構造不況業種にいても生残るために明日からでも取組める5つのこと


日本企業では冒険しないことが上策


今、日本では、企業が生延びるために必死に知恵を絞って策を考えた結果、『投資を抑制し、人件費を削り、採用を中止し、コストを低減して、リスクの高いイノベーションには手を出さず、今一番収益が出ているビジネスにしがみつく』という結論が最も合理的に思えてしまうという例は非常に多くなっているのではないか。もちろんそうしているうちに、景気が回復して資金の余裕ができて、成長軌道に戻ることができると確信できるなら、これは最も賢明な策の一つかもしれない。だが、問題は、景気の回復も右肩上がりの成長も期待薄であることがわかっていても、このような結論に至らざるをえない企業が少なくないことだ。現状のビジネスが早晩行き詰まることがわかっていても、新規ビジネス転換がどう考えても成功するようには思えない。客観的なデータで分析するとそれがハイリスク・ローリターンであることが明確であるような場合、唯一残された手段として『必死に身を屈めて、来ないかもしれない景気回復という神頼みを待つ』わけだ。イノベーションの力で新市場を開拓して行くことが重要という教科書的な策が理想的であることがわかっていながら、個別企業にいるとしばしそれが絵空事に思えてしまう。場合によってはイノベーションを語ること自体不真面目な印象を周囲にふりまくことさえある。どうしてそんなことになってしまったのか。


昨今、初めから無策な経営者だけでなく、平時ならかなり有能と考えられる経営者、経営計画立案者でさえそういう結論にやむなく至る例が多くなっているようだ。いや、むしろ、かつて日本の経済発展を支えた優良企業ほど、このようなジレンマを抱え込んでいるのではないか。かつての成功フォーミュラが通じない。認めたくはないかもしれないが、花形だったはずの業種がいつの間にか構造不況業種としかいいようがない状態になっている。



製造業の農業化


先週5月22日にリリースされた、マル激トークオンデマンド(ジャーナリストの神保哲生氏と社会学者の宮台真司氏のコンビで毎週インターネット配信される有料サービス)*1 に登場した、経済学者の野口悠紀雄氏の解説、および神保氏、宮台氏を加えた3人による質疑を聞いていて、今起きていることを非常に簡潔に言い当てる、大変印象深いキーワードに出くわした。『製造業の農業化』である。稲作を中心とする日本の農業は、国際競争力は乏しいものの、食料自給率維持のお題目等もあり、戦後ずっと高い関税によって保護されてきた。その結果どうなったかと言えば、日本の稲作農家はますます弱体化して、大半は補助金に頼るしか生残るすべがなくなってしまった。今、製造業がそうなりつつあるのではないか、と野口氏は言う。コストの安い『製造業派遣』や、『エコ減税』という名の販売補助金に頼って、必死に販売台数を稼いで来た自動車産業等を見ていると確かにその通りに思えて来る。そして、いくら時の政府から有利な補助策を引出したところで、迫り来る中国勢やインド勢を振り切ることができるとは思えない。




本当に必要な構造改革とは


今の日本に必要な改革は、かつて米国がそうであったように、急速に力を伸ばしてきている中国やインド等の新興国に早晩競争優位を奪取されそうな産業(=製造業)から、より高付加価値な産業への転換だ。だが、改革を押し進めたと言われる小泉/竹永改革でさえ、結局「現状有力な製造業が生き延びるための改革」でしかなかった(野口氏)。結果、一時的に企業業績は息を吹き返したかのように見えたものの、マクロで見ると生き残るべきではない老衰企業が生きながらえたし、転職が不利になる日本では優秀な人材の大半はかつて花形だった企業に塩漬けになっていて、新しい産業が育たない。一方米国は自動車のビッグ3の経営は破綻したが、Google、アップル、マイクロソフト等の名だたる新興企業が新しい経済の牽引役として現れ出て、完全に主役交代を果たしている。



構造不況業種にいても出来ること


かつて農業を必死で支えたように、製造業を政府が支えようにも限界は目の前だ。すでに日本の財政は悲惨な状態にある。破綻は目前と言わざるをえない。日本のビジネスマンの多くも自分の会社が長くは持たないことはわかっている。だから夢はない。今の会社にいることで、来るべき新高付加価値産業で伍して行けるスキルが身に付くことも期待薄だ。だが、思い切って今の会社を飛び出しても、今より条件が上回る人は確率的に言えば少数の例外だ。


向かうべき方向性が見えないというわけではない。新価値提案による市場創造、Twitter・ブログ・SNS等のインターネット活用による競争優位の確立、海外市場の開拓等々、ステレオタイプと言っていいくらい典型的なお題目はある。問題は今の日本企業の大半は、なかなかそういう方向には向かわないことだろう。だが、それでも、そんな『構造不況業種』にいながらでも、取組めることはないだろうか。


必ずしも楽な道というわけではないが、明日から(というより今日からでも)取組むことができそうなことを5つあげてみた。



1.何事にもインターネットを最大活用することを第一に据えて取組む


企業でも個人でも、公的な業務でも私事でも、インターネットの最大活用を念頭においておくこと、そして、折に触れ、実際に自分で使ってみることが非常に重要だ。どんな事でも、インターネットインフラ、サービス等を導入することによって、何か改善が見込めないか、必死になって探して取り入れてみるべきだ。場合によっては文系でも簡単なものでもよいからプログラミングに取組んでみるのもいいだろう。以前、海外企業はインターネットサービスを業務に取り入れることによって、非常に成果が上がると答えるマネジャーが多く、日本企業ではそう考えるマネジャーが少ない実態をブログ記事にまとめたことがあるが、*2日本でもこれからは急速にネット・リタラシーが企業や個人の競争力に直結していくと心得ておく必要がある。日本企業、特に大手企業では『情報セキュリティー』に過度にこだわるあまり、日系IT企業に外注して高額な自社システムをつくってそこに閉じこもる例が少なくないが、情報漏洩のリスクを安易に下げる見返りに、企業としても個人としても市場競争力を毀損するリスクが非常に高いことは忘れない方がよい。もし企業がネット活用を抑制するなら、余計、個人ではより一層懸命に取組む必要がある。



