第7回ジオメディアサミット/3.11後をリードするジオメディア

第7回ジオメディアサミット概要


6月8日に東京大学駒場リサーチコンベンションホールで行われた第7回ジオメディアサミットに参加してきた。
第7回ジオメディアサミット : ATND


開催概要は以下の通り。


テーマ:      ジオメディアにできること
日時:       2011年6月8日(水) 18:00〜21:00 ( 懇親会 21:00〜 )
会場:       東京大学 駒場リサーチキャンパス コンベンション・ホール
           http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/map/komaba.html
参加者:      300名 (定員)
公式ハッシュタグ: #gms2011 (search.twitter.com)

第一部:講演 震災対応とジオメディア

・ヤフー株式会社:BS事業統括本部 地域サービス本部 佐藤 伸介氏
・グーグル株式会社:三浦 健氏
本田技研工業株式会社:ホンダ インターナビ室長 今井 武氏


第2部 パネルディスカッション 

モデレーター:株式会社ゴーガ 小山文彦氏

登壇者:

本田技研工業株式会社:ホンダ インターナビ室長 今井 武氏
・ヤフー株式会社:BS事業統括本部 地域サービス本部 佐藤 伸介氏
・グーグル株式会社:三浦 健氏
首都大学東京渡邉英徳研究室 渡邉英徳
・sinsai.info:総責任者 関治之氏


第3部 ライトニングトーク
http://geomediasummit.jp/news/2011/06/07/gms-7-lightning-talks/



3.11後のトレンドセッター


今や日本のIT業界では有数のイベントの一つであるジオメディアサミットは、すでにGIS、地図製作等の個々の業界の枠を越えて、日本のIT業界全体のトレンドセッターの役割を担う存在に成長してきていると言っていい。しかも中核に位置情報を置きながら、その裾野は非常に広範囲に及んでいる。だから、今ジオメディアサミットから発信されるメッセージは非常に重要で、かつ含蓄がある。3.11という未曾有の危機に見舞われた日本のIT業界のトレンドがこれから変化していくのであれば、必ずやここでその徴候をつかむことができるに違いない。そのような期待を持ってサミットに臨んだが、やはりその期待は裏切られなかった。



やや堅めの話題が中心


震災という非常にシリアスな出来事に正面から立ち向かった活動の報告が今回のメインテーマだったこともあり、どうしてもGIS技術系、インフラ系エンジニア/サービス等、やや堅めのメンバーとその話題が中心であったことは事実で、しかも今回は従来にはあまり例のない、重厚長大産業を代表するホンダのプレゼンテーションが行われるということもあったのか、登壇者や参加者もややロー・キーで、緊張気味だった印象がある。通常、『屈託のない明るさ』『フラットでざっくばらん』がジオメディアサミットを包む全体の空気であることを考えると異例というべきなのかもしれない。(もっとも、これもまた震災後、世上で起きているトレンド変化と言えないこともない。)ただ、それでも、当のホンダの今井武氏が、ジオメディアサミットの柔らかでざっくばらんな雰囲気に違和感を感じ、終始困惑気味だったのはお愛嬌というところかもしれない。



災害時の位置情報インフラの重要性


震災によってシステムやインフラが分断/崩壊してみると、巷間、位置情報系インフラの重要性/有用性が非常な切迫感を持って再認識されることになった。それにしても、何と多岐に渡ることだろう。私もYahoo!の 佐藤伸介氏 やGoogleの三浦健氏のプレゼン資料を見ながら、すでに一通り時系列でチェックして来たはずなのに、それでも、まるで連想ゲームのように出てくる『ニーズ』に終始圧倒され続けていた。(避難、停電、運休、物資、給水、医療、放射能、自動車交通・・・)しかも、被災現場では一瞬一瞬状況が変わり、情報は常に新しくなければ意味がない。さらには必要な情報自体、刻々と変化する。この状況で機敏に動くことのできる人や組織は、余程普段から訓練され、準備ができているというしかない。


今回の登壇者は皆震災直後、主要プレーヤーとして活躍した人や組織だが、なるほど、上記の意味で十分に納得の行くメンバーばかりだ。地図インフラに普段から総括的に取組む、GoogleYahoo!、自動車交通関連の情報発信/収集に業界で最も熱心に取組んでいるホンダ、大学関係者、NPO、優秀な独立心のあるエンジニアを中心としたボランティア等、錚々たる顔ぶれである。



公より民


本来政治家、官僚組織、公的機関にこそ緊急時のリーダーシップと機敏で的確な対応が望まれるところだが、特に原子力発電所事故問題で露になった通り、この国では政治のリーダーシップが危機的な状況にある。しかも、『平時』を前提に組成されている行政官僚組織は、緊急時にはうまく機能しない。加えて、そこに専門性の高いメンバーが集結しているとは限らないばかりか、余計な政治や調整が持ち込まれる恐れさえある。また、この種の情報収集/提供にあたってはレベルの高いソフト・エンジニアと集合知の効率的な利用が不可欠だが、そういう点でも、『世界で最もIT利用が進んでいない国の一つ』というありがたくない評価を頂いている 日本の現在の『公』組織に多くを望むのは酷というものだろう。


