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日本発ソーシャルゲームの命運は?

9月26日に開催されたシンポジウム「新しいビジネスモデルとしてのソーシャルゲーム」に参加してきたので、感想をまとめておきたい。


このシンポジウム、全体の設計がとてもよくできていて、登壇者のバランスもとれていたと思う。おかげで、私のようなこの業界にさほど詳しくない者でも、ソーシャルゲームの現状の問題の所在と今後の展望を考えるための補助線を知ることができた気がする。


開催概要は下記の通り。

日時
2013年9月26日(木)15時〜18時00分

会場
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

主催
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

協賛
富士ゼロックス株式会社

後援
一般社団法人ソーシャルゲーム協会(JASGA)


シンポジウム概要

ソーシャルゲームは急激に成長しており、日本発のプラットフォームになることを期待する向きがある一方、ビジネスモデルとしての将来性について疑義も出されている。高い収益は優れたビジネスモデルのためなのか、それとも一過性のものなのか。さらに日本発のプラットフォームになるためには海外に出る必要があるが、そもそも海外への展開可能性はあるのかどうか。これらについて、最近の調査と知見をもとに議論を試みる。


プログラム

15:00
開会  ご挨拶 庄野 次郎(国際大学GLOCOM所長)

15:10
報告1:「ソーシャルゲームのビジネスモデル」
田中 辰雄 (慶應義塾大学経済学部准教授 / 国際大学GLOCOM 主幹研究員)
  
15:40
報告2:「ソーシャルゲームの依存性問題」
山口 真一 (慶應義塾大学大学院経済学研究科非常勤研究員/後期博士課程)
16:10
報告3:「ソーシャルゲームの海外展開」
森 はるか (JPモルガン証券株式会社 株式調査部 ゲーム・インターネットセクター担当アナリスト)
  
16:40
休 憩
16:55
パネルディスカッション
「これからのソーシャルゲーム:批判と展望」
パネリスト:田中 辰雄(国際大学GLOCOM 主幹研究員)
    
細川 敦(株式会社メディアクリエイト 代表取締役
       
森 はるか(JPモルガン証券株式会社 株式調査部 ゲーム・インターネットセクター担当アナリスト)
       
山口 真一(慶応大学大学院経済学研究科非常勤研究員)
       
司会: まつもと あつし(ジャーナリスト)
18:00
閉会 挨拶

シンポジウム「新しいビジネスモデルとしてのソーシャルゲーム」 | 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

天井感漂うソーシャルゲーム


日本のソーシャルゲームは、 2007〜8年頃に勃興して急拡大し、特にその中心にいた2社(GREEDeNA)を日本を代表する巨大IT企業の地位に押し上げた。ただ、その2社の集金エンジンとも言える「コンプガチャ*1ならびにその類似のシステムにつき、消費者庁景品表示法に抵触することを明言したあたりから急ブレーキがかかり、直近では(2013年)、GREEの営業利益は、3四半期連続で前年同期比割れとなった模様だ*2ソーシャルゲーム市場自体の飽和、スマホの急拡大による影響(GREEDeNAといったプラットフォームを通さずに、直接ゲームアプリを選べる)の逆風もあり、市場には失望感が漂いつつある。



外市場では?


とはいえ、日本の市場が飽和しても、海外のソーシャルゲーム市場のポテンシャルはまだ非常に大きいと考えられ、しかも日本の会社が世界の競争に伍して行ける貴重な分野でもあり、日本経済全体にとってもいまだに期待は大きい。日本のプラットフォーマー(GREEDeNA等)が世界のプラットフォーマーとなる可能性も十分にありえるともされてきた(但し、GREEは、8つあった海外拠点を半減する等、海外市場でも順調というわけにはいかないようだ)。はたして、今後日本発のソーシャルゲームはどうなるのか。



価格差別が必須のビジネスモデル


登壇社の一人、慶応大学の田中准教授は、これまで非常な高収益を実現してきた日本のソーシャルゲームのビジネスモデルは、カジュアルユーザー(無課金ユーザー)を大量に集め、彼らがプレイ時間を投入してゲーム内通貨を稼いだり、カード/回復剤等を拾い、一方でコアユーザー(重課金ユーザー)がガチャ課金*3

*4で得た強いカードをカジュアルユーザー(無課金ユーザー)に売って回復材を買う等の循環が、『価格差別』と『交換』を可能にすることで成立したという。


言い方を変えると、この仕組みでは、まずカジュアルユーザー(無課金ユーザー)が大量に参入すればするほど、協力や対戦が面白くなり、ゲーム自体が活性化する(ネットワーク効果/宣伝効果)。そうなると、そのゲームに高額支払者が参入/登場し、上記の循環ができあがり、このビジネスモデルが成立する、というわけだ。すなわち、このモデルにはガチャ課金のような、なんらかの高額課金、すなわち『価格差別』は必須ということになる。


このモデルを適用するには以下の3つの条件があるという。

(1)限界費用がゼロであること 


(2)ユーザー数の増加で高額支払者が登場すること
    (ネットワーク効果/宣伝効果)
    → 多くのエンテーテイメント財はOK
      LINEやFacebookは不可


(3)価格差別が可能であること
    → 多くのエンテーテイメント型はOK
       PCオンラインゲームは失敗例

そして、似た事例は他にもある、とする(すなわち、普遍的なモデルと考えていることになる)。

・アニメでの高額DVD販売と、テレビ(や違法サイト)での無料視聴


・AKBでの握手権商法(握手・総選挙目当てに買う層と普通に聞くだけの層)


