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企業にとってのソーシャルメディアの可能性と課題とは

3月9日(金)にアジャイルメディア・ネットワーク(AMN)主催の『ソーシャルメディアサミット2012』に参加してきたので、概要をまとめてみた。


開催概要


・日時:3月9日(金)13:00〜21:00
・会場:ベルサール九段
・主催:アジャイルメディア・ネットワーク株式会社

・タイムテーブル

  13:00〜 開会挨拶 AMN代表取締役社長 徳力基彦氏

  13:20〜 パネルディスカッション1
       「ソーシャルメディアの弱点 徹底討論」


<パネリスト>

高広伯彦氏 株式会社スケダチ代表取締役/コミュニケーションプランナー
中尾孝年氏 株式会社電通関西支社 クリエーティブ局
森永真弓氏 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 
      メディア環境研究所 上席研究員


モデレータ

徳力基彦氏 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 代表取締役社長


14:40〜 パネルディスカッション2
     「ソーシャルメディアにおける広告的効果測定のあるべき姿」


<パネリスト>

津毛一仁氏 アディダスジャパン株式会社 
      デジタルマーケティング シニアマネージャー
室元隆志氏 サントリー酒類株式会社 デジタルマーケティング開発部長
長谷川秀樹氏 東急ハンズ 執行役員 ITコマース部長


モデレータ

上田怜史氏 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 取締役


16:10〜 パネルディスカッション3
     「コミュニケーションやエンゲージメント価値の測り方」


<パネリスト>

板橋万里子氏 花王 Web作成部 Web企画グループ
高柳直明氏  ANA 営業推進本部 WEB販売部
千歳敬雄氏  デル株式会社 コンシューマ&SMS事業部
       オンラインマーケティングマネージャー


モデレータ

高柳慶太郎氏 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 
      マーケティング部マネージャー


17:20〜 パネルディスカッション4
     「企業がメディア化、ウェブサービス化する未来」


<パネリスト>

猪子寿之氏 チームラボ株式会社 代表取締役社長
中村洋基氏 PARTY/Creative Director, Founder
平野義孝氏 株式会社トヨタマーケティングジャパン 
      プロデュース局 WEBマーケティング


モデレータ

徳力基彦氏 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 代表取締役社長


18:50  第一部終了

19:00〜 アルファーブロガー・アワード 2011

20:00〜 AMN 5周年パーティー



全体の印象


AMNのイベントは相変わらず事前に明快な仮説が設定されていて、それに基づいてパネリストへの質問も準備されており、全体のストーリーが非常にわかりやすい。出席者の方も事前に自分の仮説を持って臨みやすく、話の流れに入って行きやすい。ただ、イベントの成果は、最終的にはどうしてもパネリストとモデレータの力量に左右されざるをえず、個々のパネリストの力量もさることながら、パネリストの同士の相性も非常に重要な要素になる。今回はやや論点が多くしかもパネリストのバックグラウンドも多岐にわたっていたため、その点は多少心配していた。案の定、折角出て来た非常に興味深い見解が討論の一定の成果として結実しないままに、やや消化不良気味になってしまったセッションもあった。ただ、それでも、随所に非常に面白い見解や体験談は沢山出て来たし、実際に語っていることの背後に本当に語りたい事がにじみ出ているような興味深い発言も少なくなかった。


重要な問題であるはずなのに、議論が途中で終わってしまったり、思ったほど深まらずに残ってしまったような論点については、私のようなブロガーなり、それぞれの専門家が引きとって深めて行くべき宿題とも言え、考えようによってはこの宿題こそがサミットでパネリストのおかげで知ることができた新たな観点なり、見解以上に、ここに参加させていただいたことの最大の成果なのかもしれない。それに、現場の第一線の実務家が沢山の取り組み事例を紹介してくれたおかげで、議論を深めることとは別に、最新のソーシャルメディアの活用事例発表』としても大変参考になった。その点に満足して帰った人たちも多かったろうと思う。



問題意識


以下、 AMNが今回のサミットに託した問題意識をベースに私自身が感じたところを書いておこうと思う。

ソーシャルメディアサミットは、「ソーシャルメディア」というキーワードが、注目されるようになっている一方で、定義が曖昧なままイメージだけが先行してしまっている状況を改善するために、業界のキーマンに、各サービスが目指している世界観や、今後の方向性について紹介して頂き、日本におけるソーシャルメディアの可能性について議論しているイベントです。


2012年の今回は、2011年をソーシャルメディアに対する過度な期待が高まりすぎてしまったソーシャルメディアバブルの年だったと認識し、ソーシャルメディアの可能性と課題について、冷静な定義と議論を行う事を予定しています。


