第6回ジオメディアサミット/見えて来た残された大きな課題

第6回ジオメディアサミット


9月20日に、パシフィコ横浜で行われた第6回ジオメディアサミットに参加してきた。
開催概要は下記の通り。

日時:2010年9月20日(月・祝) 10:00〜16:30(9:30開場):懇親会 17:00〜
会場:パシフィコ横浜 アネックスホール F204
http://www.g-expo.jp/access.html
定員:176名
参加費:無料 ※懇親会は実費(予算4,000円程度で会場周辺を予定)
公式ハッシュタグ:#gms_expo
公式twitterアカウント:@geomediasummit

第6回ジオメディアサミット申し込みフォーム : ATND
http://geomediasummit.jp/news/2010/09/13/gms-6-lightning-talks/



上昇するカオス度


今回は休日の開催ということもあり、午前10時に第一部のビジネスセッションが開始されて、親睦会(一次会)が終了したのが午後7時半という長大なイベントになったが、ビジネス、テクニカル、エンターテインメントと区分けしたカテゴリーをまたいで、様々な種類の登壇者が集結して来て、実にバラエティに富んだ内容となった。(今回は、とうとう『ジオドル』まで登場した! ジオドルです! (1) @ #gms_nagoya - YouTube   )


素人に近い新規参入者、他業種のベテラン、また、GISや地図をゲームの一カテゴリーと割切った参加者から、非常に真面目で地道なGIS技術者に至るまで、およそ普段は一同に集まることのない様々な人種からなる万国博覧会という様相だった。聴衆も今回が初めてのジオメディアサミット参加という人も多かったようだ。そもそもジオメディアサミットというのは、そういう色彩の強い集会ではあったが、カオス度は益々上昇しているように見える。様々な要素が混ざり合い、ぶつかり合って、先んじてビジネスとして成功をおさめたコロプラのような事例をお手本に、次の成功モデルに飛躍すべく皆切磋琢磨している様子が見て取れる。



共通する活動の型


テクニカルセッションの一部を除く登壇者のほとんどは、サービスとしての拡充/トラフィックの拡大/マネタイズの実現等に主として取組んでいるわけだが、全体を鳥瞰すると、ほぼ共通した活動の型が見えてくる。(過去、私自身のレポートでは繰返し取り上げて来た視点だ。)通常のWebサービスと共通の課題に加えて、ジオメディアであるが故の特有の要素もあって興味深い。

 1. ソーシャルとの関わり
 2. 感情/感覚/イメージの探求(リアルな表現力の追求)
 3. 物語構築

ソーシャルとの関わり


これは、普段からWebサービスに関わっている人にとっては、すでに当たり前過ぎて言うまでもないことだろう。実際のマネタイズに至るビジネスへの道程は違えど、Web系サービス運営者にとって、ソーシャルとどのように関わってサービスを設計運営して行くかという課題は共通しており、その巧緻がビジネスとしての成功にも直結するようになって来ている。日本のSNS各社(DeNAGreemixi)がソーシャル・ゲームで一段の飛躍を遂げたこともそうだが、ジオメディアとの関わりでも、ビジネスセッションで登壇した『コロプラ』もソーシャル・ゲームを上手く地図とミックスしたサービスだし、フリーで集めた顧客のデータ解析に基づく顧客相互の情報融通から始めた『Katy』も、次の発展の鍵はソーシャルであることを明言している。

株式会社コロプラ【スマートフォンゲーム&位置ゲー】
携帯サイト作成 -GMOリピーター-


先日、mixiのオープン化が大々的に発表されたが、自社サービスでソーシャル的な運用を模索することもさることながら、今後はmixiはじめ、 TwitterFacebook等、外部に存在するソーシャルとの関係を如何に上手く構築して複合的な価値を生むか、如何に自社のサービスとの創造的な関係を創り上げるかが競争の次元になることは今や誰の目にも明らかだ。


ただ、古くからのGIS/地図会社にとって、これは必ずしも自明とは言えないようだ。関係企業にとって生死を分ける分岐点になりかねないインパクトがあるのに、いまだにアレルギーに似た拒否反応を示す技術者や経営者を見ることも少なくない。そういう意味では如何に自社サービスをソーシャル化するか、といういささかプリミティブな問いも、まだ有効である会社も多いかもしれない。



感情/感覚/イメージの探求(リアルな表現力の追求)


電子メディアでありながら、リアルとの接点を直接的に持つジオメディアの最大の特徴は、身体性に関わる感覚(触覚、嗅覚、味覚、視覚、聴覚等)との接点を濃密に持ち、それを引き出し、かつ、刻み付けることが出来ることだ。それはまた感覚に関わる感情/イメージ/イマジネーションを最大限に活用できることを意味する。感情とイメージを伴った記憶は人を強く惹き付け、引き込む力を持つ。


