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日本のマーケティングはもっと進化すべきだと思う

 

◾️ AMNの提唱するアンバサダー・マーケティング

 

先日、日本におけるブログ・マーケティングあるいはカンバセーション・マーケッティング早くから手がけ、最近ではその延長で、『アンバサダー・マーケティング』を推進する、アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)社の首脳二人(藤崎実氏、および徳力基彦氏)の共著による、『顧客視点の企業戦略:アンバサダープログラム的思考』*1という新著が発刊されたため、早速拝読してみた。

 

この本の感想を含めたコメントを読んでいただくにあたって、ここで言う『アンバサダー』の定義が理解できないと始まらないので、AMNの公式サイトより、この用語の説明を引用しておく。

 

AMNが提唱するアンバサダーとは

アンバサダー(Ambassador の意味は一般的に「大使」と翻訳され、日本では著名人や芸能人などがブランド大使として任命される時に使われることが多いようです。

 

AMNが提唱するアンバサダーは、ソーシャルメディアの発展により、個人が情報を発信できるようになった環境変化を反映させたものとなります。

 

近年、自分の好きな企業やブランドについて積極的な発言や推奨を行うだけでなく、他のユーザーへのサポートや、ブランドの擁護まで自発的に行うファンの存在が注目されています。

 

AMNではこのように企業やブランドに積極的に関わり、自発的に発言・推奨する熱量の高いファンを、「アンバサダー」と定義しています。

 

アンバサダーの活用|アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)

 

 

 

◾️ 発祥と日本でのカスタマイズ

 

『アンバサダー・マーケティング』の概念は、ソーシャルメディアの浸透とともに発生し、開拓されてきたものであり、そういう意味では、2000年代の半ば頃以降に徐々に形を成してきた非常に新しい概念(およびその手法)である。発祥は米国である。新しいだけに、まだ『アンバサダー・マーケティング』という確立した存在があるというよりは、様々な関連領域を巻き込みながら成長途上にある概念であり手法というべきだろう。

 

この『アンバサダー・マーケティング』のパイオニアとされる、米国のズーベランスの創業者兼最高経営責任者CEO)である、ロブ・フュジェッタの著作をAMNの監修で翻訳して出版しているが(著書名は『アンバサダー・マーケティング*2 )、その原題は、『Brand Advocates: Turning Enthusiastic Customers into a Powerful Marketing Force』であり、『アンバサダー』という用語が使われているわけではない。『Brand Advocates = ブランド 提唱者』が正式な名称ということになる。ただ、だからと言って、AMNがこの概念を誤読して(あるいは意図的に曲げて)紹介している、というような誹りは少々AMNに気の毒だろう。そもそも、『アンバサダー』以上にこの『Advocates』という用語が日本人に馴染みにくいと考えたとしても、それは必ずしも間違った判断とは思えない。米国発祥の概念を日本に紹介したり、導入するにあたっては、多かれ少なかれ日本なりに再解釈する必要があることはこのケースに限らない。

 

日本のマーケティングの現場で、彼らなりに理解する『アンバサダー』という概念を日本の広告宣伝の現場に馴染む手法とともにパッケージ化して、『アンバサダー・マーケティング』という名称を与えてサービスを提供しているAMNであれば、『アンバサダー・マーケティング』は日本の概念、和製英語と言われてももはやそれを否定するどころか、むしろ自信を持って『Yes』と答えるように思える。広義の概念としては共通していても、具体的な展開を含めた細部は日本なりにカスタマイズされていくのは当然だ。そして、その日本の現場での経験の蓄積の集大成が今回の著作『顧客視点の企業戦略:アンバサダープログラム的思考』ということだろう。

 

 

◾️ ソーシャルメディアの普及で激変した市場

 

従来は企業と顧客の間には、いわゆる『情報の非対称性』(『売り手』のみが専門知識と情報を有し、『買い手』はそれを知らない状態のこと)があり、企業はかなりの程度顧客や市場をコントロールすることができた。だが、ソーシャルメディアが普及すると、顧客は思いのままに情報を発信し、互いに情報交換するようになり、顧客の情報は企業にひけを取らなくなった。そうなると、顧客は企業の宣伝を容易には信じなくなり、その企業の製品やサービスを使った他の顧客の意見や自分の身近な友人知人の意見を重視するようになる。

