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LINEに見るWebサービスの勝利の方程式

だいぶん間があいてしまったが、株式会社MODIPHI主催のイベント(Web2.0) に参加したので、その時の感想を書き残しておこうと思う。


開催概要は下記の通り。


テーママーケティングプラットフォームとしてのLINEの可能性


詳細

2011年6月にサービス公開以来、約1年で世界230カ国、4,500万ユーザー、国内2,000万ユーザーを擁するサービスへと成長したスマートフォンアプリ「LINE(ライン)」。急成長の要因・戦略を振り返りつつ、スマートフォンにおける新たなマーケティングプラットフォームとしての可能性について、解説を行います。


ゲスト:矢嶋 聡(やじま さとる)氏


プロフィール

1978年生まれ、東京都出身。2000年に早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、ネットベンチャーの立ち上げ、留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン入社。2012年1月、グループの経営統合に伴い、ウェブサービス本部マーケティングコミュニケーションチームのマネージャーに就任。現在はLINEのマーケティングなどを担当。


開催日: 2012年8月8日(水)


開演時間: 19時00分(受付開始時間: 18:30)


終演時間: 20時30分


場所: アップルストア銀座(3F シアター)



直接話を聞ける機会


MODIPHIのイベントへの参加はずいぶん久しぶりだ。以前は毎月のように出かけていた(基本的に毎月開催されてきた)ころもあったのだが、この一年くらいは、タイトルを見ながら興味が湧いた時に随時参加する、という感じで、ややトーンダウンしていた。それでも、無料だし、自分が知らないゲストが登壇する回でも、行けばそれなり気づきがある貴重な機会とは考えていた。そこに、今回は今話題のLINEの企画者が登壇するという。これは行かないわけにはいかない。


LINEについては、去る7月3日に NHN Japanが開催したイベント、『Hello, Friends in Tokyo 2012』で詳しい説明や質疑が行われることは知っていたから是非参加したかったのだが、それがかなわなかったこともあり、どこかで直接お話を聞ける機会はないものかと思っていた。


もちろん、LINEには登場以来それなりに興味を感じていたため関連記事はできるかぎり拝読していたし、「Hello, Friends in Tokyo 2012」もイベント終了後に素晴らしいレポートが出てきたこともあって、企画者の意図や狙いはある程度事前に頭に入ってはいた。

http://android.dtmm.co.jp/app/35822
http://android.dtmm.co.jp/app/35919


だが、やはり同じ内容でも実際に企画者本人の話を直接聞くと、その熱量が如何ほどなのか、どこかで借りてきたような考えをテープレコーダーのように語っているだけではないのか、本当に本人の血肉になっているのか、本音で一番大事にしている考え方は何なのか等々、ただ文章を読むよりずっと実感として伝わってくる。やはり、出かけてみて正解だと思った。



LINEの成功の秘訣


私が何より印象的だったのは、企画チーム自身LINEがブレークするかどうか、少なくとも当初は半信半疑だったというところだ。もちろん、参入にあたっての市場分析を十分に行った上で、それなりの勝算があったであろうことは、企画者の矢嶋氏のお話からもうかがい知ることが出来る(さらに詳細には、上記のイベントのレポートでとてもわかりやすくポイントがまとめられている)。特に、もっとも重要なコア・コンセプトは非常に堅牢に出来ている印象で、それなりに練り込みには時間をかけたであろうことがしのばれる。だが、如何にコンセプトや哲学が優れていても、それが実際のサービスとして実現できるかどうかはまた別の問題点である。例えば、ユーザーが使いやすいシンプルさを大事にする、というコンセプトがあっても、実際にそれを作り込むためには、コンセプトを構築することとは違う種類の能力/スキルセットが必要なのは言うまでもない。


昨今では、Webサービスの世界では、「永遠のベータ版」という考え方がすっかり常識になっているのはご存知のとおりだ。他社とのスピード競争に勝つために、「ベータ版」として早く市場に投入することが優位になることは少なくないし、何より熱意があり影響力のあるユーザーを沢山獲得できて、その初期ユーザーの貴重なコメントやサービスに係わるアイデア等をもらう事もできる。企画者の矢嶋氏は、『中期的にはどのようなサービスにしていくつもりなのか』と聞かれて、『3ヶ月以上先のことは考えておらず、ユーザーの声にスピーディーに反応することに集中する』という主旨のことを述べていたから、LINEもユーザーの声を聞きながら機敏に軌道修正していくことを最重視する姿勢ははっきりしている。一方、『マネタイズを急ぎすぎてユーザーが使いにくいサービスにならないように時間をかけるところはかけていく』という主旨の発言もあって、スピード競争のために未完成な、場合によっては不具合もあるような『ベータ版』をリリースするようなあり方とは一線を画す姿勢が感じられる。


