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人工知能の理解の仕方はそれでいいのか?


用語は広まったが誤解も多い人工知能の理解


昨今では、『人工知能』『AI 』という専門用語が巷にあふれるようになった。比較的早い段階から注目していた私としては感慨深いものがあるが、一方で、さほどの理解もなく誰もが口にするようになった現状には少々食用気味だし、違和感を感じることも多くなってきた。


もちろん、人工知能が今後の世界に最もインパクトを及ぼす技術の一つであることは確かで、単なる技術というより社会現象として(場合によっては思想として)世界をあまねく多い、変えていくことは間違いないので、これを正しく理解しておくことが不可避であることは、誰よりも私自身が主張してきたことでもある。


だが、この技術、そもそも正しく理解すること自体が非常に難しい。なにせ、専門家の間でも必ずしも見解は一致せず、新しい情報が加わったり、過去の情報を上書き修正したりといったことがひっきりなしに起こる。現段階で絶対的に正しい解はないというのが『正しい』答えというべきだろう。ただ、だからこそ、常に『正しそうな』『確からしい』見通しを持ち続けることに意図して継続的に取り組まないと、すぐにとんでもない誤解や極論、忌避論等に誘導されてしまって、ビジネスとして適切に利用することも、個人として備えておくことも覚束なくなってしまいかねない。



過剰な期待が暗転しかねない


特に、理解が追いつかないうちに過剰な期待ばかり盛り上がると、何らかの事故やトラブルが起きた途端に、今度はネガティブな方向に過剰反応して、社会全体が拒絶反応を示すようなことにもなりかねない。すでにそういう兆候は濃厚に見られる。社会に有益な技術に成長する可能性も大きいのに、打ち捨てられたまま日の出を見ずに終わる技術というのは、史上、枚挙にいとまがない。(そもそも人工知能自身、過去2度ブームがあったがいずれもさしたる成果を上げないままにブームは収束してしまった。)


誰よりも早く今回のブーム(第三次人工知能ブーム)の予兆を見通して、先んじて著書や記事を通じて有益な見識を述べてきた、KDDI総研リサーチフェローの小林雅一氏も、昨今の期待過剰について、警鐘を鳴らしている。私も小林氏の危惧はもっともだと思う。


「AIバブル」への警鐘---今の人工知能に出来る事と出来ない事の見極めが事業化への鍵となる(小林 雅一) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
グーグル「自動運転車」の思わぬ落とし穴〜最大の障害は"ヒト"だった!?(小林 雅一) | 現代ビジネス | 講談社(2/2)



パラダイム・チェンジの一環としての人工知能


しかしながら、最近それ以上に苛立ちを感じてしまうのは、陳腐化して時代遅れになってしまっている自分たちの組織やビジネスモデルはそのままに、人工知能という新技術を、さもそれが魔法の万能薬のように見做す物言いがものすごく多いことだ。それを飲みさえすれば、自分たちも復活できるというような安易な姿勢が見え隠れする。そんなことでは(そんな理解では)、本格的に人工知能の利用が進むようなフェーズになれば、企業としては市場から退場を迫られ、個人としてはどこにも採用してもらえないような残念な人材に成り果ててしまうだろう。


自分の胸に手を当ててみて思い当たるところがあるのなら、先ず、人工知能単体に注目するのではなくて、昨今起きてきているデジタル技術革命全体を見渡し、それがビジネスや社会全般に及ぼしつつあるインパクトやパラダイム・チェンジについて把握する努力をしておくべきだろう。



パダライムチェンジの理解が必要


そういう意味では、人工知能の権威で、シンギュラリティ(技術的特異点)を論じて大きな議論を巻き起こしている、グーグルのレイ・カーツワイルも設立に関わった、シンギュラリティ大学による、『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法 ビジネスを指数関数的に急成長させる』*1はおすすめだ。今起きてきているビジネスの根本的なパラダイムチェンジについて、気づきを得るきっかけとなるはずだ。


本書は、ビジネスの世界ではいま、『飛躍型企業』という新種の組織が登場していて、少人数で短期間に指数関数的な急成長を実現し(わずか数年で時価総額10億ドルを超える等)、その企業が現れた市場における旧来の企業はいかに優良企業/大企業であっても、あっというまに駆逐されたり、苦境に追いやられてしまうという。『飛躍型企業』の例として、ウーバー*2テスラモーターズ*3、エアビーアンドビー*4等があり、駆逐されたかつての優良企業の例に、ノキア*5イリジウム*6コダック*7等の名があげられている。この企業が駆使するのが、グループウェアデータマイニング、合成生物学、そして、ロボットや人工知能という『飛躍型技術』ということになる。


