夜に輝くモニュメント/プロジェクションマッピングの深淵な可能性
■東京駅リニューアルを記念したプロジェクションマッピングの映像ショー
先日、NHKエンタープライズの エグゼクティブプロデューサーである、横大路氏からご案内いただいて、東京駅の丸の内駅舎で、東京駅リニューアルを記念してプロジェクションマッピングの映像ショーがあるというので、出かけてみた。(9月22日)
http://www.jreast.co.jp/press/2012/20120906.pdf
これは、東京駅丸の内駅舎保存・復原工事の完成を祝して、「TOKYO STATION VISION -トウキョウステーションビジョン-」と銘打って行われたイベントである。ちょうど、下記の紹介記事が非常にコンパクトかつ的確にこのイベントの概要をまとめてあるので、ご参考として引用させていただく。
同イベントはJR東日本が主催し、企画・制作はNHKエンタープライズが手がける。今年のロンドンオリンピック開会式でも多用され、話題となった「プロジェクションマッピング」(建物の形状に合わせた映像をプロジェクターで投影し、特殊な視覚効果を生む映像表現技術)を用い、大正時代の創建当時の姿に蘇った東京駅丸の内駅舎をスクリーンに、壮大なスケールの高精細フルCG映像が繰り広げられる。スクリーンの幅120m、高さ30m、46台の超高輝度プロジェクターを使用するなど、国内史上最大規模の事例になるという。
9月22日(土)は、20時から10分間のショーが合計3回行われる予定だったが、駅前にあまりに多くの人が詰めかけて大混乱になったため、警察の判断で途中で中止になってしまった。幸い私は、20時から行われた1回分を見ることができた。(予定を繰り上げて、19時30分にも一度上映されたようだ。)非常に混雑した中、さほどいい場所から見れたわけではなかったが、それでも十分に魅力の一端を感じることはできた。たった10分間ではあったが、様々なテーマの画像が3Dの豊かな表現力を存分に生かして繰り出されて、そのテーマごとに、自分の中にある様々な思いの断片が共鳴して引き出され、自分の体が楽器のように共振するのを感じることができた。
TOKYO STATION VISION 東京駅プロジェクションマッピング - YouTube
東京駅プロジェクションマッピング TOKYO STATION VISION 【正面手持ち】 - YouTube
■プロジェクションマッピングの事例
恥ずかしながら、それまでこの『プロジェクションマッピング』という技術に詳しくなかったのだが、この機会に調べてみると、世界各国の様々なイベント等で利用されており、非常に注目が集まっていることを知ることになった。東京駅のショーを見ながら、他にどんなところに生かせるかに思いを巡らしていたが、自分の想像が及ぶような場所やイベントにはすでに実際に使われ始めているようである。ざっと以下のような感じだ。
<モニュメント/建築物 国内>
スカイツリー
プロジェクションマッピング~東京スカイツリー PROJECTION MAPPING~ - YouTube二条城
京の七夕2012 二条城プロジェクションマッピング - YouTube大阪市中央公会堂
http://www.youtube.com/watch?v=mKTFaab7G5o奈良国立博物館(ならファンタージア)
奈良倶楽部通信 part:II: 今年も「ならファンタージア」へ行ってきました*成蹊学園
【HD】成蹊学園 プロジェクションマッピング 2011/11/20 - YouTube
<モニュメント/建築物 海外>
コルコバードのキリスト像
Projeção do abraço do Cristo no Rio, de Fernando Salis 19/10/2010 - YouTubeチェコ・プラハの時計台
チェコ・プラハ時計台プロジェクションマッピング動画が凄いリバプールの博物館
壮大なプロジェクションマッピング Luminous Flux | andR アンドアール
<街全体での取り組み>
シドニー
» シドニーで行われた音楽と光の壮大なプロジェクションマッピング|トラベルハック|あなたの冒険を加速するベルギー Lichtfestival Gent 2012
LICHTFESTIVAL GENT 2012 - YouTube
<遊園地/テーマパーク>
ディズニーランド
The Magic The Memories and You HD
