ゲームがプラットフォーム頂上決戦を制する鍵になる日

OGC 2013


もう旧聞の類いになってしまったので、今更という気もするが、OGC2013(一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)が開催する、ブロードバンドコンテンツの総合カンファランス。今回は主としてモバイル・ソーシャル・ゲームを扱う。3月15日(金)、ベルサール神田で開催。) に参加したので、少しだけ感想を書いておこうと思う。


OGC2013の開催概要は以下の通り。

OGC 2013では、スマートフォンの爆発的な普及とともに多くのユーザーを集めるソーシャルメディアプラットフォームと、そのプラットフォーム上の強力なコンテンツとしてのゲームに焦点をあて、広がるコンテンツビジネスの新たな可能性を探ります。
当日は、NHN Japan株式会社 代表取締役社長 森川 亮 氏を基調講演に招聘するとともに、コンテンツ・アプリプラットフォーム運営各社やゲーム製作会社、ソーシャル・アプリケーション・プロバイダーの最新動向、ソーシャルゲームが起こした社会現象の考察など、モバイルインターネット、オンラインコンテンツの最新ビジネストレンドに関する講演やパネルディスカッションで構成し開催します。

OGC 2013 -BBA-

イデアと可能性の坩堝


旧聞となってしまったが、だからといって、つまらない内容だったのかと言えば、それは違う。むしろ非常に内容が濃くて、活気にあふれ、勉強にもなった。今や日本のソフト産業を牽引する中心的存在となったゲーム業界は、優秀な人材をかっさらって行く、『人材のブラックホール』と揶揄されることも少なくないが、こうやってゲームを扱う総合的なイベントに出てみると、色々な意味で多彩で優秀な人材が集結していて、しかも最先端業界特有のワクワク感がある。『たかがゲーム、されどゲーム』どころか、一業界としてのゲームの枠を越えて、日本経済の将来をリードするアイデアと可能性の坩堝になっている。



テーマ


今回が9回目の開催となるOGCの本年のテーマは、What’s Open-Platform, Game and Contents?である。プラットフォームとゲーム・コンテンツのエコシステムに焦点をあてて、今後のゲーム・コンテンツビジネスを明らかにすることを目的とした、という。


ちなみに、参考に、2009年〜2012年の開催目的を順に並べてみる。

2012年 

コミュニティプラットフォームで際立つ“ゲーム”の魅力と新たな展開
「新たなプラットフォームの可能性」「強力な魅力を持つゲームの力」「ゲーミフィケーションへの広がり」の3つの軸でモバイル・ブロードバンドコンテンツの今後の可能性を探ります。


2011年

[Open] [Global] [Contents] と改め、ゲームとコミュニティサービスの日本/アジア/欧米に見られるグローバリゼーションの動向を明らかにし、「Android」搭載端末の本格化により、ますます期待が高まるスマートフォンへと広がるコンテンツビジネスの新たな可能性を探ります。


2010年

OGC 2010は[Open] [Generate] [Contens] をキーワードに、オープン環境が生み出すゲーム&コミュニティコンテンツの新たなユーザーの拡大と収益化をテーマに開催いたします。


2009年

『「楽しさ」×「便利」=「集まる」』
−オンラインゲームとコミュニティサービスの新潮流を探るカンファレンス−


各年毎に注目された個別のテーマは、今や『モバイル&クラウド』に集約されて、皆、そのプラットフォーム奪取を巡ってしのぎを削っている。そして、そのプラットフォーム奪取の必須条件は、エコシステム、特にコンテンツ流通のエコシステムをより優れたものにすることにあり、そのエコシステムの優位性を確固たるものにするための鍵、あるいはコアが「ゲーム」である、という含意が読み取れる。(深読みが過ぎる? いや、そんなことはない!)



