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AI関連図書の最高峰『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』

疑問が次々に解消する!


私が最初に最新の人工知能(AI : Artificial Intelligence )が驚くべきレベルに達していて、今後も爆発的な成長が予想され、その影響も甚大で、世界が一変してしまうほどのインパクトがあることをはっきりと意識したのは、KDDI総研リサーチフェローである小林雅一氏の『クラウドからAIへ』*1を読んだのがきっかけだった。それ以来、人工知能についてできる限り資料を集め、関連図書も可能な限り読んで探求してきた。そして、試行錯誤の途中ながら、その時々にまとまった思考をブログの記事にもしてきた。


この問題は、私がそれまでに持っていた世界観や他の問題意識にも深く影響を及ぼし、世界の将来展望やビジネスに関わる態度、社会のあり方についての考え方等にも見直しを迫るものだった。但し、当然、様々な疑問も湧いてくる。この1年半くらいの私のブログ記事は、その疑問との格闘の結果生み出されたものが少なくない。


そのブログでも書いてきた通り、昨今、日本でも人工知能に関する情報が大量に出てくるようになった。勢い、根拠薄弱な見解、どこかで見たような意見の焼き直し、バイアスのかかった思い込み、感情的な反応等も増えたが、核心に触れるような内容にはなかなかお目にかかれず、私の疑問も解消されずに残ったものも少なくなかった。


ところが、最近、小林雅一氏の新刊『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』*2が出たので、早々に拝読してみると、やはりレベルが違う。しかも、私がずっと抱いていた疑問に対する回答に相当する部分もたくさん見つけることができる。厳密に言えば意見の相違点もないわけではないが、概ね賛同できる。何らかのきっかで人工知能に興味を持った人はもとより、まだ興味を感じない人にも(そいう人にこそ)、是非一読をお薦めしたい良書だ。


すでに、書評はたくさん出始めているし、今後もっと出てくるだろう。そんな中、ただの内容紹介的な書評を書いていても埋もれてしまうだけなので、私自身が読み取った内容、すなわち、私の疑問点と、本書中の回答にあたる(と私が考えている)部分を若干の解説付きで書いておこうと思う。



以下が私の疑問点だ。

・急激に進化するデジタル技術で当面最も影響力の大きいのは?

Google等の米国主要IT企業の本当にやりたいことは?

・日本のロボットは勝てないのか?

・日本はどうすればいいのか?

・本当に人間の仕事は奪われるのか?

・人間の創造的な仕事を人工知能が代替するようになる可能性はあるのか?

・人間は知能を人工知能に譲り渡すような決断をするのか?



急激に進化するデジタル技術で当面最も影響力の大きいのは?


昨今のデジタル技術の進化は、まぎれもなく『革命的』というのが相応しい。ただ、一口にデジタル技術といっても、非常に多岐に枝別れしており、進化が早く、しかも様々な要素が時に応じて集合離散するから、どんな将来予測もすぐに陳腐化してしまう。


それを覚悟の上で、私も自分なりの結論として、『人工知能+IoT(Internet of Things: モノのインターネット)』とブログ記事で書いた(最近はこのように言う人は増えて来た)。小林氏の新著から読み取れるのは(あくまで私が読み取れるのは、ということだが)、『人工知能人工知能によってインテリジェント化されたロボット』ということになりそうだ。ただ、この『インテリジェント化されたロボット』の部分は、『機械学習によって汎用的な能力を自分自身で身につけて賢くなっていく』という点と、あらゆる産業のあらゆる工程(製造工程、物流工程、検査工程等全て含む)、個人の生活にロボットとして入り込み、情報を吸い上げる、いわば『情報端末』としての役割を果たす存在の両方の意味がある。



Google等の米国主要IT企業の本当にやりたいことは?


