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劇的な構造変化の予感と光明/WISH2011+


WISH2011+


9日7日(水)にアジャイルメディア・ネットワーク(AMN)*1主催で開催されたWISH2011+に参加してきた。 これは『日本のWebサービスの明るい未来を担う新サービス発掘プレゼンイベント』ということで、2009年から始まったイベントだが、従来は無名のサービスの紹介を目的として、リリース前のサービス中心だったのが、リリースしても勢いを失ってしまいがちな日本のWebサービスを支援できるようにとのコンセプトの元、今回はリリース済みのサービスのみを対象として開催された。


開催形式はまだ試行錯誤が続いており、昨年は休日である土曜日に開催されたが、今年はサービスのプレゼンおよび表彰は夜(19:00〜22:00)に行われて、それに先立って15:00より関連する対談とパネルディスカッションが行われた。



開催概要は下記の通り。


・開催日:9月7日(水)

・時間 :

  14:30 開場

  15:00 第一部 ソーシャルメディアサミット開始 オープニング

  15:10 オープニングトーク 「日本ならではのベンチャーの作り方」

  16:10 パネルディスカッション1

      「日本のベンチャーのグローバル展開への課題と期待」  

  17:00 ソーシャルメディア活用企業調査発表

  17:30 パネルディスカッション2

      「新サービス・新製品にとってのソーシャルメディアの可能性」

  18:30 第一部終了


  19:00 第二部 WISH2011オープニング

  19:25 プレゼンテーション 1st Half開始

  20:30 プレゼンテーション 2nd Half開始

  21:30 表彰式


・プレゼンター: http://agilemedia.jp/wish2011/presenter-list/

・開催場所:ベルサール九段

・全般  :  http://agilemedia.jp/wish2011/




良くできた企画


AMN主催のイベントは、社長の徳力氏の性格もあるのだろうが、通常ストーリーラインが非常にわかり易く引かれていて、司会も『今聞くべきと世の中で認知されていることは漏らさず押さえる』というタイプのため、個々の発言者に多少のばらつきがあっても、全体としてのまとまりがいい。この種のイベントを纏め上げる上手さは流石だと思う。野球に例えれば、ホームランは少ないがコンスタントなヒットを打つシュアなバッターとでも言うのだろうか。


今回のイベントもホームランが飛び出したというわけではないのだが、わかり易いストーリーラインのその奥に未来に繋がる多義的な解釈を許容する演出も感じられ、熟練の味をイベント全体から感じ取ることができた。このAMN独特の雰囲気には好き嫌いは分かれるかもしれないが、少なくとも私は大変楽しむことができた。




少々心配したオープニング


オープニングは徳力氏と(株)はてなの社長の近藤氏との対談で始まる。私は、私自身のブログをはてなで書かせていただいているし、改革の先頭ランナーとも言うべき近藤氏のことは尊敬もしている。試行錯誤も失敗も、失敗に苦悩する姿も、非常に率直に表明するスタイルも嫌いではない。だが、プログラムに近藤氏の名前を見て、正直なところドキッとした。梅田望夫氏という、一時期日本のインターネット業界の明るさを象徴するオピニオンリーダーのバックアップを得て輝いていた近藤氏も、梅田望夫氏の「日本のインターネットは残念」発言に軌を一にするように、一部に迷走と揶揄されるような試行錯誤を繰り返すようになる。シリコンバレーの進出と撤退、東京から京都への本社の移転、カリスマエンジニアとして名前を売っていた伊藤直哉氏の退職等、それ自体失敗との評価はできないまでも、昔の破竹の勢いを知る者から見れば、いずれも低迷の印象を受けるものだった。それはまさに日本のインターネット業界全体の苦悩を象徴しているようにも見える。所詮、日本のトップランナーシリコンバレーの壁は厚いということではないのかと。