IT/インターネットの覇権争い


IT/インターネットの覇権(中心的存在)は、荒っぽく単純化して言えば、マイクロソフトデファクト先着争い) → Google( 集合知利用の優劣)  → Facebookソーシャルグラフの重要性)と推移してきたといえるが、昨今では、一旦進んだ水平分業が逆転して、スマートフォンタブレットのようなハードを含め、ソフト、コンテンツ、課金システム等ひっくるめて、垂直統合化とも見えるようなプラットフォーム覇権争いが激化している。その中心にいるのは、アップルであり、Googleということになるが、Kindleという優れたタブレットを持って参戦してきているAmazonも非常に有力なプレーヤーといえよう。さらには、一時期、Facbookフォン導入の噂があったソーシャル系サービスのトップにいるFacobookも虎視眈々と参戦を狙っているように見える。さらには、サムソンのような典型的なハードメーカーも、モバイルOSのTizen(タイゼン)を担いで、単なるハードメーカーでいることの不利を乗り越え、覇権争いから振り落とされないように必死だ。



キラー・ファクター


現段階では、総合力に優れるGoogleが頭一つ抜け出したように見えないこともないが、まだ先行きは不透明だし、現在の優位は2〜3年先の優位でさえ保証しない。そういう意味では、まだ絶対の存在はいないと言わざるを得ない。総合的な競争の影に隠れて今は見えにくくなっているが、最終的に『キラー』となるファクターには、『他社が追従しようと思ってもできない』『ユーザーが熱く長期的に支持してくれる価値を継続的に提供できる』というような属性が必須だ。そのようなキラー・ファクターをどんな形であれ自らのエコシステムの中に導入したり、そのエッセンスで魔法をかけることができるかどうかが、中期的な勝敗を分けるだろう。


特に、OGCのようなカンファランスに参加して、ゲームに関するお話を聞いていると、合理的な利便性とは別に、ゲームが提供する、勝敗への熱狂、競争意識、模倣の楽しさ、目眩を感じるような体験、他者との言語的かつ非言語的なコミュニケーション等、『ユーザーを強く引きつけ、エコシステムを充実させ、他社が追従しようにもできない、かつ、ユーザーが熱狂的に支持する価値の提供が可能なファクター』にはまだ無限に可能性があることを感じさせられる。狭義のゲームの枠を越えて、人間が惹きつけられる体験というのは何なのか、ゲームというカテゴリーをベースに深く探求することがそれを発見する近道の一つなのではないか。そこには、ヒントもアイデアも満載に思える。


そういう前提で、個別のプレゼンターのお話を評価すると、多少他の人の目線とは違った見方ができるのではないかと思う。



一頭地を抜くNHN Japan


エコシステムの優位性を確固たるものにするための鍵、あるいはコアとしてのゲーム、という観点では、やはり一頭地を抜いていたのは、NHN Japan代表取締役社長の森川亮氏、およびNHN Japanスマートフォン事業部事業部長の鎌田誠氏のお話だ。LINEほどセミ・クローズドなソーシャル・グラフが確立している中であれば、ちょっと気の利いたゲームを置いておけば、LINEのメンバー間の口コミで爆発的なヒットを見込めるように思える。どのゲームが受け入れられるかわからないというなら、実績のあるゲームクリエーターと組んで、大量のゲームを提供して、ユーザー自身に何が面白いか選んでもらうという手法もありうるだろう。だが、NHN Japanの発想は違う。


NHN Japanにとって、プラットフォームとしてのLINEは、あくまでコミュニケーションを発展させることが第一で、ゲームを並べて売って目先の収益を得るより、そのゲームで如何にユーザー同士のコミュニケーションを活性化するかを重視する姿勢が徹底している。だから、ゲームクリエーターのLINE ゲームへの参加についても、その思想に理解のある会社/クリエーターに絞るという。



LINEゲームの3段階


鎌田氏によれば、LINE ゲームのユーザー体験は3つに分けて考えているという。第1段階ではランキング争いによるゲームを通じたコミュニケーション、第2段階ではゲームそのものがコミュニケーションとなること、第3段階ではゲーム世界での生活体験だという。


第一段階は、社会学者の北田暁大が導入した概念である、「つながりの社会性」(誤解を回避する努力を犠牲にしてでも円滑に(つまり場の空気を破壊しないように) 行為が接続していくことそのものを重視する作法(接続志向)ー Wikipediaより引用)に寄与するためのゲームということになろう。確かに、つながりという行為そのものを持続していくツールとして、簡便で誰もが参入できるタイプのゲームは最適のものの一つだ。日本人に特有と思われがちな「つながりの社会性」も、少なくともアジア圏では共有出来る可能性が指摘されるようになってきていることもあり、今後の海外展開にも期待が持てる。


