オープンデータ活用の活動をさらに活性化するために


オープンデータ活用をテーマとしたシンポジウム


欧米諸国と比較して公共データの活用がまだあまり進んでいないと言われる日本においても、新産業創出や行政サービスの効率化等を目的に、オープンデータの活用を推進していこうという課題に取組むメンバーがいる。去る、5月31日(木)に、関連の研究者、技術者、自治体関係者、ジャーナリスト等が参集して公開シンポジウムが行われたので、出かけてみた。

公開シンポジウム「オープンデータが拓く未来 〜動き出した日本の公共データ活用〜」 | 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

オープンデータが拓く未来 #glocom まとめ - 2012.5.31 - Togetterまとめ



イギリス等海外の事例や、国内でも先進的な取組みを進める福井県鯖江市の事例等、非常に興味深かったし、そもそも情報通信基盤は世界最高水準でありながら、情報の活用においては他国の後塵を拝すると言われて来た日本の弱点を補強しようとする活動は、それでなくても以前から関心がある。



黎明期の日本


登壇者の真摯な姿勢は伝わってくるし、思ったよりも自治体でこの問題に真剣に取組む人たちが沢山いることを知ることができたことは有意義だった。ただ、同時に、日本での取組みメンバー自体が、イギリスやアメリカ等の『情報公開先進国』と日本との差がまだまだあまりに大きいことを嘆く気持ちも非常に強く伝わってくる。残念ながらこの領域では、日本ではまだ『黎明期』『後進国』と言わざるをえないようだ。



今ひとつ乗り切れない自分


しかも、私自身、この取組みの重要性と将来性は理解できるのに、どうしても今ひとつ乗り切れない気持ちが払拭できないでいた。どうしてなのか、自分自身釈然としない気持ちを抱えていた。自分からこの活動に参加したいかと聞かれると、簡単にはYesと答えられない自分がいた。


そうしているうちに、今度は、オープンデータの活用のアイデアを一気に(無理矢理にでも)形にするべく、同じく国際大学GLOCOM主催で、6月9日(土)に『オープンデータ活用アイデアソンーーハッカーと起こす社会イノベーション』と題したイベントへの参加案内があったため、多少不謹慎ながら乗り切れない理由を見極めたい気持ちもあり、参加してみた。

http://www.futuresession.net/sessions/35

「オープンデータ活用アイディアソン ~ハッカーと起こす社会イノベーション」まとめ #glocom - Togetterまとめ



ハッカソンとは


ハッカソンという用語を知らない人もいるかもしれないので、一応下記に定義をまとめた一文を引用しておく。ハッカソンと言えば、プログラマしか参加できないイベントという印象があるので、私も今まで参加したことはない。ただ、Googleドワンゴ等で行われているというような話を聞く度に大変興味を感じていた。


ハッカソンHackathon:Hack-a-thon)とは、とある開発テーマの技術に興味のあるプログラマーたちが、会議室やソファーがある場所などにノートPC持参で集まり、みんなで一緒にソフトウェアをハックしまくって楽しみ、最後に開発したアプリケーションやサービスを参加者全員の前でプレゼンするという、いわばギークのためのお祭りイベントです。ハッカソンの期間はだいたい1日中が普通で、長ければ合宿などで数日から1週間もある場合があります。
ハッカソンという用語は、「Hack」と「Marathon」を合わせた造語で、米国で1999年あたりから使われ出し、まず OpenBSD が開いたイベントで使われ、次に Sun の JavaOne conference イベントで使われたそうです。その後、2000年に PHP の開発イベントで、2001年に FreeBSD、2002年に Apache と、徐々にさまざまなイベントで使われるようになりました。

