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ネット広告の現状と今後について

 

 ◾️ 首位をうかがうネット広告

 

4月7日付の日経新聞が報じているが、世界の広告費は、2017年にはとうとう首位のテレビを抑えて、ネット広告が首位になる見込みのようだ。きっとそういう時代が来ることには確信があったものの、それはいつのことになるのか、ほんの数年前でさえ、無限に時間がかかるように思えたものだ。雑誌や新聞は目に見えて部数を落とし、今でも凋落が続いているが、一方テレビ広告は、様々な問題もありながら、依然強く、雑誌や新聞の凋落を尻目に増加の趨勢にさえあった。だが、近年、特にソーシャルメディアが普及すると、ネット広告がテレビを急追、とうとう2017年には追い抜くであろうことが予想されている。(ただ、日本に目を向けるとまだネット広告が首位になるには時間がかかりそうに見えるが、それでも隔世の感があることは確かだ。遠からずネット広告が首位になる日が来ると予測しても、今ではそれを笑う人はいないだろう。)

 


だが、ネット広告には、まだ固有の、未解決の問題が多いことを忘れるわけにはいかない。しかも、ネット広告のボリュームが非常に大きくなって、首位を目前にする現在では、その固有の問題がもたらす影響も相応に大きくなり、対処を誤るとネガティブな印象ばかり強くなり、最悪の場合、停滞を余儀なくされる可能性もある。

 

 昨今では(従前からかもしれないが)広告宣伝というとネガティブな事件ばかりが世を騒がすことが多く、それがもたらすメリットの部分にあまり光があたらないことは残念なことだと思う。旧来のメディアの牽制役としても、本来、ネットメディアの健全な成長は社会全体にとっても好ましいことのはずだし、昨今のYouTuberに見られるように、広告宣伝がバックアップすることで、従来にはなかった活動によって生計を立てることができる可能性を開いたことは(そこにネガティブな側面もあるにしても)素直に評価してよいと私は思う。そういう意味で、広告宣伝関係者は、もっと危機感を持つと同時に、自らの活動に胸を張れるような環境整備に精励する必要がある。

 

 

◾️ PV至上主義の問題点

 

問題点といえば、何と言っても、ネット広告のPV(ページビュー)至上主義に根ざす問題が最も大きく見える。ネット広告のメディア選定に際して、スポンサー企業がメディアの内容に関心を持たず、単純に人が沢山見にくる、という部分にしか注目しないのであれば、『内容の真偽がどうあれ面白さえすればいい』『記事の数さえ多ければいい』ということになり、フェイクニュースであふれたメディア、誹謗中傷を含み下劣で強い感情を惹起するようなメディア、著作権法抵触すれすれ(あるいは実際に抵触)で他人のコンテンツをかき集めたメディアが溢れるであろうことは当然予想されることだった。実際、ソーシャルメディアが本格的に普及し始めた、2000年代の終わり頃からこちら、悪い意味での『キュレーションメディア』『バイラルメディア』が雨後の筍のように、ものすごい勢いで増えた。

 

直近でこの問題が世間を騒がせて耳目を集めることになった例は、ご存知の通り、昨年炎上して閉じることになった、DeNAの傘下で真偽の怪しい情報を垂れ流した医療系キュレーションメディアの『WELQ』である。だが、そもそもそれ以前から市場では『モラル無きバイラルメディア』の問題はとっくに問題視されていたし、そのような話題が出る都度、関係者は、もうPV至上主義の時代は終わってユーザーとのエンゲージメント重視が主流になる、と期待を込めて述べて来た。例えば、2015年の11月に行われたイベントで、NewsPicksの編集長の佐々木紀彦氏は次のように述べている。

 

まず、「2016年の5つのメディアトレンド」についてお話しする前に、ちょうど今年の1月に、「今年のメディア業界はこうなる!」ということで、5つ予測いたしました。その予測がどうだったかということを、自己採点していきたいと思います。 まず1つ目。「PV至上主義が終わり、新王者をめぐる戦いが過熱する」という例えをしました。PV至上主義が終わるということはかなり強調していたんですが、最近メディア業界のジャーナリズム側の方に聞いても、マーケティング側の方に聞いても、「PVは売ってもしょうがない」とまでは言いませんけども、「あんまり有効じゃないよね」という声をかなり聞くようになってきまして、このトレンドはかなり浸透したんじゃないかなと思っています。

http:// http://logmi.jp/117756

 