今回の登壇者で、最も直接的にこの要素に言及したのが、エンターテインメントセッションで代替現実ゲーム(ARG:Alternative Reality Game)について説明した日本代替現実クラブLLPの本木氏のプレゼンだ。まだ日本では事例があまりないようだが、米国では、映画のキャンペーン等(スピルバーグ監督の映画『A.I.』等)で非常な成功を博している例があるのだそうだ。氏の説明によれば、ARGによって、『没入感、共有感、臨場感、達成感』が訴求できるという。ストーリーに体を持って参入していくのだから、身体に係わるあらゆる感覚と感情を動員することになる。大変面白そうだ。

「ジオメディア×ARG(代替現実ゲーム)の可能性」【第6回ジオメディアサミット】 | TechWave テックウェーブ


また、ジオメディアの持つ感情/イメージへのインパクトの要素を企画段階から十分に理して、短期間にサービスとして実現/活用しているのが、ライブドアの『ロケタッチ』だ。一見、先行する米国初のサービスFoursquareの二番煎じ/パクリと言われてしまいかねない押し出しのサービスだが(現実にそのようなコメントが絶えないらしい)、責任者の佐々木氏にお話を聞くと、差別化に関わる、非常に入念に練り上げたコンセプトの裏付けがあることがわかる。

ロケタッチ、サービス終了のお知らせ : ロケタッチおしらせブログ
Tokyo | Food, Nightlife, Entertainment


Fousquare 以降、『チェックイン』という概念は位置情報サービスのスタンダードにのし上がった印象がある。GPS機能付きのモバイル上に搭載された Foursquareを通じて、レストラン等の場所に訪れた時に『チェックイン』することで、その回数に応じてバッジがもらえ、それを起点としてコミュニケーションを広げたり、クーポンが発行される。ゲーム的な要素を取り入れた面白さは米国だけではなく、日本でも受け入れられて来ている。だが、地図上にあって『チェックイン』できる地物は、ほぼお店や駅等、特定の建造物に限定されている。地図上にあっても、何らかのオブジェ、自然石等に『チェックイン』はしないだろう。まして、その場所から見える風景、ある時間に発生した虹等に『チェックイン』することはできない。しかしながら、誰しも経験のある通り、様々な場所を訪れたり、歩き回る人にとって、去来する感情や印象が喚起されるのは、『チェックイン』できる建造物に限らない。中には視覚では感知できない、風のそよぎ、大地のにおい、さらには言葉では説明のできない開放感、恐ろしさ、霊感のようなものもあるかもしれない。


場所を契機にして芽生えるイメージには本来驚くべき多様性がある。まさに、『10人いれば10通り』のイメージがあるはずだ。そのようなものを『タッチ』という概念の元に掬い取り、地図上に記録し表現できるようにしようとするのが、ロケタッチのサービスだ。そして、『タッチされた何ものか』が地図を通じて共有され、共感されていく。それは、建造物等と比べて、さらに階層の深い感情や印象の共感を引き出し、同時に土地に多様性を付与することになる。実にすばらしいコンセプトだ。元来、地図というのは、単なる位置を確認しあうツールとしてだけではなく、自分の脳内のイメージを共有するためのツールでもあったことを思い出させてくれる。『脳内地図』『主観地図』という呼び名が非常にしっくり来る。


加えて、『タッチ』を通じてもらえるバッジにも、日本で受け入れられている様々なキャラクターを研究した末に工夫をこらしたデザインを案出したという。実物を見ると、日本的なキャラの特徴と言われる、可愛らしく、子供っぽい、所謂『日本的未成熟』が十全に表現されている。


ローンチングは7月の中旬だが、すでに1万ユーザー、20万タッチを超えているというから、早くも日本のユーザーの機微に触れ、受け入れられていることが推察できる。しかも、開発のきっかけは本年4月に行われた第5回ジオメディアサミットに登壇した、湯川鶴章氏の『このままでは外資に踏みつぶされる』という脅しに奮い立ったことがきっかけというから、驚くべきスピードだ。


以前、私のブログエントリーで、日本のWebサービスの世界展開の可能性について書いたことがあるが、 『ロケタッチ』の企画制作チームはそのポテンシャルを十分に感じさせてくれる。今後が本当に楽しみだ。

日本のWebサービスが世界を席巻する日 - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る


余談だが、ジオメディア・サミット運営者の中心的人物であるシリウスラボ所長の関氏が、『ロケタッチ』開発のきっかけがジオメディアサミットであったことを知り、ジオメディアサミットをやって本当に良かったという感想を語っておられた。私もそう思う。ジオメディアサミット成功の一つの象徴がこの『ロケタッチ』と言えそうだ。



