講義『地球環境問題と企業の取り組み』を聴講して

講義の概要


5月31日(土)、首都大学東京のオープンユニバーシティーの講座の一つである、『地球環境問題と企業の取組み』の第一回目の授業に参加した。(全四回)*1


一回目の授業の概要は以下の通り。

日 時: 5月31日(土) 15:30〜 17:00
場 所: 首都大学東京 飯田橋キャンパス
講 師: 慶応大学名誉教授 高山隆三氏
議 題: 企業と環境問題(総論)

本件は、私の大学時代のゼミのOBで、現首都大学東京教授の米山先輩の依頼を受け、恩師の高山先生や同じくOBで明治大学経済学部教授の大森先輩が講師としてお話をされるという連絡があり、それを受けて参加した。特に今回、第一回目は高山先生の授業が何十年ぶりに聞けるチャンスということもあって、肌寒いあいにくの雨模様ではあったが、時間を見つけて参加することにした。(ただし、遅刻してしまった!)


高山先生のプロフィールは下記の通り。

慶応義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了
慶応義塾大学名誉教授・明海大学名誉教授・公益産業研究調査会専務理事。研究テーマ 環境・食料問題

農業経済がご専門の先生に、私が学生当時も環境問題や食料問題等のご指導をいただいた。当時は、第二次オイルショックの興奮さめやらぬころということもあり、資源環境問題、あるいは食料問題、環境汚染の問題等、やはり非常に関心が高まった時期であった。長く続いた、戦後の高度経済成長も第一次、第二次オイルショックの波をかぶり、一方で、ニクソンショックにより、日本も安定した円ドル固定相場から、変動相場へ放り出され、一人前の国家として、世界の競争に向かうべく、緊張感が社会全体に感じられた時期だ。


そして、長い年月を経て、今また先生のお話を聞くのは、実に感慨があった。自分が学生のころには、今の状況はさすがに読めなかった。それはもう驚きの連続と言ってよい。例えば、

  • 競争に勝てるわけがないと思われていた日本企業(特に自動車を中心とする製造業)が、一度は世界の頂点に立った。自動車で言えば、世界一の販売数量という地位をトヨタGMから奪い取った。
  • 世界の半分を占め、非常に強固な体制に見えた、社会主義国家のほとんどが崩壊し、中国も実質的には資本主義国家となった。
  • 中国、インドと言った眠れる大国が本格的に起き上がって来た。


そして、世界はフラットになり、先進国の『豊な社会』に向けてばく進しだした。資源環境問題という意味では、当時このことを勉強していた私たちが想定した中では、いわばもっとも厳しいシナリオに近くなりつつある。 そういう意味では、当時より今は資源環境問題は、数段リアルだ。


先生が講義で使用された、レジュメは先生の許可を頂ければ、後日掲載しようと思うが、取り敢えずレジュメの項目は下記の通り。

1.地球温暖化問題
(1)スターン報告
(2)CO2温暖化への疑問


2.IPCC(1988年発足)第四次報告(2007年、2月、第1作業部会報告)
(1)気候変動に関する政府間パネル報告
(2)京都議定書(2005年2月、ロシア批准による発効):
    各国の温暖化対策に法的拘束力を持つ数値目標を国連が課したこと


3.排出権取引と炭素税


以下、私が興味を感じた点にコメントしておきたい。


スターン報告


私自身は遅刻してきたため、この最初のパートはあまり聞けていないのだが、レジュメの内容および後段部分のお話から、地球温暖化の環境へのインパクトについては、主として、06年10月にニコラス・スターン卿によって発表された地球温暖化に関する報告書を引用してお話をされたようだ。*2


スターンの報告書の概要は次のブログによると、以下の通りとされる。スターンレビュー〜地球温暖化は第二次大戦に匹敵 | ホンネの資産運用セミナー(インデックス投資ブログ)    

  • 温暖化対策を取らなかった場合、今後50年間で地球の平均気温が2〜3度上昇する。自然災害が多発し、今世紀中盤までに2億人が自宅を失い、15〜40%が絶滅の危機に直面する。
  • 今すぐに温暖化防止を始めれば、これにかかる費用は年間、世界のGDPの1%(約300億ドル)ですみ、経済発展と両立することが可能である。つまり「行動しないこと」のコストが、必要な対策のコストを圧倒的に上回る。


非常にインパクトのある内容で、誇張があるのではないかと感じる向きも多かろうが、「これまで行われた地球温暖化の経済影響調査の中でもっとも包括的なもの」と評価は高いようだ。 リアルの深刻さが想像を上回りだしたと言ってのかもしれない。