 

一方で企業の側では、従来は顧客が製品やサービスを認知してから、実際に購買行動を起こす(購入する)まではほぼブラックボックスで、企業の調査・アンケート・グループインタビュー等による断片的な情報以外には、ほとんど顧客の購買に至る思考プロセスをトレースすることはできなかったが、今では様々な手法で観察したり分析して購買行動の全行程を知り、その折々にコミュニケーションをとることができるようになった。また、影響力のある顧客(インフルエンサー)を見つけ、アプローチすることも可能になった。

 

この非常に大きな環境変化に対して、宣伝会社や企業マーケティング担当部門のマーケターは従来の手法に安住することはできなくなった。『インフルエンサー』『準拠集団』『顧客ロイヤルティ』『トライアルマーケティング』等、様々な概念と格闘しつつ、試行錯誤を繰り返す必要に迫られるようになった。

 

 

◾️ トリプルメディア

 

これをメディアの多様化と構造変化の問題として整理しなおすと、もう少し環境変化の構造自体が理解しやすくなるかもしれない。現在では、市場には3つの種類のメディア(トリプルメディア)があるとされており、マーケターはそれぞれの特性と、相互の関係を理解して使いこなすことが不可欠となった。それは次の3つである。

 

オウンドメディア(Owned:自社が所有するメディア)

ペイドメディア(Paid:広告費を払うメディア)

アーンドメディア(EarnedSNSなど自然拡散するメディア)


ソーシャルメディアがなかった時代には、メディアといえば、テレビ、新聞、雑誌等のペイドメディアが中心で、企業顧客、という一方通行で大量に情報を流して、一挙に認知を広げるタイプの広告宣伝が中心だったが、昨今では、顧客も発信が自由になっただけではなくて、企業もブログや自社アカウントのフェイスブック等を利用することができるようになり、発信の自由度が大幅に上がった。しかも、新しいメディアは従来と違って双方向性を持ち、企業と顧客の間は双方向で、距離も時間もはるかに縮まった。

 

その結果、マーケターはメディアの特性を考慮して、最適なメディア・ミックスを実現することが必須になった。従来、メディア・ミックスと言えば、テレビ、新聞、雑誌等の費用配分のことを意味したものだが、その時代と比較すると、マーケティングという活動ははるかに複雑化したと同時に、企業活動全体の中での影響範囲が格段に広がることになった。その結果、従来以上にマーケティングは企業経営の根幹に鎮座する活動であり概念と考えられるようになり、特に米国のようなマーケティング先進国では、先端のマーケティングの理解がCEOの必須要件の一つになっている(残念ながら日本ではまだそうとは言えない)。

 

 

現在でも、ペイドメディアの中心にあるテレビ宣伝等、大量生産・大量消費時代とはその位置付けや意味が変質して来ているとはいえ、ごく限られた時間で、大量の人に情報を伝達する役割として最適であることは変わりはない。だが、生活者の時間に強引に割り込むこの手法は従来から、潜在顧客をゆっくりと段階的に説得するような目的では有効には機能しないことはわかっていた。しかも、この情報過多の時代にあって、顧客はただでさえ情報が溢れているところにさらに聞きたくもない情報には、耳を塞ぎたいという気持ちは益々強くなっている。従って、テレビのようなマス広告の威力は減退していることが指摘されて久しい。

 

 

◾️ 企業と顧客の信頼の重要性

 

ところが、自社商品を強引に告知するのではなく、企業がオウンドメディアを使って商品やサービスで提供できる価値をもっと大きな括りでとらえて、生活者が真に知りたがっている情報を企業側から提供できるようなコンテンツをつくり、提供し続けることで、既存顧客だけではなく、潜在顧客とも良い関係を築くことができ、企業に対する信頼関係も向上し、企業やブランドへの根強いファン(アンバサダーの有力候補)を増やしていくことが可能になる。

 

