商品プロダクトライフサイクルからの決別


商品プロダクトライフサイクル


人生にライフステージがあるように、製品にもライフステージ(ライフサイクル)がある。これを、『商品プロダクトライフサイクルと言って、特に商品の種類を沢山抱えて、プロダクトポートフォリオが必須の会社では、誰でも一度は聞いたことがあるだろう。今日でもこのモデルは、ポジショニング戦略検討の中核にあると言って良い。



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もちろん、このように誕生してから、成長期、成熟期を迎えることなく消えてしまう商品やサービスは多いし、このチャート通りになるとは限らないという批判は昔からあった。ただ、自社商品やサービスの競争優位を獲得するための分析ツールとして、また、各ステージで有用とされる策が有効かどうか、有効でないとするとどのような差異が生じているのかということを、詳細に検討していくことで、おおまかにではあっても、戦略イメージが湧いてくることが多いということは、多くのマーケターが経験則として語るところでもあり、私自身もそのように相対して来た。ガイドラインとして使うことで、そこからどういう策を広げて行くかがイメージしやすいのである。


有名な例には、セオドア・レビット氏が1965年にハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文がある。以下、その内容についてかかれたサイトから引用する。

たとえば・・・・ナイロンは最初は軍事用のパラシュートとかロープ用として使われていたが、その後、女性用のストッキングとして使用されるようになった。カジュアル化が進み素足の女性が増えストッキング市場が衰退期に近づいてきたとき、メーカーのデュポンは、柄模様のついたストッキングやカラフルなストッキングを発売し、製品のファッション性を強調して寿命を延ばした。ストッキング以外にも、タイヤ、衣服用繊維、敷物など、ナイロンの新しい使い道を次から次へと開発していったことで、ナイロンは成長期を持続している・・・・・というぐあい。

レビット教授は、「商品は自然にまかせれば死んでいってしまうのだから、適切なタイミングで新しい命を吹き込む努力をしなければいけない」と主張するために、ライフサイクル理論をガイドラインとして使ったのだ。

http://newmktg.typepad.jp/blog/cat2189321/index.html


レビット氏の論文に指摘されているように、マーケターは少しでも、商品やサービスの命が長らえるように智慧を絞ってきた。



商品プロダクトライフサイクルはすでに『非常識』?


過去40年以上有効とされたこのモデルが、もはや常識ではなく、『非常識』であるとする論文が、DIAMONDハーバードビジネスレビュー誌の2005年8月号に掲載されている。ハーバード・ビジネススクール准教授のヤンガム・ムーン氏の、『「脱」ライフサイクルの市場戦略』である。


どのように非常識になったのか。ムーン氏は、このモデルは、マーケターの視野を狭めるものであったという。大くのマーケターが、ヒット商品のたどる道をこのライフサイクルモデルどおりであると画一的に考え、どの企業のポジショニングも同じようなものになって行く傾向があるという。

P80

この視野狭窄のせいで、商品が成熟度を増すにつれて、その価値を高めなければならず、必然的に過当競争が起こる。このように、商品を差別化あるいは、活性化を図る終わりのない闘いのなかで、通常、マーケターは商品の新たなメリットを陳腐化したメリットの上に塗り重ねて行く。


これは、確かにその通りと言っていいが、ここで指摘されたマーケターの行動が、主としてライフサイクルモデルの理解に影響を受けた結果というのは、少々強引な気もする。ただ、確かに特に成熟期から衰退期にあると仮定した場合の延命策、あるいは収奪策から撤退を検討するような状況でこのモデルに固執すると、自分たちだけが、賢明な対応策をうったつもりが、他者もほとんど同じような策をうってくる結果、体力勝負の過当競争となる傾向がある、ということは言えるかもしれない。



呪縛からの脱出策


ムーン氏はここで、商品ライフサイクルの呪縛から脱出するためのポジショニング戦略として以下の3つを上げている。

  • リバース・ポジショニング

競合他社が過剰な商品価値を訴求する中で、あえてその属性を切り捨て、一旦スタートラインに戻し、商品の属性の中から、一つか二つ慎重に選択して、余分な機能を削ぎ落とした当該商品に付け加える。そうすることで、既存のカテゴリー内で新たなポジションを獲得して、成熟段階から、成長段階へとライフサイクル曲線を逆行していく、という。(IKEA、コマース・バンク、ジェット・ブルー等)

