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本格普及期突入の予感『Augmented Reality』

AR Commons


12月18日(土)、慶応大学三田校舎で行われた、『AR Commons』のイベントに参加してきた。開催概要は下記の通り。


日時: 12月18日(土)、18時〜20時50分
場所: 慶大・三田キャンパス、南館4F会議室


プログラム:


18時〜18時50分
Zenitum社によるプレゼンテーション&質疑応答
アルバート・キム(Zenitum, Inc.、Founder/CEO)


19時〜19時50分   
トーク・セッション:「ARマーケティングの未来」
スピーカー:津田賀央(津田賀央(株式会社 東急エージェンシー、クリエイティブ・ソリューション本部)、石川淳(株式会社 プロントコーポレーション、経営企画室、情報システムグループ・経営企画グループ、マネージャー)、寺井弘典 (株式会社 ピクス、取締役/クリエーティヴ・ディレクター)
チェア:岩渕潤子(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科、教授)


20時〜20時50分
AR Commonsメンバー、及び、AR関連企業による最新動向のお知らせ
スピーカー:平川祐介(株式会社ゼンリンデータコム、営業本部営業戦略室)、石古暢良(株式会社レピカ/アララ株式会社)、津田賀央(津田賀央(株式会社 東急エージェンシー、クリエイティブ・ソリューション本部)
チェア:稲見昌彦(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授)



ARとは


ARとは、『Augmented Reality』の略称で、日本語では『拡張現実』と訳され、Wikipediaの説明をそのまま拝借すると、『現実環境にコンピュータを用いて情報を付加提示する技術、および情報を付加提示された環境そのものを指す言葉』である。まだ特殊でマイナーな領域と言わざるをえないが、iPhoneやアンドロイドのサービスとして人気を博した『セカイカメラ』等のサービスの出現によって日本でも知名度が上がって来ている。

拡張現実 - Wikipedia
セカイカメラ - Wikipedia



セカンドライフの夢を継ぐ存在


非常に注目されながら、メジャーなサービスとしては結局開花しなかった、『セカンドライフ*1は、バーチャル世界に、架空現実を作り上げ、その中に自分自身をアバターとして参加させることでリアルとバーチャルを融合することを目指すサービスだが、AR のほうは現実世界に、バーチャルなアイテム等を重ねたり置いていくため、コンセプトは一見真逆とも見える。


だが、リアル世界から始めながら、視覚を中心としたバーチャルを重ねていくことで、独自の自由度の高い、それでいて現実味のある世界を創り上げることができること、あるいは、身体や感覚に関わることで、非常に感性を深いところから刺激し感動を引出せること等、魅力の源泉を一にする存在と言える。セカンドライフに魅了された人達の多くは、セカンドライフで果たせなかった夢をARに重ね、期待する。平凡な世界を、ワクワク沸き立つような楽しさで彩ってくれる可能性を感じてしまうのである。


今回、AR Commonsのイベントに出てみて、登壇した人も、ここに参加した人にも、ARの魅力に射抜かれた感じの人がすごく多いことを何よりまず感じた。ビジネスとしての可能性を冷静に分析して合理的に考えればもっと先に取り組むべきことは沢山あったのかもしれない。だが、非合理と言われようが、何とかしてみたい、そういうやむにやまれむ気持ちというのはあるものだ。



ステージが変わった?


ただ、今回もう一つ非常に印象的だったことがある。皆、すごく元気で、興奮気味であることだ。例えば、今回の登壇者の一人である、慶応大学の稲見教授のお話は、2008年の5月に国際大学主催のセミナーで伺ってブログにも書いたことがある。

セミナー「AR時代の技術」 様々な五感拡張テクノロジーの驚異 - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る


この時も、AR世界をアニメで描いて非常に話題になった『電脳コイル*2をネタに、ARの話題が非常に盛り上がっていた。だが、当時の稲見教授は、どこかはにかんだ感じで、このテクノロジーが世間から誤解を生みやすいことを危惧されていたことが印象的だった。だが、今回はまったく印象が違う。『行くだけ行こう!』といった、吹っ切れた明るさがある。