ハッカソンとは(Hackathonとは) - いっしきまさひこBLOG

とりあえず『アイデアソン』


もっとも、イベントは今回と次回(6月30日)の2部構成となっていて、アプリ化を実現するハッカソンは次回で、今回はハッカソンの前段階のイデアソン(Ideathon) だという。確かに、この日行われたのは、主として公共団体に存在するであろう(あるいはすでに公開されている)オープンデータを活用して実現したいアイデアをまとめる、いわゆる『企画』までであった。それでも、ハッカソンの雰囲気をかぐ事ができたし、何よりこの日集まった、ものすごい個性的なメンバーとの共同作業は非常に面白かった。私自身は、『観光資源発掘』チームにはいり、まだ必ずしも観光資源とはみなされていないが、観光資源になりうるもののアイデアを出して、企画を作成することに参加した。



少しわかってきた


イベントを楽しむことができたこともさることながら、前回イベント時に感じていた疑問に対する、回答めいたものが少し分かって来た気がした。すなわち、『オープンデータ活用』にどう取組めばもっと活性化し、参加者を増やすことができるのか、という疑問に対する回答である。それこそ、アイデアやひらめきのレベルに過ぎないが、私自身の備忘録をかねて書いておこうと思う。


結論から言えば、下記の『職種』の優秀どころを引き入れ、如何に活発に活動してもらうかが鍵だと思う。そうすることによって、すでに地道に問題に取組む人たちの活動にも良い影響が及び、参加する人が増え、活動全体が活性化すると思う。(もちろん、もうすでにその兆しは十分にある。その意味でも関係者の努力には敬服する。)

・ジャーナリスト
・キュレーター
・編集者
・エンジニア

ジャーナリスト


6月9日のイベントでは、Salesforce.comのプレゼンがあり、総務省の「公的調達情報」(PDF資料)等のデータを長い時間をかけてコピペしてデータを可視化すると色々な事が見えてくる、というような実例紹介があった。例えば、公共事業における一般契約と随意契約の比率等、総務省の『公平性』に疑問を感じさせる内容だったりする。データというのは時にとても正直で、先入観や思い込みで曇った眼鏡を壊して、リアルな実態を見せてくれることがある。


この話を聞いていて、以前非常に話題になった、『ヤバい経済学』*1のことを思い出した。特に日本では、大相撲の八百長問題が大騒ぎになった時に、『すでにデータ分析によって誰が見ても八百長が行われていることを可視化している本がある』と、驚きとともに紹介されたので覚えている人も多かろうと思う。

本場所千秋楽に7勝7敗の力士が8勝6敗の力士に当たった取組み数百番が対象だ。(中略)過去の対戦結果からみて、7勝7敗の力士が勝つ割合は半分をほんの少し下回る。これは納得がいく。その場所の成績も8勝6敗の力士がやや優勢だと示している。ところが、実際には7勝7敗の力士が8勝6敗の対戦相手に10番中ほとんど8番もかっている。7勝7敗の力士は9勝5敗の対戦相手に対しても驚くほど善戦している。(勝率73.4%) 同掲書 P51


さて、7勝7敗の力士と8勝6敗の力士が、次の場所でどちらも7勝7敗でないときにあたるとどうなるか見てみよう。この場合、勝負にはさっきみたいな大きなものはかかっていない。だから、前の場所で勝った7勝7敗の力士は、同じ相手に対して、それ以前の対戦と同じくらいの勝率になると予想できる。 ー つまり、だいたい50%ぐらい勝つだろう。またしても、80%の勝率なんて、どう見ても期待できない。
データから実際に計算してみると、前回7勝7敗だった力士は再戦ではたったの40%しか勝っていないことがわかる。あるときは80%でその次は40%? いったいなんで?  同掲書 P52

優秀なジャーナリストの活躍が必要


ウィキリークスのような暴露情報というわけではない。公開されたデータを可視化し、複数のデータを比較して新たな意味を見つけているだけだ。だが、それでも出来ることがすごく沢山あることを再確認させてくれる事例の一つだ。ただ、そのためには、どのような所に目をつけてデータを引き出してくるのか、どのような観点で分析/混合/比較を行い、新たな意味や物語を発見していくのか等がまずポイントになる。しかも、面白そうな結果が出て来たとしても、その解釈がまったくの誤解や勘違いの可能性も十分にあり、それを見極める力がないと、出て来た結果を生かす事はできない。当然、検証も必要になるだろう。