市場では、ベータ版と銘打って、多少不具体があるのもご愛嬌とばかりに、コンセプトも機能も中途半端なままにリリースされるサービスも少なくない。だが、どうやらLINEは『永遠のベータ版』モデルとは似て非なるものと言ってよさそうだ。もっとも重要なコア・コンセプトはじっくりと作り込んで、少々のことでは揺らがない。一方で、ユーザーの実際の感情/エモーションに係わる部分、あるいはサービス設計の詳細に係わる部分等については、ユーザーの反応を出来るだけ詳細にモニターしてスピーディーに変更していく(昨今のソーシャルゲームに見られる手法を思わせる)という組み合わせこそ、ここまでのLINEの成功の秘訣と言えそうだ。



LINEのコンセプト


そもそもLINEは、スピード競争どころか、ソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)としては最後発の一つであり、いわば、典型的な『追いつき追い越せ』モデルである。だから、その分、先行するFacebookや他のSNSサービスの隙間/弱点/問題点等を徹底的に研究し、同時に、PC/フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行期(同時にスマートフォン・ユーザーの主体が従来のフィーチャーフォン・ユーザーのようなITに詳しくないユーザーにシフトしつつあるという意味での移行期)の特徴を十分に理解し、加えて、SNSだけではなく、ゼロ年代に進化してきたネット・コミュニケーションの経験の蓄積に基づく研究成果等を取り入れて、現時点で最も進んだ仮説に基づいてコンセプトを構築していることがわかる。このエッセンスの一部は『Hello, Friends in Tokyo 2012』のレポートにもまとめられた『LINEのFacebookその他のSNSとの相違点5つ』に典型的に現れている。

1、PCでなくスマートフォン発祥のサービスである点。
   
   → スマートフォンは一般ユーザーや女性が中心になりつつある。
     シンプルで使いやすいことを最重視する。


2、オープンでなくクローズドなコミュニケーションサービスである点。
3、バーチャルな世界でなくリアルな関係性をベースにしている点。
4、ネット上で新しく友達を見つけるのではなく、今までの友達との
  関係性を深めることが出来る点。
   
   → 従来のフィーチャーフォンユーザーの典型的なコミュニケーションの
     あり方をトレースしている。
     また、Facebookとの違いを非常に意識している。


5、情報収集するためのつながりでなく感情を伝えるコミュニケーションツールである点。


   →『感情』がキーワードで、それを体現するサービスとして、
    『スタンプ』に重点を置いている。
    スタンプは瞬時に喜怒哀楽が伝わる、文字に変わるコミュニケーション手法として、
    日本のみならず、世界各国からも支持を得ているようだ。

       http://android.dtmm.co.jp/app/35822
        「→」部分は私(ブログの著者)が付記。

Facebookの問題点


ここしばらく私自身がブログでも扱ってきたテーマだが、昨今のFacebook等他のSNSの問題点(Facebook疲れ等)をこれに合わせて列記すると、如何にLINEがタイムリーな存在かわかる。

FacebookはPCからスマートフォンへの移行がうまく進んでいるとは思えない。
 インターフェースの作りが悪く使いにくい。
 特に、今の日本はフィーチャーフォンからスマートフォンへの大量移行期にあたるから、
 パソコン等のリタラシーがあまりないユーザー層が増加していることもあって、
 今のFacebookは使いにくいと感じている人が多い。


・オープン・コミュニケーションを標榜するのはいいが、そのオープンな人間関係に
 疲れてしまうユーザーが続出している。
 (日本だけではなく、米国のユーザーでも疲れを感じている人が増えている。)


・ネット上での『緩いつながり』は従来知らなかった情報を入手するには
 効果的な面もあるが、商品やサービスの口コミの伝播や相互に与える影響力が大きいのは
 リアルの友人関係等の『強いつながり』であること。
  → Facebookはクローズドな人間関係をオープンにすることばかりに
    注力している印象がある。


・最近ではFacebookをリアルな関係に限定して使う人も出てきているが、
 そもそもの設計がバーチャルな関係も含めて広げやすいように出来ているから、
 一般的にはFacebook内の交友関係はバーチャルな方向に広がりがち。
 いきおいユーザーは、よそ行きで、よく見せたい自分を演出する
 (しかも、主として文章でそれを表現する必要がある)ことに腐心する傾向がある。
   → Facebook疲れにつながる。


・いいね!ボタンは単純で使いやすいが、感情表現としては平板で、
 フィーチャーフォンの大量の絵文字になれた女性ユーザー等は物足りなさを感じている。

Facebookユーザー増がLINEのユーザー増に貢献


LINEはまさに、他人にすすめられて初めてのSNSとしてFacebookを使い始めてみたものの、違和感を感じたり疲れたりしている人に最適な設計になっている。だから、Facebookが如何にユーザーを増やしても、今のところ直接市場を食い合う可能性が最も少ない存在だし(今のmixiは、Facebookを意識しすぎた結果、Facebookと直競合状態になり、自身のユーザーが大量にFacebookに移行しているように思われる。)、SNSに慣れた若年ユーザーなら両方を特性の違うSNSとして使い分けるだろう。だから、企画者の矢嶋氏も語っていたが、LINEがこれほど急速に会員を増やした理由の一つは、Facebookが短期間に大量のユーザーを増やしたことにこそあり、そういう意味で今はビジネスチャンスなのだという。しかも、それは日本だけではなく、海外、特に現段階では非英米圏でのユーザーが急増していることにも明確に見て取れるという。(7月2日時点で、世界で4,500万人のユーザーを獲得。そもそも、LINEが最初にブレークしたのは中東で、中東はFacebook先進国と言われている。)