重要な伏線としての近藤氏の発言


だが、後で振り返ると、近藤氏の発言は重要な伏線になっていたことがわかる。氏はここでこう言う。

シリコンバレーのエンジニアも日本のエンジニアもほとんど実力差はない」


「自分でサービスを作れる人が経営をやるのが一番いい。」

発言があった当初は、会場の雰囲気も、Twitterで流れたTweetを見ても、賛意を表明する人がいる一方で、違和感を表明する人が何人もいた。少なくとも、真意がよくわからず困惑する人が続出した感じだった。それはそうだろう。エンジニアの実力、ハングリーさ、MBAとのダブルキャリアのエンジニア等、どれをとっても日米のエンジニアには、隔絶した差がついてしまっているというのが最近の「定説」だし、webサービスをマネタイズして、事業として成立させるためには、ある時点からは、サービスをつくることは知らなくても、経営や財務、金融の専門家が必要になる、というのも「定説」(都市伝説?)だろう。近藤氏は一体何を言いたいのか、そう思った人も少なくなかったはずだ。


だが、この発言の含意(真意)を、私の解釈を多分に入れて、こう言い直してみるとどうだろう。

1. IT/インターネット業界において、日本企業よりシリコンバレー企業の方が成功する理由は、エンジニア個々の実力差以上に、市場と経営者の人物像を良く知るベンチャー・キャピタルの存在、起業を社会的な成功の頂点に置く国柄、失敗しても再挑戦が出来る制度、失敗を許容し起業家を応援する周囲の雰囲気等、環境の違いが非常に大きい。



2. 如何に組織を維持管理し資金を調達することが重要だからと言って、サービスづくりを理解せず、その本質を語ることができない経営者が優勢になってしまうと、優秀なエンジニアは会社を去り、コアとなって自社サービスを支えてくれるファンとしての顧客も去り(場合によってはクレーマーに転じ)、長期的なビジョンや物語を経営として語ることができず、結果、企業としても失敗してしまう。


ずっとリアルに感じられたのではないだろうか。




ベンチャーにとって劣悪な日本の環境


第2部の「日本のベンチャーのグローバル展開への課題と期待」と題したパネルディスカッションは、ベンチャー・キャピタル関係者による討論会だったが、まさに日米の環境の違い、というより、日本のあまりの環境の劣悪さについて再確認させられるセッションとなった。



ざっとこんな感じだ。

『米国では良いコンセプトだけで10億円単位のお金が集まるが、日本では数千万円がいいところ』


『ある調査によると、成功した起業家が尊敬されるかとの問いに、米国では80%がYesだが、
日本では50%以下』


『日本では大企業はベンチャーを相手にしないし起業家に敬意を払わないが、米国では正反対』


『ある調査によると、自分は経営者の素質はあるかとの問いに、
米国では80%がYesと答え、日本では10%以下(世界最低)』


唖然とするほど、ベンチャー/スタートアップ企業にとって環境が劣悪なのが日本であることをいやになるほど再確認させられる。だから、日本の学業成績の良い若者は大企業を目指す。司会の徳力氏が、『日本の企業社会では「AMN社長」の肩書きより、「元NTT」というほうが受けがいい』というエピソードを紹介していたが、笑えないものがある。



大企業は見通しは暗いが若者は入りたがる


では、そんな日本の大企業はIT市場で生残れるのかと言えば、その答えにYesと答える人を探すのは難しくなりつつある。少なくともWISH2011+の参加者の多くはその問い自体を愚問と退けるに違いない。私も、先日のエントリーで書いた通り、この戦場で生残れるのは、プラットフォームの勝利者だけであり、日本の大企業は今のままではプラットフォームの勝利者になるのは難しいと思う。だが、日本の若者はそれでも大企業に入ろうとする。何とも陰鬱な光景と言わざるをえない。

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ベンチャーのほうがチャンスがある?