・音楽でのライブビジネス ー 一部の演劇


・将来の可能性としての電子書籍

落ち着くところに落ち着く


多くのエンターテインメントは(テレビ、マンガ、映画、TVゲーム等)、総じて、出始めのころは皆、禁止しろ/つぶせといったバッシングを受けてきた。田中准教授は日本のソーシャルゲームも、年齢による課金の上限を設ける等、整備が進んで、ゲームに慣れ親しんだ子供が大人になるころには、社会にも許容され、落ち着くところに落ち着くはずと語る。


確かに、このモデルを支える重課金ユーザーは、ゲーム参加者全体で言えば少数で、一方、歌舞伎等の伝統芸能や他のエンターテインメントでも、高額の支払いと多大な時間を投入する『ヘビーユーザー』に支えられている面はある。



依存症の問題


ただ、ゲーム参加者全体での比率は低くても、ゲーム参加者自体が増えてくると、コアユーザー(重課金ユーザー)の数も増え、そのコアユーザーがそれなりに問題を抱えているとすれば、それが社会的に許容できるかどうか疑問という指摘もあるだろう。特に昨今では、そのコアユーザーは『過払い』だけではなく、ゲーム『依存症』になり、現実の生活に支障が出ているとの指摘も多くなってきている


第10回 急増するソーシャルゲーム依存への危機感|「24時間仕事バカ!」のためのメンタルメンテナンス|連載|WEB GOETHE
「ソーシャルゲーム中毒」防止法 | R25スマホ情報局
ソーシャルゲーム依存症はどれほど危険か :日本経済新聞


その点については、慶応大学の山口研究員は、次の仮説につき、調査と統計分析に取り組んだという。

(仮説1)依存性が他の娯楽と比べ相対的に高い


(仮説2)依存性が課金額を過剰に高めている

その結果、次の考察が結果として導かれたという。

仮説1 → 依存者の割合は他の娯楽(据え置き型ゲーム、SNSユーザー)
      と同程度、パチンコパチスロや競輪競馬に比べて低い。
    → 依存性が他の娯楽と比べ相対的に高いとは言い難い。


仮説2 → 月額課金額と依存度の間に双方向関係はなかった
      (統計的に有意にはならなかった)。
    → 依存性がユーザーの過金額を高めているとは言い難い。

混乱と偏見


サンプルサイズや、分析手法等が気になる向きもあろうが、類似の実証研究が乏しい中、貴重な分析結果だと思う。先の田中准教授の分析と併せ、ソーシャルゲームに問題なしとまではいわないまでも、昨今のネガティブな論調には、過渡期的な混乱と偏見も多分に混在しているとは言えそうだ。一部ゲーム会社には、『社会的問題より利益』と公言するような社員もいることも偏見に拍車をかけているという面もある。ただ、課金の問題と同様、どのエンターテインメントも『依存症』を疑いたくなるほど打ち込む人はいて、それは一人ソーシャルゲームだけの問題ではない。



世界に通用する?


日本のソーシャルゲームのビジネスモデルが世界に通用するかどうか、という点については、今回のお話を聞いた後でも、まだ判然とはしなかった。少なくとも今までのソーシャルゲームの課金エンジンは、『ガチャ』という特殊な仕組みに頼っていたし、コンプガチャ中止後にGREEの新しい収益源となっているのも『パッケージガチャ』という『ガチャ』だ(コンプガチャより一層射幸心を煽るとの批判もあるようだ)*5。カジュアルなソーシャルゲームを導入して一時期日本の市場を席巻したZynga社もすでに日本市場からは撤退してしまったが、そのZynga社が、日本では『ガチャ』が最も高収益でそれに比肩するものが見つからなかったことを認めていたことを思い出す。

11月21日に開かれた東京大学のコンピュータ産業研究会で、講演したジンガジャパン社長CEOの松原健二氏が興味深いことを述べていた。ジンガジャパンは世界最大のソーシャルゲーム会社である米ジンガの日本での開発スタジオで、日本で開発したカードバトルゲーム「あやかし陰陽録」を6月からスマホ向けに提供している。
このゲームで、開発チームはガチャシステムを超える課金方法を探るため、様々な課金方法をゲームデザインに盛り込んで実験してみたという。しかし、様々な実験の後、ガチャの仕組みを入れると売り上げが跳ね上がったという。開発チームのメンバーたちが「これまでの工夫はなんだったのか」と拍子抜けするほどの勢いだった。やがてバーチャルなカードを獲得するために、1回300円のガチャを300回もするユーザーまで登場した。
「ゴールドラッシュ」終わる日本のソーシャルゲーム市場 :日本経済新聞


だが、海外市場でこれが受け入れられるかどうかは不透明どころか、もともと否定的な意見は多い。ガチャで射幸心が煽られるのは、日本特有の現象であるとの指摘もある。しかも、ヘビーユーザーの射幸心に期待するのであれば、海外マーケットではリアルマネートレード(いわゆるオンライン賭博)のほうが手っ取り早そうだ(現実にZynga社も参入している)DeNA等米国でリリースしているスマホベースのソーシャルゲームで、上位ランキング入りしているタイトルもあるようだが、『ガチャ』は導入しておらず、その結果というべきか、『高収益』は実現できていないという。



実証分析は不可欠


今回の慶応大学の山口氏の分析は、あくまで対象は日本人ユーザーだが、海外市場ではどうなのか。同じ結果が出るのか。射幸心を煽ることや依存症等については、日本以上に世論の批判が厳しい国も多いと言われる。仮に射幸心や依存症の問題ありという結果が出るようなら、「射幸心の高い課金ガチャを世界中に広められることこそ世界の人たちの迷惑。また、日本のゲーム業界に対する信用を損ねかねない」*6というような批判も再燃するだろう。いずれにしても、今回のような実証分析は業界全体で真剣に取り組むことが不可欠だろう。