デジタル化は『飛躍型企業』への入り口


『飛躍型企業』のいくつかの特徴の中でも、入り口として最も重要な変化の第一歩は『デジタル化』だ。本書は、デジタルカメラの登場で市場から退場を余儀なくされた、旧来のカメラフィルムメーカーのジャイアント、イーストマン・コダックの例を引いた後に次のように述べる。

ここで挙げた例からは、非常に重要な教訓を導き出せるだろう。それは、事業環境のデジタル化が起こると、これまでの状況は根底から崩れ去り、新なチャンスが生まれるという点だ。
 こうした破壊的な変化が、世界経済で何千と起きている。そのたびに、物質ではなく情報がビジネスを規定するようになるという、根本的な変がが生まれているのだ。そしてあらゆる破壊的変化の中心では、情報の役割が大きく変わる。半導体チップが画像の取り込み、表示、蓄積、制御といった役割を追うようになり、インターネットが物流や小売の世界を一変させ、ソーシャルネットワークグループウェアが人々の関係を再構成しようとしている。こうした事態はすべて、私たちが情報を基盤としたパラダイムへと進んでいることを示すものだ。

『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法 ビジネスを指数関数的に急成長させる』より


デジタル化が起きたビジネス領域(カメラ等)では、集積回路上のトランジスタ数は『18か月(=1.5年)ごとに倍になる』といういわゆる『ムーアの法則』の恩恵を受けるようになり、そうなると、将来を直線的にしかイメージできない旧来の企業とは発展のスピードが根本的に違ってくる(幾何級数的な発展)。だから中には数年で時価総額10億ドル突破、というようなことも起こる。しかも、物流や小売は物理的な制約を受けず、世界のどこであろうと瞬時にカバーできるようになる。ソーシャルメディアの圧倒的な『動員力』や『拡散力』の恩恵を得ることも可能となる。そして何より、デジタル化という基礎ができれば、コンピュータに処理させ、画像認識、人工知能、ソーシャルテクノロジー、画像加工/編集、機械学習データマイニング等の『飛躍型技術』を利用することができるようになる。


このように、旧来型の企業やビジネスに、人工知能のような技術を棒つなぎするイメージではなく、デジタル情報化というベースができて、『飛躍型企業』としての要素が整った所に、人工知能がさらに梃子(レバレッジ)となるのが、人工知能が最も威力を発揮するシーンのイメージだ。人工知能の今後の発展を語るなら、この順序と道筋を間違えてはいけない。



既存のほとんどの企業は破滅する運命


この文脈を前提とすると、IoT(モノのインターネット)、ー モノからデジタル情報を発信させてインターネットでつなぐ仕組み ー が社会に与えるインパクトがいかに大きいかわかるだろう。まさに、これで『物質のデジタル情報化』が大きく進むことになる。また、昨今これも話題になることの多い、『インダストリー4.0』*8も、ただ生産現場をIT化するだけではなく、生産工程およびその前後工程(部品・資源調達〜販売)を含めたデジタル情報化が進むところがミソだ。もちろん、デジタル情報化した後の運営の巧拙はあろうが、少なくともここに『飛躍型企業』が参入する余地を大きく広げることになることは確かだ。


このことのインパクトの大きさはいくら強調してもしきれない。『Angel Investing』(
未邦訳)の著者デビッド・S・ローズは、『20世紀に成功するよう設計された企業(ほとんどの日本企業が該当する)は、21世紀には破滅する運命にある』と語っているというが、その見識は正鵠を得ているように私には思える。



過大評価も過小評価も問題


自動運転車のように、社会の法律や倫理観、政治等で雁字搦めで、IT 企業の十八番である『走りながら考える』というスタイルに社会の反発も強い領域では、人工知能の過大評価は禁物で、実現に相応の時間はかかると考えておくべきだと思うが、その一方で『飛躍型企業』の台頭の状況を見ていると、人工知能の企業や社会へのインパクトについて、むしろ無理解と過少評価が過ぎるのではないかとも思えてくる。人工知能のような『飛躍型技術』は、わずかな理解の違いが、極端な差となって出てしまうことを知っておく必要がある。厳密に『正しい』理解は無理でも、『正しそうな』理解へ至るべく継続的な情報収集/分析を続けることは企業にとっても一個人としても、不可欠であることをあらためて強調しておきたい。