貴重な先行事例となることが期待される日本のゲーム産業

国際大学GLOCOMの公開コロキアムに参加してきたので、簡単に感想を述べておきたい。ソーシャル・ゲームだけではなく、日本のゲーム市場の最新状況全般を短時間におさらいするのに、ちょうどよいイベントだった。今後、何を注目しておけばよいのか、頭を整理することもできたようにも思う。
「ソーシャルゲームの真実 -歴史・ビジネスモデル・国際競争-」【公開コロキウム】 | 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

<開催概要>


1. タイトル:

ソーシャルゲームの真実 ー歴史・ビジネスモデル・国際競争ー


2. 開催趣旨:

ゲーム産業は、インターネット広告費を超える1兆円以上の巨大な市場規模を形成するに至っており、さらに成長を続けています。国際大学GLOCOMでは、2012年より「ゲーム産業研究会」を発足し、産官と連携しながらゲーム産業研究を行っております。このたびその成果として、書籍『ソーシャルゲームのビジネスモデル:フリーミアムの経済分析』を出版すると同時に、公開コロキウムを開催することとなりました。


3. 後援:

一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)


4. プログラム


(1)開会の挨拶:庄司昌彦国際大学GLOCOM准教授/主任研究員)

(2)講演「オンラインゲーム産業の変遷〜オンラインゲームとイノベーション〜」
   川口洋司(日本オンラインゲーム協会事務局長)

(3)講演「ソーシャルゲームにおける先行者利益はいかにして破られたか」
   井上明人関西大学総合情報学部特任准教授)

(4)講演「これからのビジネスモデルとしてのソーシャルゲーム
   田中辰雄(慶応義塾大学経済学部准教授)

(5)講演「ソーシャルゲームの国際競争力と政策的支援」
   山口真一(国際大学GLOCOM助教/専任研究員)

(6)パネルディスカッション「ゲーム産業のこれから」

<感想/概観>


変化のスピードの早いゲーム市場


今回、ソーシャルゲームをタイトルに取り上げたイベントに出るにあたり、最近自分がソーシャルゲームだけでなく、ゲーム全般をどのように認識しているのか自問してみた。正直なところ、自分でも意外なほど直近の状況を把握できていなかったことに気づく。もちろん、人並み程度にはニュース記事はフォローしている自負はある。だが、考えてみるとそのニュース記事自体、一時期に比べると激減しているのが実情だろう。いつのまにか、与えられるだけではなく自分から情報を見つけに行かないと、最新状況を把握することが難しくなっている。世間の注目度が下がるとともに、自分の関心もそれなりに離れていたことに、あらためて気づくことになった。相変わらず、スピードの早いゲーム市場にキャッチアップするには、ほんの少しの間であれ油断できないということなのか。



輝かしい日本のゲーム会社の歴史


2000年代のゲーム市場は日本のゲームメーカーが華々しく闊歩し、それこそ、バブル崩壊以降長期低落傾向にあった日本経済にとって、牽引役とまで言わないまでも、次世代を担う新星として輝いていた。中でも、長らく日本のゲーム市場のリーダーでありながら、一度はプレーステーションを擁するソニーに覇権を奪われたものの、携帯ゲーム機のDSや、家族皆で遊べるWiiなどでゲーム市場に新しい風を吹き込んで盛り返した任天堂など、ピーク時の株価時価総額は10兆円を突破し(2007年)、トヨタ三菱UFJ・ファイナンシャルグループに次ぐ第3位にまで躍り出た。


この後、任天堂ソニーの提供するゲームとはまったく別のコンセプトながら、GreeDeNAの提供するソーシャルゲームが大きなプレゼンスを誇るようになり、Greeの株価もソフト企業としては異例とも言える高値をつけて、2011年のピーク時の時価総額は6500億円を上回った。同時期に、違った意味で注目を浴びたのは、DeNA横浜ベイスターズの買収だ。世界市場への進出も盛んに喧伝され始めた時期でもある。いずれにしても一挙手一投足が注目を浴びて、それこそニュースは日々GreeDeNAの名で溢れていた。



アップルとGoogleのプラットフォーム支配


ところが、ふと気付いてみるといつの間にか任天堂は黒字を計上することもままならなくなってしまっているし、Greeなども昔日の栄光はもはや見る影もない。時価総額も、ピーク時の1/3にも満たない。しかも、起死回生を期す次の一手も見えてこない。では、そうなった原因は何かといえば、何と言ってもスマホの急激な普及とそれに伴う、スマホのOSを牛耳るアップルとGoogleの二大プラットフォーム支配の拡大の影響が大きい。


任天堂に限らず、ゲームコンソール主な収益源だったメーカーは軒並み収益減を余儀なくされているし、GreeDeNAなど、独自のプラットフォームを持ち、ユーザー行動を逐次分析し、機敏に修正してユーザー満足度の持続的維持向上をはかること(データの分析力)が優位性となっていたのが、スマホにプラットフォームを奪われてしまうとその自由度は大幅に制限されてしまう。しかも、30%ものマージンをアップルやGoogleに抜かれてしまうのだからたまったものではない。


