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FTMシンポジウム/スマート社会のビジョンとテクノロジーを提言する

開催目的/概要


国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主催で昨年10月に発足したフューチャー・テクノロジー・マネジメント(FTM)フォーラム(村上憲郎議長)の半年間の討議の結果を提言としてまとてめて公表し、さらに当日その内容をもとにパネルディスカッションを行うというプログラムでシンポジウムが開催されたので、参加してきた。


開催目的/概要は以下の通り。


・開催目的


国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)は2011年10月、日本を覆う閉塞感を打ち破り、技術やイノベーションのあり方を根本から見直し、技術と社会の未来を考えるために、フューチャー・テクノロジー・マネジメント(FTM)フォーラム(村上憲郎議長)を発足させました。そして、この半年間、「日本のスマート社会を構想する」をテーマに、発送電分離による電力産業の再編、スマートグリッドとスマートメータ、交流から直流体系への転換、再生可能エネルギーなどのエネルギーインフラに関する議論と、シェアエコノミーをはじめとするスマート社会の編成原理に関する議論を行い、活動成果の一環として提言をまとめました。


本シンポジウムでは、提言を公表すると同時に、スマート社会のビジョンとテクノロジーについて、さらに徹底した討論を行います。


・開催概要


日時:2012年4月24日(火)14時 〜17時30分

会場:全国町村会館 ホール(東京都千代田区永田町1-11-35)


<第一部>

14:00 - 14:10 ご挨拶
          - 宮原 明
           (国際大学GLOCOM所長)
14:10 - 14-25 基調報告1(提言)「電力とイノベーション、雇用」
          - 村上 憲郎
           (国際大学GLOCOM主幹研究員/教授,FTMフォーラム議長)
14:25 - 15:35 提言に基づくディスカッション
          - 村上 憲郎
          - 高橋 秀明
           (慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
          - 藤代 裕之
           (NTTレゾナント株式会社 新規ビジネス開発担当)
          【モデレーター
          - 中島 洋
           (国際大学GLOCOM主幹研究員/教授)


<第二部>

15:50 - 16:05 基調報告2「ソーシャル時代の生産・消費・仕事」
          - 庄司 昌彦
           (国際大学GLOCOM主任研究員/講師)
16:05 - 17:15 「ソーシャル時代の生産・消費・仕事」に関するディスカッション
          - 河口 真理子
           (株式会社大和総研 調査本部 主席研究員)
          - 所 眞理雄
           (株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役会長)
          - 川崎 裕一
           (株式会社kamado 代表取締役社長)
          - 西田 亮介
           (立命館大学大学院 先端総合学術研究科 特別招聘准教授)
          【モデレーター
          - 庄司 昌彦
17:15 - 17:30 活動報告,今後の展開の紹介
          - 砂田 薫
           (国際大学GLOCOM主任研究員/准教授)


・二つのラウンドテーブルの概要


Red-Table


村上憲郎を座長とする、参加企業とコアメンバーを中心としたラウンドテーブルです。参加企業の役員クラスの方は、オピニオンメンバーとしてご着席いただき、コアメンバーの議論に対し、ぜひご意見とコメントをお願いします。また、参加企業のミドル・若手のオブザーバー参加も可能です。

2012年度 年間テーマ:「日本を改革する技術戦略:エネルギー分野を対象に」

第1回(7月)エネルギー分野でブレークスルーを起こす技術は何か。また、日本が世界に貢献できる(競争力をもつ)技術は何か。どのようにしてその技術を見極めるのか。

第2回(9月)技術を取り巻く日本のカルチャーを変えられるのか?

― 日本を変える新エネルギー戦略:直流送電・給電の可能性と課題(仮)
第3回(11月)日本が貢献するエネルギー技術は何か?

― 省エネ、環境、再生可能エネルギーの可能性(仮)
第4回(1月)研究開発とイノベーションを誰が担うか?

