第6回AMNマーケティングセミナーに参加した

4月15日(水)に開催された、第6回 アジャイルメディア・マーケティングセミナー、「消費者の声と対話が変えたマーケティング」〜”ソーシャル”でなければマーケティングは生き残れない〜に参加した。
開催概要は下記の通り。


開催概要


 日 時:2009年4月15日(水) 16:30開場 17:00開始(19:50終了予定)
 場 所:航空会館(JR新橋駅 日比谷口 徒歩5〜6分前後)
     7階 大ホール
 住 所:東京都港区新橋 1-18-1 航空会館
 対 象:企業広報・宣伝ご担当者様、広告代理店ご担当者様


プログラム

  第一部 基調講演
       『“メディア”の理解から“オーディエンス”の理解へ』
       〜ターゲットのとらえ方でコミュニケーションプランが変わる〜
       スケダチ 高広伯彦氏

 
  第二部 企業事例
     『ソーシャルと取り組むマーケティング
     ライフネット生命保険株式会社
     代表取締役社長 出口治明

     『ソーシャルメディアを活用したマーケティング事例』
     株式会社東芝
     広告部 部長代理 荒井孝文氏


  第三部 ソリューション紹介
     『アジャイルメディアが提供する「カンバセーショナル
     マーケティング」ソリューション』
     アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
     取締役 上田怜史氏



満員の真剣なオーディアンス


当日は、もともと参加者200人を前提にして、大変広い会議室が用意されていたにもかかわらず、ほぼ満員御礼と言っていい状態だった。服装や会話から、主な参加者は広告宣伝会社社員だと思われるが、非常に真剣にメモを取る姿が目立った。やはり、『自分たちは生き残れないのではないか』という危機感が強いのだろうか。



スケダチの高弘氏


今回の登壇者のお話で、私が一番興味を持って聞いたのは、第一部の基調講演を行ったスケダチの高広氏のお話だった。 


高広氏は、博報堂Googleを経て、今年の1月に起業したというから、マスメディアからネット系の新メディアに至るまで、広告宣伝全般を語ることの出来る立場の人と思われる。実際、既存の広告宣伝会社や大手企業のマーケター等のジレンマにも理解があるようだ。大手企業のマーケターの状況を多少なりとも知る私にとっても、非常に切実なお話しで、できるだけ多くのマーケターに、そして、経営者に聞かせたい気がした。今回のセミナーのサブタイトルは、『ソーシャル”でなければマーケティングは生き残れない』だが、高広氏は、さらに突っ込んで、『ソーシャル”でなければマーケターは生き残れない』と言う。私はこのご意見には全面的に賛成で、さらに言えば、『ソーシャルでなければ企業は生き残れない』という位の状況になりつつあると思う。


後で気づいたのだが、今回の高広氏のお話は、3月2日(月)に行われた、宣伝会議Web広告営業職養成講座の特別講演でのお話とほぼ同じ内容のようだ。概要については、以下のサイトにまとめられているので、まずご一読いただきたい。
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『コミュニケーション』と『ソーシャル』が不可避のネット系メディア


以下、特に印象的だった部分について、私の感想を述べておきたい。(相当程度私の見解が混ざることをご容赦いただきたい。)


既存のメディアから、携帯電話を含むネット系メディアにシフトすることを、単純にメディア選択の巾が広がること、と安易に考えている人がいるが、これは大きな間違いである。 従来のメディアが、一方通行で、送り手のコントロールがある程度きくのに対して、ネット系のメディアは、双方向で、送り手のコントロールはほとんどきかない。従来のメディアと違ってネット系メディアはほとんどすべてが『コミュニケーション』と『ソーシャル』の要素を持っているといっていい。しかも、そういうメディア環境におかれた現代の消費者(生活者)は、スマート(賢い)で、送り手の情報をそのまま鵜呑みにせず、自分で分析する。そして、しばしば、口コミのような情報の方を信用する。だから、メディアミックスという言い方もよろしくない、と高広氏は言う。


ユーザーのインターネットを含めたメディア接触時間を見ると、ネットへ大きくシフトして来ている。そこに来て、大不況の到来もあって、クライアント企業は、広告宣伝の費用を縮減するため、非常に高価な従来メディアから、一見大変安価に見えるインターネットを利用した広告宣伝へのシフトを考えるようになってきている。テレビ等既存メディアの利用は、量は減らしながらも残しつつ、様々なメディアを組み合わせて、より効果的に訴求する、というようなアプローチは、新しいものには安易に飛びつかない大手企業でも徐々に浸透してきている。(その一例として、今回は東芝の事例が紹介されたとも言える。) しかしながら、『コミュニケーション』と『ソーシャル』の要素を持ったネット系メディアと既存のメディアと単純にミックスすることはできない。しばし、効果がないどころか、対応をあやまると、『炎上』したり、『負の口コミ』に長く悩まされることにもなる。