2.華人ビジネス/文化圏について徹底的に勉強する


好むと好まざるによらず、21世紀の世界経済の主役は『華人』だ。敢えて『中国人』とは言わない。香港や台湾、シンガポール、アジア各国の華僑たちを含む華人を全体としてとらえるべきだし、その意味での華人ビジネスは実にダイナミックだ。人の活力もすごいが、つぎ込まれる資本も半端ではない。昨今ではさすがに日本人ビジネスマンも巨大な中国市場を無視できないことは感じている。だが、そういうにわか中国通の日本人ビジネスマンや経営者諸兄を見ていると、ほとんどの人は上海や北京等特定の市場を狭く切り取って表面的にしか理解しようとしないし、まして中国を世界の華人ネットワークのダイナミズムの中で理解しようとする人にお目にかかることはまずない。だが、それでは本当のところ中国ビジネスに参入することは難しいと心得るべきだ。逆に、経済圏も、文化圏も、歴史も、視野を広げてよく見てみることで発見できることは多い。何よりそうすることによって、ここで起きている(起ころうとしている)ことの底流にあるトレンド、法則性のようなものがわかって来る。この気づきは、この地域でビジネスを行うにあたっての決定的な差となることが確実だ。



3.mixi ではなくFacebookやLinkedin を試してみる


mixiモバゲータウン等、日本のSNSにハマって利用の幅を広げている人はかなり多くなって来ている。インターネットサービスを試してみること自体はどんなものであれ有益だと思う。だが、そこまで達した人は、もう一歩先を目指してみて欲しい。SNSを利用すると言っても、mixiでは日本の中のコミュニティーしか体験出来ない。これを、米国発のSNSである、FacebookやLinkedIn等に転換することには、かなり違った意味がある。狙いはもちろん、日本人以外の人との交流をはかることにある。普通の日本人にとっては高いハードルかもしれないが、同時に非常に有益なチャレンジでもある。それに、こういう場に集って、海外の友人との交流を広げようとする日本人からも大変学ぶことが多い。そういう人との交流を持つことで、よい影響を受けることも期待できる。



4.英語の記事を英語で継続して読む


IT/インターネット関連の情報は米国発のものが圧倒的に多い。何せ、旬な会社の多くは(Googleやアップルのように)米国にある。しかもスタートアップ企業の数とバラエティは圧倒的だ。いきおい(私も含め)ブログ記事に参照された内容は米国発の情報が多くなる。人気ブログの中にも、『TechCrunch Japan』*3や『Media Pub』*4等、米国発の情報を日本語で紹介しているものが少なくない。もちろん、日本語であれば短時間で大量に読むことができるから、気軽に米国で起きていることを知ることができるという意味では、おすすめということになる。


だが、ここからもう一歩進んで、英語で書かれた記事を直接、しかも継続的に読むようにすると、同じ記事を読んでいても、それがまるで違う体験であることに気づくはずだ。英語独特のリズムやニュアンスというのは、どんなに優れた翻訳家でも伝えられないものがある。また、普段自分が日本語環境の中にいて、思考したり話たりしていることがどういうことなのかを認識することにもなるはずだ。私にはそれがとても大切なことに思える。今自分の置かれた環境がどんなに特定の制約下にあって特殊なものであるのか痛感することにも繋がるはずだ。そして、日本の範囲を出るというのがどういうことなのか、きっと興味を感じ始める人は多いはずだ。英語のレベルの問題ではない。英語が得意な人は、Time誌とかNew York Timesあたりが良いだろうしRead/Write Web *5のようなすばらしいブログもある。また英語に自身がない人は『CNN News』のようなものでもいい。比較的簡単な英語で書かれた記事を見つけることができる。一日一記事でよいからとにかく継続してみることをおすすめする。



5.一年かけていいからドラッカーを原書で読んでみる


情報がインターネットに溢れ、大量の情報をインターネットから取得することになるのは、時代の趨勢でもあり避けられないことだが、大量の情報に流されて自分を見失ってしまう人もまた非常に多い。特に若い人は、少しでもいいから、古典と言われる名著を自分の拠り所として読んでおいた方がいい。そうすれば、情報の洪水の中でも錨を降ろして自分の位置をしっかりと確保することができるすぐれた古典というのは古くなるというこがない不思議な存在だ。仕事に真剣に取組もうとしている人になら、私のおすすめはピーター・ドラッカー氏だ。最近またブームだというが、わかる気がする。世の混乱がひどくなればなるほど必要とする人が増える、そんなメッセージに溢れている。できれば原書で読んでみることをおすすめする。ドラッカー氏の独特のリズムを直接感じることがまたとても貴重な体験だと思うからだ。しかも、氏の英語は非常に平易で読み易い。もちろん、どうしても英語では無理、という人は翻訳されたものでもいい。時間がかかってもいい。一年くらいかける気があれば読めないことはないはずだ。


以上、私の独断と偏見で書きなぐって見たが、皆さんのご意見、特に『自分の方法』等あれば是非伺いたいと思う。