"Magic, Memories, and You!" projection show on Disney's Cinderella Castle premiere - YouTube長崎ハウステンボス
ハウステンボス3Dプロジェクションマッピング2012 - YouTube
<様々なアートとしての取り組み>
The Ice Book (HD).mp4 - YouTube
SCINTILLATION on Vimeo
The Icebook (HD) on Vimeo
Epic light show at home - YouTube
<ライブ>
Perfume
Perfumeライブの凄すぎるプロジェクション技術を推考(動画あり)(答え合わせ追記しました)|ギズモード・ジャパンももクロ
画像 : ももクロやPerfumeのライブでも話題!リアル×バーチャルの映像技術「プロジェクションマッピング」 - NAVER まとめ
<企業の宣伝物>
現代
Hyundai Accent 3D projection mapping - YouTubeトヨタ
Toyota Auris: 3D Projection Mapping On Car! | Digital Buzz Blog
■深淵な可能性
この技術は、Augmented Reality(拡張現実)関連技術の一つということになろうが、応用範囲は非常に広そうだ。その中でも、私が特に大きな可能性を感じるのは、やはり東京駅のケースのような都市空間での活用だ。夜間という制約はあるが、東京駅のような一建築物だけではなく、やりようによっては街全体をこの幻想的な映像で包み込むこともできる。しかも、眼鏡、スマートフォン等の特別なアイテムは不要で、子供から老人まで誰でも気軽に参加できる。ディズニーランドのように閉鎖空間を作ったり、かつての渋谷のように街全体を広告で埋め尽くすような大掛かりな資本投下をせずとも、日常生活の場でさえあっという間に非日常空間に変えてしまうことができる。
今回のイベントの東京駅の映像の中では、派手で極彩色の現実から遊離した映像もさることながら、実際の建物が少しだけ拡張された映像(窓が開いて見えたり、窓の奥にシルエットとして、大正時代のものと思われる装束に身を包んだ人々が歩いているように見える映像)に非常に強い感銘を受けた。東京駅という建物の持つ歴史の肌触りやその土地の持つ匂いたつような霊気が呼び覚まされたような気がして戦慄が走った。これこそ、プロジェクションマッピングという技術の最も深淵なポテンシャルといえるのではないか。
■先行事例としての東京タワー
私のこの体験がすぐに呼び覚ました連想は、『東京タワー』だった。といっても昼の東京タワーではない。ライトアップが注目をあびるようになった夜の東京タワーである。
かつては日本の技術力の自尊心の支柱ともなり、物質的成長を明るい近未来と楽観的に信じてひたすら高度成長を目指した日本の象徴であった東京タワーも、70年代のオイルショック以降、高度経済成長的マインドに陰りが差すようになると、いつしかその輝きを失い、観光名所どころか、『古臭く』『ダサい』モニュメントとなってしまった。私自身、地方から東京に出てきて、初めて東京タワーに登った時にも、かつての憧憬をみじんも感じない自分自身に驚いてしまったのを今でもよく覚えている。
■夜によみがえる東京タワー
ところが、この東京タワーも本格的な夜間のライトアップを機に、新たに生命力を吹き込まれることになる。このあたりの事情は、文筆家で編集者の中川大地氏の『東京スカイツリー論』*1に詳しい。(今回はスカイツリーについては触れない。ご容赦いただきたい。)中川氏によると、この『本格的なライトアップ』は、1989年の元旦からで、証明デザイナーの石井幹子氏のコーディネートによる夜間ラインアップなのだという。
のちに『ランドマークライト』と命名されたこの証明の力は、東京タワーを新たな色彩で”着色”し、東京の夜に浮かぶまったく別種のモニュメントとして再生させることになった。これにより、エッフェル塔に対する絶対的な欠点であった赤白の昼間障害標識というカラーリングの非芸術性は、かなりの程度克服され、むしろ美点にすら変わってしまったのである。 同掲書 P124
この東京タワーのライトアップは明らかにプロジェクションマッピングの先駆け/系譜にある。そして、このライトアップを機に、東京タワーは新たな役割を帯び始める。人々に『物語』を与える役割である。
テレビドラマや小説等の恋愛ドラマにおけるおしゃれでロマンティックな舞台装置として印象的に使われる