何も佐々木氏を揶揄するつもりもなければ、予想が外れたとあげつらうつもりは全くないのだが、2016年の秋、『WELQ 』の問題が大々的に報じられ、併せて、いかに同様のキュレーションメディアが氾濫しているか、あらためて問題になったことは事実として認識しておく必要がある。佐々木氏の言うように、広告宣伝に通じた者の間では、この時点でPVがさほど有効ではないという認識が広がっていたことは確かだと私も思う。だが、クライアントの企業までその認識が浸透しきったとは言えず、依然、PVの影響力は非常に大きかったと言わざるを得ない。しかもこの年はトランプ旋風が吹き荒れて、世界的にフェイクニュースの問題が大々的に報じられ、『ポスト真実』が時代を代表する用語として浸透するまでになった。

 

 

◾️ Googleアルゴリズム vs SEO

 

しかも、少なくとも日本の状況を見る限りでは、『キュレーションメディア』や『バイラルメディア』の問題の直接の原因は、メディアのモラルや、PV至上主義の是非との関連以上に、Google検索のアルゴリズムとそれの裏をかこうとする、いわゆるSEO対策*1(その結果として検索上位となることを目指す)とのイタチごっこにあったと見るべきだろう。

 

 Googleのwebサイトの評価のロジックが被リンクの数に頼っていた頃、多くのwebサイトはひたすらリンクの獲得に取り組み、当時のSEO対策業者は、多数の(必ずしも質の良くない)リンクを売りに来たものだ。だが、それに対して、Google2012年4月、初めての『ペンギン・アップデート』と呼ばれるアルゴリズムのアップデートで作為的なリンクを検知して評価の対象から外すようになった。ところが、今度は検索キーワードに関連するテーマに関する情報やコンテンツが多くあれば、検索上位に表示されることがわかって、特定のテーマに合わせたコンテンツを大量に投下するタイプのwebメディアが現れるようになった。そうなると、とにかく『効率的に大量のコンテンツを集めること』が検索上位を実現する成功フォーミュラと見なされ、その結果、低報酬でアルバイトを雇って、ネット上にあるコンテンツを掻き集めて、若干の(著作権法を回避できる程度の)リライトを施して、キュレーションメディアと称して宣伝費を稼ぐ手法が大流行することになった。この頂点にいたのがまさに『WELQ』ということになる。

  

WELQ』の場合、医療関係者が記事の内容の問題点を指摘したことをきっかけに炎上状態となり、閉鎖を余儀なくされただけでなく、DeNAが運営する他のキュレーションメディアもドミノ倒しのように閉鎖されていった。炎上は問題点も多いので、ポジティブな評価は与えにくいところもあるのだが、この場合は、SNSが浄化作用を促す点で一定の役割りを果たすことになった。

 

これを受けて、Googleは、今年の23日に、品質の低いwebサイトの順位を下げる狙いで、日本語検索結果に与えるwebサイトの評価を方法を改善にした旨、公式ブログで発表した。その結果、旅行を扱う『RETRIP』、商品情報の『KAMUMO』、健康情報の「カラダノート』、育児情報の『マーミー』等、情報が薄いキュレーションメディアやテキストを中心とした新興メディア等が軒並み検索順位を落とすことになった。

 

PV至上主義を否定するのはいいとしても、『Google検索で表示されなければ存在しないのも同じ』という条件を課せられたwebサイトであってみれば、とにかくSEO対策で検索上位に位置し、その結果としてPVを増加しなければ、そもそも始まらないという本音を一概に否定することは難しい構造にあったことは認めざるをえない。ゴミのようなコンテンツを集めることは論外であることは言うまでもないが、検索上位となることが(十分条件ではないにせよ)必要条件として残り続ける構造は原則変わらないと考えられる。そういう意味では、このイタチごっこは多かれ少なかれ原則これからも続くと見るのが現実的だろう。しかも、検索に関わる広告という点では、根拠不明のランキングや商品比較によるステルスマーケティング*2行為を行う悪質なアフィリエイト業者(一部上場企業を含む)が、SEO対策によって、今でも検索上位に表示され続けているという指摘もある。完全な浄化までには、今しばらく時間が必要と考えられる。

「検索」を汚染するアフィリエイトの闇 広告主をも騙す、ステマの手口

 

 

◾️ YouTube広告ボイコット事件

 

ただ、Google/ 広告宣伝という点で、その後もう一つの象徴的とも言える事件が起きた。Google傘下のYouTubeで、広告のスポンサー企業が大量にボイコットを始めた。概要は次の通りだ。

 

YouTubeに掲載されたテロや反ユダヤ主義をあおる過激派グループの動画コンテンツにイギリス企業の広告が表示されているとタイムズ紙が報じた後、これまでに少なくとも250の企業がYouTubeとグーグルから自社の広告を引き揚げている。22日(現地時間)には、アメリカ最大の広告主であるAT&TベライゾンがグーグルとYouTubeの検索以外のすべてのサービスから広告の掲載を停止している。