ニューヨーク・タイムズウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、米国主要IT企業は、まず既存の製造業(自動車や電機)のまだロボット化されていない工程(組み立て作業等、ロボット化が難しく人手に頼っている作業)に、『人間の労働者を代替する、あるいは人間と共同作業できる、コミュニケーション能力や器用さを備えた次世代ロボット』を投入し、『その後は倉庫、物流、宅配など人手不足の深刻な作業現場に順次投入し、最終的には製品の製造から配送までサプライチェーン全域を、AIロボットで制覇する目論見』なのだという。


これだけでも、日本の製造業者には背筋が凍るストーリーだと思うが、その後のほうがさらに衝撃的だ。


米国主要IT企業の次世代ロボットの多くはクラウド型の人工知能であり、ロボットにはビデオカメラ等各種センサーが搭載されていて、クラウドとインターネットで結ばれる。そして、この人工知能は、機械学習能力で自身が賢くなるだけではなく、自分のいる場所で大量の情報を収集して、クラウドに納める。この情報はまた機械学習能力のある人工知能による分析を経て、企業の経営判断等にも使える情報になる。だから、製造業や流通業の現場だけではなく、一般消費者の家庭、自動車のような移動手段まで、あらゆるビジネス・生活空間に次世代ロボットやそれに準ずる製品を投入し、その製品に向けて、様々なサービスや情報を提供すると同時に、その製品から企業各社の情報や無数のユーザーの日常データを大量に吸い上げようとする。まさに、スマホと同様の『情報端末』だ。


今はインターネット経由のバーチャルな世界の情報(メール、SNS等)が主だが、米国主要IT企業が、今後は実世界の情報まで含めてあらゆる情報を入手できるようになることを意味する。そして将来的には、この大量の情報こそ文字通り最大の経営資源となる。(それを理解しているソフトバンクは、原価の1/10の価格でPepper(世界初の感情認識ロボット)を市場にバラまいて、人々の『感情情報』を入手しようとしている。)


情報端末としての次世代ロボットは、米国主要IT企業が、あらゆる業界の企業や一般消費者について深く理解し、彼らを内側から支配するために投入する『トロイの木馬』になりうるというわけだ。


アップルやGoogleスマホは、日本の電機業界に壊滅的なダメージを与えたが、今、同様なことが自動車産業で起ころうとしている。観客はGoogleトヨタの両雄の土俵の上での一騎打ちを固唾をのんで見守っている。ところが、実はすでに、土俵も国技館Googleに支配されていた、というようなことが現実になってしまうかもしれない。



日本のロボットは勝てないのか?


小林氏によれば、『人間が操作する単機能ロボット(日本)vs AIを搭載して自律的に動く汎用ロボット(米国)』の構図にまとめられる、という。そして、日本のロボット業界では、次世代ロボットにAI(知性)や自律性を持たせる意志があまり見受けられず、これが欧米、特に米国との大きな違いになっている、ともいう。


ところが、AI・ロボット革命のインパクトは単にロボット業界にとどまらず、いずれ全産業に波及する。家電や自動車始め、あらゆる製品が知性(AI)を帯びたロボット的な製品へと生まれ変わることが予想される。加えて、上記の通り、そのロボット的な製品はあらゆる情報を吸い上げ、自らが賢くなるだけではなく、その産業や市場のあらゆる情報をロボットの製造者に送ることを意味する。二重の意味で、全ての産業が塗り替えられることになる。この辺りは、私自身の探求でも到達していた結論とも言えるが、小林氏にズバリ指摘されると、あらためて確信が深まる。


だから、非常に残念なことに、このままでは、日本のロボットは携帯電話がアップルやGoogleスマホに敗北したような構図に巻き込まれる可能性が高いように思える。



日本はどうすればいいのか?


