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全産業が四天王(Google/Apple/Facebook/Amazon)に支配される未来

『流行り言葉』と企業経営者


インターネットにまつわる『流行り言葉』というのは、賞味期限がものすごく短い。言葉そのものが残ったとしても、意味するところがみるみる変化してしまって、当初意味していたはずのものとは、似ても似つかないものになってしまうケースも少なくない。あるいは、その言葉に踊らされた割には、自らのビジネスとの具体的な接点を見つけられないどころか、悪くすると怪しげなサービスを担ぐ有象無象やコンサル等に振り回されてしまう、というようなこともよく目にする光景と言える。


ゼロ年代の後半以降で言えば、Web2.0』『クラウド』『ビッグデータあたりが該当しそうだ。『ビッグデータ』については、まだ比較的新しいこともあり、技術に疎い経営者やビジネスマンを振り回している最中かもしれない。『これからはビッグデータの時代だ。わが社でもビッグデータを活用してビジネスを活性化するよう常々部下に指示している』というような、言葉の意味もわからずに部下の尻をたたく経営者や上司に辟易したことはないだろうか。そういう経営者に限って、『あれは結局たいして意味がないことが初めからわかっていたし、もう古い。今は「 〜」だ!』と、しばらくすると新しいスローガンに飛びつき、また部下を困らせる。


一見真面目なタイプの中には、『如何にビッグデータが利用し易くなったとはいっても、自分たちの本業とは所詮関係ないこと。そんなことに飛びつくスタンドプレーなど以ての外。そんな軽佻浮薄なカタカナ言葉に惑わされず、日々コスト削減と業務改善にコツコツ取り組むべきだ』というような職人肌の経営者も、特に日本の製造業等には沢山残っていそうだ。地道で手堅いとも言えるが、昨今では激変する経営環境についていけず、会社を泥沼のジリ貧に追い込んでしまうような残念なケースが大変多い。


技術に疎い会社だけの話ではない。IT系の、本来こういう流行語が流布する現象の本質を理解して、機敏に動いて厳しい競争に勝ち抜くことが求められているはずの経営者やビジネスマンでも、大差ない例はものすごく多い。そういう人達はしばしば、訳知り顔でこのように宣う。『そんなことは、GoogleAppleのような特別な会社が取り組むことで自分たちの本業とは関係ない』。



GoogleApple等の影響は全産業におよぶ


だが、本当にそうだろうか。そんな、GoogleAppleは極短い間に、スマートフォンのビジネスを2分する巨人として、携帯電話事業の従来の参加者達を牛耳る存在となり、ついて来れない携帯電話メーカーは続々と脱落していった。これは携帯電話だけの範囲ではすまないということは、さすがに昨今では多少なりとも知れ渡っては来た。『携帯音楽プレーヤー』『ゲーム専用機』『デジタルカメラ』から、最近では『カーナビゲーション』にいたるまで、周辺の電気製品を次々に蹴散らしていった(蹴散らして行きつつある)。電気製品だけではない。『新聞』『雑誌』『書籍』『テレビ』等のソフトの部分でも業界が受けた影響は甚大だ。これらは皆、煎じ詰めて言えば、GoolgeやApple等にしてやられた、と言っても過言ではないはずだ。 


そんな、GoogleApple、さらには同種の勝ち組である、AmazonFacebook等を含めて、彼らにとっては、『Web2.0』『クラウド』『ビッグデータ』は、意味は多少変わっても、彼らの活動の根幹をなす、非常に重要なキーコンセプトであることは今も変わりない一個一個の製品を作り上げる前に、まず彼らが重視したのは、『ユーザーベース』のエコシステムを構築することだった。そうしているうちに『事の本質を理解している者』と『理解していない者』の差はもはや取り戻すことが不可能なほど決定的に開いてしまった。


電気製品とその周辺まで到達すれば、巨人達の影響はおさまるのだろうか? 残念ながら、そうではない。それどころか、むしろこれからが本番というべきだろう。結論から先に言えば、次のような領域がその対象としてはっきりと見えて来ている。

自動車
 車載用インフォテインメントシステム*1
 衝突回避等の自動車の安全装置
 自動運転車


医療:医療システム/医療ロボット
 治療法の割り出し
 個々の患者のケアー


介護ロボットを含む介護システム


危険作業を行うロボット
 原発事故等への対応
 災害救助


インフラ
 スマートグリッド
 スマートシティ
 スマートハウス 

農業

軍事用ロボット

・・・

ビッグデータで進化するAI(人工知能


いくらでもすそ野が広がって行きそうな勢いだ。しかも、高齢化/人口減少の影響が深刻となる日本にとって、どれも重要な産業分野ばかりがずらりと並ぶ。これほど産業の全般に広がると考えられるのはどうしてなのか。実はこれらの中核にあるのはいずれもAI(Artificial Intelligence、人工知能)だからだ。今後、どの産業分野であれ、AIおよびそれを応用したロボット等により、スマート化/インテリジェント化が進み、ステージを大巾に上げて進化していくことがすでに当然視されているからだ。そして、今後、AIが付加価値の源泉として非常に大きな役割を果たす事になり、それは、すでに世界を激変させた『インターネット革命』以上のインパクトを社会全般に及ぼす可能性がある、ということだ。