ロイターやブルームバーグなど複数の海外メディアによると、23日(現地時間)にはアメリカのJPモルガン・チェースやヘルスケア大手のジョンソン・エンド・ジョンソンフォード・モーターなどが広告の引き揚げを決めたと言う。日本企業の中ではトヨタ自動車がすでにイギリスでの広告を取りやめたとブルームバーグが報じている。

JPモルガン、J&J、ベライゾン……。相次ぐYouTube広告の掲載停止 —— グーグル元CEO「時にアルゴリズムに翻弄されることも」 | BUSINESS INSIDER JAPAN

 

 野村グループ傘下のインスティネット証券のアナリストによれば、今回のボイコットで75000万ドル(約830億円)の損失が出る可能性があるという。YouTubeの広告収入は、Googleの総収入の7.5%を占め、広告支出の多い米国の上位20社うち、5社が広告掲載を凍結してこれは全米の7.5%を占めるというから、これでは日本のキュレーションメディア対応どころではない。案の定、Googleは早々と対処を約し、スタッフを増員して監視を強化、さらに大規模な増員で動画の審査を行う旨を発表している。

企業のYouTube広告取りやめ問題、グーグルは約830億円損失の可能性 | BUSINESS INSIDER JAPAN

 

人工知能等のアルゴリズム対応ではなく、人力対応というのが、Googleの慌てぶりを表しているとも言える。だが、今後は本件に限らず、検索広告関連でも、このような問題に対処するために、人工知能の本格導入が進むことは間違いない。というより、今回の事件はそれを早急に進めるべく、Googleにとっても大きなプレッシャーになったはずだ。(人工知能と言えば、ランジェリーブランドの『コサベラ』は、デジタル広告会社との契約を解消して、人工知能プラットフォームに切り替えたら、ROIは3倍以上、顧客基盤も30%拡大した、というような話もあるから、人工知能の進展により広告の構造自体が変質してしまう可能性もある。*3 )

 

今回の騒動は、やっとクライアント企業が自分たちの広告が表示される動画(メディア)の内容について本格的にクレームすることになったという意味で、非常に象徴的な事件と言える(しかも規模も影響金額も大きい)。現段階では検索広告には波及していないようだが、これをきっかけにして、こちらのほうにもクライアントの厳しい監視の目が及ぶようになる可能性は十分にある。そもそもいい加減なコンテンツばかりのキュレーションメディアに広告を掲載されたクライアント企業こそもっと怒ってしかるべきだろう。PV至上主義に決別して、それ以外の指標にメリットがあることをクライアントが一目でわかるように、可視化するような具体的な仕組みの導入を提案する業者もあり、今回のような事件があると耳を貸すクライアントが増えていくことは期待できる。

PV至上主義から脱却する、メディア運営のゲームチェンジャー:「オートマティック イールド」の革新性 | DIGIDAY[日本版]

 

 

◾️ 今後の見通し

 

このごとく、ネット広告には、大変多くの問題があるものの、その問題解決に向けた取り組みも進みつつある。ここまで書いてきた内容のまとめとも言えるが、少なくとも下記の3点で今後は改善は多少なりとも進んでいくだろう(但し、もうしばらく時間はかかりそうだ)。

 

1. GoogleFacebook等のアルゴリズム対応が進むこと

       未解決な問題もあるが、今後人工知能等のハイテクの

   活用も進み、ある時点から急速に改善することは期待できる。

 

 2. クライアント企業のチェックがもっと厳しくなっていくこと

       広告宣伝の熟達者が期待するほど、全体で見ればまだ

   クライアントの成熟が進んでいるとは言えない段階だが、

   象徴的な事件をきっかけに、状況が一変することはありえる。

   その過程で、PV至上主義信仰も徐々に崩れていくと考えられる

 

3. SNS等の監視がもっと激しくなっていくこと

      反面に炎上等の問題はあるが、少なくとも衆目を欺くことは

   今以上に難しくなっていくことは確かだ

 

楽観的過ぎるというお叱りがあるであろうことは覚悟の上、長期的にはネット広告の問題は、解決に向け収束していくだろうと私は考えている。特に、人工知能等のハイテクの浸透が本格的になれば、かなりのスピードで改善が進んでいくと考えられる。もちろん、そのような技術革新を待つだけではなく、関係者には現在できる最大限の努力を期待したい。

 

ちなみに、この延長でフェイクニュースの抑制も実現して欲しいところだが、こちらのほうは、もう少し複雑な事情もあり、同列に論じることができる部分とできない部分がある。政治的な情報等、価値観が相違すると、同じ出来事が違って見えるような場合には、一律の価値で機械的に対処することが難しい。この点、商品やサービスであれば、その人の属性(男女、年齢、学歴等)によって多少の好き嫌いの違いがあったりはするとはいえ、その情報の真偽ははるかに分別しやすい。よって、今回はフェイクニュースについては、意見を保留した上で、別の機会に取り上げることにしたい。