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日本にも真の成功事例がある/『アンバサダー・サミット2014』

去る2月5日(水)に開催された、アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)株式会社主催の『アンバサダー・サミット2014』に参加してきた。(クローズドな招待制で、資料も公開禁止の部分も多かったので、具体例の紹介は最小限にして、主に感想を書いておく。)


イベント概要は以下の通り。

日時

2014年2月5日(水)13:00〜19:30(開場12:30)


会場

ベルサール九段


規模

150〜200名(招待制)


主催
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社

アンバサダーサミット2014|Agile Media Network

開催主旨から見えて来る現状の姿


この『アンバサダー・サミット2014』は、前年まで『ソーシャルメディアサミット』としてオープンで開催されていたサミットの後継とされていて、本年はソーシャルメディアマーケティングの中でも昨今特に注目されているキーコンセプトの一つである、『アンバサダー』(ブランドや企業についてその提供する価値に共感し、自主的かつ積極的にクチコミをしてくれるファン)に特化し、しかも、クローズドな招待制で行われた。


AMNは昨年、特に『アンバサダー』に注力していたこともあり、『ソーシャルメディア』全般から『アンバサダー』に特化したサミットを開催するのは自然な移行とも言える。


今回の招待者は一部特別枠を除けば、主として名の知れた上場企業/大企業の広報・宣伝担当者および責任者で、実務の現場にいるメンバーがほとんどのようだ。そして、そんな参加者にAMNが提示したテーマは、ある意味、日本における『ソーシャルメディアマーケティング』の実情を雄弁に物語る内容だったと言える。

ソーシャルメディアやアンバサダーのクチコミの価値をどうやって測るべきか


継続したユーザーリレーションによるビジネス貢献価値を証明


日本の大企業で、アンバサダー・マーケティング実施のための予算を申請しても、大抵、『それで売上げはどれだけ増えるんだ』と上層部や経営幹部からそっけなく聞かれてしまうことが多いことを示唆している。これはまだ実績と蓄積に乏しい新手法であるアンバサダー・マーケティングにとっては(ソーシャルメディアマーケティング全般について言えることでもあるが)実に嫌らしい質問だ。ほとんどの企業にとって、効果測定の仕組みの構築自体、現在進行形だからだ。


日本でアンバサダー・マーケティングの手法を根付かせようとする宣伝会社のAMNにとっては、予算規模の大きな企業に積極的に採用して欲しい。アンバサダー・マーケティングを含む、ソーシャルメディアマーケティングの有効性に気づいた大企業の宣伝担当は、何とか上層部・経営幹部にこれを理解させたい。だから、今回のサミット参加メンバーのような、比較的クローズドなサークル内では、効果測定の仕組みや、分析ノウハウ、上層部の説得の仕方等をできるかぎり共有したいというニーズがある。従って、今回の『アンバサダー・サミット2014』のこの形式での開催は必然だったと言える。


AMNの社長である徳力氏(何と3月1日付けで社長を降板するらしい!)*1も、『米国が羨ましい』とポロッと本年を吐露していたが、多くの日本企業の経営幹部の後進性/スピードの遅さによる停滞、経営幹部と若年層の認識ギャップが典型的に現れているように見えて、そういう点でも興味深かった。



『アンバサダー』の定義へのこだわり


その点、幸か不幸か、現在のところマーケッティングの実務を担当していない私は、多少距離をおいた立場に身を置ける。だから、今回のAMNの問題設定がどうであれ、私自身のサミットでの注目点は初めから次の2点だった。

・日本に純粋な意味での(米国で定義されるような意味で)
 アンバサダーはいるのか(作れるのか)


・日本で(米国と全く同じである必要はないが)本当の意味で
 成功しているアンバサダー・マーケティングの実例はあるのか


AMNが日本での出版を支援した関連図書、『アンバサダー・マーケティング*2より『アンバサダー』の定義をあらためて見てみると、おおよそ次のように書かれている。

あなたの商品の魅力をアピールし、見込み客を紹介し、ブランドの良さを語り、批判者から守ってくれる存在でありながら、見返りもポイントも、クーポンもキャッシュバックも求めずに、あなたの商品の魅力を広めてくれる存在