これまで私が一番確信が持てないでいたのはこの点だ。概して、日本企業はソフトウェア開発は苦手で、サービスやSNSと一体化したプラットフォーム構築においても(LINEやニコニコ動画のような例外もあるが)得意とはいい難い。こんな状況で、機械学習のベースとなるニューラルネットのような先端ソフトウェアを日本の技術者が開発し、他国をリードしていけるような可能性はあるのだろうか。


小林氏は、少なくとも研究機関ベースでは対抗可能とする。そもそもディープラーニング自体は非常に新しい技術なので、日本の大学や企業も今研究開発を加速させれば十分間に合う、とのご意見だ。しかも、AIのような高度ソフトウェアでは、日本は意外に進んでいるとも言う。


しかしながら、東大発のベンチャー企業だったシャフトが結局スポンサーを求めてGoogle傘下に入ったように、日本企業の側に適切な受け皿がない。現実に、優秀な学生ほど、Google等の外資系に入社しようとする。(これも小林氏が指摘するように)米国主要IT企業と比べても、職場を、若手技術者のやる気を刺激し、能力を発揮できる環境とすべく、日本の企業風土や人事考課制度、採用システムを変えていかざるをえないのだが、これはお題目としてはわかっていても、実現は非常に難しい。


私は、日本企業の風土がいかに変え難いものなのか身を以て経験してきたこともあり、既存の大企業の変革に期待するのは原則難しいように思えてならない。だから、せめて、ベンチャー企業/新興企業等の活動が妨げられることのないよう、支援できるような仕組みづくりは不可欠と考える。



本当に人間の仕事は奪われるのか?
  人間の創造的な仕事を人工知能が代替するようになる可能性はあるのか?


小林氏は、従来より専門家の間では、コンピュータやロボットにも苦手な仕事があると言われて来たという。それは以下の2つに分類できる。


 1. 高度な創造性と社会的知性等を必要とする仕事

   ・創造的な仕事
   ・高度なコミュニケーション能力を要する仕事
   ・芸術的な仕事


 2. 非定型的な仕事
   (対象とする人やモノに対する注意深い観察や
     器用な手先の動きが必要な仕事)

   ・庭師
   ・理髪業
   ・介護ヘルパー等



これ以外の仕事は早い段階で、コンピュータやロボットに置き換えられていくことは避けられないとした上で、2. についても機械学習ディープラーニング』と『ロボット技術の発達』により早晩乗越えられるとする。この点については、オックスフォード大学による『雇用の未来』調査において、これまで『AIは運動能力や判断能力では5歳児も超えられない』とする『モラベックのパラドクス』という一種の防護壁によって守られて来た非定型的な肉体労働も、今後はロボットやAIに奪われてしまう可能性が高いされていることも紹介している。


では、1.は最後まで人間に残るのか。いや、どうやらそれも安泰とは言えないようなのだ。


小林氏は、すでに一流の作曲家を凌ぐ独創性を発揮しつつある作曲する人工知能(エミー)の例を挙げた上で、そもそも人間の『創造性』とは何かを問う。これに対する回答として、人間の『創造性』を語る資格があると考えられる二人の人物のコメントを引用している。


スティーブ・ジョブズ(アップル社創業者)
『創造性というのは物事を結びつけること(コネクション)にすぎない』


アイザック・アシモフ(SF作家)
『(創造性とは)一見異なる領域に属すると観られる複数の事柄を、一つに結びつける能力を持った人から生まれる』


そして、アシモフの言う『創造性』こそ、『創造性』の本質として次のように語る。

つまり、創造性とは全くのゼロから何かを生み出すことではありません。むしろ幅広い経験を通じて目撃したり学んだりしたさまざまな事柄、つまり一見すると無関係な事柄の間に他者が気づかない関連性を見出し、これに基づいて別々の事柄を一つにつなぎ合わせる能力です。

『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』より


そして、こういう創造性であれば、その萌芽を最新のコンピュータは示し始めたのだという。とすれば、人間と機械の間に厳然としてあった(と考えられていた)、『創造性』という壁は意外に低かったことになる。思った以上に1.の仕事もコンピュータが乗越えてくると考えておく必要がある、ということになる。



人間は知能を人工知能に譲り渡すような決断をするのか?


