第4回ジオメディアサミット/マネタイズの最前線を見た

第4回ジオメディアサミットに参加した。開催概要は下記の通り。 
http://lab.cirius.co.jp/%E7%AC%AC4%E5%9B%9E%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%88


* 日時:2009年10月23日(金)18:00〜20:30 (17:30開場)
   :懇親会:20:45 〜
* 会場:立教大学池袋キャンパス 8号館、8101 号室
* テーマ:「ジオメディアとマネタイズ」
* 主 催:ジオメディアサミット運営実行委員会


 <プレゼンテーション>

* プレゼンテーション1:凸版印刷株式会社
「注目されるエリアプロモーション Shufoo!サービスの活用事例」

* プレゼンテーション2:株式会社リクルート旅行カンパニー じゃらんリサーチセンター
「変化する旅行・レジャー動向 ジオメディアの可能性 〜コロプラバスツアーに見えた新たな展開〜(仮)」

 <パネルディスカッション>

* モデレータ時事通信社 湯川氏
* パネラー1: フェリカネットワークス株式会社 山下氏
* パネラー2: 株式会社シリウステクノロジーズ 宮澤 弦氏
* パネラー3: 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 上路氏

 <ライトニングトーク>

   5分以内で実施する、自社のサービスや技術についてのショートプレゼン。



当日の模様


これは、私の『師匠ブログ』でもある、チミンモラスイ! (「第4回ジオメディアサミット」終了! : チミンモラスイ?)で、すでに驚く程精緻でわかりやすい報告が上がって来ている。何時も感じる事がだが、このような報告に、私が更に詳細な内容を積み上げることの意味はほとんどない。よって、今回も自分の感じたこと、感想に絞って気ままに書かせていただこうと思う。



全般の印象


今回は、『ジオメディアとマネタイズ』がテーマということもあってか、整然とした滑り出しだった。面白いことに会場も淡々と話を聞く『静かな聴衆』で、前回(第三回)の時のように、コンサート会場にいるような気圧されるような熱気とは明らかに違っていた。今回も前回と同じ会場(立教大学)で開催されたため余計に前回との違いを感じた。静かだからと言って、内容がないとか、つまらないということではなく、それどころか(後でふれるが)、私の見立てでは、ジオメディアサミット史上、有数の傑作と言っていいようなすばらしいプレゼンもあった。


ジオメディアとマネタイズ


ライトニングトークが始まると、『マネタイズ』とは必ずしも関係なく、従前のような『面白いこと第一』に戻った感じで、会場も笑いとリラックスに包まれた。まったくの的外れな見解となるかもしれないことを恐れずに言えば、このジオメディアサミットに惹き付けられて集まるオーディエンスに、『クリエータータイプ』の人が多く、『プロデューサータイプ』の人が少なめということかもしれない。あるいは、さらに偏見とのそしりを受けるかもしれないが、『マネタイズ』関連のトピックで、あれだけ緊張感が感じられるのは、狭義の『ジオメディア』の『マネタイズ』の難しさに関係者が直面していることの現れということもあるのではないか。実際、民需としての地図というのは、カーナビのような特異な例外を除けば、さほど大きなビジネスを生んでいるとは言い難い。ポスト・カーナビのビジネスモデル構築にも中々展望が見えて来ない。


私は『ジオメディア』は『マネタイズ』が出来ないと言いたいわけではない。ただ、例えば、ここまで非常に成功して来たビジネスモデルであるカーナビ地図の各社の取組みを見ていると、日本の他の製造業/メーカーと同様、『一層の利便性』『詳細で性格なデータ』『技術先進性』など、エンドレスな機能競争に突入しているように見える。古くから地図ビジネスに取組んで来た人は、地図ビジネス=地図を良くすること/きれいにすること/データを増やす事/使いやすくする事等、非常に素直に考えて取組んでいる真面目な人が多い。私はそういう職人肌が必ずしも嫌いではない。しかしながら、それだけでは、コモディティ』化の波を乗り越える事は難しい。


ところが、地図やジオメディアというのは、実は本来それを使う人の想像力やフェティシズム*1を喚起しやすいアイテムである。その意味では、付加価値を生む余地を多分に持つ素材なのだ。その証拠に、このジオメディアサミットに集まる人達の熱狂ぶりはどうだ。そういう人が必ずしも地図づくりに携わっている人とは限らず、昨今では地図のデジタル化、インターネット化が進んでいることからも、他分野からの参入も多くなっていると思われるが、いずれにしてもこの領域に惹き付けられる人は年々増えて来ていると思う。『コモディティ化』を抜け出るチャンスは十分にある。ただし、そのためには、地図を2次元思考から解放し、利便性へのこだわりを捨て、本来の豊穣な世界に再度対峙することが不可欠だと思う。


古い地図屋には大変残念なことに、この意味での『クリエータータイプ』が少なく、尚かつ、クリエーターの溢れるようなアイデアをビジネスに仕立てて行く、プロデューサータイプも決定的に不足している。そのせいか、まだ、『地図屋の技能』『クリエーターの創造力』『プロデューサーのビジネス構築力』の三位一体が完結しているとは言い難い。そういう意味では、本当のチャンスの開拓はこれからだと思うが、しかし、他分野からの参入に伴い、急速に状況は変化しているようだ。誰かが急に走り出す予感も十分にある。