徳力氏も自らのブログで、本書の著者が定義する、本物のアンバサダーとそうではない存在の違いについて言及している。(もっとも徳力氏は、米国と日本の事情の違いから、そのまま日本に純粋な概念を持ち込むことは難しいとの立場のようだ。)

インフルエンサーは注目を集めるのは得意だが、必ずしも売上に貢献するとは限らない。アンバサダーがオススメすれば売上に直結する」「アンバサダーに報酬を払わない」「カネや無料サンプルを渡さなければ動いてくれないような顧客は、本物のアンバサダーではない。傭兵である。」

[徳力] アンバサダー・マーケティング(ロブ・フュジェッタ)を読むと、釣った魚にエサをやらない従来のマーケティング手法は、すごいモッタイナイと感じられると思います。


今回のサミットでのプレゼンテーションやパネルディスカッションを拝見している中でも、インフルエンサー』と『アンバサダー』が混同されているケース、アンバサダーにポイントや無料サンプルを渡すようなケースが散見された(アンバサダーは見返りを求めない)。それ自体が悪いというわけではないが、『アンバサダー』という存在が(本当に存在するなら)持つ独特のパワーが弱められたり、場合によっては、傭兵扱いされることに嫌気がさして、アンバサダーであることを止めてしまうリスクもあるだろう。また、最悪のケースでは、ユーザーから『ステルスマーケティング』と批判されて炎上してしまうこともありえる。


せっかくサミットを関係者間の共有の場とするなら、現実がなかなか追いつかないかもしれないにせよ、イデア』『オリジナル・コンセプト』としての『アンバサダー像』はクリアーにし続けたほうが良いのではないかと、多少感じる部分があった。



そもそも『アンバサダー』はいるのか?


ただ、確かにこの『アンバサダー』の定義は、企業にとって都合が良過ぎるように見える。だから、そんな『アンバサダー』など日本にいるのか、育てることなどできるのか、という意見が多出する。すぐに匿名のしつこい批判者だらけになって炎上してしまうのが日本のネットの事情なので、アンバサダー・マーケティングどころかソーシャルメディアを使う宣伝は企業にとってメリットよりデメリットが大きいとさえ言う人も少なくない。


では、結局日本には『アンバサダー』はおらず『アンバサダー・マーケティング』も難しいのだろうか。


幸い、そうではないことを、今回のサミットに参加して感じることができた。個々にも興味深い事例紹介が沢山あったが、総括的な取り組みとしては、花王が群を抜いて優れた取り組みをしていて、しかも、『アンバサダー』の発見と育成に成功しつつあるようだ。



必要条件と十分条件


以前、『アンバサダー・マーケティング』の書評*3を書いた時にも引用したが、本書に、『アンバサダー』ができる企業の特徴がまとめてある。

1 ”ヤバいぐらい最高の製品 ー ”ヤバいぐらい最高(insanely great)は故スティーブ・ジョブズの名言の一つだ。ありきたりの商品やサービスを熱心におススメする人などまずいないだろう。(中略)


2 記憶に残るサービス ー 同じような商品やサービスがあふれている今日、サービスは強力な差別化要因となる。百貨店のノードストローム、靴のネット販売のザッポス、フォーシーズンズ/ホテルは類を見ないサービスを提供することで、多数のアンバサダーを生み出した。


3 ”良い利益”を得る努力をする ー 顧客ロイヤリティの権威であるフレッド・ライクヘルドは、”良い利益”と“悪い利益”を説明している。悪い利益とは、例えば詐欺のような価格設定、顧客サービスのカット、隠れた費用を顧客に押し付けることで得た利益のことだ。


4 コストが増えても正しいことをする ー 余計な費用がかからなければ、企業は進んで正しいことをしようとする。だが、正しいことをするとコスト増につながる場合は、安易な道を選ぶ企業が多い。しかし、たとえばレモン一個の返品を認めるとコストが増えるとしても、認めたほうがいい。それによって批判社を作ってしまうよりはるかにましだ。(中略)