 2011年度は、宇治則孝(日本電信電話株式会社代表取締役副社長)、河口真理子(株式会社大和総研 調査本部主席研究員)、高橋秀明慶應義塾大学大学院特任教授)、田中芳夫(東京理科大学大学院教授)、所眞理雄(株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役会長)、中島洋(国際大学GLOCOM 教授)、永島晃(東京農工大学客員教授)、日高信彦(ガートナージャパン株式会社代表取締役社長)、前川徹(サイバー大学教授)、宮部義幸(パナソニック株式会社常務取締役)の各氏が、以下のテーマで議論を行い、提言をまとめました。



Green-Table


庄司昌彦国際大学GLOCOM主任研究員/講師)を座長とする、一般公開のラウンドテーブルです。参加企業のミドル・若手の方はオピニオンメンバーとしてご着席いただき、コアメンバーの議論に対し、ぜひご意見とコメントをお願いします。

2012年度 年間テーマ:「スマート社会の編成原理、制度」

第1回(8月)低消費と高ソーシャル
第2回(10月)企業の行動原理(生産性、組織、ワークスタイル)

第3回(12月)社会イノベーション
第4回(2月)地域コミュニティ(仮)

 2011年度は、川崎裕一(株式会社kamado代表取締役社長)、閑歳孝子(株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当)、楠正憲(日本マイクロソフト株式会社 技術標準部部長)、西田亮介(立命館大学大学院特別招聘准教授)、藤代裕之(NTTレゾナント株式会社 新規ビジネス開発担当)、藤本真樹(グリー株式会社取締役)、山田メユミ(株式会社アイスタイル取締役)の各氏が以下のテーマで議論を行いました。



ワークショップをあわせた、全体については、次のURLをご参照。

FTMフォーラム : 国際大学GLOCOM



興味深いレッドテーブルとグリーンテーブルの『差』


上記、グリーンテーブルに、第2回目以降参加させていただき、都度私のブログにも感想を書いてきた。その間、並行して行われていたレッドテーブルでの議論の成果としての提言を今回は聞かせていただくことができた。同時に、レッドテーブルとグリーンテーブルの成果を統合すべく、双方のメンバーを混在させてパネルディスカッションが行われ、これが実に面白かった。


FTMの中心テーマは『日本のスマート社会を構想』してそのための提言を行うとあり、その点ではゴールは同じだが、経営層を中心として比較的シニアなメンバーで構成されるレッドテーブルでは、『発送電分離による電力産業の再編、スマートグリッドとスマートメータ、交流から直流体系への転換、再生可能エネルギーなどのエネルギーインフラに関する議論』等、主として技術課題を取り扱ったのに対して、グリーンテーブルは30歳台以下を中心とした若手でシェアエコノミー等スマート社会のあり方について取り扱っており、双方のメンバー間に、『日本のスマート社会』に対する視座/価値観/思想等において、相当に大きな開きがあることが何より先ず見て取れる。


レッドテーブル、グリーンテーブルでの具体的な提言内容も興味深いが、それ以上に、このようなかたちで浮かび上がってくる、『開き』『差』こそ、今の日本を良きにつけ悪しきにつけ象徴していると言えないだろうか。単に個性的で多様な意見がばらばらと出ているのではなく、明らかに構造的な切れ目があることがわかる。これは一体どういうことなのか。この『開き』や『差』を徹底的に解明するためにも、このFTMのような設定が有効だと思う。是非、この表出している問題を今後とも十分に掬い取っていただきたいものだ。



■第一部の表題


14:00 - 14:10 ご挨拶
          - 宮原 明
国際大学GLOCOM所長)
14:10 - 14-25 基調報告1(提言)「電力とイノベーション、雇用」
          - 村上 憲郎
           (国際大学GLOCOM主幹研究員/教授,FTMフォーラム議長)
14:25 - 15:35 提言に基づくディスカッション
          - 村上 憲郎
          - 高橋 秀明
           (慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
          - 藤代 裕之
           (NTTレゾナント株式会社 新規ビジネス開発担当)
          【モデレーター
          - 中島 洋
           (国際大学GLOCOM主幹研究員/教授)


レッドテーブルの具体的な提言については、下記ご参照。    提言 持続可能なスマート社会づくりを急げ ―電力改革をイノベーションの最重点課題に― : FTMフォーラム : 国際大学GLOCOM




