バカ売れの海洋冒険マンガ『ONE PIECE』の面白さについて考えみる

爆発的に売れる『ONE PIECE


12月4日(金)に、少年ジャンプ誌に連載中の、人気海洋冒険マンガ、『ONE PIECE』の単行本、第56巻が発売されたので、早速買って来た。

ONE PIECE 56 (ジャンプコミックス)

ONE PIECE 56 (ジャンプコミックス)



第56巻の初版部数は、コミックス史上最多の285万部。第1巻からの累計は1億7600万部に上る、というからものすごい。出版不況などまったくものともしない感じだ。なぜ、この物語が今こんなに受けるのだろうか。



広い世代に受けている


先日(10月10日)に、私は、『「少年ジャンプ」資本主義』を読んで現代の『友情』を考える 『「少年ジャンプ」資本主義』を読んで現代の『友情』を考える - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る というタイトルで、ブログエントリーを書いた。その本に出てくる作品の中でも、現代の若年層のマインドを知るのに最適のテキストと思えるこのマンガを、私はまだ読んでいなかったが、その後、全巻(第1巻〜第55巻)読んでみた。作者の尾田栄一郎氏は、『15歳の自分がわくわく興奮するかどうかを常に基準に描いてきた』というから、対象は中学生、ということになる。だが、その親の年代と言っていい私が読んでも、十分面白い。実際、購入層も10代から40代後半まで広く分布しているようだ。私が感じる面白さと、小中学生が感じる面白さが同じかどうか(同じわけはないと思うのだが)はわからないが、普遍的な面白さの要素と、現代の子供が感じる面白さの両方が混在していると考えられる。



『友情』が鍵だが・・


『「少年ジャンプ」資本主義』でも指摘されたいたことだが、誰もが指摘する『ONE PIECE』の面白さの一つは、『友情』というテーマの取り扱いのうまさにある。確かに、『友情』というのは、普遍的なテーマであることは確かだが、その意味は相当広い。簡単に世代を貫く普遍性などと言うわけにはいかないだろう。しかも、今は特に若年層の意識が激変しつつある。これは私自身何度もブログでも取り上げて来たことだ。例えば、最近、内閣府調査、「男女共同参画社会に関する世論調査」の結果が出ていて、若年層を中心とした『家族観』『結婚観』が非常に大きく変化してきていることが指摘されている。『結婚してもしなくてもどちらでもいい』と考える人が、20歳代では、87.8%にのぼったというのは、少なくとも私には衝撃的な数値に思える『家族観』『結婚観』がこれだけ変化しているのに、『友情』だけ昔と同じ、というわけにはいかないだろう


自分自身で作品を読んでみて、よくわかったが、『ONE PIECE』が扱う友情は、見返りを求めない、非常に無私で純粋な友情だ。自分の命が惜しいとか、代わりに何か得をするとか、あるいは、そういう狭間で葛藤するとか、ほとんどないと言っていい。主人公ルフィは海賊船の船長で、その仲間は部下ということになるが、まったくそのような上下の関係はない。皆自分の目的を持ち、自分の特殊技能を提供することで、組織へ貢献しているわけだが、指揮命令も従属関係も何もない。唯一組織を組織として固めているのが『友達だから命をかけて守る』というお互いの意識だけだ。いわば、ルフィは人格と志と絶対の友情だけで、クルーをつなぎ止めている。クルーも、嫌になればいつでも船を降りる事ができるにもかかわらず、自らの意志で命をかける。こういう友情のあり方が熱狂的に読者に支持されている。



現代の組織とリーダーシップの理想像


前回のブログエントリーでも書いたが、欧米流のドライな実力主義人事制度は日本では機能不全を起こしている。時代遅れの『成果主義人事制度』は今すぐ見直せ! - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る

一方、強く相互を監視したり縛り合ったりして、組織優先を旨とする旧来の村社会的なあり方(およびその中での友情)を復活することはもはや不可能だ。その両方とも違う、目的ごとのプロジェクトチーム、ルフィのタイプのリーダー、チームメンバーへの強い愛着と相互扶助など、今後、日本の会社があらためて模索すべき、組織構築と運営の理想像が、見えてくる気がする。それは、今の時代の新しい組織とリーダーシップのあり方が示されていると私には感じられる



巨悪への挑戦


また、『権威主義的な偽善への反発』という要素もある。ちょうど日本で政権交代とともに吹き上がる官僚バッシングとリンクしているようで興味深い。主人公ルフィは海賊王をめざし、多額の賞金をかけられた、いわばお尋ね者である。だが、本来正義の側にいるはずの、政府側はどうやら偽善的存在、いわゆる『巨悪』のようだ。海軍なども末端の兵士はまっとうな感じだが、少し階級が上に上がると、何やら怪しい者ばかりだ。目的のためなら手段を選ばない、虐殺や民族浄化のようなことも平気でやる。高貴な人種のやることなら、庶民の虐殺だろうが奴隷売買だろうが、やりたい放題させる。そんないやらしい存在でありながら、圧倒的な軍事力を持っており、誰もさからえない。だが、ルフィたちにはそんな権威をかさに着た暴力にもまったく屈する様子はない。勝算もなく突っ込んで行く。ただ、友のために。混迷の時代に、このシンプルで、私心がなく、友のためにどんな権威や権力にもまったく臆せず突っ込む姿は爽快だ。



『世界』の魅力


もうひとつ、あまり誰も指摘していない点だが、この物語の『世界』の魅力だ。第56巻まで読んでも、まだ謎が深まるばかりの世界の謎、一見むちゃくちゃに見えながら、背景に巨大な物語のありそうな『世界』の構成も、魅力の一つだ。世界と存在の謎とき物語は、物語が終わってしまった日本とのコントラストがとても大きい。何もかも振り捨てて冒険に出たいと思えるほどの物語の存在は、やはり生きるエネルギーを引出すということを思い出させてくれる気がする


相当強引な、自分なりの解釈になってしまったが、このテキストの解明には時間をかける価値があると私には思える。少年マンガだからといってばかにしたものではない。是非一度手にとって読んでみて欲しい。