第12回ジオメディアサミット/静かに語られた大事なこと

第12回ジオメディアサミットに参加してきたので、いつものように感想をまとめてみた。ただ、いつも以上に専門性の高いお話だったため、的外れな感想となっているかもしれないので、その場合はご容赦いただきたい。


概要は以下の通り。

【開催概要】
・テーマ「ジオデータビジュアライズの世界」
・開催日時:11/15(金)10時〜13時
・開催場所:日本科学未来館
  アクセスマップ - G空間EXPO2016|2016年11月24日(木)・25日(金)・26日(土)開催!



【登壇者】
講演?「人の流れプロジェクトとデータビジュアライゼーション(仮)」/東京大学生産技術研究所 准教授 関本 義秀氏

2008年4月〜2011年3月まで、東京大学 空間情報科学研究センター(CSIS)内に寄付研究部門「空間情報社会研究イニシアティブ」を立ち上げ。現在、2011年6月から5ヵ年で「次世代社会基盤情報」寄付研究部門を立ち上げ、活動中。また、2008年から「人の流れプロジェクト」を主宰。2013年より、生産技術研究所に異動(社会基盤学専攻やCSISを兼務)


講演「SNSジオデータの解析とビジュアライズ手法」/株式会社ナイトレイ 石川豊(いしかわゆたか)氏

株式会社ナイトレイ Founder&CEO 大学在学時から株式会社ネットエイジ(現ユナイテッド)にて新規Webサービスの立ち上げやネット広告事業を経験した後、2011年にナイトレイを創業。SNS上のロケーションデータ解析エンジンを開発し「ナイトレイGISメッシュデータ」として商品化。GIS業界に全く新しいデータを提供し、企業や自治体のエリアマーケティングイノベーションを起こそうと奮闘中。 1983年生まれ、新潟市出身の地図好き。


基調講演「cart.eとジオビジュアライゼーション」 by東京カートグラフィック株式会社 企画部  宮坂芳男氏


講演「D3で切り開くジオ・データ・ビジュアライゼーションの可能性」/矢崎裕一氏


株式会社ビジネス・アーキテクツにてアートディレクターを経験後、2008年に独立。インターフェイスに特化し、PCやスマートフォン向けの他、デジカメ、デジタルテレビ、カーナビなどのUIも手がける。受託以外のセルフプロジェクトとして、言葉/事実を介したコミュニケーションとしてのデータ・ビジュアライゼーションの実践と普及、言葉を介さないコミュニケーションとしてのおもちゃを使ったワークショップ開催やおもちゃ開発をトイ・コンサルタントとして実践中。データ・ビジュアライゼーションの実務者を増やすべく、実践的な手法や実例を紹介するサイト、 を立ち上げる。visualizing.jp | データ・ビジュアライゼーションにまつわる実践的な手法や実例を紹介していきます。



【パネルディスカッション】
 テーマ:「ネオカートグラファーって何?」
 モデレータ: ヤフー株式会社 CMO室 河合太郎氏
 パネラー
  ・東京大学生産技術研究所 准教授 関本 義秀氏
  ・株式会社ナイトレイ 石川豊(いしかわゆたか)氏
  ・カートグラフィック  宮坂芳男氏
  ・矢崎裕一氏

ヤフー株式会社 CMO室 河合太郎(かわいたろう)氏

株式会社アルプス社で地図ソフト「プロアトラス」シリーズなどを開発。その後ヤフー株式会社でYahoo! Open Local Platformや、おもしろ地図実験サイトLatLongLabの企画運営などを担当。現在名古屋勤務。



【ライトニングトーク】 
・ゴーガラボのご紹介 小山 文彦氏
・ウェブマップ・マニア向けガジェットを作りました 上田氏
 (ジオどす/ロケージング)
・移動時間データのビジュアライズ 酒井雄基氏
・GigaPanリターンズ! 古橋大地氏(MAPconcierge Inc.)
・未来をビジュアライズ! 桑田賢太郎氏
・「ジオ」で遊ぶ!札幌オオドオリ大学ジオ部の活動〜三角点でご飯を
  三杯食べちゃうゆかいなコミュニティ〜 札幌オオドオリ大学ジオ部
  部長 佐藤 真奈美氏


ハッシュタグ:#gms_2013
公式Twitterアカウント:@geomediasummit
Facebookイベントページ:



【当日のスケジュール(予定)】
09:30 開場
10:00-10:05 開始、主催者挨拶
10:05-10:30 ライトニングトーク5本程度
10:30-10:50 講演1(20分)
10:55-11:15 講演2(20分)
11:15-11:25 休憩(10分)
11:25-11:35 講演3(20分)
11:40-12:00 講演4(20分)
12:00-13:00 パネルディスカッション(60分)



G空間WAVE2013 gコンテンツワールドxジオメディアサミットについて
主 催 一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)  gコンテンツ流通推進協議会
共 催 ジオメディアサミット


