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日本人の本音を知らなければ改革などできはしない

                                         

日本人とは何か


日本があらゆる意味で行き詰まっていること、非常に大きな過渡期にあることはもはや誰の目にも明らかと言えるが、肝心な現状分析や対応策の方は、百花騒乱のわりにはなかなかこれと言った決め手がない。少なくとも『これぞ解決策』と胸のつかえが取れるようなものがなかなか見つからない(私が不勉強だけなのかもしれないが・・)。


そう言う私も、『日本人とは何か』というテーマの探求には昔から興味があり、様々な本を読んだり、人と議論を重ねてきた。また、実際の社会の中で身をもって体験して学んで来たことも少なくないため、今ではそれなりに自分の意見もあり、そこそこに自負もあったりする。だが、昨今、様々な機会を通じて露出する日本人の意識等に触れるにつけ、うまく説明しきれない状況が出てきていると感じることが増えてきていた。そして、この違和感の正体につき、今一歩解明できないでいた。


ところが、何気なく手にとった、経済小説作家の橘玲氏の『かっこ日本人』*1の解説の中に、私の考え方の隙を埋めるような内容をたくさん見つけることができて大変参考になった。おかげで私の頭にかかっていた霧が少し晴れた気がした。



衝撃的な日本人の回答



この本の冒頭で紹介されている、『世界価値観調査』*2の2005年の全82問の中で、日本人が他の国々と比べて大きく異なっている項目の3つとして紹介されている内容は、橘氏の説明にもある通り、衝撃的だ。(質問の本文は若干簡略化させていただいた)

戦争になったらあなたは進んでわが国のためにたたかいますか? 日本人:15.1% 最下位


あなたは日本人であることに誇りを感じますか? 日本人:57.4% 香港につぐ最下位から2番目


権威や権力がより尊重されるのはよいことですか? 日本人:3.2% 最下位(80.3%が悪いことと回答)


『昨今の日本は若年層を中心に右傾化が進み、国土が美しく平和な日本を誇りに思い、会社等の自らが所属する組織に誠心誠意忠誠を尽くす。』

世代による差は大きいとしても、これがほぼ平均的な日本人の自己イメージと思ってきたが、どうやらそれは私の思い込みだったようだ。表面的にはそのように見えたとしても、日本人の本音はかなりかけ離れたところにあると考えざるをえない。



空気の支配


評論家の山本七平の分析で、日本人論として誰にも知られるようになった、日本社会における『空気』の支配による日本人の行動の説明は非常にわかりやすい。『空気』が流れをつくった『場』では、いかに不本意であれ、いかに不合理であっても、日本人は唯々諾々とその『空気』に従う。(唯々諾々:自分の意見を少しも主張せずに、他人の言いなりになって盲従する様。 事の良し悪しに関わらず、ただ人の意見に従って言いなりになること。 )


米国との開戦の是非を問う御前会議では『空気』に従って開戦を全会一致で決めながら、戦後になって、会議の参加者は、異口同音に、実は自分は実は勝てないと思っていた、と答えたというエピソードがこの『空気支配』の典型例として語られることは多いが、同様のケースを日本人なら多かれ少なかれ自分の身の回りの出来事を通じて実感しているはずだ。


この『空気による支配』を前提として、三番目の質問の回答をあらためて見てみると、日本人の大半は自分が所属している学校、会社、国家等に、一見黙って従っているが、ほとんどの人は面従腹背で本音ではこんなものの権威は誰も信じていない、ということになる。では、その日本人の本音とは何なのか。



日本人の本音


橘氏は、アメリカの政治学者のロナルド・イングルハートの大規模なアンケート調査に基づく各国民の価値観の比較検討の研究を引用して、日本人の価値感や意識等を探ろうとしている。詳しい分析は本書を参照してもらうとして、そこから日本人の特性を見ると、『世俗 - 合理的価値』が際立って高く、『自己表現価値』が相対的に低く、アメリカやヨーロッパ諸国や中国・韓国と比べても、日本人は伝統的な価値観を重視していない。(伝統的価値観と言えば、日本人は無宗教とはいいながら、お盆の墓参りに見られるように、先祖崇拝等の風習はそれなりに残り、葬式仏教と揶揄されながらも、葬儀はそれなりに重視されてきたし、そう簡単には廃れないのではと思ってきたが、実際には、一旦地縁が薄くなると、葬儀も簡略化され、形骸化してきている。)また、これらの国と比較しても、家族や友人の期待に反しても自分の人生の目標は自分で決めようとする傾向があり、最も(欧米人と比較しても)『個人主義的』な生き方をしているのは日本人だという。


実際、日本人の未婚率は非常に高くなってきていて、生涯未婚率も2010年の生涯未婚率は男性が20.14%、女性は10.61%になった。*3同時に一人暮らしが増えた、というより当たり前になった。結婚しても『単身赴任』による一人暮らしも相変わらず多い。だが、これは外国人には理解不能なのだという。彼らは家族を『分割できないひとつの単位』と考え、都市生活者でも『一人で暮らす』という発想はないという。それに比べると日本人は一人でいることをむしろ求めているようにさえ見る。橘氏『日本人はもともと一人が好きで、誰からも束縛されたくないと思っている』という。


つまり、日本人は昔から、『極端に世俗的で実利にこだわり、誰からも束縛されず、束縛されるくらいなら一人でいるのを好む』というわけだ。だから武士も、明治以降に組織された軍隊の軍人も、昭和の企業戦士も、ある意味この日本人の特徴(すぐに組織の束縛を逃れて安易な方向に流されていく)という日本人の性格をよくわかっていて、そうならないように、実利で釣りつつ、非常に厳しく統制してきた、ということになりそうだ。そう言えば、坂口安吾の『堕落論*4に同種の指摘があったことを今更ながらに思い出した。



それなら合点がいく


様々な理由はあるにせよ、昨今の日本では、この統制が緩みつつあり、最後に残った『会社』の統制も崩壊しようとしている。いわば、日本人の本音がむき出しとなる環境がそろいつつある、とも言えるのではないか。『オタク文化』、『モラトリアム』、『子供化』、『引きこもり』等々、皆この文脈で考えると合点がいくことが多い。少なくとも、このような性格を考慮しないで組成された組織や法律等は短期的にはともかく、中長期的には機能しないと考えておくべきだろう。


例えば、今の日本『無縁社会』が社会問題化している。故郷を離れて地縁を失い、会社という『場』を失って、家族もなく一人で住む日本人は増えている。そんな人達が中高齢化すると病気になっても誰にも気づかれず、死んでから何日も経って発見されるようなこになりかねないから大変な問題だ。私の周囲にもそういう感じの一人暮らしはすごく増えている。だが、彼らから漂ってくるのは時に、『穏やかな諦念』というか、一種の気楽さというか、そんな状況を何としても抜け出したいという必死さをあまり感じないケースが大変多い。私もこれにはずっと違和感を感じていたのだが、もしかすると本人達が意識しないままに、『一人でいる気楽さ』を享受している可能性があるのではないか。これでは他国での事例や処方箋に頼っていても拉致があかないのも無理はない。似たようなケースはまだ沢山あるように思えてくる。


社会の大変動はこれからが本番だ。様々な改革案も出てくるだろう。だが、建前の背後にある日本人の本音を考慮することなしには、何も進まない。そう肝に銘じておく必要があると思う。