「直感」が経営判断の最も重要な要素になる日


明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。


情報の氾濫をあらためて実感



今年はカレンダーの具体で年末年始のお休みが短かったせいか、例年よりあわただしかった気がする。それでも、普段より少しは時間を取れる環境にあったため、自分の情報ソースや集めた情報を整理してみた。また、新たな情報ソースとして有用なものをピックアップして、目に付きやすい場所(iGoogle上等)に置いて見るようなこともやってみた。そして、今更ながら思った。


何という情報の氾濫!


何時の間にか、自分が普段接する情報ソースが陳腐化して、もっと有用なソースが沢山出てきていて、最先端の重要な議論を見逃していたことに気づく。そこまでしてまでキャッチアップする必要があるのかとも言われてしまいそうだが、少なくともある程度「情報」やそれをベースにした議論を仕事として取り組もうと決意を決めている身としては、これは由々しい事態である。それに、現代のビジネスに片足なりとも突っ込んでいる人なら、多かれ少なかれこの情報氾濫の時代にどのように自分を適応させて行くのかということ自体が競争となっていて、現実に生き残りの鍵となっているのだから、誰にとっても他人事ではすまなくなってるはずだ。



拠り所がなくなってしまった


特に昨年は、311を契機に、マスコミ(の情報)に対する懐疑が一般人にまで広がったエポックメーキングな年だった。同時に、tiwitterやFacebookのようなソーシャルメディアの有効性に注目が集まった一方、デマの拡散や怪しげな意見が続出して、メディアと自分との関係に見直しを迫られた人が多かったと思う。正確な、あるいは、自分にとって本当に必要な情報をどう取得するのかということもさることながら、その情報を元にどのように正しい、有意義な判断を下していけばいいのか、どうすればそれができるのか、拠り所をなくしてしまったと感じた人も多かったのではないか。



混乱の時代を象徴する原発問題


特にその典型例として日本人の心にずっしりとのしかかってきた問題の一つが、原発問題だったと言える。政府やマスコミの情報がすべて正しいとはもう誰も思わなくなっただろうが、一方で、インターネットに氾濫する反原発派の人たちの情報もピンキリで、誰を信頼していいのかわからない、というのが大方の人の実感だろう。だから、「あらためて厳密な事実だけに基づいた科学を中心に据えてきちんと議論を重ねよ」という意見はもっともで、日本だけではなく、世界の命運に関わるような重大な案件なのだから、世界中の優れた学識者が議論を重ねることのできる場をもっと整備することには基本的には大賛成である。



何を信じればいいのか


だが、一方で、これほど重大な案件でさえ、科学的に厳密な情報を集めることも、最高の頭脳の持ち主による議論を重ねることも、現実にはそれほど簡単ではない。しかも科学的な事実とそれを社会にどのように取り入れて行くのか、それを含めてどのような社会をつくっていくべきなのか、というような問いかけに正しい答えを得ることは尚一層難しい。情報がないからというより、情報がありすぎて、何が正しいか、今何を重視すべきか、捌くこと自体がものすごく大変だ。しかも、今では原発問題以外にも、年金問題少子化問題財政赤字問題等、政治的な問題に限定しても、嫌になるほど困難な問題が次々と押しよせてくる。考えることが多過ぎてどうにもならないのに、どの情報源も、どんな賢い人でも、何をどこまで信じていいのかわからない。それが「現代」だ。



2012年以降の最大の課題


このように考えると、あらためて、東浩紀氏が「一般意志2.0」で展開した議論がいかに今日的で、誰もが直面する日常的な問題なのかを実感させられる。誰も、どんな問題についても科学的に(あるいは理性で熟考した結果として)正しい事実を手にすることができるわけではなく、熟議を重ねることができる時間も余裕もない中で、それでも何らかの判断を都度迫られる。そのような状態を根本的に回避できる方法はないと言わざるを得ないし、そもそも熟考し、熟議したからといって最適解が簡単に見つかるわけでもない。


そして、その改善策(あえて解決策ではなく)として、一般意志=無意識の可視化を行い、参考に供していくという東氏の提案につながっていくわけだが、これは、個々人にとって、今/ここでどうすればいいか、という点に対する具体的な回答というわけではない。また、ジャーナリストの佐々木俊尚氏が提案して以来、拡大解釈を含めて大変多くの人が口にするようになった『キュレーター』を見つけて行くことは、もはや誰にとっても必須の課題となった感があるが、最終的にどのようにすれば最適のキュレーターを見つけ、そこから最良の知恵をくんで行くことが出来るのかという点についてはもう少し探求し、試行錯誤していくプロセスが要りそうだ。


