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第5回ジオメディアサミットに参加して/これからどうすればいいのか

4月2日に東京大学で開催された『第5回ジオメディアサミット』に参加した。開催概要は下記の通り。


開催概要


・開催日時:4/2(金)17:00-20:20  懇親会:20:30〜22:00

・開催場所:東京大学 駒場リサーチキャンパス コンベンション・ホール


<第1部> 講演:「グローバルサービスと Geomedia」
 TechWave編集長:湯川鶴章


<第2部> パネルディスカッション:「ソーシャルプラットフォームとGeomedia」
 モデレータ:GOGA 小山氏
 登壇者:
  株式会社ディー・エヌ・エー 大塚氏
  株式会社コロプラ 馬場氏
  株式会社gumi 国光氏
  株式会社ドコモ・ドットコム:村上氏
  アジャイルメディア・ネットワーク株式会社:徳力氏


<ショート・プレゼン>
  衛星測位利用促進センター上村氏


<第3部> ライトニングトーク

1. 電車内メディアのための座標系
  * 慶応SFC 伊藤可久氏
2. 古地図を歩く − 地図ぶらり
  * kokogiko
3. ソーシャルロケーションブックマークサービス:NearNear
  * シリウステクノロジーズ 橋本 祐輔氏
4. はてなの新サービス 「はてなココ」について(仮)
  * 株式会社はてな 山田聖裕氏
5. ジオな国際貢献のチカラ − Project Haiti with OpenStreetMap
  * ジオな国際貢献のチカラ − Project Haiti with OpenStreetMap
6. UstreamTwitterを便利にする「ついすと」
  * 大山 有美氏
7. 10万人以上が一目惚れされました。一目惚れを記録するiPhoneアプリケーション「ヒトメボ」
  * 武田憲太郎氏、小野川舞氏
8. FICCLe - リアルとネットで活動を伝搬するソーシャル・プラットフォーム
  * 株式会社グレップファインド 斎藤幸士(さいとうこうじ)氏
9. 5分でわかるfoursquare
  * 株式会社WITH P 竹内歩夢氏
10. ジオメディアは革命だ!〜空間を飼いならせ!〜
  * 上田直生氏(位置情報ロカポ & 京都通り名ジオコーダ・ジオどす)


回を追う毎に進化発展して来ているこのジオメディアサミットだが、5回目となる今回はもう押しも押されもせぬ一大イベントの貫禄があった。プログラムの構成も整然としており、ライトニングトークの一つ一つに至るまで濃い内容に溢れ、しかも、今日日のはやりとも言えるUstreamによる中継の準備も怠りがない。もちろん、Twitterハッシュタグも設定されていて(#gms2010)、そこに反応して来る人のつぶやきも凄まじい数だ。だんだん気軽に感想を書いたりしにくくなる気がしないでもないが、一方で、議論が成熟化してきて、それぞれのお話が実に興味深いため、自分もその議論に参加してみたい誘惑にかられる。



何故ジオメディアは盛り上がっているか


今回は何より構成が非常に整然としていて感心した。まずジャーナリストの湯川鶴章氏が現状の日本のジオメディアの置かれた環境についてマクロ的なまとめを話た後、ソーシャルサービスのプラットフォーマー及びソーシャルアプリ開発で活躍する人達によるパネルディスカッション、そして天頂衛生に関わるショートプレゼンを挟んで、事前に投票で選ばれたプレゼンテーターによるライトニングトークへと続く。(そして懇親会/ライトニングトーク第2部へとなだれ込む)この流れが非常にうまくに設計されていて、開催者が込めたメッセージが明確に伝わってくる。


非常に雑駁に言えば、今回の議論は次の2点にほぼ集約されたように思う。ライトニングトークの様々な事例も、この2点を意識していると、注目して見るべきところが絞られて来る気がする。

1. 何故今ジオメディアがこれほど盛り上がっているか


2. 日本のジオメディア関連の会社はどうすれば生残れるのか


今、ジオメディア関連のサービスは明らかに盛り上がって来ている。しかも、将来に向けて非常に大きなポテンシャルを感じることができる。スマートフォンのようなガジェットやプラットフォームも形を取って現れて来る中、だんだんと従来のように漠然とした可能性ではなく、かなり具体的な仮説が書けるくらいのレベルになって来ている。だが、それは日本企業が勝ち残れることを保証しない。むしろ勝ち残りの条件は厳しくなっているようにさえ見える。


最終的に日本のプレーヤーがどうすれば勝ち残ることができるのか。今回のサミットを通じてその仮説を構築することができるだけのメッセージは提示されたのか。私は、少なくともその端緒をつかむだけの情報は与えられたような気がしている。ただ、それを受取るには、まだ出席者各人の想像力を相当に必要とする。以下、サミットの感想を述べると共に、『サミットが喚起した成功イメージ』について書いておきたいと思う。それが、サミットの開催者の方々への参加者としての感謝の印となれば幸いだ。