この典型的な良例に、花王が開設したウェブサイト、『ピカ☆ママ コミュニティ』*3がある。これは同じ月齢の赤ちゃんを持つ新米のママが助け合うためのコミュニティサイドだが、当初は花王の社名は出さずに、場合によっては他社製品も使っているであろう新米ママに役立つ情報を発信し続けた。そのうちに、コミュニティ参加者に促されるようにして、花王の名前を出して商品情報も流し始めたというが、このような押し付けがましくない姿勢で、顧客層が真に必要としている情報提供に努め、その活動を通じて顧客層を深く理解し、商品開発に生かし、その商品を提供してコミュニティでフィードバックを受ける、という理想的なサイクルができていく。ここからは優良な口コミが自然発生的に生まれてくることは想像に難くない。そして、結果的にだが、その口コミこそ、情報過多で顧客が企業を容易には信用しない時代において、最も質が高く、効率もよい宣伝となるわけだ。しかも、これは一方通行の広告宣伝では届きにくい、商品に愛着を感じて何度も買ってくれるロイヤリティーの高い貴重な顧客との関係を一層強くする効果もある。昨今では、同様の試みは非常に多くなってきている。無印良品ネスカフェANA等、その代表事例として挙げることができ、いずれも学ぶところが非常に多い。

 

 

◾️ マーケティングの進化に追いつけていない日本企業

 

では、2017年現在、ここで述べたようなコンセプトは日本企業に正しく理解され、普及しているのかといえば、とてもそのようには思えない。一部企業、あるいは、企業内の優秀なマーケター、AMNのような宣伝会社等、日本でも、現在の市場での環境変化の意味を理解して、改革に取り組む企業や人が増えてきていることは事実だが、全体でいえばまだまだマイノリティと言わざるをえないのではないか。今だに、自分が若いころに経験した大量生産時代の広告宣伝しか理解できない経営層が多すぎる印象が強い。AMNのアンバサダー・マーケティングのイベントに出席すると、各社の成功事例のシェアが行われているが、非常に印象的なのが、『企業のマーケターや広告宣伝担当が企業内の上層部に対して、どうすればアンバサダー・マーケティングに対する理解を得ることができるか』というテーマに関わるシェアが行われていることだ。これが今の日本企業の実情を雄弁に物語っている。個人として理解している人が出てきていることと、組織全体、あるいはシニアが多い上層部・経営層が理解が浸透していることとはまったく意味が違う。日本企業の場合、まだこの断層は非常に深い。

 

世界的なマーケティング研究の第一人者、フィリップ・コトラー氏も、日本はマーケティングに対する正しい理解が進んでおらず、その結果昨今の市場の環境変化についていけていない会社が多く、それが日本全体の停滞の原因ではないかと述べている。

マーケティング4.0の時代に、日本企業は何をすべきか ――フィリップ・コトラー | フィリップ・コトラーが資本主義を語る|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

 

 

コトラー氏は、マーケティングの進化について次のように語る。

 

マーケティング1.0は、1950年代のアメリカで生まれたモデルであり「製品中心のマーケティング」のことである。技術革新によって製造業が経済の中心となり、生産コストをできるだけおさえて安価な製品をつくり、マス市場を対象に売り込む。「製品を販売すること」を目的に、製品機能そのものが価値をもつ。

 

マーケティング2.0は、「顧客志向のマーケティング」である。顧客にとって多くの製品がコモディティ化し、製品そのもので付加価値を与えることが難しくなったことから、顧客ニーズを起点に考える時代になった。その結果、製品やサービスがもたらす価値は企業が決めるのではなく、顧客が決める時代となったのだ。

 

つまり、顧客主導のマーケティングでは、「顧客を満足させ、つなぎとめること」を目的に、企業は製品の機能ではなく、顧客のニーズをくみ取ることが大切になった。大量生産・大量消費型のビジネスモデルが崩れ、多品種少量生産型経済が到来したのである。

 

マーケティング3.0は、「価値主導のマーケティング」である。価値主導のマーケティングとは、潜在的な顧客の隠れたニーズを探ること、そして顧客を全人的な存在として扱うことを意味する。「世界をよりよい場所にすること」を目的とし、企業は、生活者に製品やサービスだけでなく、精神的価値や社会的価値を提供する存在へと変貌したのだ。

 