思考停止になっていた電力問題


震災を通じて、再認識したり、新たに気づいたりしたことは実に沢山あるが、その中でも『電力問題』は特に直接に被災地ではなかった関東圏を含めて最もクローズアップされ、しかも本質的な重要性を含む問題の一つであることは誰しも異論のないところだろう。停電/計画停電という異常な体験を通じて、電力がいかに重要であるかを再認識した一方で、この国の電力事業は、競争原理が働かず、非常に効率が悪いばかりか、多くの課題がありながら、半ばなおざりで思考停止になっていたことを皆が痛感した。



もっともな提言


一方、今後ドラスティックに蒼茫が変わって行くだろう産業の筆頭に、昨今自動車産業があげられるようになってきているのも、電気自動車の普及が現実味を帯びて来ているからだが、この電気自動車の心臓部にあたる電池、中でもリチウム蓄電池を核に、従来、重電、弱電、自動車、それぞれ別々であった領域がすべて情報技術のもとに統合されていくという未来像は、想像を超えた彼方にあるのではなく、各プレーヤーを現実の競争に駆り立てる逼迫感がある。現に、米国は、これまで重点的に膨大な予算をつぎ込んで来たテーマであるインターネットと人工知能から、太陽光パネルとリチウム蓄電池に矛先をシフトしたという。今後この領域で連鎖的にドラスティックなイノベーションが起きてくることは確実だ。


今の日本はこの新たな競争にも置いて行かれる可能性が濃厚だが、そうならないためには、資源を浪費せず、集中的に『電力分野』の改革を進めることは不可欠に見える。だから、日本が競争に勝ち残り、成長して行くには、レッドテーブルの提言は時宜を得てもいて、特に異論を差し挟む余地はないように見える。



技術より発想?


しかしながら、グリーテーブルのメンバーを代表して、第一部のパネルに参加したNTTレゾナントの藤代氏は、レッドテーブルの提言の主旨は理解できるが、若年層からは『それで自分の生活はどうなるのか?』との疑念が出るであろうとの懸念を表明する。イノベーションが技術主導であった時代は終わり、その技術の先に何があるのか、どんな生活ができるのか等の疑問に答えることができる説明能力/構想力が重要になって来ている。アップルは技術がとんでもなくすごいわけではなく、発想がすごいことで、世界を席巻しているはずと釘をさす。そして、レッドテーブルの思い/依りどころ/思想は何なのかをあたらめて問う。



技術楽観論は問題


確かに、レッドテーブルの提言は具体的な『技術論』をベースにしており、今の日本が重大な岐路に立っていることを見据えた上で、パイを小さくせず、大きくするために不可欠なことを明確にすることに主眼を置いている。だが、グリーンテーブルのメンバーが示唆するように、劇的かつ急激な変化の中、社会や社会の編成原理、価値意識のほうの変化等により噴出する問題に取組むことの重要性が従来の技術論を再考する上でも非常に重要であることは、震災の影響の一つでもある。原子力事故問題からも見えてくるように、単純な技術楽観論だけでは、社会も個人も豊かで幸福になるとは限らないという、あまりに当たり前だが、皆があまり向き合おうとしなかった問題がクローズアップされて来ている。



正論に動員力がない


このように考えると、本当のところ、もう一つ別の切り口から見えてくる大変重要な問題がある。今の日本は、客観的に明らかに正しいと誰もが賛同する『絵』があっても、その方向に動くとは限らない。世論を動員する原理は論理の正しさや整合性ではない。電力問題についても、今回語られているような問題は実は古くて新しい問題で、『電力の自由化』『発送電分離』等、繰り返し正論自体は語られて来た。震災/原子力発電所の事故と続く『痛み』が発生したこの機会に、そのような正論がもっと深いレベルで議論されることが当然期待されるわけだが、現実に起きているのは、原子力発電反対派と賛成派のステレオタイプなレッテル貼りと、愚にもつかない陣営論ばかりだ。


誰も勝てると思わない相手と何故か戦争を始めてしまった日本、大正デモクラシーから昭和の戦争へ変転し暴走したのと同じような構造が透けて見えて来ているのが今の日本だ。この、『議論が正論に向かわない構造』『正論が動員力を持たない構造』の問題に取組まないと、レッドテーブルの提言もグリーンテーブルの提言も絵に描いた餅になりかねない