感想は以下の通り。


先入観


前回は父親の葬儀で出席できなかったジオメディアサミットだが、今回は満を持して出席することができた。といっても、今回ほど事前に内容を予想しにくいテーマもなかった。そもそも『ジオデータビジュライズ』というテーマで何が語られるのかよくわからない(カートグラファーというような用語にもあまり馴染みがない)。そのせいもあってか(あるいは平日の午前中という時間設定の問題もあるのか)、動員力に定評があるジオメディアサミットにしては、参加者は少なめだ。『ジオデータビジュアライズ』も重要な分野であることは確かだが、地図の業界/会社の中では一部の特殊技能との印象は否めない。正直なところ、私も多少なりともそのような先入観を持っていたことを認めざるをえない。



うれしい誤算


だが、『うれしい誤算』というのが、サミット終了後の私の非常に率直な感想だ。Twitterに例を見るように、最初はその意味がわからなかったものが、後に巨大な存在になるということは昨今珍しくないが、もしかすると今回私が目にしたのも、その一つなのではないか。いや、さすがにTwitterのようないわばまったくの素人ユーザーを巻き込んで大々的に拡大するような性質のものではないかもしれないが、それでもこの業界を色々な意味で劇的に変えてしまうポテンシャルを秘めたお話だったことは確かだ。その場では気づかなかったが、あれは大変意味深長なことが語られていたと、参加者が後で思うようなサミットになる可能性がある。



3つの重要な論点(可能性)


今回のプレゼンテーションを拝聴して、私は次の3つの重要な論点(可能性)があるように感じた。それぞれに大きな構造変革を示唆していると思うが、それ以上に、この3つがシームレスに統合した未来は(順調に行けば、ではあるが)かなり衝撃的だ。そうなれば、ジオ業界自体が、およそ今の姿からは想像もできないようなほど社会的影響力を持つようになり、構成員も大幅に入れ替わってしまう可能性も十分にあり得る。

(1)ビジュアル地図の大衆化/マッシュアップ*1連鎖の創造性が
   引き出される可能性


(2)ユーザーの無意識の胎動が地図で可視化されてくる可能性


(3)広範囲の専門家が参入してGIS*2の意味もドメインも根本から
   変えてしまう可能性

以下、それぞれについて簡単にコメントしてみる。



ビジュアル地図の大衆化/マッシュアップ連鎖の創造性が
 引き出される可能性


東京カートグラフィック(株)の宮坂芳男氏は次のように語る。

かっこいいブランドでしっかりデザインされたウェブサイトへ行っても、地図の部分だけは、普通の何の工夫も無い地図が出て来る。地図自体ももっとデザインされるべき。


地図の専門外の人ほどよけいにそう感じているのではないかと思う。Web地図も、特に、Googleが本格参入してAPIが公開されるようになって以降、地図の上に様々なものを載せたり重ねたりする工夫は非常に盛んになってきて、面白いサービスも数多く見られるようになった。Googleの地図自体、地図に関連づけてストリートビューや航空写真等が即座に見れたりして、一見、ビジュアルに関わる工夫も進んで来ているようにも見える。ところが、ベースの地図の部分自体は、どれも似たり寄ったりであることは確かだ。


宮坂氏が『Cart.e プロジェクト http://27.34.168.23/cart.e/』で提案するように、発信したい人が誰でも自分でデザインした地図を配信できる基盤が本当に出来上がるとすれば、イラストコミュニケーションサービスのPixiv*3や、ニコニコ動画での先例があるように、無名の人創作の連鎖を通じて、アートとしての価値も高く、見やすく、楽しい地図が次々と生まれて来る可能性はありうる。日本という土壌はそういう意味で肥沃であることはすでに確認されて来ているとも言える。



ユーザーの無意識の胎動が地図で可視化されてくる可能性


SNSジオデータの解析とビジュアライズ手法」のプレゼンを行った(株)ナイトレイの石川豊氏のご説明にあったように、TwitterFacebookのようなSNS*4がモバイルを中心に利用されるようになり、位置情報付きの情報発信は急拡大している。そのため、従来の位置情報には決して含まれることのなかった、『感情』『感性』が付与された発信が大量に表出している。その一つ一つにはさほど意味や有用性は感じられなくとも、データマイニング*5によって解析され、位置情報との関連する意味が解析されるようになれば、その活用価値は無限大だ。
クチコミワードマップ面白い。マッピングしたときに分かりやすいワードを辞書化して作っているとか。 #gms_2013|junymokの投稿画像


特にマーケティングデータとしては開拓次第では革新的なものが出来て来る可能性がある。あるいは、地域行政に本来必要な住民の『一般意志』*6も表出してくる可能性がある。思想家の東浩紀氏は、ニコニコ動画に、ルソーの『一般意志』表出の可能性を指摘して、大きな注目を浴びたが、今回のプレゼンを深読みすると、位置情報関連にもそのような可能性の萌芽を感じさせるものがある。そして、そのデータが可視化され、ビジュアルで意味が読み取れるようになれば、意味と意味が連鎖反応を起こし、従来では考えられなかったような複合価値が生まれる期待も大きい。それこそ、東京大学生産技術研究所 准教授の関本義秀氏が述べたように、『データに価値を与えていくには、よい服を着せることも大事』なのだと思う。