物語構築


物語と言っても、高度な、あるいは壮大な物語構築が必ずしも必要なわけではなく、日常の何気ない気づきや興味を機転のきいた物語や物語のきっかけに昇華することができれば多くの人を惹き付けるエンジンになりうることを、ジオメディアサミットに参加する度に、繰返し目にすることができる。


そういう意味で今回興味深かったのは、ライトニング・トークセッションに登場した、『電波の杜』のれさく氏だ。代表作の「駅コレ」はじめ幾つかのサービスの紹介があったが、いずれも地図フェチ(フェチとは 「フェティシスト」の略形であり、「何らかの物に異常な執着・偏愛を示す人」)に熱く支持されているようだ。いつの間にか東南アジアの路線の制覇を目指すユーザーから、自分の移動でピカチューを書いてしまうような驚くべきユーザーまで沢山出て来ているという。一方しかける側のれさく氏は基本的に本人一人だ。大組織や巨額の資金がなくとも物語る力があれば、人は集まってくることがわかる。逆に言えば、如何にお金をかけても、多人数を投入してもそれだけでは成功は約束されない。本来生命がなく独立した何ものかに生命を吹き込み、関係を取り結ぶことのできる、『物語る力』だけがそれを可能にする。

電波の杜



一目惚れを可視化して両思いへの夢の物語を演出する『ヒトメボ』にも、物語るセンスの良さを感じる。そもそも、両思いの実現確率が1%台というのでは、およそサービスとしての成立性に疑問を感じるような設計と言われかねないと思うが、感情に訴え、強く記憶に残る要素を引出して見せてくれるところは大変面白く、今後の進化に期待したくなってしまう。

ヒトメボ|一目惚れしたとき、押すスイッチ



オープンソース


以上3つの要素に加えて、本来、オープンソースへの積極的な取組みが、ジオメディア系サービスの成功の秘訣! と高らかに宣言したいところだ。実際、今回テクニカルセッションで出て来た、GeoHex(六角形のポリゴンを地図に敷詰める形での新たな空間の座標系導入の試み。オープンソース。)など、技術音痴の私でさえ、その可能性の素晴らしさに圧倒された。しかも優れたエンジニアが会社の枠を超えて集まり、自由に取組んでいるという。長く垂直統合の閉鎖的な企業の枠組みに捕われて来た日本企業のエンジニアが、とうとうシリコンバレーばりにオープンソースに取組み、輝かしい成功を世に知らしめているのかと、私もしばし興奮が押さえられなかった。

GeoHex(ジオヘックス) | geogames.net



だが、前回の名古屋で行われた『ジオメディアサミット名古屋』(私は不参加)にて、話題に上がったと言われるGIS業界とジオメディアとの断絶』問題という、残された大きな課題が厳然と立ちはだかっていることを関係者なら誰しも認めざるをえない。これについては、オークニーの森さんが素晴らしい見識を自らのブログで披露しており、読めば問題の歴史的な経緯と現状が非常によくわかる。

GISとジオメディアとの断絶について(私論) - 横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama



ITゼネコン


だが、どうやらこの対立構図は、元マイクロソフトのエンジニアである中島聡氏が繰返し主張しているようにGIS業界だけではなく日本のIT業界全体の問題だ。かつて官僚主導で育成され、一定の成功を納めた日本のIT業界は、その一方で建設業界のような体質が持ち込まれ(ITゼネコンビジネスモデル)副作用に苦しんでいる。日本のIT業界のソフトウェアエンジニアの多くは「新3K(きつい・厳しい・帰れない)」などと揶揄(やゆ)されるぐらい厳しい労働環境に身を置いている。会社からは非常に大事にされ、自由にオープンソースにも参加して成果を上げる米国のソフトエンジニアとはあまりに違うと言わざるを得ない。

第3回 なぜ日本のソフトウェアが世界で通用しないのか:Software is Beautiful|gihyo.jp … 技術評論社



今後の課題


今、日本のIT業界は、GoogleAppleのような巨人が参入してきて、苛烈な競争に晒されている。『ITゼネコン』ではとても太刀打ちできるとは思えない。だからこそ、今回のGeoHexのような活動は目映い光に包まれて見えるとも言える。オープンソースでの活動の成功こそ、ジオメディアサミットが次の次元に上がり、業界を超えた金字塔になるための非常に大きな『鍵』であり『課題』だと考えられる。ここに参集したエンジニアには是非奮闘を期待したい。



<ご参考>
「第6回ジオメディアサミット」終了! <6回オモテ> : チミンモラスイ?
2010.9.20に開催された『ジオメディアサミット in G空間EXPO 一日目』のツイートまとめ - Togetterまとめ
第6回ジオメディアサミット/G空間EXPOに行ってきた(3):Dr.本荘の Thought & Share:オルタナティブ・ブログ
GIS業界とジオメディアとの断絶について - Togetterまとめ