プレゼンテーション


株式会社リクルート旅行カンパニー じゃらんリサーチセンターの加藤さんのプレゼンは、本当にすばらしかった。少しスペースを取って感想を書き留めておきたいと思う。


昨今、『若者の自動車離れ』が大きな関心をひくようになって来ているが、『若者の旅行離れ』も同様に進行してきている。ただ、この主な理由が、若者が海外旅行に行かなくなった、という文脈で語られることが圧倒的に多く、国内旅行はむしろ(海外旅行からのシフトという意味で)増大傾向にあるのでは、との先入観が私にもあった気がする。だが、『じゃらん宿泊旅行調査2009』によると、若年層の国内旅行人口は、少子化による人口減以上に、縮小しているようだ。(H12→H17で、20代の人口は13%減少、旅行人口は38%減)団塊世代が生んだ『団体旅行』という文化は若年層には伝承されていない。(その旅行文化は実感で言えば、30才の半ばくらいで途絶えていると私も思う。)


プレゼンでも指摘されていたように、若年層にはお金がなく、しかも彼らが日常的に接するマストアイテムは外出を抑制するものばかりだ。(IT・携帯・ゲーム・アニメ・映画・・・!?) 旅行会社にとっては非常に由々しい事態であるのは当然だが、地図/ジオメディアのマネタイズに期待をかける誰にとってもありがたくない動向であることは言うまでもない。地図に関わる民需は人が動くことが(それだけではないとはいえ)最も付加価値を生む。このままほっておけば、業界全体が時と共に地盤沈下していくことは確実だ。


しかし、ここからの反攻が実にすばらしい。20代30代が常に側におくPCや携帯というメディアに GPS機能が搭載されてきていること利用して、動くための情報、動く楽しさを訴求することで、旅行に引っ張りだすことに成功する。具体的には、最近注目されている位置ゲーの一つ、『コロニーな生活☆PLUS』(通商コロプラ*2を遊ぶ若者を対象にして、九州へのバスツアーを企画し、ゲームをきっかけにしながら、リアルな旅行に参加してもらうだけではなく、対象ユーザーを十分に理解して最適な心配りをきめ細かく張り巡らして、参加者を満足させていく。


私が何より感心したのは、若年層のオタク的な行動特性を深く理解して、しかもその中から旅行につながる要素を救い上げてくる職人技だ。プレゼンで例示された、以下のような事例は、通り一遍の調査などではけして見つけ出す事はできないものばかりだ。

埼玉県『鷺宮神社』らき☆すた聖地巡礼

 初詣参拝客 30万(2008年)→ 42万(2009年)


箱根観光協会 エヴァンゲリオンマップ配布

 配布開始は平日に300人以上の行列


戦国BASARA歴女(れきじょ)、武将墓めぐり

 

確かに、若者の多くはオタク化し、オタクは自分の世界に耽溺して、物理的な外出は少ない傾向にある。だが、オタクが浸る心象世界は、しばし非常に多様で奥深い。その心象世界と親和性のあるリアルを上手くアレンジできれば、彼ら彼女らが物理的に体を動かす事はありうる、ということを見事に証明して見せたことになる。しかも、『電脳コイル』や『セカイカメラ』に見られるように電脳世界と物理世界を融合させることが今や可能になりつつある。若年層を相手にした、新しい旅行(外出)文化創出の可能性は大きく広がろうとしているのかもしれない


もうひとつのプレゼン、凸版印刷株式会社「注目されるエリアプロモーション Shufoo!サービス*3の活用事例」も、さりげない目のつけどころが大きなビジネスに発展して行くすばらしい事例紹介だったと思う。だが、ジオメディアとの関連性という点では、まだ本格化はこれからという感じで、むしろ今後の活動を注目してみたい気がする。



パネルディスカッション


こちらのほうも、今業界では大変注目されているパネラーが勢揃いしており、ジオメディアサミットの存在感がますます大きくなっていることを再認識させられた。面白かったのは、モデレーターである、時事通信社の湯川さんの矢継ぎ早で意味深な質問だ。ジオメディアのマネタイズを制するものは、今後Google に匹敵するビッグビジネスを起こす可能性がある、という仮説を持って、それを裏付ける発言をパネラーから引出したいという意欲がありありで、パネラーのほうは、少々湯川さんの質問に多少面食らっていた感じだった。だが、それぞれに優れた要素が、何らかのグランドデザインやストーリーとともに飛躍するポテンシャルは十分感じられる。大変楽しみだ。



結語


ジオメディアサミット』は二次会からが本番と聞いているのに、今までまだ二次会に参加したことがなかったので、今回は是非様子を覗いてやろうと思っていたのだが、ライトニングトークに至るまで、聞き漏らさぬよう真剣に集中し過ぎたせいか、途中で頭痛がひどくなり、また失礼してしまった。だが、一次会だけでも十分参加した価値があった。開催フォーマットもますます多様になって、これからは今までとは違った人種も集めることができるようになるのではないか。次回からは、もっとプレゼンターや参加者とアイデアを交換する機会を求めていこうと思う。