超え難かったハードル


2008年から現在までの間に、芸者東京エンタテイメントの田中氏による、世界での始めてのARのパッケージソフトの『電脳フィギュア』*3や、『セカイカメラ』のように実際のサービスも登場して、具体性/実現性という点でも驚くべき前進を遂げた。だが、それでも誰もが意識せざるを得ない、以下のような『ハードル』があった。

・日本ではウェブカメラの普及率が低いこと
( =スマートフォンの普及率が低いこと)


・フォーマットが標準化されていないこと


・ARコンテンツが少ないこと

スマートフォンが主流に


スマートフォンについて言えば、昨年の今頃など、如何に先進ユーザーがiPhoneだアンドロイドだと騒ごうが、日本ではいわゆる『ガラケー』(先進的な技術や機能がありながら、海外では普及しなかった「島国,日本の独自携帯」)ユーザーのコア層がスマートフォンに移行するようには思えないとする意見が主流だった。それがどうだろう。今では、スマートフォンが主流になることを疑う人はいなくなったと言っていいだろう。昨日(12/21)も、モバイル・コンテンツ・フォーラム*4のセミナーに出席してお話を聞いていたのだが、『2012年にはスマートフォンが主流になる流れは止められない。2011年は準備の年になるから、各社遅れずに準備されたし。』という主催者のメッセージに驚く出席者はほとんどいない。そんなことは当たり前、といった反応だ。


確かにこうなると、AR関係者が色めき立つのは当然だ。市場環境が整って来るまでじっくり取組もうと高を括っている場合ではなくなったのだから。ただの可能性だったARが現実のビジネスとしても魅力があることが一般の人にも認知されるようになれば、インターネットの巨人たち(Google、アップル等)の存在を背後に感じて焦燥感に煽られることにもなりかねない。



色めき立つ関係者


今回の登壇者のお話を聞いても、明らかに活動の速度を加速しようとする意図を非常に強く感じた。イラストなどのより複雑な形を認識し、ARを出現させるトリガーにできる技術を開発して、SDK(ソフトウエア開発キット)を配布して普及をはかるという韓国のZenitum社アルバート・キム氏)、QRコード(QRAR)をトリガーにリッチなARコンテンツがサーバーからダウンロードできて様々な ARコンテンツを無限にアプリ上で再生することを可能とする仕組みを構築したというアララ株式会社(石古氏)等それぞれ、フォーマットの標準化、コンテンツ制作の促進で先頭に立ちたいという意欲をひしひしと感じる。

“普通の絵”からARが飛び出す――韓Zenitum、iPhoneアプリ「ダールクン」公開 - ITmedia Mobile
AR(拡張現実)サービスの新会社「アララ株式会社」設立の発表イベント - レピカ マーケティングCFOのブログ


また、空間認識を補助し、行動判断までのプロセス改善の役割をARに期待し、より直感的に理解できる案内サービスの実現を目指すという電子地図サービスのゼンリン・データコム社(平川氏)や、『渋谷の街におもしろい、お気に入りを書き込んでシェアする』と銘打って、経済産業省のe空間実正事業を主導した東急エージェンシー(津田氏)も、実験的なサービスをどんどん出して行くとして、非常に意欲的だ。恐らく彼らは氷山の一角で、同様に意欲に燃えて虎視眈々市場に殴り込みをかけようと牙を研いでいる会社は多いはずだ。

株式会社ゼンリンデータコム
渋谷の街にソーシャルブックマークする『pin@clip ピナクリ』の実証実験が12月1日に開始 | ガジェット通信



セカンドライフとは違う実用性/必然性


もっとも、それこそセカンドライフではないが、一時的に盛り上がっても、結局ものにならずに萎んでしまうのではないかと訝る人達も当然いるだろう。トラフィックが増えてもビジネスモデルがどうしてもはっきりしなかったセカンドライフと違って、ARの場合、あるレベルまでは利用が拡大することは確実だ。すでに実際のビジネスの補助パーツとしての利用は始まっているからだ。いずれも今にも大きく開花する可能性を感じさせるものばかりだ。