藤代氏から『思い/思想』を聞かれて慶応大学の高橋氏はこう答える。『多様性がなければ持続性はありえない』『今の電力のあり方に見える中央集権的で強制的なしばりはをはずす事が重要』『社会を強くしばっているものをゆるめることが大事』。では、そのためにどうすればいいのか。それこそ、もう一つの避けて通れない重要課題のはずだ。



第二部の表題


15:50 - 16:05 基調報告2「ソーシャル時代の生産・消費・仕事」
          - 庄司 昌彦
           (国際大学GLOCOM主任研究員/講師)
16:05 - 17:15 「ソーシャル時代の生産・消費・仕事」に関するディスカッション
          - 河口 真理子
           (株式会社大和総研 調査本部 主席研究員)
          - 所 眞理雄
           (株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役会長)
          - 川崎 裕一
           (株式会社kamado 代表取締役社長)
          - 西田 亮介
           (立命館大学大学院 先端総合学術研究科 特別招聘准教授)
          【モデレーター
          - 庄司 昌彦
17:15 - 17:30 活動報告,今後の展開の紹介
          - 砂田 薫
           (国際大学GLOCOM主任研究員/准教授)



グリーンテーブルのメンバーの主張/意見


川崎氏の主張の概要


物が売れず買えない時代になって、若者の可処分所得も下がってはいるが、若者の欲望自体が減退しているわけではない。物を持つことは高くつき、使うことは安いため、「物は使うもの」になろうとしている。持たずに使うことで、多様な経験をしたいというニーズは高まり、その文脈の延長上に「シェア」がある。そのニーズを満たすサービスも沢山出てきている。物を売る以上に、『貸す』サービスやサポートが重要になる。売らない/買わない時代が来る。遊休状態にある物を把握して有効活用することに価値が出る。


Facebookを多数の人が利用するようになって、人生のタイムライン化が進み、人にとっての一番の価値は「歴史」になろうとしている。人の歴史を見るために人が集まる。人の歴史の重要性が高まっている。同様に物の歴史も重要になる予感がある。そして人の歴史と物の歴史の邂逅があるのか、今後興味あるところ。

西田氏の主張の概要


マーケティング2.0から3.0(フィリップ・コトラーの定義)への移行期にある現在、既存の会社の組織における縦×横のグリッドではこぼれ落ちてしまうものがある。言わば、今までは仕事と思われていなかったもの、企業の中では見つけられなかった仕事を会社組織外の人が扱って注目されている。そういう仕事を拾おうとしても、既存の企業組織では構造的に難しくなっている。そのような意欲を持つ個人のクリエイティビティが生かされず、個人のモチベーションをアップするようには出来ていない。これは技術の進歩で解決できるわけではない。組織や制度設計の問題。このグリッドの間をつくことができる制度設計ができるかどうかが問題であり既存の会社組織の課題。

レッドテーブル世代からの厳しい質問


グリーンテーブル代表として、川崎氏と西田氏が若年層から見える、消費や仕事について持論を展開する。それぞれ、優れた現状認識と、その環境下での生き残りを必死に模索している姿が伝わってくる。だが、シニアで構成される『レッドテーブル世代』には、バブル崩壊後、かつての日本の輝きは失われる一方で、問題は解決されるどころか悪くなるばかりだし、その悪化した環境に対応して、最適化をはかることに長けていても、国際競争力の低下、ポスト製造業の雇用問題等、根本的な問題に(若手からの)有効な回答になっているようには思えない、という本音が見え隠れする。そもそも、第二部のパネルディスカッションで出されたような、経済成長、雇用、国際競争力等の問題に何らかの本質的回答を期待する類いの質問は、今の日本では、言わば答えることが極めて難しいスフィンクスの謎かけのような質問になってしまうという現実がある。だが、まさにこの難問に、まだ誰であれ答えが難しいこの謎かけにひるむことなく切り返してほしいというのが、第二部を見守る若者だけではなく、FTMを企画したGLOCOMが期待したところでもあるはずだ。