広範囲の専門家が参入してGIS*2の意味もドメインも根本から変えてしまう可能性


今回のジオメディアサミットのハイライトは何と言っても、 インターフェイス・デザイナ/アーティストの矢崎裕一氏によるプレゼン、『D3で切り開くジオ・データ・ビジュアライゼーションの可能性』だろう。D3とは、Data-Driven Documentの頭文字を取っていて、D3.jsはデータに基づいてドキュメントを操作するための JavaScript ライブラリのことを言う。以下、用語の解説につき、若干引用してみる。


D3.js はデータに基づいてドキュメントを操作するための JavaScript ライブラリです。D3 はHTML や SVGCSSを使ってデータに命を吹き込みます。D3は WEB 標準に重点を置いており、強力な視覚化コンポーネントとデータドリブン (データ駆動型)DOM 操作手法の組み合わせにより、特定のフレームワークに縛られることなく、モダンブラウザの性能をフルに 引き出すことができます。


D3は任意のデータをドキュメント・オブジェクト・モデル( DOM )と結合させ、データ駆動によるドキュメントの 変更を可能にします。たとえば、数値配列から HTML テーブルを生成したり、同じデータからインタラクティブSVG 棒グラフを 生成し、それをスムーズに、対話的に変化させることができます。
D3 の目標は、あらゆる機能をそなえた画一的なフレームワークとなることではありません。D3が提供するのは、問題の核心部分への ソリューションです。すなわち、データに基づいてドキュメントを効率的に操作する手段です。これにより、特殊な記法を 用いることなく、高度な柔軟性を保ちながら、CSS3 や HTML5SVG といった WEB 標準の持つ能力をフルに発揮させることが 可能になるのです。

http://ja.d3js.node.ws/


かえって混乱してしまった人も少なくないかもしれないが、要は、従来のGIS専門のエンジニアではなくても、JavaScript、HTML、SVGCSS等の汎用的なプログラミング知識があれば、地図データの分析や表現(ビジュアライズ)等が出来てしまう、ということと理解できる(浅過ぎる理解?)。だが、この意味は実に大きい。従来の地図専門のエンジニアがあまり持ち合わせていなかったであろう、統計学データマイニングの専門知識、地理学の特殊な専門性、デザイナーのセンス等が続々と持ち込まれることを意味するからだ。その典型例が、矢崎氏のプレゼンの中の一言に見て取ることができる。

結局ひとは自分の身体感覚や五感で世界を認識するので、そこに訴えると効果的な場合が多い。


人の身体感覚や五感について専門知識を持つGISエンジニアはそうはいないだろう。だが、そのような専門を持つ人がGISの世界に参入するのはこれまでハードルが非常に高かった。だが、これからは本格的な専門家が参入してくる。それは従来のGIS業界の境界を大きく押し広げる可能性を示唆する。昨今盛んになってきた、行政府等のデータ公開を推進して利活用する、いわゆる『オープンデータ』*7の活動にも拍車がかかるだろうし、データジャーナリズム*8の分野にも弾みがつくと考えられる。主催者のマイク・ボストック氏がD3.jsをプロジェクトとして結成したのは、2011年というから、まだ物語は始まったばかりだ。これからの展開がすごく楽しみだ。



モノのインターネット


『モノのインターネット(Internet of Things)』*9という表現が昨今また非常に注目を浴びているように、室内室外を問わず、あらゆるモノにセンサーと通信モジュールが配備され、クラウドに情報が集約されて活用されるようになる未来はもうすぐ手に届くところまで来ている。モノや場所が発信する情報は飛躍的に増大し、GISの可能性もさらに広がるのは確実だ。上記で述べたような可能性との相乗効果も非常に大きなものになるだろう。



関氏の『返答』


今回のサミット開催のしばらく前、まだテーマが発表される前に、主催者の関氏に、テーマ選定にあたって、ジオメディアの『メディア』の部分にあらためてスポットライトをあててみてはどうかという提案をしてみた。最終的に設定されたテーマを見て、今回は『メディア』の部分は見送られたのかと思っていたが、実はそうではなかった。ある意味、関氏から、私が予想だにしなかったような形で、『GIS分野におけるコミュニケーションの活性化とメディア価値の大巾な向上の可能性』というメタメッセージ*10を返していただいたようだ。まだまだこの分野のポテンシャルは大きく奥深いことをあらためて感じることになった。


<ご参考>
2013/11/15 #gms_2013 第12回ジオメディアサミット〜ジオデータビジュライズの世界〜 - Togetterまとめ
チミンモラスイ! : 「第12回ジオメディアサミット」終了!