サプライズに沸くジオロケーション・カンファランス

ジオロケーション・カンファラン


3月6日(日)に東京ミッドタウンで開催された『ジオロケーション・カンファランス』に参加した。


開催概要は下記の通り。


・日時: 2011年3月6日(日)14:00〜19:00
・場所: ヤフー株式会社(東京ミッドタウン
・主催: ヤフー株式会社
・後援: ジオメディアサミット

  ジオロケーション・カンファレンス … 技術評論社



ジオメディアサミットの系統的進化?


このイベントはYahoo!JAPANの主催で、タイトル名も違うが、後援がジオメディアサミットということもあり、また参加者/登壇者とも従来のジオメディアサミットの関係者と重なって見えるため、ジオメディアサミットとほぼ同種のイベントになるであろうことを予想しながら参加した。ジオメディアサミット自体、毎回主催者が知恵を絞り趣向を変えながら盛り上げてきた結果、関係者の数は増え、しかも非常に多様化し、すでに狭義の『ジオメディア』の定義に収まりきらなくなってきている。そういう意味で、今後の方向性を模索する時期に来ているわけで、『系統的進化』の結果とも言える今回のようなイベントが派生することにさほど違和感は感じなかった。



大きなサプライズ


だが、今回は非常に大きなサプライズがあったし、それは日本の位置情報関係者にとって、歴史的な一日になりかねないインパクトもあった。日曜日の午後の開催ということもあって、半分眠ったような状態で参加した人も多かったのではないかと思うが(私もまさにそうだったが)いきなり水をかぶって目が覚めた気がした。


登壇者が提供する個々の情報はそれ自体非常に面白く、中には深く考えさせられるような内容も沢山あったのだが、何よりその『サプライズ』のせいで、『閾値越え』『臨界点』『大変革』というような言葉が頭から離れなくなったし、それ以降のすべてのお話をその枠組みで見聞きすることになった。


本格的に位置情報のオープン・ソーシャルに向かうYahoo!


ではそのサプライズとは何か。Yahoo! Japanが自社が保有する地図資産をOpen Street Map(誰でも自由に利用・編集できる地図を作るプロジェクト)を提供する、という宣言である。すでに公表されているYahoo! Open Local Platform(YOLPと略称。インターネット上における地域・生活圏情報がの流通を目的としてYahoo!が作成したデータフォーマットのAPI群を公開)およびYahoo!ロコ(地図やグルメなど、Yahoo!JAPANの地域関連サービスを集約したサイト。4月上旬にオープン。レストランなどの店舗情報をオーナーに登録してもらう「プレイスページ」機能も提供)と合わせてYahoo!の位置情報サービスがいよいよ本格的に『オープン・ソーシャル』に舵を切るという決意表明でもあった。


OpenStreetMap Japan | 自由な地図をみんなの手に/The Free Wiki World Map
ヤフー、YOLPの地図Web API群を公開 ::SEM R (#SEMR)
Yahoo!ロコ - グルメ話題度ランキングとお出かけ情報サイト



もう一方の主役:Open Street Map


驚きの発表を行ったイベントの主催者であるYahoo! JAPANが一方の主役なら、そのYahoo! JAPANによってもう一方の主役に押し上げられたのがOpen Street Mapである。今回は創始者夫妻を迎えて、Open Street Mapの存在を日本の位置情報関係者にもあらためて強烈に印象づけることになった。日本の近年の位置情報ビジネスシーンを先頭にっ立ってリードしてきたGoogleからもゲスト登壇者が参加していたが、今日ばかりは主役の座を譲った印象だった。



話題は先行したが・・


Open Street Mapについては、2000年の半ば(2004年の創設)以降、GoogleYahoo!等のビッグプレーヤーはじめ多くの位置情報関連企業の支援を受けて盛り上がってきていること、欧州等(特にドイツの一部等)では地域住民によって非常に高密度な地図が生成されてきていること、ハイチ地震勃発時には、ボランティアの手でハイチのそれ以前のどんな地図より詳細な地図が急速に出来上がったこと等、話題性に富んだトピックが次々に伝わってきて、いよいよ『地図のWikipedia』の本命が登場したと皆が色めきたったものだ。Wikipediaの成長が、既存の百科事典ビジネスを窮地に追いやったように、既存の地図会社が駆逐される可能性も取沙汰され、業界を震撼させる存在でもあった。日本でも2008年にOpen Street Map Japanが設立され、期待と恐れが交錯する中、関係者は皆固唾を飲んで次の展開を見守っていた。


だが、実際には、日本のOpen Street Mapは閑古鳥が鳴いたままだった。海外の成功事例がまったくうそのようで、日本のOpen Street Mapが活性化する兆しはなく、いわゆる『閾値越え』が日本の市場で起こる気配はなかった。



閑古鳥鳴くOpen Street Map


これはいったいどういうことなのか。当時私が考えた理由(仮説)は次の三つだが、おそらく大方あたっていたのではないか。

1.詳細な地図の存在
(無料のWeb地図、表札データまで入った「住宅地図」等)
2.大スポンサーの不在
3.地域共同体の衰退/ボランティアの不在


ちょうど同じ頃Google Mapsが日本の参入を果たしているが、日本では90年代の後半以降、すでに非常に使いやすい日本の地図会社の無料Web地図が存在しており、2000年代の半ば頃には非常にバラエティーに富んだ様々なサービスが提供されていた。またそもそも、表札データまで入った詳細な地図(住宅地図)まで存在しており、日本のユーザーには一から地図を作成しようというニーズやインセンティブが比較的乏しかった。一方、旧来の日本の地図会社はおしなべて『垂直統合的かつ閉鎖的』で、オープン戦略を自ら進めるようなタイプの会社はなく、Open Street Mapに協力を申し出るような会社はなかった。このため日本のOpen Street Mapは情報を書き込むためのベースデータ(ベクターデータ)が乏しく、これではビルが林立してGPSの測位が難しい都市部ではデータを書き加えて行くことは難しい。