マーケティング3.0 時代は、マーケティング2.0 時代に有効とされたリサーチに頼っても他社との優位性を築くことはできない。顕在化したニーズで競争をすると、ただの価格競争しかもたらさないからだ。

 

それでは「マーケティング4.0」はどのようなマーケティングなのだろうか―。

それは「自己実現欲求」に焦点を絞ったマーケティングである。

 

の「自己実現欲求」のことを指す。ここでいう自己実現欲求とは、人間の最上位の欲求であり、「自分に注目してほしい」「自分の所属するグループは、ほかとは違う」というだけではなく、「自分が何者か」ということをはっきりと示せるようになりたいという欲求である。

 

日本に必要な「マーケティング4.0」とは何か | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

 

すなわち、コトラー氏によれば、マーケティングはすでに4.0を語るべき段階に来ているという。

 

残念なことに、日本企業の経営者の多くは、コトラー氏が嘆く通り、マーケティング1.0の段階の止まっているとしか思えないし、どんなに良くても2.0を少し理解できている程度といったところだろう。今だに製品中心主義が抜けていない。そういう意味では、かつて製造業で成功し過ぎた日本企業の多くは、いまだにマインドの深い部分が切り替わっていないと言えるのかもしれない。

 

 

◾️ ビジネスモデルの危機:フェイクニュースの蔓延

 

もう一つ、AMNの活動の逆風は、昨今の『ポスト真実』『フェイクニュース』の風潮だ。米国大統領選挙に関連して、米国では間違った情報が場合によっては意図的に織り込まれた、いわゆるフェイクニュースの拡散が非常に大きな問題になって、フェイクニュース拡散の一翼を図らずも担うことになった、GoogleFacebookにも対処が迫られている。日本でも、情報の不正確さや制作体制について各所で問題視されて閉鎖に追い込まれた、医療・ヘルスケア情報のキュレーションメディア『WELQ(ウェルク)』(DeNAが運営に関わっていた) のケースなど、この風潮を代表する一例と言える。

 

WELQ』は、先に述べた花王『ピカ☆ママ コミュニティ』等とはまさに対局の存在であり、情報を見に来るユーザーの利益は二の次で、情報が不正確でもとにかくキャッチーなタイトルと目新しさや表面的な面白さで沢山人を集めて、バナー広告等の広告宣伝収入を上げることだけを目的として運営されていた。しかも、一人『WELQ』だけの問題ではなく、情報が不正確でも、他者のパクリでも、感情に訴えて人を集めることだけを目的とするようなビジネスモデルが日本で成立して見えるところが問題で、同種のサイトが現在でも大量に存在する。こんなことでは、市場の一般人は企業のオウンドメディアも、SNSから流れてくる情報も信用できなくなり、離れてしまう恐れがあるし、現実に今そのような兆しがある。『WELQ』については、 AMNの徳力氏も、ほとんど悲鳴のような記事を寄稿していたが、それはそうだろう。自社が渾身で取り組むビジネスモデルの危機につながりかねない大事件だからだ。(あまりに感情的になって書いた記事は、その趣旨を誤解されて批判も受けているようだが・・)。

 

 

◾️ マーケティングの進化が日本を救う?

 

このように、日本においては、正直現在のところ強い逆風にさらされているように見える『アンバサダー・マーケティング』だが、逆に言えば、逆風が吹く現状の原因こそ、日本企業停滞の真因とも言えるものであり、そこのところを徹底的に分析して、対処策を検討してみる必要がありそうだ。『アンバサダー・マーケティング』のようなマーケティング手法が日本企業に浸透することは、日本のマーケティングを1.0から上位シフトさせることにつながり、それは取り組んだ企業に繁栄をもたらすだけではなく、企業活動を浄化し、社会に信頼感の重要性を再認識させ、その結果として経済全般としても活性化することができる可能性を秘めている。少なくとも私はそう考えている。だから、AMNに限らず、マーケティングの新しい地平を開くべく取り組む人達にはこれからも注目し、応援もしていきたいと思う。

*1:

 

顧客視点の企業戦略: アンバサダープログラム的思考

顧客視点の企業戦略: アンバサダープログラム的思考

 

 

*2:

 

アンバサダー・マーケティング

アンバサダー・マーケティング

 

 

*3:

pikamama.community.kao.com