さらに言えば、世にその問題を問うことができると判断できたとしても、今度は、いつ、どこで、どのような発表をするのか、発表の仕方の巧拙によって、世に与えるインパクトはかなり違ってくる。ウィキリークスも大量の告発データを入手しても、単純に公開するのではなく、経験豊富や大手マスコミのジャーナリストに告発データを託さざるをえなかったわけだが、データの検証の必要性を含め、事情は似ていると言えなくもない。このように、社会にインパクトを与え、活動を活性化しようと考えるのであれば、データの料理人としての優秀な『ジャーナリスト』の活躍は不可欠だと思う。



キュレーター/編集者


自分が『観光資源発掘』チームに参加したから、というわけでもないが、観光資源のような、「楽しさ」「エンターテイメント性」「ワクワク感」を皆が感じる事ができる要素を、活動の中にできるだけ沢山取込んで行くことは非常に重要だと思う。それこそ、活動全体に活気を呼び込むに違いない。


だが、観光資源と言っても、高度成長期のようにライフスタイルも、ライフパターンもあまり差がない時代と違って、価値観も感性もバラバラになった今日では、観光資源も当然多様化する。チームでも、まず最初に出て来たのは、『廃墟』だ。最近では、『廃墟』好きは結構増えてきているので、比較的ポピュラーになっていると思うが、それでもステレオタイプの観光資源しか知らない人はビックリしてしまうかもしれない。廃棄されることが決まった施設というのもあった。電線、鉄塔などの建造物という意見もあった。これなども、いわゆる『テクノスケープ』の一部と看做されるのかもしれない。『テクノスケープ』とは、テクノロジー(技術)とランドスケープ(景観)との合成語で、工場や鉄塔、水門などの産業景観を表す。従来は、産業景観はマイナスのイメージが付着していたものだが、最近ではそれがいわゆる工場萌えのようにプラスイメージで捉えられるようになった。果ては、『処刑場跡地』なんていうのもあった。チームで意見を出し合うことの価値を存分に感じることができたし、同時に、人が見過ごしてしまう『美』や『感動』を見つけてくるキュレーター*2は観光資源発掘という観点でも重要な役割を果たすであろうことを強く感じたセッションだった。


『美の発見』という意味では、私の友人で作家の田中真知氏の『美しいをさがす旅にでよう』*3など参考になると思う。海外在住経験も海外放浪体験も豊富な田中氏が見いだす『美』の範囲の広さには何度読んでも驚いてしまう。
『美しいをさがす旅にでよう』を読んで - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る


このような特異な観光資源候補は、しばし、観光の文脈に収まりきらないものも少なくない。個々人は自らの中に感動的な物語を持っているのかもしれないが、普通の人にはなかなかその良さが伝わらないかもしれない。そういう意味で、個々の観光資源に言葉の魔法をかけて、感動的な物語を紡ぐことのできる『編集者』も不可欠だと思う。



エンジニア


これは私があらためて言うまでもない。今回のイベントの企画者は私の言いたい事をすでに十分ご存知だ。エンジニアの手を借りて、何らかの仕組みやアプリ等の動くものをつくってしまう、という姿勢は、この手の取組みに最も必要な推進力/エンジンとなる。とにかく前に進めること自体が非常に重要だと思う。そういう意味で、『ハッカソン』の仕組みでエンジニアを集めたアイデアは素晴らしいと思う。


以上、『言われるまでもなく分かってるよ、そんなの』と言われてしまいそうだが、参考意見としていただければ望外の幸せである。

*1:

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

*2:キュレーター - Wikipedia

*3:

美しいをさがす旅にでよう (地球のカタチ)

美しいをさがす旅にでよう (地球のカタチ)