法的問題に見るGoogleの今後

Googleのこれから


インターネット関連のビジネスにおける、Googleの存在感は相変わらず圧倒的だし、その影響の裾野は、単なるインターネット関連を超えて広がっている。特に、最近では、テレビや新聞の広告費がインターネットに流れていることが取りざたされるが、この根本的な原因をつくっているのはやはりGoogleだ。 本格的な影響はむしろこれから浸透してくるであろうし、そうなったころには、Googleは社会のインフラ的な部分にまで今より数段浸透しているであろう。 最近のGoogleはビジネスの拡張性という点では従前に予想されたほどのパーフォーマンスを見せていないように見えるし、急速に巨大化しすぎたGoogleベンチャーマインドの希釈化は確かに傍で見ているより深刻な問題だと思うが、既存ビジネスモデルの破壊者として、また、社会全体を覆うインフラ企業として、もしかすると本来の実態以上にその像が巨大化していくことも考えられる。



理想と現実


ただ、それだけの広く深い影響を周囲に及ぼすGoogleは、実のところ、非常に多くの断面で法的トラブルや社会のモラル、倫理というような部分での問題を抱えてきている。少々のトラブルを恐れず、勢い良く走る若いベンチャー企業として急成長をしてきたGoogleは、一方で、非常に理想主義的で、観念的な目標を持っていることはよく知られている。Googleの企業理念を書いた、Googleが発見した10の事実』*1 を読むと、この会社の本気度は伝わって来る。下記に、項目だけ列挙しておく。


1. ユーザーに焦点を絞れば、「結果」は自然に付いてくる。


2. 1 つのことを極めて本当にうまくやるのが一番。


3. 遅いより速い方がいい。


4. ウェブでも民主主義は機能する。


5. 情報を探したくなるのは机に座っているときだけではない。


6. 悪事を働かなくても金儲けはできる。


7. 世の中の情報量は絶えず増え続けている。


8. 情報のニーズはすべての国境を越える。


9. スーツがなくても真剣に仕事はできる。


10. すばらしい、では足りない。

Googleを怖れる人たち


インターネットは、すでにビジネスでもプライベートな生活でも、社会の隅々に浸透しつつあるわけだが、そのインターネットの覇者とも言えるGoogleは、先行した、マイクロソフトYahoo!を抜きさって、さらに巨大で圧倒的な存在になろうとしている。故に、 Google巨悪となる可能性のあるもの、として怖れる人たちも増えて来ている。過去、巨大化した企業は多かれ少なかれ同様の問題に直面して来たとも言えるが、情報という、企業にも個人にも密着度や浸透度の高いものを扱うこともあり、不安感の高まりも、史上類の無いほど大きいと言ってよさそうだ。


今のところ、Googleは邪悪(evil)ではない(ならない)ことを繰り返して宣言しているわけだが、本当にそうだろうか。確かに、商売の為には、 evilであることをためらわないかに見える、ビル・ゲイツマイクロソフトと比較すると、Googleのほうが、ずっと純粋で理想主義的に見える。ただ、そうは見ていない企業や人が、すでに数多く存在する。これは、Googleが抱える訴訟や、法律的な問題への対処等を見ると整理してみるとよくわかってくる。そういう意味での、Googleの将来予測診断というのも、意外と有効性があるように思えてくる。



Googleの抱える法的問題


では、Googleはどんな問題を抱えてきていて、これからどのような問題が予想されるのか。竹内一正氏の、『グーグルが日本を破壊する』*2の2章(グーグルはいつ没落し始めるのか)の一部に着想をかり、それに私なりの追記をしつつ、整理してみた。



1.著作権法


(1)バイアコムによる提訴(2007年3月)

  • 米メディア大手のバイアコムは、Googleおよびその子会社である、YouTubeを相手に、自社の所有するビデオが無許可にアップロードされたとして、総額10億ドル以上の損害賠償を求めた。GoogleYouTubeでの不正コピー防止ツールを発表したが、不十分で効果がないとの評価をされているばかりか、バイアコムは過去の損害に対して賠償を求める意向のため、まだ決着していない。


(2)米国作家教会、全米出版社教会等による提訴(2005年)

