ブロガーの将来は明るい?/ブロガーサミット2013

ブロガーサミット2013


8月24日(土)、ブロガーとしても著名な、徳力基彦氏が社長をつとめるアジャイルメディア・ネットワーク(株)主催で行われた、『ブロガーサミット2013』に参加してきた。開催概要は下記の通り。

日時
2013年8月24日(土) 12時半開場 13時開始〜19時終了予定(その後懇親会21時終了予定)
会場
ベルサール渋谷ファースト 2階
会場規模
1000名規模を予定
会費
ブログ等の情報発信をされている方は無料(※現在ブログ読者の方々も無料でご招待しております)
主催
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社

http://agilemedia.jp/blogger/


概況


口の悪い人の中には、『徳力氏個人のノスタルジー・イベント』とか、『先んじてブログで名前を売ったおじさん・おばさんたちの昔自慢』とかいって皮肉る人もあるが、1000人規模の参加者を迎える動員力はさすがだ。昨今やや影が薄い観のある『ブロガー』というコンセプトへの吸引力も思ったほど衰えていないとも言える。


会場に詰めかけたブロガーを一望すると、『発展途上のブロガー志望』という感じの人が多かった印象で、成功を手にした諸先輩から、少しでも自分が使えるヒントを見つけて帰りたいという意欲が表に現れている。その希望はある程度かなえられたと思うが、その点だけで言えば、徳力氏が事前の自分のエントリーで書いていた、『ブログを書くメリット』の範囲にほぼ収まっていたから、自分には、発言者のリアリティーを感じることは有意義だったとはいえ、それほど目新しい見解を見つけることができたとは思わない。

なぜ、私たちはブログを書くのにわざわざ貴重な時間を使うのかという問いを、ブログ10周年の今年だからこそ改めて考えたい


だが、日本で主要なブログサービスが始まって10年という節目に開催するイベント、というだけあって、パネラーのほうも、ブログ登場以前を知り、ブログ開始10年を語れる生き証人ともいうべきメンバーが何人も登場したため、全体を通して、『日本ブログ発展史』とでも言うべきストーリーが透けて見えて来て、大変面白かった。そして、今後を展望するための『参考点』を得ることができた。



始まりはブログから


(株)paperboy&coの吉田健吾氏は、技術的に言えば、ブログは、『パーマリンク』が最大の特徴で、このおかげで普通の人でも構造化したサイトをつくれるようになった意義は大きい、という。私も本当にそう思う。これによって、検索エンジンに個人の記事がひっかかり安くなり、記事を蓄積すればするほど、その効果にレバレッジがかかる。個人の発言がネットに溢れるようになるきっかけになった。


個人が自由に発信し、それが他者から見つけられ易くなり、他者との交流が始まり、コミュニケーションが活性化され、拡大した言論/コミュニケーションが、社会の仕組みや既存のビジネスに影響を与えその構造を変えていく。 その最初のきっかけはやはりブログだ。



ビッグバンは続いている


そして、社会におよぶインパクトが個人への反応として帰ってくるから、個人のモチベーションも活性化し、ますます個人が発信するようになる。このプラスのスパイラル構造は、この10年の間に拡大につぐ拡大を重ねた。そのプロセスをさらに活性化する仕組みとして、TwitterFacebookのようなSNSが出て来てコミュニケーションをより円滑にしたり、FlickrInstagramのような写真、Youtubeのような動画投稿サービスにより、文章表現だけではできない自己表現の方法が加わったりしたが、この全体をブログのコンセプトの延長と考えれば、爆発的な進化発展はまだ続いているといっていい。初期のブログという形式だけに注目すれば、縮小したような印象もあるが、ブログがきっかけになって起こった『ビッグバン』自体は、まだ収束する気配はない



崩壊寸前の既存ビジネスの構造


一方で、『ブログだけで収益化して稼ぐことは無理』、『マスメディアの記者を凌駕することはできないでいる』、『既存のメディアを駆逐したわけではない』、等『ブログで期待したことは淡い夢に終わった』、『結局その程度のもの』というような発言もあった。確かに、そう感じている人は結構多いのが現実かもしれない。ただ、それは既存の広告ビジネス、マスメディア等の枠組みをそのままに対置して、そこを単純に乗り越えるのは難しいという意味ではその通りなのだが、既存のビジネスの構造そのものがこの10年の間に劇的に変化してしまったため、もう旧来の評価軸をそのまま使うわけにはいかないし、少なくとも将来像を予測する手掛かりにはならない。


そもそも、既存のビジネスは、『個人が自由に発言し、個々人が従来とはまったく違う仕組みで多層的に繋がり、その巨大な影響が社会構造を変えてしまうような環境』を前提にはつくられていない。