だから、新しいメディアを使うとことは、企業自身が真摯に消費者(生活者)に向き合い、絶えずコミュニケーションを重ねていくことを余儀なくされることを意味する。従来のように、安易に宣伝会社に丸投げして、自分自身で考えもしないような企業(残念ながら、そういう会社はすごく多い)は、消費者から見捨てられて行くことになる。それは、マーケターだけの問題ではなく、企業経営者自身がもっと事の本質をよく理解する必要があると思うのだが、今の日本では企業経営者(多くは年配)にこれを理解できる人はいかにも少なそうだ。 



Tribe(種族)


また、昨今の消費者を把握する概念として、『Tribe(種族)』というキーワードが出て来たが、ただ興味深いだけに留まらず、今後はこれが理解できないと競争戦略上大きな差がつきかねないという意味で、もっと注目を浴びるになるように感じた。(『Tribe』の概念のオリジナルは、マーケティング界のカリスマ、セス・ゴーディンのようだ。 但し、日本市場におけるキーワードとして利用するにあたり、高広氏自身の解釈が多少加わっていると思われる。) 従来、商品企画からマーケティングに至るまで、『ユーザーセグメント』というのは非常に重要な概念で、これがきちんとできないと、消費者にメッセージが届かず、販売効率も悪くなる。ただ、昔は比較的簡単な分類で所謂マーケッティング・セグメンテーション*1を行うことが可能だった。年齢、年収、所得、性別等のいわゆるデモグラフィクス*2によるセグメンテーションを行うことで、日本でもアメリカでも(アメリカはこれに人種が加わるが)、ユーザーの購買行動をマスとして把握することができた。(思えば、牧歌的な時代だった。)


ところが、今では、それこそ日本でもアメリカでも、そうはいかなくなってきている。日本では、特に企業共同体を含む共同体の紐帯が緩んだ事もあると思うが、人々の購買行動が多様化してしまっていて、従来のデモグラフィクス程度ではユーザーを有為な塊として括ることが難しくなって来ている。だが、これでは、企業の側は量がさばける商品開発は難しく、広告宣伝の効果もいっこうにあがらないことになる。なんとかある程度のボリュームをくくることはできないか。おそらくその答えの一つとして出て来ているのが、『Tribe』なのだと思う。これは、旧来のセグメントを超えて、というより、年齢や性別の壁を超えて、趣味、嗜好、思想、主張等の興味でつながった人達のことを言うようだ。確かに最近では、従来のようなデモグラフィクスで分けられた集団より、趣味/嗜好でつながった集団のほうが、凝集性があって、同種の購買行動が見られるのかもしれない。


もっとも、こういう趣味/嗜好等によるセグメントは、昔も全然なかったわけではない。取り扱いが難しい傾向はあったものの、少なくとも補助的には使って来た概念だとも言える。ただ、ここで言う『Tribe』というのは、ネット系のコミュニティーによってつながった集団のことが含意されているという意味で、従来とはまったく違った集団であるところがポイントだろう。だから、そのTribeを見つけるのは、ほとんどの場合ネット空間内ということになるし、アプローチしたりコミュニケーションするのも、ネットメディアが中心にならざるを得ない。当然、分析にあたっても、ネットコミュニティー特有の行動特性を理解することが不可避になる。


すなわち、どの観点で見ても、『コミュニティー』『ソーシャル』を理解しないことには、生き残れないという帰結になる。マーケティング/マーケターが、というだけではない。企業そのものの存続がかかっているのだと思う



才能ある個人の時代


ただ、見方を変えれば、才能はあるが組織力や資金力の乏しい個人にとっても大きなチャンスがやってきているということだと思う。従来は大組織と資金力が不可欠で、既存の仕組みががっちり出来上がっているため、如何に才能があっても、個人や小組織で出来ることは限られていた。 今、まさに、スケダチの高広氏のタイプの人が、活躍できるフィールドが出来つつあるわけで、それはやはり喜ばしい状況だと思う。それに、スマートな消費者にはスマートなマーケターでないと対処できないのは、考えてみれば当然のことかもしれない。


ライフネット生命保険


第二部のライフネット生命保険の出口氏のお話しは、現状の生命保険業界の問題指摘と起業のあり方という点では非常に興味深いが、私がソーシャル・マーケティング、というお題の元に期待していたところとは多少ポイントが違う気がした。ただ、その熱気と意欲は十分に伝わってきた。 出口氏の訴える、SEV(サーチエンジン・ボランティア)というのも、仕組みというより、如何にファンや賛同者をつくって、活動にいざなう熱気を起こせるかどうかが鍵だろう。そのためにネットもリアルもシームレスに取り組む姿勢は、起業家として正しいあり方だと思う。 そして、少なくとも今のところは、出口氏の志が、ファン/賛同者を引き付けていているように思われる。 これからもライフネット生命保険の活動を楽しみにフォローさせていただきたい。