質問の内容


では、具体的にはどんな質問が出たのか。多少ニュアンスが違ってしまっているかもしれないが、そこのところはご容赦いただきたい。ただ、質問者が真に回答を期待することが答えられるような質問になっていたかどうかは別として、口々に出た質問は、かなり典型的かつ根本的な問題意識を喚起したのは確かだ。いずれにしても、文責はあくまでパネラーの質問を以下のように解釈した私にあることはお断りしておく。

河口真理子氏(株式会社大和総研 調査本部主席研究員)


3.11がもたらした深い亀裂について言及が及んでいない事は残念。震災は社会システムが壊れた時の個人の判断力/生命力がいかに重要か、普段からいかに鍛えておくかという課題が重要であることを見せつけた。シニア世代はその点では強い。だが、若い人にはこの点での生命力は明らかに欠けている。これをどう鍛えていくのか。新しい社会システムへの順応力、応用力はあっても、社会システム自体が壊れたときにはどうにもならなくなってしまう。 (1)

所眞理雄氏(株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役会長)


シェアの話、物の稼働時間を増やすべき、という川崎氏の話はわかるが、所有欲というのは、人間の本能に近いところにあるのではないか。食べる/物を持っているというのは、根本的な安心につながり、それが異性を惹き付ける原動力にもなるはず。(2)


幸福の定義について言えば、幸福というのは絶対値より相対値が大事で、隣よりちょっと持っている、前よりちょっと良くなったということを意識した時に一番感じられる。これは普遍的と言っていいのではないか。選択肢が増えて幸福になれる人はいない。人の本質的部分は、道具立てで変化はするが、本能の部分は何十億年経っても変わらない。(3)


シェアやオークションなど、新しいことをやっているような言われ方をするが、昔からあったし、ちっとも新しくない。(4)


西田氏の話はよくわからない。会社組織と言っても多様で、以前から、商社、電通リクルートなどは古い組織が扱わないような仕事を見つけてやっていた。確かにそういうことのできない古い大きな会社は沢山あるからこれからバタバタとつぶれることになるとは思う。(5)


グローバルな時代には海外でできる仕事は海外に行く。また、海外からも競合者が日本に入ってくる。そんな中で日本語しかできないのでは、仕事は他人のもとへ行ってしまう。日本はどうやって生きていくのか。製造業だけでは無理なことはわかっているが、なくてやっていけるのか。(6)


グリーンテーブルを代表するお二人は必死に回答しようと奮闘されていてたが、全般的に言えば、かなり手こずって見えた。そもそも議論の設定自体が噛み合っていないという気もしないではないが、だからこそ、このような典型的な質問に明確に答えを出して行くことは、GLOCOMのメンバーのような研究者に最も期待されているところなのだと思う。



私の回答案


私自身、この種の問題は様々な機会を捉えて考えて来たところでもあるので、僭越ながら、私なりの回答案を考えてみた。ご参考としていただければ幸いである。



(1)について


これは確かに本質的な問題だ。震災が起きてみて、生物として生き残れる生命力がいざという時には何より重要であることは、若者ならずとも再認識した。しかしながら、今回のFTMのような設定で、これを語らせるのは酷というものだろう。しかも、震災においても、既存の平時の社会システムが壊れた次の瞬間から重要になるのは『緊急時の社会システム』だ。避難、救助、秩序維持、相互扶助等すべて広義の社会システムの問題だ。原発事故のような突起的な事態が起きてみるとさらにこれは深刻な問題として立ち現れる。今回の原発事故では一番の問題は技術ではなく、ガバナンスだ。初期の危機対応から、現在に至るまで、この国のガバナンスがこれほど無残な状態になっていることがわかって愕然とした人は少なくないはずだ。そのように情報も相互支援の仕組みも寸断されてズタズタになっていたとき、一早くTwitterSNSを駆使して現場に最適の情報を集め、共有し、相互扶助を機能させたのは、若年層のほうではなかったか。確かにデマも沢山流れたが、浄化し、訂正されるのも早かった。動物としての生命力はともかく、社会的な生命力の旺盛さを証明してみせたのは若年層のほうだったとも思われるがどうだろうか。