ソーシャルメディアサミット2013 / アンバサダーサミット2013|Agile Media Network

ソーシャルメディアバブルと弱点


2011年がソーシャルメディアバブルとなった一因は震災を機にTwitterFacebook 等の活用が急速に進んだこともあるが、ビジネス利用という点でのバブルはもう少し早い段階で始まって来ていて、両者のピークが重なったこともにもありそうだ。ソーシャルメディア発展の経緯や、利点、リスク等の理解もそこそこに急に参入してきた大量の『普通の人』が右往左往しながら使い始めた事、およびその急に参入した人たちをターゲットに自称専門家の類いが沢山出て来たことが混乱に輪をかけた。それは、広告宣伝に多少知見のある人の間でも起きていたようだ。


ソーシャルメディアには明らかに大きなポテンシャルがあり(一方でコストは安く)場合によっては、マスメディアを通じた広告宣伝を凌駕しかねない勢いがあるとはいえ、その性格は既存のマスメディアとは大きく異なる。ところが、その構造の根本的な違いを理解できているとは思えない自称専門家が大量に『うさんくさい』バズワードと巧みな話術をもって企業にアプローチしてきて、少なからざる金額のお金を企業に使わせることになった。(企業内でも俄専門家が急増して『うさんくさい』バズワードを使いまくった。)そうしている内に、うさんくさい自称専門家に付き合わされた企業の普通の人たちがやや冷静になると、今度は羹に懲りてなますを吹くようになる。いわゆる過剰反応だ。必要以上にソーシャルメディアを疑いの目を持って見てしまう。今度は、ようやくソーシャルメディアの真の意味/意義/役割に気づき始めた企業内の先進メンバーの足を引っ張ってしまう。


パネリストの一人、(株)スケダチ代表取締役の高広氏は、ソーシャルメディアの弱点ではなく、ソーシャルメディア業界の弱点』と苦言を呈し、『ソーシャルメディア業界の思考が柔軟性を書くことがソーシャルメディアをめぐる企業内での混乱を深める一因となっている』という主旨のことを語っていたが、私もこの意見はかなりいいところを突いていると思う。



最適ミックス


その高広氏はじめ、今回パネリストとして参加したメンバーの多くは、ソーシャルメディアが従来のマスメディアと違う性格を持ち、それ故に担うべき役割が明確に異なることを理解していて、現段階の最良の策は『最適なミックス』にあることをちゃんと認識している。ソーシャルメディアのPV/フォロアー数/口コミ数等をTVの視聴率と同列に語るような愚は、まだ実務家の中にも相当に多いと言わざるをえないが、ここに集う日本の広告宣伝業界のトップレベルにいる人たちは、すでに初期熱狂を脱して冷静に対処しているようだ。ソーシャルメディアでは特定の「ムラ」にしか届かないから、ムラを繋ぐTVのようなマスメディアとの相性が良く、クレバーなミックスこそが最大効果を生む』という理解は、少なくともパネルディスカッション1のパネリストには共有されている。



まだその先がある


では、ソーシャルメディアを既存のメディアミックスに加えるもう一つのパーツとして最適化をはかればそれでいいのか、それでソーシャルメディアのポテンシャルを語り尽くせるのかと言えばもちろんそうではない。この点が実のところ『本当の問題』だ。現段階で過大評価しすぎても、まさに『うさんくさく』なるのがオチだが、一方でソーシャルメディアが『破壊的な可能性』を秘めていること、その大きな可能性をいかに現実の企業活動の中に生かしていくことができるかが次世代の企業の競争力をさえ左右するであろうことは、ここに集まったハイレベルなメンバーなら多かれ少なかれ気づいているはずだ。



効果測定


ただ、だからこそなおさら、企業内でソーシャルメディアの利用を促進する人たちは大変な労苦を背負うことになる。特にソーシャルメディアの『ソ』の字も知らないが、旧来の組織での乗り切り方が上手かった人たちが主要な地位を占めている日本の大企業で、ソーシャルメディアの重要性を説明して理解を得ることは至難の技だ。自称専門家に踊らされた熱狂がそろそろクールダウンしてくるこれからは一層環境は厳しい。どう説明しても、うさんくさく聞こえてしまう。となると、成果を生むメカニズムの理解を得ることを飛ばして、投入金額見合いの売上げや利益と言った『効果測定』に目がむくことになりがちだ。大企業の実務家だけではなく、そういう企業をクライアントとして相手にする広告宣伝会社の担当にも最も切実な問題と言える。(それはまた誰より今回のサミットの主催者であるAMNの最大関心事でもあるはずだ。)


AMNのモデレータは、次のように各パネリストに問いかける。

ソーシャルメディア活用の売上げへの貢献をどう効果測定していますか?


より効果測定の精度をあげるためには何が必要ですか?