だが、ここまでお話しても、まだ聞こえて来そうなのは、『Googleはお金と人材が有り余っているから、どんどん思いついたことをやって、活動領域を広げていけるんだろう、なんてうらやましい』とか、あるいは、『自動車とか、ロボットとかは日本が世界に誇れる強さを持った分野なのだから、如何にGoogleのエンジニアが優秀でも簡単に負けてしまうことはないはずだ』というような楽観的な見解だったりする。


だが、そうではない。現状のままではGoogleを始めとする米国の巨人(特に、四天王と言われる、GoogleAppleAmazonFacebook、加えてマイクロソフトIBM等も入れていいかもしれない)が、AI研究/利用の頂点に立ち、産業全域にわたって支配範囲を広げて行く(既存の日本のプレーヤーは駆逐されるか支配される)可能性が高いと言わざるを得ない。少なくとも私にはそう見える。では、それは何故なのか。


非常に端的に言えば、『Web2.0』『クラウド』『ビッグデータ』等と現代のAIが密接な関係にあり、これらの基盤がしっかりしていることが重要な競争条件だからだ。つまり、お金のある企業がいきなりAIの技術だけ買い漁ってもそれだけではこの競争に勝ち抜くことはできない、ということだ。



AIとビッグデータは一蓮托生


ビッグデータのその中味は、『構造化データ』と『非構造化』データに大別される。
『構造化データ』とは企業の顧客情報、経理データや販売データ、在庫データ等、汎用のデータベースに簡単に格納して、データベースとして管理できるデータのことを言う。これに対して、『非構造化データ』とは、データベースにおさまらない、電子メールやテキストファイルなどの文書や、画像、動画といったデータのことを言う。


現代ではこの非構造化データが急増し、企業の持つデータの約80%は、非構造化データと言われる。さらには、Web2.0以降のソーシャル・メディア等の興隆で、この非構造化データが爆発的に増えて来ている。この複雑化し巨大なボリュームになったデータをビッグデータと呼ぶわけだ。


ところが、このビッグデータ、分析は一筋縄では行かない。テキスト・マイニングの作業を実施するための自然言語処理技術が必須だし、写真や動画を解析するためには、『画像解析技術』が必要だ。昨今では、音声認識技術』も必須だろう。これらは皆、AIの分野として研究されてきた技術ということになる。



現代のAIの主流


一口にAIと言っても、現在、主要な3つの学派があるという。(この辺りの事情は、KDDI総研リサーチフェローである小林雅一氏の著書『クラウドからAIへ*2』に詳しい。)


現在のAI研究の3つの学派


1. ルール・ベースのAI


2. ルールは無視し、大量のデータをコンピュータに読み込ませ、
  それによって統計的、確率的なアプローチから
  知的処理を行うAI。


3. ニューラル・ネットワークの一種のディープ・ラーニング
 (人間の頭脳を構成する無数の神経細胞のメカニズムを、
  従来よりも正確に模倣した新種のニューラルネットワーク技術)
 *3  *4
   

 

ルール・ベースのAIは、文法や構文木*5のようなルールをコンピューターに教え込み、それによって知的処理を行うものだが、これは柔軟性に乏しく、実用化には向かないと考えられて来ている。よって、実際の主流は、2と3ということになる。


2および3とも『大量のデータをコンピュータに読み込ませたることによって、AI自体の能力/精度を上げていく』というところがミソだ。大量のデータが発生し、それを蓄積する安価なストレージがあり、データを処理するCPU能力も大巾に向上した昨今であってこそ、2および3のAIの理論は実践することができるようになったのだという(極最近の話だ)。そして、AIが人間に近い処理や判断ができほど精度が上がれば上がるほど、それを応用したサービスは付加価値の高いサービスとしてユーザーを誘因する理由になり、そしてまた増えたユーザーのデータによってAIは進化する。すなわち、ここに非常に強力な『円環的な自動進化システム』が出来上がることになる。



円環的な自動進化システム


この成長エンジンを会社の中核に位置づけて成長している代表例は、言うまでもなくGoogleだ。使い易い検索エンジンサービスを提供して、それを多くの人が使えば使うほど、バックヤードのAIは進化して、その検索エンジンは使い易くなる。使い易ければ益々使う人も増える。Google検索エンジンだけではなく、GmailGoogle Docs等を通じて、大量の『非構造化データ』を入手している。そして、そんなGoogleの『頭脳』は、他を圧して賢くなって行く。


もちろん、Googleだけではない。スマートフォンのOSではGoogleと市場を二分するAppleのSiri(音声認識/バーチャルアシスタントサービス)も最新のAI理論に基づいて構築されているし(ディープ・ラーニングが導入されている)、Facebookも『グラフ検索』*6というAIに基づく仕組みをすでに提供し始めている。当のGoogleも『セマンティック検索』*7という検索サービスの進化系を投入済みだ。


見方を変えると、パソコンからスマホへの転換が急速に進む中、AIに利用によって、スマホが吐き出す大量のデータ(AIの餌)を自社に引き込むべく、ゲートウエーを争っているとも言える現代のAIを進化させるには、天才が理論を研究するだけではなく、大量のデータ(餌)がいる。だから、各社ともこの競争から脱落するわけにはいかない。AI研究という点でも余念がないが、餌のほうの仕込みも手を抜けない。パソコンではほぼGoogleがこの『円環的な自動進化システム』の頂点に立ったと言ってよさそうだが、まだモバイルの争いは決着がついてはいない。



自動車会社はGoogleの傘下に?