しかしながら、パネルディスカッション2で登場するベンチャー起業家として成功し始めている面々、あるいは、プレゼンターの若者たちを見ていると、そんな陰鬱さとは無縁で、イキイキと楽しそうだ。今日の大企業にいる若者と比べて、非常に良い笑顔をしている。これほど環境の悪い日本でベンチャーを始めて、イキイキしているとは。単に無神経なのか。もちろんそうではない。彼らには今の自分たちのあり方に自信を持つだけの理由があるのだ。プラットフォームは大方Googleやアップルのような米国企業が抑えてしまって来ているが、一方でそのプラットフォーム競争が行き渡った市場は極めてインフラが整備された環境とも言える。大企業には使い勝手が悪くても、ベンチャー起業家はこれを利用することで大きな成功を得る可能性がある日本の大企業の垂直統合は解体の危機にあるが、一方で市場で進展している水平分業体制のおかげで、日本のベンチャーにも成功を手にするチャンスが巡って来ているということだ。



高度に利用されるソーシャル・メディア


パネルディスカッション2の題は「新サービス・新製品にとってのソーシャルメディアの可能性」だ。登壇したベンチャーCEOは、言わばソーシャル・メディアの高度利用の実践者ばかりである。先日私自身のブログで、河野武氏の新著の書評を書いて、ソーシャル・メディアになじみのない企業が個人のキャラクターに頼ることのリスクについてふれた。ある程度の規模のある会社にとっては、キャラクターに頼らず組織で取組むことは、やはり正しい選択だと思うが、ベンチャーでは大抵組織ではなく、CEO個人が直接取組んでいる。皆、口々に、『人まかせにせずに、信念と思想を持ってぶれることなく自分自身ユーザーと徹底的に向き合っている』と語る。そして、ソーシャル・メディアの大きなレバレッジ効果の恩恵を皆肌で感じているようだ。(株)Cerevoの岩佐社長など、『ソーシャル・メディアの利用の結果は良いことばかり』と言い切る。最近、日本企業にとって暗いニュースばかり見ることが多い私など、輝く光明を見た思いがした。

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劇的なパラダイムシフトの予感


おりしも、東浩紀氏が編集した『思想地図β Vol2』*2を拝読していたら、ジャーナリストの佐々木俊尚氏の寄稿文があって、まるでこの現場を見て来たかのように語ってあるのを見て、我が意を得た思いがした。


アプリケーション開発は通信キャリアとの一体化した垂直統合的人間関係から解き放たれ、水平分業的で流動的なオープンプラットフォームへと変わっていく。収益の多くはアップルのようなプラットフォーマーに取られてしまうが、一方で個人や小さなビジネスチームにとっては大きな可能性をもたらすのだ。


これは産業構造に劇的なパラダイムシフトをもたらしつつある。将来、プラットフォームは海外企業に収奪されてしまい、垂直統合でやってきた日本の大企業が食えなくなって行く可能性はあるだろう。一方でグローバルプラットフォームに乗っていく小さな中小企業、個人事業主が今よりも大きなチャンスを得られる。そういう二極化が進んでいくということなのだ。


同掲書P139

プレゼンテーションについて


プレゼンテーションの中では、やはり大賞とオリジナル賞を獲得したZaimは特に素晴らしかった。家計簿という日常のさりげない課題を、さらりとセンスの良いアプリをつくることによって解決し、しかもソーシャルを使って楽しく継続的につけれるように工夫する。コンセプトがユニバーサルなので、世界中で支持される。さらには蓄積したデータは貴重なマーケッティング・データとしての利用価値が高そうなことも予感させる。本当にたいしたものだ。

日本最大級!無料の家計簿アプリ・レシート家計簿「Zaim」


また、日頃の「小さなありがとう」を簡単にギフトとして 送ることができるサービス、Giftee(AMN賞とイノベーション賞を獲得)もサービス設計のセンスが実にいい。これなどまさに、TwitterFacebookというプラットフォームの恩恵を最大限生かしているサービスと言える。

ソーシャルギフトのgiftee(ギフティ) | ソーシャルギフトサービス



個人的には、ソーシャルファッションサイト、iQON(アイコン)の発想も好きだ。商品単体ではイメージできない自分の生活シーンや世界観も、他のアイテムの中に置いてみることで確認出来るだけではなく、場合によっては商品の新しい価値を発見することができる。

iQON|おしゃれが見つかる、欲しいが買える。


その他プレゼンテーションも、どれも本当に刮目してみる価値があるものばかりで、時間を忘れて見入ってしまった。次回の開催は未定というが、是非また開催して欲しいものだ。そういう意味で、次回開催に賛成の一票をここで投じておきたい。