米国の巨人がジオメディアに積極的に参入してきている


湯川氏のプレゼンにあった通り、GoogleAppleFacebookTwitterといったインターネットの巨人がこぞってジオメディア(ないし部品としての地図/位置情報)に非常に関心を持ち、実際にサービス化に取組んでいる。Appleなど従来のビジネスの展開だけみると、ジオメディアへのコミットに違和感を感じる人も少なくないと思うが、公開目前のモバイル広告プラットフォーム『iAd』は、iPhoneを媒体に位置情報や行動情報を利用して最適な広告を配信する広告ビジネスであることが予想されているし、位置情報データを用いて「iPhone」や他のモバイルデバイスのユーザーを結びつ けるソー シャルネットワーキングサービス(SNS)の「iGroups」に関する特許を申請したという情報も記憶に新しいところだ。(モバイル広告と言えば、Googleモバイル広告会社AdMobを買収し、位置に合わせた広告を配信する特許を取得している。) 
アップル、ジオロケーションを活用するSNS「iGroups」の特許を申請 - CNET Japan


ここには名前が上がっていないもう一人の巨人、Microsoftも手をこまねいているわけではなく、位置情報系のビジネスには非常に積極的に関与して来ている。例えば、Microsoft検索エンジンであるBingを利用した、「Bing Maps」に、位 置情報ベースのネットワーキングサービスには、近々foursquareの機能が追加されるようになる。
MS、「Bing Maps」に「foursquare」の機能を追加すると発表 - CNET Japan
Microsoft、Bingの新機能を発表――リアルタイムと地域情報を強化 - ITmedia ニュース

地図会社のナブテックを買収した携帯電話の巨人ノキアの存在も看過できない。
IT & 経営 :テクノロジー :日本経済新聞


ここ2〜3年、米国のインターネットの巨人たちの中核的な関心事は、『広告』と『ソーシャル』だったと言える。ビジネスモデルとして生命線となる『広告』は大抵のインターネット企業にとって非常に重要だ。第一幕の勝利者は『検索』で広告モデルを制したGoogleだった。だが、ユーザーのインターネットの入り口が『検索』から『ソーシャル』に急速にシフトしてきていて、Facebookが次代のフロントランナーとなりつつあり、さらに最近では、TwitterUstreamの急速な台頭により『リアル』『即時性』がキーワードとなろうとしているのはご存知の通りだ。これにスマートフォンiPhone)の提供で一気にこのシーンの中心に踊り込んで来たのがAppleということになる。そして、このそれぞれの要素(広告、ソーシャル、リアル、モバイル等)が皆、位置情報との相性が非常に良い。位置情報をレバレッジ(梃)にして、それぞれの要素のステージを格段に上げることが可能となる。巨人たちも位置情報/ジオメディアの競争で脱落するわけにはいかないことがわかる。



米国で位置情報系のスタートアップが人気


これも湯川氏のプレゼンにあった通り、巨人たちの取組みとは別に、いわば巨人のプラットフォームの上に乗る形で台頭してきている、位置情報系のスタートアップ企業のサービスにも人気が集まり注目されている。(foursquare、yelp、gowalla、Rally Up、placecast、LunchWalla等)これらは、巨人たちがセットアップしたプラットフォームの利便性/開放性に起因しているとも言える。株式会社gumi の国光氏が言うように、成熟した日本の位置情報系サービスと比較して、さほどのレベルとも思えない単純なものばかりだが、その熱狂ぶりは日本にいても伝わってくる。広大な国土を縦横に移動し、知る人とていない初めての土地で暮らし始めることも多い米国では、もともと『位置情報ソーシャル』のようなサービスが受け入れられる土壌があると言えるのかもしれない。複雑怪奇な道を自動車で走らされる日本で先にカーナビゲーションが発達したことと好対照だ。米国らしいジオメディアの浸透と言えるのかもしれない。


これらの企業の動向は、湯川氏の言う『巨人の肩に乗る』サービスとして、日本企業も参考にできるところが大ではある。サービスの人気が拡大すれば、巨人たちとは違った意味で、位置情報系ビジネスには不可欠とも言えるスケール/規模の経済を確保することができる可能性がある。もっとも、直接日本の会社が参考にしにくいのは、これらのサービスの多くは人気が出て一気にトラフィックは上がっているものの、いずれも広告以外のビジネスモデルがはっきりしないところが少なくないことだ。それでも存続して結果的に大きな事業になることも多いのは、米国の、ネットビジネスに理解のあるベンチャー・キャピタルの寄与するところが大きい。パネラーの国光氏や村上氏が嘆くように、日本のベンチャー・キャピタルは米国と違って可能性に投資するところがほとんどない。(ネットビジネスを本当のところ理解していないところが多いということかもしれない。)キャッシュインが拡大してくるまで相手にされず、実績の乏しいスタートアップ起業はすぐに事業継続が難しくなってしまう。だから、日本のスタートアップ企業は最初から何らかの『儲かる仕事』に取組まざるを得ないことになる。