(2)(3)について


日本も右肩上がりの経済成長が永遠に続く前提で、大量一括採用、終身雇用のシステムで、ライフスタイルも年齢によってはっきりと決まっていた時代には、『ちょっとの差』が幸福感を占める割合は大きかった。同期より『ちょっと』早い昇進、百円玉2〜3個差の給与差、隣より『ちょっと』いい自動車の購入、隣の家より『ちょっと』大きな間取りと庭等々。その『ちょっと』を競ってモーレツに働くサラリーマンが激しい競争を繰り広げた。みんな同じテレビ番組を見て、プロ野球や大相撲に熱狂した。『ちょっと』の差は非常に大きく見えた。だが、今はこの典型的なパターンというものそのものが消失しつつある。雇用の形式も、ライフスタイルや趣味も何もかもすっかり変わってしまった。比較の仕方は一様ではない。そもそも比較する気にならないことも多い。そんな中での『ちょっと』というのは一体何を意味するのだろうか。


また、物の所有の欲望が普遍的というのもいかがなものだろう。80年代にすでに所有はいわゆる社会の記号であることは認識されていた。高級な自動車を所有することは、異性を惹き付ける記号であるが故にみな『所有』にこだわったが、その記号の体系が変化すれば異性を惹き付けるのに自動車を所有する必要はなくなる。確かに、食欲、性欲、睡眠欲というようなものは本能だろうが、それでさえ社会の文化/コンテキスト次第で表出の仕方が非常に大きく変化することは、文化人類学等の学問分野の蓄積を見れば明白だ。



(4)について


これは川崎氏自身、『シェア』等はまったく新しいとは思っていないと述べていたが、確かに、シェアもオークションも『集団購入』『相互扶助コミュニティー』『贈与/ボランタリー経済』もかつてはあったが、資本主義の画一化、大規模化、集中化等の流れに飲み込まれてすっかり下火になってしまったものばかりと言える。だが、それらが今インターネットの仕組みを借りて続々復活してきている。これは明らかに『新しい』出来事ではないか。情報の流れや人の集合離散の仕組み等が大きく変化した結果として、従来は機能しなかったが、今では機能するようになった。社会システムの構造変化は新しい事態だと思う。



(5)について


確かに、ホンダの『ワイガヤ』、トヨタの『QCサークル』等、企業の公式な組織では掬いにくい課題を見つけてきて解決することに長けている日本企業は少なくなかった。また、リクルートのように、個の発想を大事にする会社もあった。だが、昨今起きて来ている『新事態』はそういうことではない。インターネット、特にSNSの仕組みを通じて、個人が大量の人を動員できるようになったことが一番大きい。動員できれば、ビジネスを仕掛けることも、個人が人脈を広げることも可能になる。従来は、そのためには組織力や資金力が不可欠だったのが、今ではそれよりも、個人の個性、熱意、仕掛けの面白さ等のほうが重要だ。逆に、組織のしがらみが、個人の動員力の最大活用を阻んでしまうことが多いことが明らかになりつつある。そこに、『組織よりも個人』という領域が出来上がる。しかも、それは急速に大きくなって来ているように見える。



(6)について


少なくとも日本国内市場においては、日本語の理解力、日本語を通じた日本の文化の理解力が、非常に重要な要素であり続けるだろう。日本人が一生ものの家を買う時には、MBAを取得した優秀なインド人より、地場の事情を良くわかった誠実で地道な日本人のほうを信用するだろう。英語の重要性を否定するものではまったくないが、日本人が苦手な英語で、ネイティブスピーカーに英語が必要な仕事で英語力で対抗しても意味がない。それより、日本の文化、コンテキストが競争力になる分野をより深く開拓するほうが有利というべきだろう。



これからが楽しみ


FTMの活動、特にグリーンテーブルの活動については、今やっとスタート台に乗った、というべきだろう。問題の所在が明らかになって、これからどう答えていくのか。幸い、FTMの取組みは今年度も継続するらしい。大変期待しているからこそ、これからも、多少辛口になったとしても、意見を述べて行きたいと思う。


<ご参考>
20120424FTMフォーラム シンポジウム スマート社会のビジョンとテクノロジーを提言する #glocom - Togetterまとめ