丸山茂徳氏(東京工業大学教授)の地球寒冷化説


08年5月の文芸春秋に、『地球はこれから寒冷化する』という記事が掲載されているそうだ。(私は記事は読んでいない。)


丸山教授は、2007年にも同様の意見を週刊現代に掲載されており、その概要がwikipediaに書かれている。*3

地球温暖化問題と二酸化炭素との関係にたいして否定的な意見を持っている。 月刊現代2007年9月号の田原総一郎のコラムにおいて地球温暖化の原因について以下のような意見を述べている。


* 太陽の活動度が高まってきている。

* 産業革命以前と現在では大気組成中の二酸化炭素の割合が1万分の1%しか上がっていないこと。

* 温室効果ガスのほとんどが水蒸気である事。


また現在太陽の活動が頭打ちの状態にあり2050年には地球寒冷化の兆候が見られるはずだと主張している。


ほとんど世界中が、『地球温暖化』『二酸化炭素原因説』を唱えているこの時期に、このようなお話をされるのはさぞ勇気がいることだろうが、太陽の活動が非常に活発という事実は確認されているし、この1万年間でも、気候変動は繰り返されており、0.6〜1度くらいの気候変動はありふれている、というのも事実だ。



だからといって・・


ただ、だからといって、人間活動(二酸化炭素排出)原因仮説に基づいて、何かをやらないわけにはいかないのが実情だろう。スターン報告もそうだが、 ICPP第四次報告書*4でも、下記の通りの主張がなされている。

化石燃料依存の成長を続けると、21世紀末は20世紀末に比べて、最大6.4度上昇。


・平均2〜3度上昇すると地球上に広範な悪影響。


・こうした変化は人間活動によりもたらされたもの。


当面この人間原因仮説を前提として、各国が協調して取組むしかないだろう。ただ、京都議定書以降の各国の協調体制は、難産そのもので、アメリカの離脱等の協調体制のひび割れもそうだが、日本も2012年、90年度基準6%削減、2006年度比約12%削減義務づけという非常に厳しい目標が課せられていて、一体本当に実現可能なのかと、いぶかってしまう。それに、二酸化炭素排出が最も多い、石炭の産出および使用量が多いのが、躍進する中国とインドというのも、なんという巡り合わせなのか。この2国の協力取り付けが実現しなければ、全体のプログラムが瓦解しかねない。



企業活動への取組みが鍵


全体の割合から見ると、やはり戦略的、中心的に取組む必要があるのは『企業』で、その中でも優先度が高いのが、『電力』だ。世界の温室効果ガスの分野別排出量比率で見ると、全体の1/4を電力が占めている。短期的には、最も二酸化炭素排出の多い、石炭をLNG、石油、原子力に転換していく必要がある。(だから余計、中国とインドは鍵となる。) 二酸化炭素に値段をつけ、特に先進国には、国際競争力をそぐことになりかねない環境コスト負担を輸出時の補助で相殺する等の工夫も検討されているという。



ただし資源はあるのか?


ところが、その石油や原子力燃料のウランが枯渇しつつあるという。特に石油については、長年、石油の理論可採量は技術進歩と共に徐々に増えて、限界説を先送りしてきた感があるが、いよいよピークがやって来たという見方がある。その例として、

・USAの油田は、70年代がピーク 


北海油田は枯渇してきた*5 


・世界最大の埋蔵量を持つと言われたサウジの油田の枯渇*6


資源枯渇という問題は、地球が温暖化しても、寒冷化に向かうとしても、それとは別の大問題だ。二酸化炭素排出という観点だけではなく、資源枯渇を見据えた、資源節約、代替燃料の開拓が不可欠ということになる。



総評


時代が激変しても、高山先生の洞察力とそれを支える勉強量はすさまじい。あらためて脱帽することになった。ただ、一方で、やはり弟子にとって先生がいつまでも第一線で、なかなか超えられない存在であることは大変喜ばしいことだ。まだまだ進化する先生に是非近づくべく、自分もがんばらねば、と思った。


学生時代から、環境問題に関する私の一番の関心は、人間の側、すなわち、エネルギー消費の少ないライフスタイル/生き方/哲学のほうで、それを探求するのが私のライフワークの一つだった。何とそれは課題として今でも死んでいないようだ。むしろ、今回の先生の講義を聞いていると、以前よりもっと重要な議題になっているのではないかと感じた。昔を思い出して、もう一度ちゃんと取組んでみたいという気持ちになって来た。