  • Google が書籍のデジタル化を進めていることは、有名だが、これは出版社から本を提供してもらうケース以外に、図書館プロジェクトとして、図書館から本を提供してもらっている。(ハーバード、オックスフォード、慶応大学等の大学も参画している) これを著作権侵害とされているわけだ。Googleサイドは、図書館の資料のデジタル化は、米国著作権法上認められた、『フェアユース*3であることを主張しているが、まだ判決は出ていない。


(3)グーグルニュースに関する海外を含む提訴

  • ベルギーの新聞各社の著作権管理団体であるCopiepresse(Google敗訴*4)、フランスの通信社 AFP等(和解*5)により提訴。いずれもGoogleの主張は認められなかった。


(4)その他

  • その他にも、様々な業界とのトラブルに巻き込まれている。*6


2.プライバシー


(1)Gメール

  • Gメールの文章を読み取って最適な広告を載せるという考え方には、当初から非難が集中した。特に、米国より厳しいプライバシー法を持つ欧州を中心に、猛反発を受けた。Googleは、機械処理で読み取ること、内容や個人が特定できる情報の第三者提供はしないこと等を釈明し、詳細なプライバシーポリシー*7を掲示している。

  『Gメール』に拡がる懸念:プライバシー関連28団体がグーグルに公開書簡
  http://wiredvision.jp/archives/200404/2004040503.html



(2)ストリート・ビュー*8

  • Google Mapの上にストリート上で撮影された画像を貼付けるこのサービスは、2005年5月にリリースされて以来、プライバシー問題が議論されて来ており、 Googleもローンチ後まもなく、個人を特定可能な顔やナンバープレートを、申請に基づき削除できるように、当初方針を変更している。2008年4月には、ペンシルベニア州ピッツバーグの夫婦が、Google MapsのStreet Viewにプライバシーを侵害されたとして、Googleを訴えた。

  Google Mapsの「Street View」めぐり、プライバシー侵害訴訟 - CNET Japan

  Documents | The Smoking Gun



3.国家の検閲

  • 2006年1月、Googleは中国政府の要請を受け入れ、検閲や統制を容認した。金儲けの為に邪悪にならない会社をめざし、検索は自動で行われ人為的な介在も恣意的操作もない客観情報であることを標榜していたはずなのに、である。『青臭いが理想を掲げていて信頼に足る』はずだった、Googleも邪悪になりうる、という懸念を感じさせた、エポックメイキングな出来事だった。

米Google、中国政府による検閲の受け入れを公表

「天安門事件」「法輪功」サイト見つからず――中国版Googleの検閲実態 - ITmedia ニュース

http://wiredvision.jp/archives/200409/2004092807.html



4.独禁法(アンチトラスト法)

  • Googleの前に、インターネットの覇権を握ったマイクロソフトは、法廷闘争で疲弊したし、AT&Tは解体された。Googleが今後成長が続いたとしても、というより、成長が続けば余計、この問題は確実に出てくる。すでに、ダブルクリック社の買収案件に関して、欧州では厳しい審査を受け、2008年3月何とか承認されたが、今後は同様の事態が続出すると予想される。

総評


Googleは現在、従来必ずしも強くなかった、携帯電話やSNSにも検索と広告のビジネスを展開すべく着々と策を講じている。ますます、地球上のすべての情報のデジタル化とその支配を盤石にするかに見える。ただ、そうなればなるほど、独禁法(アンチトラスト法)による国家との戦いは激しくなり、一方で人々のプライバシー意識高まり(グーグル脅威論)とも戦う必要が出てくるだろう。また、全世界共通展開のもろくみも、各国の法律にあちこちで抵触し、トラブルに巻き込まれる可能性が高くなると思われる。『政治的』とは対極のイメージがGoogleの良さでもあったし、その良さを失うと、グーグル脅威論を抑えられなくなるという非常に厳しい立場にあることがわかる。 ただ、それでも、Googleは『普通の会社にはならない』との理想をすてずに、既得権益だらけですっかり身動きが取れなくなってしまった世界に風穴を明けてくれることを望みたいと考えるのは私だけだろうか。