見が少なくない。

 

しかし、繰り返すが、これは本当にいつか来た道で、日本の法律は米国とは正反対で、法律で規定していないことは基本的には『やってはいけないこと』であり、法律に書いてなければ『やっていいこと』とされる米国とそもそもスピードが違いすぎる。しかも、個人情報保護法など典型的にそうだが、特に行政法では、法律そのものより、監督官庁の省令、ガイドライン、お知らせといった指導要綱が微細に整備され、この運用も監督官庁の解釈で恣意的に差配されているとしか考えられないケースも少なくない。自然、予測が極めて難しいから、とにかくガイドラインが出ることを待つしかない。しかも、多くの日本企業は、監督官庁の意向に逆らうような行動をすることのデメリットが骨の髄までしみており、スピード重視で勇み足をするよくらいなら競争を諦めてしまう。

 

これは、もはや個別企業が単独で対処できるような問題ではなく、戦後の日本に成功体験と共に構築されたシステムであり、よほどの覚悟で変革に取り組まなければ変わりようがない、というのが、非常に残念なことだが現状での結論と言うしかないのではないか。

 

 

◾️ 起死回生のチャンスはないのか

 

では、日本企業は、将来に渡って、いわば米国大手IT企業の後塵を拝するしかないのだろうか。しかも、個人の立場で言っても、いかにGoogleAmazon等の大手IT企業の情報セキュリティがしっかりしているとはいえ、情報が一企業に集中しているということは、そこを突破されれば一挙に情報が漏洩してしまう恐れは払拭できないということだ。しかも、これから益々あらゆる行動履歴を掌握されることになるから、一旦漏洩した場合の被害は甚大だ。加えて、情報を大量に持つことは、これからはあらゆるビジネスのパワーの源となることは確定的なので、このままでは米国大手IT企業と日本企業の差も、大企業と個人の力の差も広がりこそすれ縮まることはない。情報漏洩が恐くて抵抗しようとしても、大手IT企業の提供するサービスやモジュールを使わないと、生活も仕事も成り立たなくなっていくと考えられ、本格的な抵抗などやりようもない。

 

現在のGoogleなど、少なくとも自分が接点を持つ人からは、Evilな兆候はまったく見てとれないし、むしろ、フレンドリーでとても明るい雰囲気だ。だが、企業というのは、権力が集中して、競争がなくなれば、フレッシュな緊張感を長く持ち続けることは難しく、人が変われば会社の雰囲気などあっという間に暗転してしまうことなど珍しくない。実際、どんな国家でも、企業でも、長い時間同じ思想や雰囲気を維持したまま生きながらえることが如何に難しいか(というよりほとんど不可能であること)は歴史が証明している。このような状況がエスカレートして行くのが近未来の予想図だとすると、日本の法体系を米国式にすればそれで済むというような単純な問題でもない。こちらを立てればあちらが立たずで、今のままでは、矛盾のひずみは日を追うごとに大きくなる。

 

 

◾️ ブロックチェーンは万能の妙薬?

 

何とかこれを逆転する、あるいは逆転とまでは言わないまでも、解消する手立てはないものか。実は一つある。ブロックチェーンである。今回はブロックチェーンの仕組み自体を説明する余裕はなく、興味があれば是非ご自分で確かめてみていただきたいが、今回の文脈では特に、ブロックチェーンが起死回生の妙薬になると考えられる。ブロックチェーンが浸透すれば、次の3点で不安が解消される。

 

1.中央管理者がいらないから情報が集中せず外部の攻撃に強い

2.契約、商取引等に伴う、信頼を得るためのコストと時間をほぼゼロにできる

  (金銭の授受に伴うコストもほぼゼロにできる)

3.従来の社会経済活動を続ける前提でも個人情報を他者に預ける必要がなくなる

 

よって、日本の未来図を描くにあたっては、ブロックチェーン導入を基軸に考えることが現状の抱える問題への一番優れた対処方法ということになる。すでに国家単位でこの仕組を取り入れているエストニアのような国もあり、日本でもこの方向がスムーズに進むための施策が望まれるところだ。

 

 

◾️ 直前の問題をどうするか

 

だが、問題は、今すぐに理想的な形でブロックチェーン導入が進むわけではなく、当分紆余曲折が続かざるをえないことだ。『そのうちブロックチェーンで大方の問題が解消されるのであれば、今リスクを冒して、個人情報の流通を促進してもしかたがない』というようなノンビリした意見は、事業者の立場で言えばとてもではないが受け入れられない。競争は今ここで起きていて、しかも多くの日本企業は日々負けつつある。一日でも早い競争条件の改善を望まざるをえず、さもなければ、存続自体があやうくなってしまう。

 

しかもさらに困ったことに、ブロックチェーンの導入は決して魔法の妙薬ではなく、大変なメリットがある一方では、既存の既得権益者や既存のビジネス従事者の仕事がなくなってしまうというデメリット(人口減少を勘案すれば必ずしもデメリットではないとも言えるが)があり、導入が現実的になればなるほど、強い抵抗が予想される。

 

よって、万能の具体策をここで示せるわけではないが、少なくとも、次の3点を前提条件として、何ができるのか、何をすべきなのか、熟考してみることは是非お勧めしたい。これは今、どの立場の人にとっても重要なはずだ。

 

1. 現状の日本は現代の競争に不向きな構造になってしまっている

2. このままでは米国大手IT企業との競争に惨敗してしまうであろう

3. ブロックチェーンの仕組を導入すればかなりの(ほとんどの)問題が

         解決できる可能性がある