この市場も、私も自分のブログでもさんざん指摘してきた、米国主要IT企業のプラットフォーム奪取の影響の事例の一つに成ってしまったようだ。日本製の携帯電話も、デジタルカメラも、カーナビも次々にこの波に飲まれていった。ゲームコンソールも同列に甚大な影響を受けることは想定の範囲内ではあった。だが、Greeのように、独自のプラットフォームを持って、Youtubeに対するニコニコ動画がそうであるように、米国主要IT企業のプラットフォームの圧力に屈しない日本企業の好例となる可能性があることをその時には指摘したのだが、残念ながら生き残ることはできても、主役にはなれなかったようだ。


もっともそのような条件下でも、彗星のように出てきていまだにロングランを続けている、パズル&ドラゴンのようなゲームを擁して、GreeDeNAをも収益で抜き去るガンホーのような会社も台頭してきている。このガンホーは、Gree等のソーシャルゲームの勝利条件、すなわち、『データの分析力の優位性(ABテスト等の活用)』ではなく、UIデザインを含めたゲーム全体のデザインを作り込む方向にシフトしている。プラットフォーム競争で負けてもアプリにより高収益を上げる会社が台頭してきており、マネタイズに秀でた日本企業のプレゼンスは失われてはいないようだ。



ハイコンテキストを強みに


現状のアップル&Googleのプラットフォームが支配するゲーム市場については、日本オンラインゲーム協会の川口氏は『オンラインゲームの第5のイノベーションと定義していて、全世界共通のプラットフォーム上でゲームが提供されるようになり、そういう意味で世界共通市場が成立したと述べる。確かに、日本でも大ヒットするような海外メークの作品が出てきている(フィンランドSupercell社のクラッシュ・オブ・クラン、ヘイ・デイ等)。しかしながら、日本市場のトップテンのほとんどはいまだに日本のゲームメーカーの作品が占めている。国際大学GLOCOMの山口氏が言うように、ゲームの成否はその国の文化との関わりが大きい、というのはたぶん本当だ。日本市場の特性/コンテキストを理解している日本のゲーム会社の作品のほうが(少なくとも今のところは)日本人ユーザーには受け入れらているように見える。


これも、ゲームに限らず、日本のようなハイコンテキストな社会/市場では特に、いかに海外市場でヒットしたものでも、日本にそのまま持ち込んで成功するとは限らない。日本市場が『ハイコンテキスト』であることは、アップルやGoogle等の米国主要IT企業に日本企業が対抗できる重要な競争優位条件であることから、サイクルの早いゲーム市場で起きてくる競争は先行指標として他の産業も参考にできると考えられる。(ただ、そんな日本企業は、他国の顧客解析能力とマーケティング能力は米国企業より劣っていて海外市場にシームレスに移行することは苦手だという。)



正念場


ただ、日本のゲーム産業の正念場は問題はこれからだ。パネルディスカッションでも異口同音に出てきたように、昨今はゲームの開発費が高騰する一方で、出してみなければ売れるかどうかわからないギャンブル性は相変わらずだから、勢い、同じタイトルの続き物(ドラクエファイナルファンタジー等)ばかりになり、新しいタイトル、会社、作り手の参入を阻み、結果、ゲーム市場全体がユーザーから飽きられてしまうのではないかという危惧がある。だが、お金や手間をかけないでも、『面白さ』を引き出せる可能性があることこそ、ゲームの持つ最大の可能性と魅力とも言えるわけで、関係者の奮闘を期待したいところだ。



ビジネスモデルとしてのソーシャルゲーム


加えて、慶応大学の田中氏が指摘するように、ビジネスモデルとしてのソーシャルゲームクラウド化、フリーミアムネットワーク外部性の活用等)は、高速ネットワークの偏在化とデジタル化、そしてモバイルの普及の進展に伴って急拡大したが、今後はさらに一層、デジタル化、インターネット化は実空間を飲み込んで急拡大していくことが確実であり、すべての業界を巻き込んで進展していくと見られる。そういう意味ではこのビジネスモデル自体の裾野も急拡大することが見込まれる。ゲーム業界内で見ても、オキュラスリフト*1キネクト*2等、空間、身体性に関わるテクノロジーの利用も進んで来ているし、ネットに繋がって人間の挙動や振る舞いや考え方の特徴を学んで進化し、人間との対話も可能な人工知能を備えたロボットも続々と市場に投入されてくるだろう。ゲームのフィールドや応用が可能な範囲は拡大する一方と言える。そう考えれば、ゲームのメカニズムを社会活用する『ゲーミフィケーション』についても、可能性は無限大とも言え、どんな第二幕、第三幕が開くのか今から非常に楽しみだ。


日本のゲーム会社の健闘を心から応援したいのはもちろんだが、新しいアイデアや新しいビジネスモデル等がどんどん出てくる活性化した『モデル市場』『先行指標』としての興味も尽きない。この公開コロキアムに参加して、ゲーム市場、ゲームビジネス、そして、個々のゲームにも注意をそらさないで注目し続けようと覚悟を新たにさせられた。