加えて、近年の日本では地域共同体/公共心の衰退は著しく、ボランティアで地図づくりに取り組む団体や個人は存在しないとまでは言わないが、他国と比べても数は少なく、結果、ボランティアの動員力に乏しかった。地域生活圏ではインターネットの利用が遅れているYahoo!JAPAN村田氏)というもっとダイレクトな問題もあった。



転換点になるか


そこに今回のYahoo! JAPANの本格協力である。すでに供給を受けているマイクロソフトの地図(Bing / 写真地図)に加え、Open Street Mapのベースインフラは格段に向上することになる。しかも、この日時を同じくして、AOL傘下の米国のオンライン地図会社であり、すでに全世界に無料で情報の追加を行うことができるOpen MapQuestというサービスを展開しているMapQuest社が日本を対象国の一つとしてサービス展開することを発表しており、これもOpen Street Mapの大きな活性化要因となると見られる。さらには、ライトニングトークで登壇した「こちずぶらり」を提供するATR-Promotionsの大塚氏が当日Open Street Mapに協力を申し出たように、連鎖反応を呼ぶ可能性が高い。



Yahoo!JAPANの狙い


また、既存の地図会社が提供する地図上の情報は、都市部ではかなり充実してきているとは思うが、地域に行くほど量質ともに乏しくなり、さらに詳細な情報(店舗の営業時間等)について見ると、残念ながらまだまったく不足していると言わざるを得ない。だが、詳細なベース地図の提供等で、作業のためのインフラが整備されれば、詳細な地図情報を加えていくモチベーションも再活性化する可能性もある。おそらく、この点がOpen Street Mapに協力を申し出たYahoo! JAPANの最大の狙いで、地域の詳細なリアルタイム情報が集まってくる仕組みとして機能しだせば、現状でのYahoo!の地図の最大のネックを補填できることが期待できる。



残された問題


ただし、残された問題は、これでボランティアの動員が本当に進むかどうかである。環境が整備された分従来より進むことは期待できるが、本格的に『閾値』を越えて、Open Street Mapが日本で地図のWikipediaに昇格するかどうかは、ボランティア、特に地域でのコミュニティが連鎖反応的に動員されていくような状況が実現するかどうかにかかっているように私には思われる。そのためには、地域に『熱気』をもたらすもう一段の何らかの仕掛けづくりが不可欠で、これが閾値越えの最後の鍵になるのではないか。(個人的には、地域SNS等の取組みが突破口になることを期待している。)



別の可能性


だが、少なくともこれからは、Yahoo! JAPANとOpen Street Mapが二つの大きな渦となって、位置情報の領域に従来以上の参入者を呼び込むことになるだろう。地図をベースにしたサービス、アプリ等の競争も圧倒的に激しくなることは確実だ。日本では、こうした位置情報/ジオロケーションビジネスに興味を持つ専門性の高い企業や個人が中間的なコアとなって、地域コミュニティの動員力不足を補い(ゲーム的な要素を導入して参加者を動員する等)、閾値越えを実現する可能性も十分にあると見る。



今後のトレンド


今回のイベントのもうひとつの大きな見所として、今後の位置情報/ジオロケーション関連の技術やサービスの今後の展開に関わる登壇者の見解の披露があったが、これは、Yahoo! JAPANの村田氏のコメント/前提の設定が最も示唆的に聞こえた。『ソーシャルがジオロケーションのテクノロジーを使いたがっている』というのである。私はこれに全く賛成で、おそらくこの5年程度のレンジ、2015年くらいまでの間は間違いなく、ソーシャルの要求するテクノロジーが市場の要求と圧力を得て最も発展する可能性が高い。とすれば、位置情報/ジオロケーションという、地域特性が最も色濃く出がちな領域であるがゆえに、日本の地域事情を丹念に観察しておく必要があるだろう。


例えば、大手の大規模店舗進出により、地域商店がシャッター商店通り化し、あまり良くない方向にフラット化が進んだと言われる地域のショッピングモールなど、今、日本の最新の実情を反映して、興味深い発展を静かに遂げつつある。(東浩紀氏監修の『思想地図β』にはその辺りの事情が数多く紹介されていて興味深い)このような場所(ショッピングモール)を舞台に何らかのサービスを仕掛けていくには、GPSではなく、インドアを含めた何らかの別のメッセージングシステムの利用が有効になる可能性が高い。Augmented Reality等の利用もアイデアも出やすい環境と言えるだろう。他国の事例を研究することも重要だが、先入観を排して、日本の実情のリアルをもう一度調べ直す謙虚さが必要だ。


今後の位置情報/ジオロケーションのトレンドは本当のところどうなっていくのか。当レポートをここまで読んでいただいた上で、Yahoo!JAPANの村田氏がイベントの一番はじめに引用した、Where2.0 2011のtrends and topics』 をじっくりと読むと、今まで見えなかったものが見えてくるのではないだろうか。


http://where2conf.com/where2011

ジオロケーション(位置情報)界隈の2011年の技術トレンドやトピックス


<ご参考>

チミンモラスイ! : 「ジオロケーション・カンファレンス」に参加

「ジオロケーションカンファレンス」に行ってきた。 #geoconf : utlog

「ジオロケーション・カンファレンス」を開催します (Yahoo! JAPAN Tech Blog)

Yahoo! Japanが”地図界のWikipedia”オープンストリートマップに地図を提供【本田】 | TechWave テックウェーブ

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