(『東京ラブストーリー』*2『東京タワー』*3等)
『東京タワーのライトアップが消える瞬間を一緒に見つめたカップルは永遠の幸せを手に入れる』といった『ライトダウン伝説』*4
病床から見える東京タワーが、死を身近に感じるようになった人々を慰安する実体験を描く小説
(『東京タワーが救いだった』『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』*5)
中川氏のあげる例に限らず、夜の東京タワーに関する様々な印象的な物語は他にも数多くの事例がある。私の記憶にもそのいくつかが強く鮮明に焼き付いている。
ライトアップ実施以後の平成の東京タワーは、日本全体でがむしゃらに『進歩』や『未来』を目指す昭和の『大きな物語』、いわば<昼の東京タワー>とは異なり、ひとまず食うには困らないだけの社会環境が整った中で、個々人の生老病死にまつわる『小さな物語』に寄り添う<夜の東京タワー>の表象性が確立されていったのである。同掲書P126
■歴史性
その結果、東京タワーはあらたな『歴史性』さえ帯び始めたという。
昭和期には未来に向かう<昼>の「進歩」一辺倒だった東京タワーは、平成に入って人間の普遍的な性や死に寄り添う、<夜>の面を獲得し、そこから昭和にあった進歩主義以外の社会条件をまなざし返す<夕方>を懐古するというかたちで『歴史』へのアプローチを始めている。それは、多くの風景が失われてしまった中で、皇居を除けば東京タワーだけが、戦後唯一変わらなかった国民的なランドマークだったからだ。 同掲書P129
そういえば、昭和30年代ブームの火付け役になった、映画『ALWAYS三丁目の夕日』*6は、建築途上の東京タワーがまさに高度成長に向かう明るい日本の象徴としてフィーチャーされているが、この映画のテーマが成長や進歩ではなく、失われた時代への懐古(幻想の疑似共同体への懐古等)であるだけに、ここに登場する東京タワーもまた、日本の上り坂(進歩主義)と同時に下り坂(老病死)をも一貫して俯瞰し続けた歴史モニュメントに見えてしまう。それはまた日本の象徴的な死と再生の願いを一身に背負うモニュメントといってもいいのかもしれない。
■仏塔としての東京タワー
さらには、人類学者の中沢新一氏によれば、東京タワーはもともと独特の霊的地場のある塔なのだという。
もうひとつの塔は、国家ができる以前の「ストゥーパ(仏塔)」系。インドの古代神話の考えから発生しました。地面の下が墓地となっていたり、渦を巻くように塔にひねりが加えられていたりして、“暗闇(母体の)から光の中へ出ていく”という思想を示しているそうです。驚くべきことに、東京タワーや通天閣はこの古いストゥーパの思想を残しているといいます。東京タワーの周りには墓地がたくさんありますが、芝は、縄文時代から古墳群があった土地。通天閣の近くの千日通り周辺は、江戸時代まで処刑場や墓地があったところ。墓地は古代人の考え方では死んで生まれ変わるという場所であり、これらは、死者の世界から外に向かって立ち上がるという古い思想をベースにしているというのです。
http://ameblo.jp/arain0530/entry-11239831283.html
すなわち、東京タワーというのは、本来『昼』より『夜』に輝く宿命を持って生まれ、ライトアップによってその本質が引き出されて、成熟都市東京のランドマークとしてその真の姿を表し始めたということになるかもしれない。
■次に発見されるのは
プロジェクションマッピングには、この夜に輝く建物/モニュメント/街のポテンシャルを引き出す力があることを私は直感した。その建物やモニュメントは『現役』である必要もない。廃墟の類いの現役を退いた建物やモニュメントでもかまわない。むしろその方が引き出されるポテンシャルの峰は高い可能性すらある。物語性と歴史性を帯びるようになった東京タワーは中川氏のいう、『タワー的公共性』という性格も持ち始めた。プロジェクションマッピングによって次に発見される『夜のランドマーク』は何だろうか。 ソーシャルメディア全盛の今では、物語や歴史性という核ができれば、密接なコミュニケーションが紡がれ、連続的に拡大していく可能性も大いにある。エンジニアではない私達にも、素材を見つけたり、物語をつくったり、拡散するという形での貢献はできるかもしれない。本当に楽しみだ。
*1:
*2:
*3:
*4:http://www.tokyotower.co.jp/other/lightdown.html
*5:
*6: