グロコムのセミナー「人のつながり」の理論と社会・インターネット

開催概要


国際大学グローバールコミュニケーションセンターのセミナー、『「人のつながり」の理論と社会・インターネット』に出席した。


  * タイトル: 人のつながり」の理論と社会・インターネット
  * 日時  : 2008年6月4日(水) 午後3時〜5時
  * 会場  : 国際大学グローバル コミュニケーション センター
       (東京都港区六本木6-15-21ハークス六本木ビル2F)
  * 講師  : 増田 直紀氏(ますだ・なおき)*1、飯盛義徳氏(いさがい・よしのり)*2


事務局による開催要項によれば、概要は下記の通り。

「人のつながり」の関係への関心が高まっている。国内で1,300万人以上のユーザーを抱えるmixiや1億人以上の利用者を抱えるMySpaceFacebookなどのSNS(Soc ial Networking Service)だけでなく、GoogleSNSと様々なサービスをつなぐ標準規格「OpenSocial」を提唱するなど、次世代のビジネスプラットフォームとしてネット上の「人のつながり」を活用しようという動きが盛んになっている。また、社会・政策の文脈でも「人のつながり」が話題に上ることが増えている。 今回の研究会は、あらためて「人のつながり」について深く考える機会としたい。インターネットを介することで「人のつながり」にはどのような影響や効果が現れるのか。また社会や組織、人間関係のとらえ方について、理論的な研究ではどのような新しい知見がもたらされているのか。ビジネスや地域社会との関係も視野に入れながら、「人のつながり」のとらえ方について考えたい。


司会の国際大学グロコム研究員、庄司氏より、まず、『ネットワーク』の議論や研究には、3つの流れがある、というご紹介があった。



1.ネットワーク科学

 数学や物理学によるネットワーク科学。点(ノード)と線(リンク)によって
 成り立つ構造としてネットワークをとらえ、人のつながりを含む自然界の
 さまざまなネットワークを研究対象とする。
 成果として、『ベキ乗則』等。


2.社会科学としてのネットワーク研究

 組織や集団における個人間の関係や相互作用などを研究。
 成果として、『弱い紐帯の強さ』等


3.政治や社会運動の文脈で出たネットワーキング論

 ネットワークを統制的なタテ型組織と対置して、自発的な参加意思に基づく、
 水平的でゆるやかな人間関係ととらえる。



増田氏は1の立場から、飯盛氏は、2と3の立場からお話いただく、という前置きがあった。



増田氏のプレゼンテーション


ネットワーク科学の立場から、前段は『複雑系ネットワーク』に関するプレゼンテーションがあった。数学者のオイラーから始まる、ネットワーク科学の歴史に始まり、複雑ネットワークの知見として、ベキ乗則、スケール・フリーネットワーク(ハブのあるネットワーク)*36次の隔たり』という言葉で有名になった、スモール・ワールド・ネットワーク*4等のご説明を通じて、複雑系ネットワークの研究により、どのような成果が出ているのかということをわかりやすくお話いただき、大変面白かった。特に、ハブがあるネットワークの伝播の早さ(伝染病、流行等)の分析が、伝染病の伝播の阻止等の成果に繋がりつつあるという事例、あるいは、マーケティング等の経済現象や意見形成やオンライン・コミュニティーの分析等にすでに活用されている例などは実に興味深かった。


インターネット業界関係者であれば、ある程度常識とされるネットワーク論のお話しのはずなのだが、如何に自分が通り一遍の知識しかなかったかということに気づかされることになった。関係者によると、増田先生の本は非常に評判が良いという。是非早々に読んでみようと思った。また、ある程度言葉は知っていた、ダンカン・ワッツの「スモールワールド・ネットワーク」*5や、バラバシ・アルバートの「スケールフリー・ネットワーク」についても、あらためてきちんと研究しておこうと思う。


また、後段では、トレンドマイクロ社と共同で進めておられる、ウェブのアダルトサイト等の危険なサイトをホームページのテキストマイニングにより発見して行く研究のお話があった。サイトのテキストマイニングにより、つながり方を次数分布として可視化して、アダルトカテゴリーの特徴をつかむことができるという。すでにその特徴的な分布から、コンテンツの中身を確認しないでも、危険なアダルトサイトを発見することができるのだそうだ。特に、相互リンクの密度はアダルトカテゴリが最も強いという。また、ホスト間のリンク数が以上に強い結び付きを持つところも多数存在し、中にはホストノードが930以上という巨大クリークもあり、これは人工物にしかありえないということが一目瞭然だ。アダルトサイトは青少年の問題もあるが、危険なウイルス伝染の温床になることも多く、貴重な研究成果だと思う。