スマートフォンの拡大という追い風


携帯電話とジオメディアが相性が良い事は従来から言われていた事だし、しかも、日本の場合GPS搭載が世界に先駆けて進んで来たことから、ジオメディアが今後有望であることが喧伝されて来た。だが、iPhoneを使うようになると本当に実感するのだが、iTuneストアーのようにアプリの市場が解放されてくると、位置情報系のアプリが続々と登場して市場の評価を受けるようになり、そのことがアプリ自体の急速な進化を促す。しかも、海外発のサービスも評判が良ければ、直接日本に入って来る。金額的にも安いものも多く、ユーザーが手軽に使って評価してくれる。iPhoneに加えて、Googleのアンドロイドがほぼ同様のビジネスモデルで参入し、市場の拡大をうかがっている。さらには、これにiPadのような携帯性と使用性に優れた、タブレットタイプの機器が続々発売されることが予定されている。小さな画面では地図を見る気がしなかった人への訴求も急速に進むことが期待できる。



位置ゲー(位置情報ゲーム)の盛り上がり


コロプラ(携帯位置情報ゲーム「コロニーな生活☆PLUS株式会社コロプラ【スマートフォンゲーム&位置ゲー】)に代表されるように、この一年は日本でも位置ゲー(位置情報ゲーム)のユーザーが非常に拡大して、マニアだけではなく一般ユーザーにも受け入れられるようになった。ちょうどサミットに軌を一にするように、コロプラの会員が100万人を突破したという非常に景気のいいお話もあったわけだが、さらに今後様々な種類の位置ゲーが出てくることは確実だ。しかも、位置情報系ビジネスでは、広告以外の課金モデルが中々見出せなかった中、ソーシャルゲームに絡めて行けば、ゲーム内課金やバーチャルグッズの販売、リアルの販売促進や物品の販売(これも広告モデルの一部かもしれないが)等、課金モデルの多様化が期待できる。


Twitterで誰かがつぶやいていたが、ソーシャルゲームという点では、特に位置情報がどうしても必要というわけではない。実際、昨年はFacebook、グリー、mixi等のSNSでのソーシャルゲームの導入によるトラフィック急拡大が非常に話題になったが、この原動力が位置情報、というわけではない。どちらかというとこっちのトレンドに、位置ゲーが上手く乗ったというのが実態に近い。コロプラはサービスを開始してから5年経つというが、100万人の会員の90%はこの一年で獲得したそうだが、まさにこのことを証明するような事例だ。


ただ、ソーシャルゲーム全体の盛り上がりとは別に、位置ゲーが切り開いた、『従来にはない体験』の意味は小さくないコロプラのように、従来は家に閉じこもって動かなかったオタクやゲーマーを強引に外に連れ出すこともそうだし、セカイカメラのようにリアル世界にバーチャルの豊穣なイメージ世界を流し込むようなサービスも、従来にはなかった体験を提供し、ユーザーのライフスタイルに多大な影響を与えた。そして同時に、今後の非常に広大な可能性をかいま見せてくれた。


例えば、今回ライトニングトークを行った、kokogikoの大塚さんが紹介した『地図ぶらり』など私はとても面白いと思うのだが、この参考事例になるかもしれない。古地図というおよそ実用には使えなかったものに、実際の位置情報を紐づけることによって、歴史空間と現実世界を結びつけ、未踏の体験を提供することが期待できる。これなども、まさにリアルとバーチャルの接合による新価値の提案そのものだ。縄文時代の古地図と現代の東京と結びつけて、縄文時代が如何に現代の東京の地勢に影響を与えているかを明らかにした、中沢新一氏の『アースダイバー』という著作があるがこれを思い出してしまった。『アースダイバー』の底知れない面白さがさらに純度高く実現されると思うとワクワクする。
『アースダイバー』/21世紀の旅のガイドブック - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る



