2012年10大ニュース/もう世界に絶対はない


とても難しいニュースの選択と評価


ブログを書き始めてから、年末になると毎年考えていたことがある。一年を振り返る『10大ニュース』について記事を書いてみたい、ということだ。昨年末、やっとその年の総括について書いたのだが、この年は、東日本大震災という空前絶後の大事件があっただけに、震災関連一色になってしまった感じだった。それに比べれば2012年は、少なくとも表面的には『普通の年』と言っていいだろう。あらためて、少し落ち着いて、10大ニュースのピックアップと評価に挑戦してみようと思う。


ところが、いざ始めて見ると結構大変だ。なかなか10大ニュースを選定することが難しい。そもそもどんな基準で10のニュースを選ぶのか。他の人の記事を参照してみると、読者に投票させてその数で順位を決めたり、座談会のような形で議論して決めたり、カテゴリーを狭く絞り込んでニュースどうしの重要度が比較しやすいようにしたり(科学10大ニュース、地域の10大ニュースという類い)、あらためて他の人が如何に苦心しているがかわかる。さらには、その選定した10のニュースを総括して、その年をどのような年と評価するのか、という段になると、これはもう神業の域といっていい。


しかたがない。自分は自分だ。私が2012年に起きた出来事をあらためてチェックして、全体としてどんなことがいえるのか、それを説明するのにどの10のニュースを選ぶのがいいのか、独断と偏見で挑戦してみよう。師走の戯言とご笑覧いただきたい。



私の選んだ10大ニュース


2月 ホイットニー・ヒューストン急死


世界的な歌姫として一世を風靡したホイットニー・ヒューストンが急死というニュースは、米国だけではなく世界中を驚かせ、悲嘆させた。このインパクトが非常に強かった一つの証拠として、2012年のGoogleの急上昇検索キーワード1位には『ホイットニー・ヒューストン』がランクされた。死因は薬物の過剰摂取といわれている。確かに、1992年のボビー・ブラウンと結婚以降、ホイットニーの周辺にはあまり明るい話題がなくなってきた印象があった。とはいえ、あれほどの栄光の中にあって輝いていた彼女が、これほどの悲惨な死を遂げるとは、胸に迫るものがある。常連だったグラミー賞の発表前日の訃報だったというのも何かの因縁を感じる。『栄光と奈落』、あるいは、『盛者必衰』、そんな言葉がよぎった。



2月 家電メーカーが壊滅的な業績悪化


このころ、大手家電メーカー各社は、2011年度第3四半期の決算予想を大幅に下方修正して、パナソニックソニー、シャープ3社合計の通期の最終損益見込みは、およそ1兆3000億円弱の赤字という目を疑うような悲惨な状況にあることがわかってきた。その後、リストラ等の効果もあって、多少なりとも回復が見込めるとの報道もあったが、結局、2012年度の業績予想も繰り返し下方修正され、11月には3大格付け機関の一角、フィッチレーティングスは、パナソニックソニー共、『投機的格付け』に格下げしてしまった。世界に冠たる日本の家電メーカーの時代は完全に終焉していることが誰の目にも明らかになった。



3月 「ブリタニカ百科事典」が書籍版刊行の打切り発表


ブリタニカ百科事典と言えば、240年を超える歴史を誇る由緒正しい百科事典の王様だが、Wikipediaのようなユーザー投稿百科事典という、以前ならおよそ想像もつかなかったようなライバルの登場もあって、販売は不振をかこっていたが、とうとう書籍版の打ち切りが発表された。 10月には「タイム」誌に続く、米国を代表するニュース雑誌である、『ニューズウィーク』誌も12月をもって紙媒体を廃止することを発表した。両者とも電子媒体として延命ははかられるものの、紙媒体が主役であった時代の終焉を象徴するニュースだった。



4月  『15 歳未満の子どもの数が過去最低の 1,665 万人,総人口に占める割合 13.0%(31 年連続で減少).各国の子どもの割合の中でも最低』を総務省が発表