たとえば、


1. 物流/配送での利用


米国の郵政公社USPS)のバーチャルボックス・シュミレーター等。バーチャルな実物大の梱包箱のARを出現させることで、配送しようとする荷物がそのサイズの箱に収まるかどうかをチェックすることができる。
https://www.prioritymail.com/simulator.asp




2. 広告/プロモーションでの利用


スウォッチ・グループ傘下でスイスの時計メーカーティソ(Tissot)社のAR利用例。パソコンの画面上で腕時計の試着ができる。
実用的なAR!パソコンの画面で腕時計を試着できるティソのウェブサイト | ガジェット通信


オリンパスデジタル一眼レフカメラ「PEN」のプロモーションでARを使った例。PENのARマーカーをウェブカメラで写すと実物大のPENが出現するばかりか、レンズを取り外したり、写真の撮影までそこでできてしまうという優れものだ。
http://www.ad-minister.net/2010/05/25/pen-e-pl1_augmented_reality/




3. ゲームでの利用


沢山例がありすぎてどれをあげておけばよいか迷ってしまう。
私が好きなのは、リアルな感じのシューティングなので、その例を二つ。


ARを利用したバイオハザード風のゲーム「 ARhrrrr! 」
AR(拡張現実)を利用したバイオハザード風のゲーム「 ARhrrrr! 」: DesignWorks Archive


スターウオーズのiPhone向けARゲーム「Star Wars Arcade: Falcon Gunner」  
http://www.secondtimes.net/news/world/20101118_starwars.html



4. 実店舗の販売促進



拡張現実で変る家具選び「IKEA Augmented Catalogue」
拡張現実で変る家具選び「IKEA Augmented Catalogue」: DesignWorks Archive



私がここに例を書くのがばからしく感じるほど、Googleでちょっと検索しただけでいくらでも面白い例が出てくる。是非自分で実物をあたって感じてみて欲しい。これが一時的なバブルで、時間が経つと泡のように消えてしまうような現象なのか。いずれも非常に実用的かつ必然的なものばかりではないだろうか。すでに『決壊寸前のダム』状態にあって、何らかのきっかけがあれば怒濤のように市場に溢れ出てくるのではないのか。スマートフォンの市場の席巻こそその『きっかけ』ではないのか。



ナビゲーション幼年期の終わり


ARの究極の到達点の一つとして、実際に空間にあるものすべてをインデックス化して、カメラをかざした実物をきっかけに、関連の情報が引き出されてきて表示されるという利用イメージがある。最近その関連と言える非常に具体的なサービスが次々と出て来て私自身驚いている。

ARならぬAID?拡張ID機能を持ったアンドロイドアプリ『Recognizr』がすごそうだ… | IDEA*IDEA
15 awesome Augmented Reality apps – Wikitude technology is in 3 of them! – Wikitude
Wikitude連携アプリ開発 - AndroDocs
カメラで検索するGoogle Goggles、App Storeで提供開始。iPhone 4 / 3GS対応 - Engadget 日本版


AR の利用用途として、シュミレーション/ゲーム/販売促進等が一般的になるのは時間の問題だが、もう一段レベルの高い複合サービスとして今後の競争激化が必至なのがこの領域だと思う。プロトタイプを含むこれらのサービスを見ていると、サービスとして既に成熟期にある『カーナビ』や『徒歩ナビ』はその『幼年期』を終えつつあることを痛感する。インターネット導入初期のホームページや、発売当初のファミコンに似て、必要最低限の用途を果たした時代の風物詩として、ノスタルジーと共に人の記憶に残る遺物となる近未来を今やはっきりと実感できる。このあたりについては、私もAR Commonsに入会させていただいて、会員の方々と共に語り、自分なりのサービスイメージ等を構築して、またこのブログにも書いていこうと思う。