これからどうすればいいのか: 磁場のあるフィールド作り


私自身、サミットのレポートでも匂わして来たことが、どんどん現実のサービスとなって現れているようで非常に感慨深い。ここまで来れば、思考実験だけで悶々としていないで、iPhoneやアンドロイドで実際にサービスを立ち上げて、市場で実験をしながら学ぶのが一番という気がするが、インターネット世界にますます飲み込まれつつあるジオメディアは、まさにそのインターネット系のサービスの悩みをも引き受けつつある。いわば、悩み方に共通点が見られるようになってきている。(ネットメディアの影響で部数を落とす新聞等。)巨人のおかげで同じ土俵にのせられてしまったというべきかもしれない。


湯川氏がプレゼンで強調したように、巨人と直接の競合を避けてどのようにマネタイズするか、というのは、日本のインターネット系のサービスの提供会社に共通する課題だ。巨人が入ってこれないように、『わけのわからないサービス』をやるのがいいというご提案があったが、これはインターネットサービスの枠を越えて、コモディティ化/デフレ化が進む市場全般に当てはまる。そして、この競争の軸を見えにくくすることの重要性は、私が自分のブログを始めたころからの中核テーマであり、繰り返し述べて来たことでもある。
過当競争を抜け出るために - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る
『可視化の毒』と『見えない』競争の重要性 - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る
カテゴリー・イノベーションとは - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る


『わけがわからないこと』に取組みにくいのは、ある程度の規模の企業ならどこでもそうだろう。巨人もできないが、自社もできない、というジレンマを抱える会社は多い。やっている本人にはわかっても周囲には『わけがわからないこと』に資金をつけるのは大変だ。他のビジネスから収益が上がる会社でも、銀行や株主から『資金の短期的な有効利用』を求められて説明に苦慮する風景はどこにでも見られる。(そして日本には、その『わけのわからない』ことのすごさを理解してくれるベンチャー・キャピタルもほとんどいないのは前述の通りだ。)株式会社gumi 国光氏の言うように、資金を他社に頼らずに、グリーやモバゲーにゲームを提供してお金を稼いでそのお金でやりたいサービスをやるべき、というような提案が出てくることになる。中には大企業でこの『わけがわからないこと』に取組んで成功している任天堂のような会社もあるが、残念ながら少数派だ。


だが、この『経営問題』に決着をつけておくことは非常に重要だ。『わけがわからない』と言ってもそれは外部の素人がわからないだけで、真剣にこの種の創造的な環境づくりに取組んで来た者なら、ある程度の法則は把握しているものだ。そして、それができる会社は有望な人材を得て、良質なパートナーを惹き付けることになる。こういう磁場のあるフィールドができれば、自らの持つ今の経営資源だけに頼らずともビジネスを発展させることができる。逆に、自社の得意なところに選択と集中をするのはいいが、解放系の磁場あるフィールドを並行して作らなければ、規模の経済が不可欠な位置情報系ビジネスでは、すぐに血流を断たれてしまうだろう。



これからどうすればいいのか: 最も成功に近いサービスイメージ


では、今回得られた知見から、『最も成功に近いサービスイメージ』はどのようなものなのか。


ジオメディア/位置情報は身体性を伴う体験世界に関わるサービスを提供できる。しかもバーチャルなイメージ世界とリアル世界を創造的な接合の工夫を重ねることによって、今まで誰も知らない体験を続々と提供することができる。さらには、身体性を伴う体験はユーザーに深く強い印象を残すことができる。過当競争のインターネットサービス、あるいはソーシャルゲームの中では、インプレッションの強さは貴重な要素のはずだ。


そして、この創造された感動的な体験を、レアのままで提供するのではなく、独特で面白い世界観でパッケージ化(ゲーム化)することで、ユーザーの参加を促すと同時に、巨人を含む競合他社が参入しにくくする。独自のすぐれた世界観は、資金や組織で優る巨人も、それだけでは簡単には参入できない弾幕になる。スタンドアローンではなく、ソーシャルの中でこれを提供することで、口コミで広がることも期待できる。しかも、ユーザーの反応を直接感じながら、サービスをタイムリーにチューニングしたり、新しい経験価値を創造して加えていくことができるため、価値は複合的となり、ますます他社が参入しにくくなる。


そして、そこでサービスに何らかの一定の利便性、実用性を折り込むことができれば、実収入の伴う新しいビジネスモデル誕生の可能性も広がる。しかもそれは競合には真似のできない独特のモデルになっているはずだ。(先に利便性、実用性から入るのではないことがポイントだ。)


まだ、抽象的? そうかもしれない。だが、実際にサービスづくりに取組んでいる人には、私のメッセージはある程度届いたのではないだろうか。少なくとも、自身の取組みを振り返る『参考点』として利用できるのではないかと思う。そして、具体的なサービス構築は、皆でこれから競争だ。



<ご参考:当日のレポート>
第5回ジオメディアサミットまとめ | TechWave テックウェーブ
「第5回ジオメディアサミット」終了! : チミンモラスイ?