これもすでに十分予想されていたことだが、少子高齢化は極限まで進んでいて、日本は、各国比較でも子供の割合が最低、という国になってしまっている。もはや従来の社会体制や仕組みがそのまま延命することはありえない



5月 Facebookナスダック上場と株価急落


Facebookのナスダック上場がとうとう実現して、初値はGoogleを上回り、IT企業として過去最高を実現した(初値42ドル)。ところが、その直後から株価は急落し、9月には終値ベースで17.7ドルの最安値を記録し、初値の4割まで落ち込んでしまった。そのことは、Facebookが市場のPCからスマートフォンへの移行に際して、モバイル広告での収益確保に苦戦していること、米国では会員が増えなくなっていること等、わかっていても、期待感が打ち消していた様々な問題を表面化させた。まさに、秘密のベールがはがれ、Facebookマジックの魔法が解けたといえる。昨年の今頃、Googleを超えて、インターネットサービスの頂点に立つのはFacebookと持ち上げられたのがうそのようだ。もちろん、このままFacebookが衰退していくというような極論をいうつもりはないが、IT業界に絶対はないことをあらためて見せつけられた格好だ。



9月「LINE」の会員数、全世界で6000万を突破 国内は2800万人に
NHN Japanが9月10日、「LINE」の登録ユーザー数が9月8日時点で6000万を超えたと発表した。


通信キャリアの垣根を越えて利用できるグループコミュニケーションアプリであるLINEが、サービス提供開始(2011年6月)からわずか15ヶ月ほどで、全世界で6000万人、国内では2800万人という驚くべき会員数を獲得していることを発表した。(2012年11月30日時点で、世界230以上の国や地域で使用され、登録ユーザー数8,000万人、国内ユーザー数は3,600万人に増えている。)提供は、NHNJapan(韓国に本社があるNHNの日本法人)で、ほぼ日本人のスタッフで企画・運営されている。米国のサービス=ユニバーサル、アジアのサービス=ローカル、という先入観を覆す健闘ぶりに、ネットサービス提供者/利用者の枠を超えて大きな話題になった。


同時に、SNSサービスとして、どんどん友人を知らない人まで広げて行くタイプのFacebookと正反対の、近くて濃い関係の少数者との頻繁な接触を重視するSNSが、今後一方の旗頭として広がって行く可能性を予感させた。



9月 中国各地の反日デモ


日本政府による尖閣諸島の国有化に抗議する中国の反日デモは、当初の予想を大きく超えて広がり、トヨタやホンダの販売店やパナソニックの電子部品工場、総合スーパーのイオンなどの日系企業が相次ぎ襲われる事態にエスカレートした。経済的な躍進が様々な矛盾や問題を覆い尽くしているといわれてきた中国では、経済成長を阻害する要因(日本との有効な関係を崩す行為等)を政府がそのまま放置することは考えにくく、『政権交代期のデモンストレーション』、『反日を借りた、国内不満分子への「はけ口」の提供』等いわばガス抜きが反日デモの主な目的/理由なので、基本的には過激化することは考えにくく、短期的に終息するとの楽観的な観測もあったが、その期待は裏切られ、デモの一部は暴徒化し、略奪や破壊が繰り返された。さすがに今では騒動は一段落したとはいえ、一部に不買運動が継続している等、反日感情は払拭されていない印象だ。その証拠に日本企業は続々と脱中国、ASEAN等へのリスク分散を始めた。正直、今後の趨勢は大変読みにくいが、少なくともこの数年横行した、俗流中国楽観論に冷や水を浴びせたのは確かだ。