5 社会的良心を持つ(持っていなければ早いうちに身につけよう) ー 社会的良心のある企業やブランドのほうが、おススメされる可能性は高い。ナイキは労働者を低賃金で働かせていたことが明らかになったため、アンバサダーに見放されてしまった。社会的問題に対して良心的な立場を取ったり、コミュニティに利益を還元したりしよう。

 『アンバサダー・マーケティング』より


総じて言えば、アンバサダーを生むのは、『最高の製品やサービスを提供する会社』か、『社会的に公正で良心のある会社』か、できればその両方である会社、ということになる。だが、今回の事例を拝見しながらあらためて考えてみると、この条件は必要条件ではあっても、十分条件ではない、という気がしてくる。



コミュニケーションと企業からの情報発信


製品やサービスの良さを認めて、ネットに発信(クチコミ)してくれるユーザーは今日では多くなってきているが、『批判者から守ってくれる存在』となると、よほど企業とユーザーが密なコミュニケーションを繰りかえして理解し合っていなければ、ユーザーがそのような存在になることは考えにくい。その点、花王は、世に先んじて、赤ちゃんを抱えるお母さんをターゲットにしたクローズドコミュニティである『GO GO pika★pika MAMA』*4*5を運営してきて、ユーザーとの強い関係/絆づくりに成功してきている。だから、ユーザーが製品を他のユーザーにすすめる時の熱量が高く、また、普段から、会社のほうからも、有用な情報や、自社の製品の提供する価値について大量に発信してきているため、ユーザーの側も語るべき『言葉』が豊富だ。だからまた他のユーザーを巻き込むパワーがあるように思える。


以前、Twitterの軟式アカウント(企業の公式アカウントなのに、心配になるくらいに、ノリが軽くてゆるいアカウント。Twitterではしばしこのほうが人気がでる)*6で、一時的に人気が盛り上がり、売上げにも貢献して注目される事例が相次いで話題になったものだが、その一方、一度は人気が出ても、ちょっとしたことで口をすべらして大炎上し、ネガティブなイメージを拡散して収拾がつかなくなってしまうケースもまた相次いだ。


ソーシャルメディア・マーケッティングはリスクが大きい』との認識を保守的な企業幹部に刷り込んだ事例とも言えよう。生兵法は大けがのもと、という意味では確かにあたっているとも言える。可燃性が高く、時に低コストで爆発的な効果を生む一方、ネガティブに振れた時のリスクもまた想定できないほど大きくなる恐れがあるのが、『ソーシャルメディアマーケティング』だからだ。そういう意味でも、花王の地道な取り組みが指し示す『十分条件』の意味は非常に重いと私は思う。



批判者から守ってくれる存在


花王は昨年4月から(製品ではなく)会社のフェイスブックページを開設している。*7製品には『ネットの批判者から守ってくれる存在』が出来たが、会社名については、そのような存在がなく、ネットでの会社名は無色透明であることに危機感を感じたのが原因だという。昨今、つまらないことからネットで大炎上して疲弊してしまう会社も少なくない中、大変な自信だ。やはり長年の実績のなせる技ということだろうか。

ちなみに、花王は、アンバサダー・マーケティングが実際の売上げにつながったことを証明する分析手法も確立しているようだ。非公開なのでここでは書けないが、その一部と思われる事例紹介があった。これも早い段階からの全社的な、地道な取り組みによる実績があればこそだろう。


米国と日本の事情は違うが、逆に日本のハイコンテキストなコミュニティ・カルチャーを研究しつくすことで、日本らしい『アンバサダー』が育成できる可能性があるのかもしれない。そして、ネガティブな炎上だらけのネット空間で、身を守る術にもなる可能性がある。特にこの点は、もう一度じっくり考えてみたい。


前回、「アンバサダー・マーケティング』の書評を書いた時には、未解決の問題が沢山残った気がしていたが、今回各社の具体的な取り組み事例を拝見することで、疑問の幾つかは氷解し、理解も大きく進んだ。私を招待枠に入れていただいた、AMNにあらためて感謝したい。