『心の構造』という仮説


西洋人と東洋人は、心の構造(自我・自己の構造)が違うことは以前から指摘されてきたことだが、Facebookのように『典型的な西洋人』のマインドの持ち主が作ったサービスは、非西洋人のマインドにはしっくり来ないということはあり得ることだ。これは、西洋、特に米国のサービスに席巻されていて、普遍性のないガラパゴスと揶揄される日本のWebサービス全体にとって、非常に大きなターニングポイントを象徴する出来事になる可能性がある。LINEは今後、西洋圏にも拡大を求めてチャレンジするというから、これも実に楽しみな実験になりそうで、私などおおいに期待してしまう。『西洋人と非西洋人の心の構造の違い』から、西洋・東洋を問わず存在する『人間の心の陰と陽』に係わる仮説に至るまで、次々と検証されていくような可能性さえ感じてしまう。ここまで今の段階で語るのはやや飛躍が過ぎると指摘されてしまいそうだが、少なくとも、いよいよこういうところに競争軸のポイントを探しにいくことがリアルになってきたことには、個人的には大変感慨がある。そして、やられっぱなしだった日本のWebサービスも、日本だからこそ、という強みを持って反攻できるかもしれない可能性を感じさせる。



人間や社会の理解が必須


先日書評を書いた『ウェブはグループで進化する』*1の著者、元Googleのポール・アダムス氏の主張にもある通り、*2SNSは一時的で限定的な流行ではなく、社会全体を覆い尽くしていく可能性が高い。そして、Webサービス全体が、コンテンツや技術中心型から人中心型に急速に変化すると考えられる。従って今後は、合理的存在とは到底言えない(よって非常にわかりにくい)人間の心理や社会構造等を徹底的に解明して、理解した企業が勝ち上がっていく可能性が高い。そういう意味でも、LINEは時代の転換点における象徴的な存在であり、先頭ランナーの一つになる資格が十分にありそうだ。


何度も書いてきたことだが、Facebook自体、マーク・ザッカーバーグ氏が、それまでのSNSの使いにくさに辟易して、その問題点を解決する存在として後発ながらトップに上り詰めた。今回のLNEの事例を見ても、どうやらSNSというサービスは、特に人間理解という点ではまだほとんどすべてのサービスが発展途上にあり、後発であれ、先行者の失敗に十分学ぶものに勝ち味があるように見える。だから、コンセプト・ワークは必須で、しっかりしたコンセプトを持って出発することは絶対条件と言えそうだ。コンセプトが曖昧になると迷走どころか、既存のユーザーさえ維持できなくなる典型例をこの2〜3年間私達はmixiに見てきた。(mixiを非難しているのではない。それどころか、何とか復活して欲しいといつも応援している。)だが、そのコンセプトを具体的に実現できているかどうか、常に実際のユーザーの反応を見て、機敏に変更していくことがもう一つの絶対条件だ。つまり、SNSサービスにとって、後発であることは必ずしも不利にはならないが、コンセプトがしっかりしていることと、そのコンセプトにそって、ユーザーの反応をはかり、機敏に修正していくスピードは必須、ということだ。しかもこれは、ポール・アダムス氏の言う、Webサービス全体が人中心型に構造転換するという説が本当になれば、すべてのWebサービスにとっての勝利の方程式になっていくだろう。



懸念点


ただ、『利用者の電話帳の情報をサーバーに保管して電話番号によるマッチングを実現し、友達探しを簡単にできる』という仕組みには、見ず知らずの相手の氏名や電話番号、顔写真まで収集できてしまう危うさがあるという指摘もあり、青少年が被害にあうおそれもあり得る。いわゆる法的な問題や事件に限らず、『何となく怖い』という印象を持つ人も少なくないと思う。これが蟻の一穴となって、せっかくのサービスが台無しになってしまうような隙もまだまだありそうだ。これこそ人間の心理の機微に触れる問題でもあり、SNSサービスにとって最も配慮が必要な部分と言える。そういう意味では、破竹の勢いのあるLINEとてまだ万全とはいえない。よく気を配って欲しいものだと思う。



謝辞


直接お話を聞く機会を提供してくれた、MODIPHI社にはあらためて感謝の意を表したいと思う。だが、残念なことに、このイベントも会場確保が難しくなったため、ということで、今回が最終回になるのだという。再開は別途検討するというお話もあったので、是非頑張って再開して欲しいものだ。陰ながら応援している。