ポジティブな『共感』こそ今最も大事な資源だと思う

驚くべき政治の茶番


普段はあまり政治の権力闘争劇にあまり興味がわかない私は、政治関連のTV番組やニュースを関心を持って見るほうではないのだが、管総理の不信任決議をめぐる騒動はさすがに気になって経緯を追ってしまった。結果はすでに巷で大量にニュースやら感想やらで溢れているから、今更コメントをする気力もおきないが、正直、かなり驚いた。現実の政治がナイーブな理想主義だけではいかんともしがたいことを認めるにやぶさかではないが、どうもそんなレベルではないらしい。いくら政治の本質が権力闘争で、理想はあくまで建前とはいえ、およそ政治家というからには、最低限依りどころにする旗頭というのか、世間に対して押し出していく考え方を持っているそぶりをするものだろう。そんな私の見立て自体がすでに現実味がないのか、今回の騒動には、『政権を維持したい』か『政権を奪取したい』という欲望の二項対立以外の構図をどうしても読み取ることができなかった。それ以外の空白感があまりに大きくて、言葉を失ってしまった。



政治も経済も三流?


昔から日本では、『経済一流、政治三流』と言って、国際的なレベルで見た日本の政治のレベルの低さをあげつらって笑いの種にしてきたものだが、今までの笑いには多少なりとも余裕があったことを思い知った。今回ばかりは笑う気にさえなれない人が多いのではないか。一体どうしてこんなことになってしまったのか。


一方、経済もすでに一流とは言えない。2008年1月の国会で、当時の太田経済財政相が『もはや日本は「経済は一流」』と呼べる状況ではなくなったと述べて、物議を醸したものだが、経済状況もさることながら、一流の経営者、財界人と呼べる人が大変少なくなってしまった印象がある。



沸き立つものがない


経営者、財界人であるからには、政治的パーフォーマンスやビジネス以外の活動よりも、本業のビジネスでの成功が第一であることは当然だ。そういう意味では、短期的な勢いにのって、伸し上がる威勢のいい経営者ももちろんいないわけではない。だが、一旦成功した後、注目して見ていても、さらにエゴを拡大したいという欲望以外には内容がまったくないような目標をことさら背伸びして掲げるようなタイプばかり目につく。


お金を儲ける事を否定するようなつもりはまったくない。経営者であるからには正々堂々稼いで従業員や株主に報いるべきだ。それもできずに、ただ地位にしがみつくことにばかり執心する経営者も多い中では、経営者としての責任を果たしているだけ立派だと思う。だが、どうも何か沸き立つものがないことが多い。そういうタイプのお話を聞いていても楽しくないのだ。どうしてだろう。



ポジティブな『共感』の重要性


私なりの答えを一つあげれば、『共感不在』とでも言うのだろうか。それなら協力したい、自分も貢献したい、という、人の『共感』を呼ぶことができる人がとにかく少なくなっている。それが今の日本の最大の危うさだと私は思う


もちろん、今の時代、個人の興味や関心はバラバラで、共通の話題と言えるものも少なくなった。多くの人の『共感』を得ることがこれほど難しい時代も無いというべきかもしれない。だが、だからと言って人々がこの『共感不在』に黙って耐えられるのかと言えば、そうは思えない。むしろ、いつ爆発してもおかしくないような不満、不安、フラストレーションが心の深いところに溜まっているというべきだろう。爆発しなければ、個々人の健康を蝕む方向に向かうかもしれない。これこそが、かつて歴史を何度も蹂躙したカリスマの求心力のエネルギーの母体なのかと思うと空恐ろしくなる。何を大げさな、と言うなかれ。歴史が大きく負の方向に反転して転げる前には、大抵このボイド(隙間、空隙)の時間帯があったことがわかるポジティブな『共感』が埋めなければ、『危険だが力強い負の共感』の求心力が一気にこの隙を埋めて、結果的に社会が正常な判断力をなくしてしまう、ということがしばしば起きる。震災以降、すでにその兆候はあちこちに見られるようになってきているとも言える。(花見は自粛しろ! 原子力をやめて原始生活に戻れというのか! 等々)


ビジネスでも政治でも、どの活動分野でも、今はその中心に、心温まる、抑圧せずとも人が集まるような『共感』があるかどうかよく見極めるべきだ。自分がビジネスをやるなら、この『共感』を呼び起こすことができるかどうか、よく考えてみた方がいい。



ヒントとしての『ディズニーランド』


この点、ヒントの一つは、『ディズニーランド』だ。今回の震災発生時の対応の素晴らしさが賞賛を得ていたが、10代、20代のアルバイトを含むスタッフを見事に動かす行動規準はまた、ディズニーランドのサービスに対する訪問客のポジティブな『共感』の源泉となっている。この行動規準は次の4項目からなり、しかも優先順位がはっきり決まっているという。

「Safety(安全)」「Courtesy(礼儀正しさ)」「Show(ショー)」「Efficiency(効率)」


これがディズニーランドの強力なブランドを形成し、結果的にビジネスとしても大成功している。『ファンタジーランド』の価値を伝えたいという意図が本気であることが伝わってくる。非常にお金は儲かっているけれども、それは強いポジティブな『共感』のもたらした結果であることがわかる。



研究してみるべき時


米国発の成功したビジネスには、このような強い『共感』をベースにした成功例が意外に多い。よく例にあがる、スターバックスやリッツカールトンなども同様で、いずれも強力なブランドだ。背後にキリスト教的な『ミッション』の概念があることはしばしば指摘されるところだが、日本人には咀嚼が難しいと決めつけずに、このエッセンスはよく研究してみたほうがいい


日本でも石田梅岩の「石門心学」のように、儒教仏教、日本古来の神道の思想をベースに商人の営利活動の意味を積極的に評価し、その結果、商人の『共感』を得て、商売発展が促進されたと評価されている事例もある。『ガンジー7つの社会的罪(理念なき政治 、労働なき富 、良心なき快楽 、人格なき教育 、道徳なき商業 、人間性なき科学 、犠牲なき宗教)に対して、これをインド経済停滞の原因とするご意見もあるが、「道徳ある商業」がビジネス発展の原因(遠因)というケースは実は少なくないと思う。少なくとも今の日本はそのような方向で『共感』の輪を広げて行く事が最も必要なフェーズだと私は確信している。