2014年の年初には、GoogleAndroid端末と自動車の連係や自動車自体をAndroid端末化することを目指す団体(Open Automotive Alliance:OAA)を立ち上げたとの報道が飛び込んで来た。*8一方、Appleは、昨年6月にリリースしたiOS7に、自動車のダッシュボードでiOSが使える「iOS in the Car」を搭載した(ナビゲーション、通話、音楽再生などをSiriを通じて利用できるようにするサービス)。*9


ここまで述べて来たお話の延長で言えば、自動車の情報ゲートウエーの争いがとうとう本格的に始まったと見ることができる。しかも、Googleは自動運転車を2017年に市場投入すると宣言し、2013年8月の段階で、公道での走行距離が30万マイル(約48万km)を超え、準備万端と伝えられる。今のままでは、自動車の情報ゲートウエーにも、心臓部/頭脳にもすべてGoogleの支配が及ぶようになる


これらの動向には、当然既存の自動車会社も大変な危機感を持っているわけだが、日本の自動車会社がこの強力な『円環的な自動進化システム』に対抗できるとはどうしても考えられない。だから、携帯電話で起こった既存の会社の悲劇の歴史が繰り返されるのではないかと、私など背筋が凍る思いがする。そして、同様の現象が非常に幅広く産業全般を覆い尽くす未来が現実のものとなろうとしている。


この巨人達とがっぷり四つは無理でも、どの会社であれ、この現象の本質を理解し、自らの会社のポジショニングを真剣に再考しないとヤバい、という日本の会社の側に立つ私の危機感はご理解いただけただろうか。



巨人のアキレス腱


では、この強力な『円環的な自動進化システム』を押し進める、GoogleAppleにそれでも弱点はないのだろうか。あえて言えば、やはりソーシャル・ネットワークにアキレス腱があるAppleなど特に顕著で、音楽系SNSである『ピング』など、ユーザーに見向きもされずに閉鎖されたのは記憶に新しい。GoogleもGoole+でやっと一矢報いた感じではあるが、特に日本ではお世辞にも流行っているとは言えない。(まあ、それでも、鳴かず飛ばずだった『Google Buzz』『Google Wave』等に比べればはるかにましではある。)Googleのシュミット会長も、次のように失敗を率直に認めている。

ソーシャルネットワークについては、「ソーシャルネットワークの興隆を予期できなかったのは私の最大の失敗だが、Googleは二度とこのような失敗はしない」とし、「もっと早期にこの分野に参入しておくべきだった。私はこの問題の責任を取る」と語った。同社は2010年2月に「Google Buzz」を発表したがプライバシー問題などもあって普及させることができず、その後2011年6月に発表した「Google+」の拡大に注力している。

Googleのシュミット会長、2014年を語る - ITmedia ニュース


このソーシャル・ネットワークの部分は、四天王のうちFacebookの一人勝ちなのだが、そのFacebookも10代のユーザーが、LINEや動画共有サービスの動画共有の新スタイルSnapchat等に大挙して移行して、困惑しているというレポートもある。*10


ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)は、複雑な人の心理に関わるサービスだけに、まだ開拓の余地が十分にあるだけではなく、既存のサービスに対抗し、追い越していくことにも可能性がある。Web2..0以降、ちょっとしたアイデアがあたれば、あっという間に数十万〜数百万人のユーザーを獲得する事例も珍しくないことを私達は目の当たりにしてきた。大量のユーザーを獲得したサービスは、その時点でまだ収益化されていなくとも、投資家の資金提供を受けることも容易だ。しかも、四天王始め、Yahoo!マイクロソフト等に至まで、様々な会社が高値で買いに来る(皆、『餌』にはどん欲だ)


だから、今のシリコンバレーベンチャーの新サービスの大半は、何らかの形で、ソーシャルがらみだ。大手に売却せずとも、巨大なユーザーベースを持つサービスを持てば、その後のビジネスの展開はずっと楽になる。既存の(大手の)日本企業も、『良い部品供給者を目指す』というようなジリ貧の道にすぐに逃げ込むのではなく、もっと真剣にこの『巨人のアキレス腱』を分析してみてはどうだろうか。


ずいぶん長くなってしまったが、このテーマ、まだ書いておきたいことが沢山ある。次回以降にあらためて、取り組んでみたいと思う。