しかも、Googleの三浦氏の講演で非常に印象的だったのは、Googleにはすでに世界の他の地域の災害での経験(Person Finderの例等)を持ち、その教訓を生かしていること、そして、今回の日本での経験の蓄積が今後の世界の災害発生時に活かされて行くであろうということだ。そこに自らの高い技術や経験を提供できるボランティアが集結すると如何にダイナミックな活動ができるか、はっきりと目撃することができた気がする。日本では公的なことは何でもお上まかせで、お上の構築したシステムに盲目的で過剰に依存する傾向があるが、その危うさも今回の震災が露にしたことの一つで、今後マインドセットが劇的に変化する兆しがある。そして変化が本当に始まるのであれば、先頭を走るのはジオメディア関連のメンバーであることは間違いない。今回私はそう確信した。



具体性が生むエネルギー


また、もう一つこれも大きなトレンド変化と言っていいと思うのだが、震災前までは、『位置情報社会インフラの重要性』、『安心安全のための位置情報』等もちろん語られて来たわけだが、どこか抽象的で実感に乏しかったと言わざるをえない。ところが、震災後には課題がすべて非常に具体的になり、山のように出て来ている。具体的な議論もできるし、目標設定も具体的だ。すると大変興味深いことに、エンジニアはじめ、関係者は(仕事は大変だが)実に活気づくことになった。目に見える目標とやりがいを持てるようになった。


歴史的に見ても自然災害が常に起きることを前提とせざるをえない日本という国では、いくら家を建て、街を作っても周期的に地震で破壊され、津波に流されてしまう。だからこそ、『また何度でも再出発する』、ということに慣れたところがある。海外の人々が驚く程、災害をあっさりと受け入れ、気持ちを切り替えてゼロから出発しようとする。その覚悟を決めることでむしろエネルギーが湧いてくるとさえ言わんばかりだ。そのエネルギーをジオメディア関係者にも感じることができる。



根本から考え直す時


ただ、それは戦後復興のような局面では明らかなメリットとなって再興のエネルギーとなるが、一方で、解決しておくべき問題まで『水に流して』しまう傾向がある。だが、今までの災害と明らかに違うのは、今回は原子力発電所事故問題が、そのようなマインドセットを許さないことだ。原子力事故問題は簡単には終息せず、今後5年、10年と格闘し続ける必要がある。しかも、地震津波に関しても、まだこれから『関東大震災』が来ることが確実と言われているような状態だ。未だかつて経験したことのない仕方で世界に向いあうことを根本から考え直す必要がある。何とも大変な世の中になったものだが、ジオメディア関係者は枝葉末節にこだわらず骨太で具体的な仕事ができることを僥倖として、3.11後の世界をリードして行くことができるし、その責任もあると思う。



ジオ『メディア』の課題と期待


別の課題もある。講演でもパネルディスカッションでも、登壇者が異口同音に語っていたのが、震災地の外にいて被災者によかれと思って提供する情報やサービスが本当に震災の被害者に必要とされているのかわからないということだ。だが、この地域ごとの住人や被災者の情報をきめ細かく収集し、編集し、最適化された情報を発信する役割は、本来位置情報系、中でも位置情報サービスに従事するメンバーに課せられた第一のミッションとも言うべきところだ。今回の震災では、TwitterFacebookのようなインターネット上のいわゆるソーシャル・メディアが緊急時の社会インフラとして非常に有用で機能したことが大きくクローズアップされたことは記憶に新しい。だが、ジオメディアサミット登壇者の活動する現場では、実際にはまだ情報の相互流通に大きな課題が残っていることが明らかになったとも言える。ジオメディアの『メディア』の部分に課題が残り、それ故にこそ、今後この分野にさらに期待と注目が集まるのではないだろうか。



楽しみなライトニング・トーク


ライトニング・トークについてほとんど言及できなかったが、相変わらず大変楽しい発表が目白押しで、参加者の意欲も力も旺盛であることがわかって嬉しかった。中でも私が印象に残った人を一人挙げるとすれば、GigaPanを紹介したマップコンシェルジュ株式会社 の古橋氏だ。比較的手軽に扱えるカメラでありながら(普通のデジタルカメラを「GigaPanイメージャー」と呼ばれる装置に取り付けて行なう)、広範囲の風景を自動的に撮影して、風景全体を体系的に取り込み、一つの継ぎ目のないパノラマ写真に合成することができる。しかも、 10億画素というから画像の解像度が非常に高くズームインしてもものすごく奇麗に見える。これなら、災害救助活動に役立つだけではなく様々な用途に活かされて行くに違いない。KML形式ファイルに変換可能というから、Google Earthに貼付けることも可能だ。今後が本当に楽しみである。


GigaPan | High-Resolution Images | Panoramic Photography | GigaPixel Images

Gigapan

任意の場所をズームイン:写真合成システム『GigaPan』|WIRED.jp


また今回は時節柄あまり注目されなかったきらいがあるが、セカイユウシャや位置情報×ゲーム『TREASURE SQUARE』のようなエンターテインメント系サービスの市場も時が至れば必ず復活してくると思う。今は試練の時かもしれないが、雌伏し、次の飛躍に備えて欲しいものだ。