人工知能が完全に人間と同じになるかどうかは別として、少なくとも知能という点では、何らかの人為的な抑止がなければ、人間を超えていくことは確実に思える。だが、場合によっては人間の生存そのものを脅かしかねない懸念さえ指摘される人工知能に、人間は自らの知能を譲り渡す決断をするのだろうか(あるいはすべきなのだろうか)? そう遠くない将来、人間はこの問に真剣に向き合わざるをえなくなるだろう。


環境問題で課題が解決できていない原子力発電の建設に対する批判は、東日本大震災後、再度、世界的にも注目されているわけだが、同様に、人工知能のような新技術に疑問の念を抱く人は少なくない。人間の仕事を奪うことはもとより、果ては人間を滅亡に導く恐れがあるような危険な技術など、今のうちに潰しておくほうが禍根は残らない、本音のところそう思っている人は案外多いはずだ。


では、小林氏はどう考えているのか。


『未来の人間はあえてそうした決断を下す』と考えている、という。その理由は次の通りだ。

それは私たち人類が、今後、直面するであろう未曾有の困難と危機に対処するためです。現時点ですでに深刻な様相を呈している地球温暖化や砂漠化、PM2.5のような大気汚染、原発施設内に留め置かれて行き場を失った核廃棄物、等々。これら世界的問題は早晩、人類単独の力では対処しきれなくなるでしょう。そこに人間を超える知能を備えたコンピュータやロボットが必要とされるのではないでしょうか。

同掲書より


そして、さらに、もっと根本的な理由についても言及している。人間は『知能』だけの存在ではない。

それは『知能』が人間に残された最後の砦ではないからです。それを上回る『何物か』を私たち人間は持っているのです。それは、ある能力において自分よりもすぐれた存在を創造し、それを受け入れる私たち人間はあえて自らの雇用や居場所を犠牲にしてまで、人類全体の生存と繁栄を促す新たな技術を開発し、それを受け入れてきました。これは単なる『知能』という言葉では表現しきれないほど大きな『何か』です。このように将来を見据えることのできる叡智と包容力こそが、私たち人間に残された最後の砦なのです。
 
同掲書より


この他にも、自動運転車がトロッコ問題*3のような究極の場面でどの様な判断をするのか、あるいは、米主要IT企業の攻勢に対抗する欧州の対応等(インダストリー4.0)、興味深い論点は沢山あるのだが、すでに大変な長文になってしまったので、今回は割愛する。



これからどうすればいいのか


小林氏の説明が圧倒的過ぎて、総括的なまとめとして何を申し上げればいいのか戸惑ってしまうが、私がここで一つだけ言うことがあるとすると、これからは人工知能を始めとする、デジタル技術革命の行方を想定して、それを前提に何が出来るのか、何を準備しておくべきなのか、早急に考え始めるべき、ということだ。最早躊躇している暇はない。


例えば教育だが、今後は(今でもそうだが)学生時代に学んだことだけで一生生きていくことは完全に時代遅れになるのは間違いない。追いついてくる機械に先んじるために、断続的に、素早く新しい知識を学び続けることが不可避になる。その点では、Googleで自動運転車の開発を率いてきて、オンライン教育事業に転身した、人工知能研究者セバスチャン・スラン氏の意見など傾聴に値する。
グーグル自動運転開発者、教育転身の理由:日経ビジネスオンライン


また、人工知能等の先進デジタル技術が浸透した社会において、新しく出てくるニーズは何か、新しく仕事は開拓できないか、という探求も必須だし、そういう競争は間違いなく起きてくるだろう。その点では、WIREDの記事、『人工知能やロボットに奪われない「8つの職業」』という記事など、非常に興味深い。
人工知能やロボットには奪われない「8つの職業」|WIRED.jp


一見、突飛に思えるかもしれないが、これまで書いてきたことをよくおさらいすれば、その意味が理解できるはずだ。表題だけ転記しておくので、是非、自分で記事を読んで考えてみて欲しい。

1.記憶の演出家(Nostalgist)
2.コミュニティ・オプティマイザー(Localizer)
3.ロボット・アドヴァイザー(Robot Counsellor)
4.企業文化のエキスパート(Company Culture Ambassador)
5.単純化の専門家(Simplicity Expert)
6.輸送アナリスト(Auto-transport Analyst)
7.健康ガイド(Healthcare Navigator)
8.3Dプリントの構造設計者(Makeshift Structure Engineer)