  • ブレイクアゥエイ・ポジショニング

商品のもつ、デザイン、販売チャネル、プロモーション、価格等のミックスについて、消費者が商品を分類している方法を知り、このミックスをブレイクして、再構成することで、消費者が全く別の商品と認識することを狙う。うまくいくと、本来のカテゴリーを飛び出して別のカテゴリーに移動することができ、新しい競争関係を生み出すことができる。(スウォッチ等)

  • ステルス・ポジショニング

商品を別のカテゴリーにおくことで、その本質を隠す。その商品が属する本来のカテゴリーにマイナス・イメージがつきまとう時、心強い味方となる。


2008年の後半を迎える現在、どの策もすでに特に目新しいものではなく、この応用系がさまざまに試されている。マーケターの智慧を駆使したアイデア合戦はますます熾烈になっている。そして、さらに言えば、結局他者が容易に追随できるようでは、さほど効果はないということも、一層認識されるようになってきている。


そういう意味では、上記の中では、ステルス・ポジショニングの巧妙な仕掛けが、今後は最も研究しがいのあるテーマに思える。


論文に面白い例が二つ出ている。ソニーの『AIBO』とアップルの『マック・ミニ』のケースだ。


ソニーAIBOは、犬そっくりのロボットで、限定販売ながら、大ヒットとなったことは記憶に新しい。初期の未完成なロボット技術では、何らかの用をこなすロボットの開発は困難で、雑用も満足にこなせないロボットを販売すれば、裏目に出ることはわかっている。そこで、不十分なヒト型ロボットで、消費者を失望させるよりは、何の役にも立たないが、愛らしいペットとしてポジショニングさせたというわけだ。別のカテゴリーにこっそりおく、すなわりステルス・ポジショニングというわけだ。本当にここまで意識して、ソニーAIBOを発売したかどうかはわからないが、本当にこのような意識的なポジショニングがなされたのではれば、実にすばらしい。胸のすくような成功例だと思う。ただ、最近のソニーはこのような、ポジショニング・イノベーションとでもいうような輝きが感じられる例が少なくなっていると感じるのは私だけだろうか。



一方、アップルのマック・ミニだが、今となっては信じられない感じだが、当時はウインドウズ全盛期で、アップルのパソコンは高価格で時代遅れとされ、何度試みてもうまくいかず、パソコン市場でのアップルのシェアは下がり続けていた。そこで、当時のアップルは、マック・ミニをパソコンではない何かとポジショニングして販売した。価格は競合より低価格にして、互角に戦える商品になっていた。さらにすごいと思えるのは、パソコンではない何か、とポジションしておきながら、パソコン以外の他のカテゴリーとはいっさい結びつけていない


これは、本当に高等戦術だと思う。結果、アップルの商品に対する期待感を格段に高める効果があった。何か特別なものが出てくるという期待感がこのマック・ミニ以降のアップルにはどの商品にも感じられる。そういう意味での第一弾だったことが今になるとわかる。そして、ソニーと逆に、今後さらにこういうアップル・マジックが続々と出てくる期待感が市場に浸透している。


そして、今その最前線にあるのが、iPhoneだ。あれは一体携帯電話なのか? スマートフォンではあるだろう。でも何か違う気がするがよくわからない・・。すでに発売前から、十分煙りに巻かれている。ただ、わくわくする期待の演出は満点だ。


そして、もしかすると我々がマジックを見せられている間に、アップルの本当の狙い、Safari』の拡大というブラウザ戦略は着々と進んでいるということではないだろうか。 Safariレンダリングエンジン部分がWebKitとしてオープンソース化し、それをGoogleのアンドロイドが採用し、Adobeの『AIR』もWebKitベースである。最近のニュースによると、Dreamweaverの時期リリースでも、WebKitが採用されるようだ。ステルスの影で、気がついてみると圧倒的なシェア拡大がはかられる、そんなことはもう皆が気づいていることかもしれないが。