mixiが開けたパンドラの箱

mixi meetup 2010


先週の金曜日、9月10日に行われた、mixi meetup 2010のMain SessionとMeetup Session(Panel A: 『ソーシャル×マーケティング』)に参加できる(抽選で当たった)というご連絡をいただいたので、参加してきた。(開催概要は下記をご参照いただきたい。)イベント全体で言えば、私が参加できたのはほんの一部ということになる。ちなみに、その日の最後に行われた懇親会にも少しだけ顔を出した。


株式会社ミクシィ
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圧倒的な会場の熱気


mixiの一大戦略変更、と喧伝されたため注目度が非常に高かったせいか、Main Sessionに集まった人の数はすごく、圧倒された。内容もさることながら、この動員力のすごさと会場のオーラを感じることができたのが最大の収穫だった。Webを見ているだけではわからない、肌で感じるしかない市場のうねりのようなもの、この場に居合せないと感知できない一種の暗黙知を得ることは、カオスのような現代の市場を生き抜く『直観』を磨くためには必須、というのが私の持論でもあるのだが、自らあらためてそれを確信する場ともなった。



巨大なエコ・システム


今回はmixi自体に対する注目度もさることながら、mixiの新しい戦略に対して、周辺に集まり、mixi のソーシャル・グラフ(mixiの中に構築された知人・友人関係)を利用し、自らの力としていくであろう各社(Yahoo!楽天等)の戦略との相互作用こそ最も注目すべきところだ。それが相乗効果を生んで、さらに予想も出来ないような新しい価値を生み出すと考えられるからだ。すでに提携を決めた何社かの登壇もあったが、この場にいない関係各社や競合他社の反応も全体の巨大なエコ・システムの一部であり、それはリアル、バーチャルを問わず日本の市場全体を巻き込む規模であることがひしひしと伝わってくる。



パンドラの箱が開いた


いわば、この日、日本でパンドラの箱が開かれた、そう感じた人も多かったのではないか。だからこそ、これほどの多くの人を会場に誘う大きな力があったのだと思う。一旦パンドラの箱が開かれると、もはや消費者と企業の関係は昨日までとはまったく違ってしまう。魔法(呪い?)がかけられたかのように、従前とは違った世界が現出する。この日を限りに、日本の企業は『ソーシャルを理解する生き残り組』と『ソーシャルを理解できない死に行く組』に二分されて行く。少なくとも私はそんなメッセージをしっかり体に刻むことになった。



新しい関係/提携


mixi自身が従前の他企業との関係範囲(そしてそれを通じたユーザーとの関係範囲)を意図的に広げるようとする意志の象徴として、予想外とまでは言えないが、多少の感慨を持って受け止められた新しい関係に関わる発表がいくつかあった。最終的にはソーシャル・グラフだけを提供する事業者を目指すというmixiにとって、昨日までの競合他社のほとんどが提携関係に変わる。あらためて、『オープン』の意味するところが確認できる。

・ライバルとの提携
 Yahoo!モバゲータウン等、従来はライバル視された企業との提携


・他国のSNSとの連携
 中国最大のSNS「人人網」、韓国最大のSNSCyworld」との連携


・ハードウェアとの連携
 mixiに投稿できるデジタルカメラ、HDDレコーダーやスマートフォン
など情報家電との連携。
 (パナソニックは、「DIGA」向け録画サービスで、
友人が録画予約している番組が分かる
   仕組みの導入などを検討しているという。)


背後に迫るFacebookの影


mixiが推進するオープン化には、誰もが知るお手本がある。言わずと知れた巨人Facebookだ。米国内での競争を制して、世界制覇に乗り出したFacebookは、今年は日本法人の設立も果たして日本国内でも急速に会員を増やしている。米国発のサービスにつきまとう、日本市場でのグラス・シーリング(見えないガラスの天井、制約)をいよいよ突破して来るのではないかとの観測もある。日本の従来のSNSにありがちなクローズドで匿名のコミュニティーとは対局にある、実名による広く海外に開かれたコミュニティー参加に興味を持つ一定層の存在も看過できなくなっている。特にビジネス関連者にしてみれば、会社の公用語が英語になりかねないご時世だ。興味本位、やむにやまれず等様々な動機はあると思うが、Facebookを通じて英語に親しみ、あわよくば英語圏でのネットワークを広げて見たいと思う人は今後さらに増えて来る可能性もある。いつの間にか日本で最大のSNSFacebookという事になる可能性も大いにあるということだ。