関連記事は下記。

サイトのリンク構造から有害コンテンツを判定、東大とトレンドマイクロ



飯盛氏のプレゼンテーション


タイトルは、『地域のつながりを取り戻す』で、飯盛氏の実践的な取組みの紹介が中心のプレゼンテーションだった。内閣府の調査によると、地域のつながりの希薄化は進行しているが、一方で、社会貢献に関心のある人は増加しているのだという。従来の地縁をベースとした地域コミュニティーは、過疎、近代化、高齢化等による維持の難しさだけではなく、濃すぎる人間関係、いわゆる、『過剰な埋め込み』(同質性の高すぎて異質な要素が取り込まれにくい状態)の問題もあり、機能不全になりつつある。打開策として、地域情報化プロジェクトを企画して推進することで、従来対処が難しかった問題に取組む。これを飯盛氏の主催する、鳳雛塾(ベンチャー企業スクール)*6の活動事例を例にあげてご説明いただいた。


自分も地方出身のため、地方の持つ固有の問題は肌感覚としてわかるつもりだが、この手の取組みで一番厄介なのは、共通の目的意識を持つことの難しさだと思う。一見同じ方向を向いているはずだった人たちが、実は呉越同舟だったということが本当に多いのだ。自然発生的なコミュニティは、親族や相互扶助のやむないニースを除けば、どうしても長く維持することが難しい。だから、飯盛氏の取組みも、プレゼンテーションを聞くだけではなく、実地で見ないと、本当のところ実感が湧きくい。ただ、このような努力が続けられていることは心強い。自分の故郷を一つのケースとして、適用可能かどうか、という点で今後精査してみたいものだ。



総評


今回のセミナーは、自分としては非常に関心があるテーマ設定と考えていたのだが、実際に最前線のお話を聞くと、如何に自分が勉強不足であったかを思い知らされることになった。ただ、今回は取り上げられなかった地域SNSが、実のところ自分が一番聞きたかったテーマであることを再認識することにもなった。インターネットの発達が地域のコミュニティーにどう関わって行くのか、あるいは行かないのか。


通常、インターネット(携帯電話を含む)のコミュニケーションというのは、実際に顔を合わせるリアルなコミュニケーションよりも、浅く、希薄であると定義される。よって、特に地域コミュニティーというような実態が明確なコミュニティーでの利用は、補完的な扱いでしか語られないことが多い。ただ、今のインターネット・コミュニケーションの実態を見ていると、実際に顔を合わせていてもけして明かさないようなプライベートな部分や深い感情や思想をさらすことによる、より深いコミュニケーションが起きているケースに出会うことも多い。実地だけでは表面的な関係だったのが、インターネットという間接コミュニケーションによって、むしろ深い部分の告白であったり、その深い部分の関わる交流だったりする。そういう地平を切り開いていることをもっとちゃんと評価すべきではないかと考える。是非、次のテーマとしてご検討いただきたいものだと思う。

*1:増田 直紀(ますだ・なおき)1976年東京生まれ。東京大学大学院・情報理工学系研究科・数理情報学専攻講師。博士(工学)。複雑ネットワーク、社会行動の数理モデリング、脳の理論を研究。著書に、増田直紀『私たちはどうつながっているのか』中公新書(2007)。増田直紀、今野紀雄『「複雑ネットワーク」とは何か』講談社ブルーバックス(2006)。 増田直紀、今野紀雄『複雑ネットワークの科学』産業図書(2005)

*2:飯盛義徳(いさがい・よしのり)1964年佐賀市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部准教授。上智大学文学部を卒業後、1987年松下電器産業(株)入社。 1994年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA取得)。2002年慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程入学。慶應義塾大学環境情報学部専任講師を経て、2008年より現職。これまでにアントルプレナー育成スクール「NPO鳳雛塾」(2003年度日経地域情報化大賞日本経済新聞社賞受賞)、(有)EtherGuyなどを設立。総務省地域情報化アドバイザー、総務省過疎問題懇談会委員等を多数歴任。主著に『「元気村」はこう創る』(日本経済新聞出版社、2007年)ほか。

*3:http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%B1%A1%BC%A5%EB%A5%D5%A5%EA%A1%BC%A5%CD %A5%C3%A5%C8%A5%EF%A1%BC%A5%AF

*4:スモール・ワールド現象 - Wikipedia

*5:

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

*6:http://www.digicomm.co.jp/sagaventure/index.html