性急な効果測定は逆効果


では、集ったパネリストからどのような回答が引き出せたのか。


実に興味深いことに、特定のキャンペーンや短期的な活動については、ある程度成果を示す事ができても、既存の効果測定信奉者が納得できるような意味での効果測定については、パネリストが語ろうとすればするほど、原則難しいという本音の部分が伝わってくる。それどころか、ソーシャルメディアの理解が進んだ企業ほど、既存の効果測定の尺を無理にあてようとすることにあまり意味がないこと、さらに言えばその効果を得るために活動を歪めることがむしろ逆効果になることを理解しており、成果の分析や指標についても、直接の売上げや利益とのリンケージとは別のKPI ( Key Performance Indicator =重要業績評価指標)を据えて取組んでいることがわかる。



花王の優れた取組み


中でも、花王の取組みは、ソーシャルメディアの本質を理解した上で、めざすべきゴールをかなり明確に決めて、そのための分析を非常に合理的に行っている好事例だと感じた。今回取り上げられたのは、花王 GO GO pika★pika MAMAという花王が運営する、子育て中の母親が相互に相談したり語り合うことのできるコミュニティサイトだ。当初はあえて『花王』の名前を出すことさえせず、良い『場』づくりに徹してたという。ユーザーとのコンタクトの始まりが、ユーザーの『モニターの依頼がないけどどうして?』という問いかけだったというから、ソーシャルメディアにおけるエンゲージメント*1の重要性とその本質の理解が企業単位で大変進んでいることがうかがえる。短期的な売上げとのリンケージを具体的に示せなどと始終迫られようものなら、とてもではないがこんな取組みはできないはずだ。


しかも、花王の取組みがさらに素晴らしいのは、本当に必要な分析や、KPIづくり、見える化にはきちんと取組んでいることだ。下記のような問題意識を持って深く自問自答している様子が伝わってくる。

ユーザーどうしの交流を活性化させた行為やキーワードは何か


ユーザー間の交流を促進する文脈は何か


ユーザー同士のハブ的な役割を果たす人は誰でどのような人なのか


ユーザーのコミュニティの発言内容の傾向はどのようなものか

価値のレベルでの交流


これなら、ユーザーの花王花王の製品に対するエンゲージメントは深まり、表面的で移り気なファンではなく、花王の問いかける価値を理解し、自ら口コミの発信源となってその価値を意欲的に広げてくれる理解者を増やすことになるに違いない。これこそ、ソーシャルメディアの価値を最大限に生かす方向の活動だし、ひいては単に手段としてソーシャルメディアを利用するだけではなく、広告宣伝やマーケティングの領域に留まらない企業全体としての取組みを活性化し、最終的には企業変革を先導していくことも期待できる。昨今、盛んに語られるようになった、『企業のメディア化』にも一番近いところにいると言っていいはずだ。



会社に残る?辞める?


繰り返すが、このレベルの活動が可能となるためには、経営に近いレベルでの理解が進んでいることが前提になると考えられるが、これほど進んだ企業が現段階でそれほど沢山あるとは思えない。だから、というだけでもないだろうが、特にパネルディスカッション4では、司会の徳力氏はこう問いかける。『先進的な取組みをそれを知らない人に説明して理解を得る事はできるのか?』。パネリストは口を揃えて答える。『否』『無理』


パネリストの一人、(株)トヨタマーケティングジャパンの平野義孝氏は、根回しをしないでいきなり決定権者に突きつけるという。泥臭いほど合理的なわかりやすい説明を繰り返し説明者に求め、根回しも重視されるトヨタでそんな事ができるのか、という会場の空気だったが、かつて内側にいた私は多少そのニュアンスはわかる気がした。それだけ日本国内では車が売れなくなっていて、その強い危機感はトヨタ内では誰もが共有しているということだろう。そういう危機的な状態での『可能性があるなら何でもやれ』という開き直りは、この会社のもう一つの遺伝子だったりする。過去、その遺伝子が何度もトヨタの危機を救って来た。だが、他の会社ではどうだろう。どれほどの危機に見舞われても優柔不断に決断できないままに沈んで行くケースの方が多いのではないか。



会社の枠を越えた交流


では、企業内でソーシャルメディアの価値に気づいてしまった担当はどうすればいいのか。説明は不可能で、理解者もいない。会社を辞めればいいのか。それもオプションの一つだろうが、会社を辞めても辞めなくても、おそらくこれだけは言える。ソーシャルメディア、というよりはここではソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)と言ったほうがよいのかもしれないが、これを十全に生かして、会社の枠を越えた理解者同士の交流を深めておくことだ。企業にいようがいまいが、企業がつぶれようが、一広告宣伝マンとして生き残り、やりがいのある仕事を続けたければ、それは必須だと思う。そして、その交流こそがソーシャルメディア高度利用という点でも次の最先端の進化を生むはずだ。逆に企業経営者側は、この事実から目を背けることなく、企業と個人のあり方を再定義して、個人の活力を企業で生かすことを考えたほうがいい。



最後に


相変わらず実に散漫な感想になってしまったが、参加させていただいた立場からは大変多くの考えるヒントをいただけたことに心から感謝している。あらためてこの場をかりて感謝の意を表するとともに、AMN5周年、心よりお喜び申し上げる。



<ご参考>

http://mainichi.jp/select/biz/it/news/20120309mog00m020025000c.html

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