そういう意味では、mixiはまだ足取りを止めるわけにはいかない。ただのオープン化だけではFacebookに追い抜かれてしまうかもしれないのだ。それはmixi自身が一番感じていることでもあろう。これからのmixiの行く末を、『コミュニケーションのインフラ』『ソーシャル・グラフ・プロバイダー』と定めて脇目を降らずに邁進していくという覚悟が笠原社長初め登壇した方々一人一人から感じられた。



イバラの道


但し、mixiの選択した道はイバラの道だ。収益性という観点で見るとまだ確たるビジネスモデルが成立しているとは言い難い。(mixiの原田副社長自身が認めていることでもある。)これは、Meetup Session(Panel A)で登壇者の佐々木俊尚氏がいみじくもお話されたことだが、ビジネスモデルという観点では、ソーシャル・メディアは重要な『生成』の役割を負っているが、マネーを『収穫』していくのは現段階では検索エンジンであったり、ソーシャル・ゲームのほうだFacebookが5億人もの会員を抱えて大成功していると言っても、収益という点では、わずか一人当たり100円でしかない。(これも佐々木氏の説明で出たお話の一つだ。)実際、日本を代表するSNS3社(mixiDeNAGree)の比較で見ても、ソーシャル・ゲームに重点を置くDeNAGreeは、収益でも、株価時価総額でも、ソーシャル・グラフに重点を置くmixiにかなりの差をつけている。(株式時価総額では、3,000億円〜4,000億円に達するDeNAGreeに対して、mixiは1,000億円にも満たない。)


この日の登壇者の一人、DeNAの守安取締役は、mixiと全面的に協力関係に入り、リアルのソーシャルはmixiにまかせて、自らはソーシャル・ゲーム・プラットフォーマーとしてやっていくという主旨のお話をされたが、これは『収益性の低い領域からシフトして収益性の高い領域に特化する』という宣言にも聞こえてしまう。中国最大のSNS「人人網」、韓国最大のSNSCyworld」の代表者の挨拶でも、ソーシャル・ゲームへの関心が主であるという本音はかなりはっきりと出ていた。



王道? 大金脈?


だが、『イバラの道』を選んだmixiが私は嫌いではない。むしろ求道者にも似た覚悟の据え方には好感が持てると言っていい。そして、『コミュニケーションのインフラ』『ソーシャル・グラフ・プロバイダー』の領域にこそ一番大きな巨大なビジネス上の大金脈が眠っている可能性は確かにある。


昨今の日本では、リアルなコミュニティーは衰退する一方だ。コミュニティーをつくったり、運営したり、コミュニティーのメンバーとして振舞うノウハウもどんどん霧散して、誰もがアノミー(社会の共通の規範が不十分な状態を示す)の中に放り出されてしまっている。かつては社会の中に様々に存在したノウハウやツールも陳腐化が激しく、若年者はその存在にさえ気づいていない。そんな中で、mixiもそうだし、最近ではTwitterのようなインターネット(含む携帯ネット)サービス上のツールが、現実にコミュニティー構築のきっかけとして機能しているのを見ることも多くなって来た。というより、若い人にとっては唯一のきっかけでありツールであると言ってもいいくらいだ。


しかも、Twitterの使われ方を通じて、インターネットの宿痾の構図と言われた、『小さな蛸壺コミュニティーの乱立による社会の共通規範の崩壊』の懸念にも、ツールや仕組みの工夫によって解決の方法がありうる、という認識も出て来ている。さらには、ネットの抽象空間に閉じたバーチャルなコミュニティーを、リアルな関係に引きづり出すようなしかけや工夫も見られる。最終的にはビジネスの成功をめざしながら、その前提としてコミュニティーとコミュニケーションの活性化という重要な役割を担う公共性を併せ持つのがmixiの言う『コミュニケーションのインフラ』を担う事業者、ということになるかもしれない。また、mixiにとっては、日本的なコンテキストを十分に理解した上で、日本のコミュニケーションの窮状に最適解を見つけることが、Facebookのような外来サービスの日本市場浸透を食い止め、自らのプレゼンスを高めることにもなる。『ビジネスの成功』と『公共善』との理想的なwin-winの関係を体現できる可能性があるわけだ。また、そうあってこそ、永続的なビジネス上の成功も約束されるというものだろう。



皆、巻き込まれた!


この日、mixi meetupに参加した者にとっては、もうmixiの一挙手一投足に注目するだけでは足りない。自らをパンドラの箱が空いた日本の中でどう位置づけて行くのか知恵を絞り、脂汗を流すことが必要だし、皆そう感じているだろう。今からではもう遅いくらいなのだから。



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