では、不確かな情報の洪水の中で、少しでも賢明な判断をするためにするためには、今、まず第一に必要なことは何か。現代人にとって最大の問題に対する、今すぐ取り組める対応策をどう探求していくかという課題こそ、まさに2012年以降の最大の課題と言っていいのではないか。



ヒューリスティック


その点で、私が今一番注目しているのは、最近急速に浸透してきた「行動経済学」で取り上げられている「ヒューリスティックス」という概念だ。(従来は、主に計算機科学や心理学で使われる概念だった。ここでは行動経済学による定義に基づき話を進める。)


これは、一番近い日本語をあてるとすれば、「ひらめき」「直感」ということになるだろうか。限られた時間の中で、とっさの判断や意識決定を求められた場合、情報を十分に精査する余裕はなく、瞬時に情報を取捨選択して決めるしかない。その際には、誰しも「直感」に頼らざるを得ないが、その場合の直感がここでいう「ヒューリスティック」に近い。



直感=不真面目?


直感と言えば、私がかつて奉職していた自動車会社では、この「直感」を口にするすることがはばかられるムードがあったことを思い出すが、厳密な品質管理、原価管理に基づく、「改善」を強みとする製造業の現場では多かれ少なかれ今でもそういう雰囲気がある。実際その曖昧さを許さない厳密さが多くの日本の製造業の競合力の中核となっていたことは事実で、愚直で飛躍はないが安全確実な事実に基づく現場管理を重視する空気の中では、時にものすごい飛躍をもたらす可能性があるとは言え、間違いも多く不確実な「直感」を口にすることは、不真面目さの象徴のように看做されることも少なくない。



直感=時代を切り開く?


だが、一方で、昨年惜しまれながら亡くなった天才スティーブ・ジョブズ氏の豊かな直感力に世界が目を見張ったように、直感力こそ時代を切り開くのではないかと、それこそ「直感」した人は少なくなかったはずだ。それに、どのように厳密に「事実だけ」に心がけている人でも、事実かどうかわからない大量の情報や意見を相手に、必ずしも分析/吟味する時間もなく、スピード重視で判断を求められるということが現実に沢山起きてきている。多かれ少なかれ皆直感的に判断を下していると言っても過言ではない


そして、今後はより一層情報が溢れる一方で、さらにスピーディな判断が求められるようになることはもう避けられない。だから、誰にとっても、如何に直感的な判断を的確行うことができるようにするか、また直感による判断が誤りやすいところ(直感の弱点)を出来るだけ具体的に知って、少しでも自分の直感的な判断の精度を上げ、間違いをなくして行くためのノウハウこそ、ビジネスマンならずとも誰にとっても最重要なノウハウの一つとして認知されていくのではないか。



留意すべき点


今回は具体的なノウハウや留意事項について詳しく述べる余裕がないので、一例を示し、おりを見てまた探求した結果をご報告したいと思う。


行動経済学の研究成果によれば、人は膨大で不確かな情報しか無い時に迅速な判断を求められると、物事を大づかみで直感的に把握することを迫られる。そのために、複雑な物事をできるだけ単純化し、利用しやすい限られた情報や記憶に頼る。それは、時に驚くほど正鵠を得た判断を引き出すこともあるが、物事を単純化するあまり、事象を過度に単純化してしまい、画一的になり、そもそも人は往々にして経験主義に縛られがちなこともあり、新しい要素を見落とし、適正な判断をする妨げになってしまうことも少なくない。


すなわち、情報氾濫の時代に正しい判断を下すためには、従来以上に以下のようなことに気を配ることが必要になると考えられる。

・経験を過度に重視したり、成功体験に固執することが従来以上に
 リスキーであることを認識して、自分が経験や特定の権威の
 言うことに囚われていないか常に反省を怠らないこと。


・最初に目に入った数字や、最初の強い印象に判断が引きずられて
 いないか、都度自分を振り返る習慣をつけること。


・直感的な違和感等の感覚を大事にして、論理だけに判断の采配を
 与えてしまわないようにすること。

等々



一早く取組みたい


情報処理能力の限界を誰でも感じるようになればなるほど、このような学問分野にもどんどん光があたるようになるとは思うが、社会の常識になるにはまだ相当時間がかかるだろう。であればこそ、個人として市場での価値を高めたいと考えている向きには、積極的に取組むと面白い領域だと思う。さらには経営判断のノウハウとして昇華していくだけの価値があると私はかなり真面目に考えている。


<ご参考>

最新 行動経済学入門 「心」で読み解く景気とビジネス (朝日新書)

最新 行動経済学入門 「心」で読み解く景気とビジネス (朝日新書)

ヒューリスティクス - Wikipedia