黙って真面目に友達もつくらずに勉強していい大学に入り、大企業に入り、社内でしか人との繋がりを持たない。だが、それでも、そこで黙々と頑張っていれば、右肩上がりの終身雇用のレールに乗って、身分も収入も上がる。情報も統制されたマスコミ情報のみ。そんな中では、個人の社会への発信力、多数の他者との繋がりなど無用の長物だ。だが、この構造はもう首の皮一枚で繋がっているだけで、いわば大崩壊寸前といってもいい。



崩壊後の最重要スキル


では、いざ崩壊が来たら、生き残るために最も必要な基礎スキルって何だろう。他者に対する自己表現力、そして、コミュニケーションスキルこそ、他の何をおいても重要なスキル、ということになるのは確実だ。


カリスマブロガーのいしたにまさき氏は、ブログは『素振り』だという。文系の強みはテキスト表現しかない。本当に必要になってからでは遅いのであって、ブログのような場で『素振り』をして鍛えておくべきだ、という。この発言、私にはとても意味深に聞こえた。 カリスマブロガーにとってさえ、この10年間は、旧来のビジネス社会という巨大な存在を一方において、その対抗、その隙間、そことの関係等を意識せざるをえなかったはずだ。ブロガーの論理が通じるフィールドは限られている。だが、これからの10年は、その巨大な存在が崩壊し、個人が社会に放り出されていく。そんな時代に備えた『素振り』となると、重要さの桁が違ってくる。そして、間違いなく最高の『素振り』はブログだ。


手垢のついた言葉なので、あまり使いたくはないのだが、まさに『パーソナルブランディング』は、冗談ではなく、誰もが生きていく上で、必要不可欠になると私は思う。ブログやってても儲からないし、会社の上司に見つかるとやめろといわれる? そんなことを言っている場合だろうか? よく考えてみた方がいい。既存のビジネス社会をさんざん体験した私だからこそそう思う。



変わるビジネス・スキル


実際、既存のビジネスのうち、今最も大きな影響を被って、従来の構造から抜け出ようと呻吟しているのが『マーケティングだ。昔は企業がつくったもの(例えば電化製品)をテレビや新聞等で企業が一方的に宣伝していれば、いくらでも売れた。いまはどうだろう。ネットで評判が悪ければ、決して売れない。誰もが口コミ情報を企業の情報より信頼している。だから、今、企業のマーケターは『発信者』を相手にせざるをえない。その『発信者』の頂点にいるのがブロガーだ。マーケターは『発信者/ブロガー』に如何に有意義な発言してもらい、情報を教えてもらい、企業との信頼関係を築いてもらうか、そのスキルこそ今のマーケターの優劣を決める最重要ファクターになりつつある


今回のサミットでは、ブロガーがちょっと何らかの商品のことを発言しただけで(そんなことはないのに)、すぐに『ステマステルスマーケティング』と言われて困る、というような発言があったが(『はあちゅう主義』の伊藤春香氏等)、これはいわば、如何に企業とブロガーを中心とした発信者の関係が濃くなりつつあるか、という実態を象徴しているように私には聞こえた。発信者との関係が拙劣だと消費者に突っ込まれてしまうし、悪くすると炎上してしまう。つまりこの発信者との関係の持ち方もまたマーケターの重要なスキルになっていることを意味している。


だから、あえてこう断言しておこう。『ブロガーの将来は明るく、ブログに習熟する企業の将来もまた明るい』



個別の印象的な発言


ここまで書いてみて、今回のパネラーの個別のアイデアや教訓にはまったく得るところがなかったとの印象をもたれそうな気がしてきたが、もちろんそんなことはない。それはちゃんと申し上げておかないとパネラーに失礼だろう。印象的な発言に私なりの解釈をつけて、以下列記しておく。ご参考にしていただきたい。

リアルな読者に会ってみるべき(新野淳一氏/ITジャーナリスト)= ブログで出来た読者やコミュニティーを直に知ることは大事


いろんな新しいことに手を出すのは大事(津田大介氏/メディア・アクティビスト) = 本人の自己表現や人との繋がりをより促進してくれる相性の良いツールに出会える可能性が広がる(津田氏の場合はTwitter


TwitterFacebookに書いたこともブログに残しておくべき(関信浩氏/シックス・アパート(株)) = 情報をストックしておくことで自分も後で確認できるし他者が発見してれるきっかけが広がる


レシピブログ等、特化したブログで夢をかなえる人が増えている(栗飯原理咲氏/アイランド(株)) =個人を訴求するより、案件を中心に訴求する方が注目されやすい


写真投稿サイトにコーヒーの写真を載せていたらコーヒーの本を出版する話が来た(松村太郎氏/ジャーナリスト)=自分でも気づかなかったことを他人が掘り起こしてくれることもある


何か書いて反応があるのは必ずしも今ではない(いしたにまさき氏/ブロガー)= ブログで蓄積しておけば誰かに後で届くということもある


<ご参考>

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