第二段階については、農園系、育成系ゲームのコンセプトに近そうだが、mixiFacebookでの繋がりより、さらに濃い関係といわれるLINEのつながりの中で行われることを前提として、それまでにはなかったゲームを通じた感情を喚起することを想定しているというから、これが成功すれば、従来にはないソーシャルゲームの地平を開くことになりそうだ。ただ、これは言うは易しだが、実際に実現するのはかなり大変そうに思える。ゲームであるからには、勝敗があり、それは楽しさの源泉ではあるが、時に気まずさも生み、それが原因で人間関係がおかしくなってしまうリスクもある。まさにLINE ゲームのチームの腕の見せ所であり、その力量が最も問われるところだ。


第三段階については(やや私自身の想像を交えて語ることになるが)、一緒に旅行に行ったり、探検したり、同じ敵と戦ったり(そのための共同作業をしたり)というような、非日常的な生活体験の共有が可能となるゲームということだろう。これは、オンラインゲームの原初のコンセプトとも言えそうだが、ゲームとしては参入の手続きが難しくなったり、遊ぶ時間が長くなりすぎたり、ゲームに慣れない人にとってハードルが高くなりがちだ。これも原初からの問題ではあるが、どう解決していくのか注目したい。



10年の実績


いずれにしても、非常に練り込まれたレベルの高いコンセプトなのには舌を巻いてしまう。以前、LINEのサービス全般のお話を聞いたときにも感じたが、ゲームのことを語っても、核となるコンセプトに揺らぎがない。今回の森川氏のプレゼンでも、HNH Japanが『LINEで急に出てきた会社のように思われるが、ゲームサービスや検索サービスなどで10年の蓄積がある』と苦笑気味に語るとおり、これは一朝一夕でできるコンセプトワークではない。


過去のOGCの歴史を遡ってみると、2009年に行われたOGC2009の基調講演にも森川氏が登場する。
「OGC 2009」基調講演で語った“ハンゲームにとっての選択肢”とは――NHN Japan森川亮氏 - ITmedia Gamez

まだ、LINEの導入のずっと前だから、講演のテーマは、『ハンゲーム*1にとっての選択肢とは』となっているが、この時点で、すでに今回のコンセプトのコアとなっている思想は一通り語られている。


私は、この記事を読んで、LINEの成功の理由をあらためて、はっきりと知ることができた気がした。同時にLINE ゲームが成功するであろうことを確信した。さらに言えば、この三段階が成功した暁には、日本およびアジア全般、さらには世界全体を見渡しても、LINEは揺るぎない地位を確立しているだろうし、先に述べた覇権争いに、決定的な影響力をふるうプレーヤーになっているに違いない。



盤石なAmazon


ちなみに、垂直統合の覇権争い、という意味では、『今年は本格的にゲームプラットフォーマーになる!』と宣言するAmazonも、Kindle Fireという優れたモバイル端末とAmazon Web Service』として定評のあるクラウドサーバーの総合的なサービスを持ち、Amazon CoinsKindle Fireにて、アプリ購入およびアプリ内での課金に使用可能なバーチャル通貨で、2013年5月より米国にてサービスを提供開始予定)というゲーム内通貨を導入し、『Game Circle API(各ゲームにSteamやXbox LIVEのようなコミュニティ機能、ランキング、実績などを導入するもの。クラウドセーブ機能もサポートし、中断したゲームを時と場所を変えて、また端末を変えても継続することができる)を新規に公開して、ゲームクリエーターの参入をさらに後押ししようとしている。このインフラの益々の充実ぶりを見ていると、Amazonはゲームのプラットフォーマーとして成功を納めるだけではなく、Googleやアップルをも脅かす頂上決戦の一角を担うことは確実という気がする。
(今回のOGC2013では、アマゾン ジャパン株式会社の根本 啓氏が講演。)



素晴らしいビジョナリー


また、今回の私の記事の主題とやや外れるので、詳しくは語らなかったが、ソーシャルゲームプロバイダーの株式会社gumiの代表取締役社長である國光氏のお話も、非常に構想が大きくて圧倒された。日本にこれだけのビジョナリーがいるなら、ソーシャルゲームは、映画のように米国に主導権を握られてしまうことなく、日本が世界の主導権を取ることもありそうに思えてくる。国光氏の海外戦略も、大変興味深いので、また別の機会に語ってみたいと思う。



他業界にとっても


会場は、おそらくゲーム関係者がほとんどだったと思われるが、この内容ならゲーム関係者だけではなく、他の業界の人にとっても間違いなく勉強になると率直に感じた。そういう私自身、もっと深くこの業界のことを勉強してみたいと思っている。