9月 アップルiOS6の悲惨な地図


アップルは、iPhone5とそれに引き続いて、iOS6を発表した。iPhone5の評価は概ね良好で、プロダクトとしての完成度は高く、発売後3日間で販売台数500万を突破した。ところが、今回からそれまでデフォルトであったGoogle Mapsを追い出して提供された、アップルの自家製の地図を見て、世界は唖然とした。酷いというレベルを超えて、あまりのことにもう笑うしかないような地図になってる。『大王製紙空港』『パチンコガンダム駅』『マクドナルド駅』、などという謎の空港や駅の登場、グニャグニャの橋やビル、雲がかかったり白黒の航空写真など、例をあげればきりがない。冗談ですめばいいが、オーストラリアでは、この地図をナビに使ったドライバーが次々に砂漠の真ん中に誘導されて、オーストラリアの警察はこの地図を使わないように呼びかけるというような騒ぎにもなった。iOSは史上初めて、バージョンアップしてユーザー評価が下がり、CEOのティム・クック氏は異例の謝罪を行い、地図の責任者だったリチャード・ウィリアムスン氏は解雇された。もっとも、すでにiOS6版のGoogleの地図アプリも発表されて、ユーザーは速やかにこれを使い始めたので、総合的な満足度はさほど下がらず、スティーブ・ジョブズ氏亡き後も連戦連勝の破竹の勢いを見せたアップルの『晴天の霹靂』ではあっても、座を賑やかした一時のトピックという扱いになってきている。


だが、本当にそうだろうか。アップルのような『プラットフォーム』の覇権争いをしている企業にとって、自前の地図アプリを持つ事の意味は大きい。それがわかっていればこそ、アップルは全力でGoogleの排除をはかったはずだった。アップルは音楽SNSPingでも失敗しているが、大量のデータの継続的な取り扱い、プロセッシング、コミュニティ・デザイン等、クラウドサービスの根幹に弱点があるのではないか。とすると、これはただの一時的な笑い話ではすまないかもしれない。アップルの覇権を揺るがす決定的な一因を垣間見た一大事件だったのではないか。



12月 衆議院選挙


ある程度結果は予想できたことだが、その予想を遥かに上回って民主党が惨敗し、自民党が大勝した。維新の会はこの勢いの中では善戦した方だと思うが、それでも、自民と民主の間に入ってキャスティングボードを握るという作戦は灰燼に帰した。小沢グループと合流した未来の党も壊滅的な惨敗だった。相手がこけた形で大勝を得た自民党も、何か失政をやらかせば、あっという間に政権を追われる構図になったことがはっきりした。



12月  マヤ暦が終焉を迎える「2012年人類滅亡」は起きなかった


米宗教団体が最近米国で実施した意識調査によると、自然災害や異常気象は世界が終末に差しかかっていることを示す前兆だとする回答は、全体の36%に上り、黙示録の予言通り、世界はいずれ終末を迎えると信じる人も15%もいるという。こういう背景もあってか、マヤ歴が終焉を迎える12月の21日で世界は滅亡する、という説を信じている米国民はものすごく多かった。『NASA(米航空宇宙局)が「滅亡の日」を否定』、という報道には、どうしてNASAがあえてこんなことを、と思った人も少なくなかったかもしれないが、この調査結果をみると納得できるのではないか。


この滅亡説は米国に限らず、世界中に驚くほど流布し、多大な影響を与えていた。中国では『滅亡の日』の流布を阻止するために1000人を拘束し、フランスの小さな山村ビュガラッシュ村では近くの山に宇宙人がUFOでやってきて救出してくれるという噂が広がり、世界中から避難者が殺到して軍隊まで出動する騒ぎになった。日本でこそ表立った騒ぎはなかったが、『皆で滅亡するならそれはそれでいいかも』というような投げやりな意見はかなり多かった。これは、世界に明るいワクワクするような未来を感じられないという意識が蔓延していることの現れではないかと、私個人的にはかなり前から注目していた動向だ。だが、滅亡はなかった。人々の意識の中で、満たされずに終わった一種の『滅亡願望』はどこに向かうのだろうか。



概観


もう世界に絶対はない。どんなに栄えても、どんなに有望でも何かのきっかけに反転してしまう。逆に、こんなことはありえないと思われていたことも、案外あっさりと実現することがある。2012年は、そんなメッセージを静かに伝えていた年だったのではないか。どんなものにも耐用年数はある。そして、古いものが退場しないと新しいものはやってこない。壊れたりなくなったものを嘆くより、新しいことを始めるチャンスが増えたのだと考えることができる人には、従来以上に豊穣な可能性が広がっている。そう思いながら、2012年を見送り、新しい年を迎えたいものだと思う。