GLOCOMフォーラム2009に参加して/姿を現した深刻な問題


国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主催の「GLOCOMフォーラム2009」(ICT、社会改革、オープンなネット参加 〜オバマ政権の構想と日本の可能性〜)に参加した。
参加概要、および当日のプログラムは下記の通り。 
http://sites.google.com/site/glocomforum09/



日時:2009年10月20日(火)13:30〜17:30
会場:青山ダイヤモンドホール
プログラム:


13:30 開会(開場13:00)

*
挨拶:宮原明(学校法人国際大学副理事長兼国際大学GLOCOM所長)


13:40〜14:40
オープニング対談:「オープンな議論、オープンなイノベーション、インターネットの役割」

*
ケビン・ワーバック(ペンシルバニア大学ウォートン・スクール助教授、国際大学GLOCOMフェロー)
*
関口和一(日本経済新聞社編集局産業部編集委員論説委員国際大学GLOCOM客員教授


14:40〜15:40
講演

*

夏野剛慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授)

(15:40〜16:00 休憩)



16:00〜17:30
パネル討論:「日本のICT活用のシナリオ:制度、組織、文化からの検討」

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ケビン・ワーバック(ペンシルバニア大学ウォートン・スクール助教授、国際大学GLOCOMフェロー)
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夏野剛慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授)
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津田大介(メディアジャーナリスト)
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石黒不二代(ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長兼CEO)
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木村忠正(東京大学大学院総合文化研究科准教授、国際大学GLOCOM客員研究員)
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司会:渡辺智暁(国際大学GLOCOM主任研究員)

17:30 閉会

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挨拶:小林陽太郎(学校法人国際大学理事長)



13:30 開会(開場13:00)

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挨拶:宮原明(学校法人国際大学副理事長兼国際大学GLOCOM所長)


13:40〜14:40
オープニング対談:「オープンな議論、オープンなイノベーション、インターネットの役割」

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ケビン・ワーバック(ペンシルバニア大学ウォートン・スクール助教授、国際大学GLOCOMフェロー)
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関口和一(日本経済新聞社編集局産業部編集委員論説委員国際大学GLOCOM客員教授


14:40〜15:40
講演

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夏野剛慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授)

(15:40〜16:00 休憩)



16:00〜17:30
パネル討論:「日本のICT活用のシナリオ:制度、組織、文化からの検討」

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ケビン・ワーバック(ペンシルバニア大学ウォートン・スクール助教授、国際大学GLOCOMフェロー)
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夏野剛慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授)
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津田大介(メディアジャーナリスト)
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石黒不二代(ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長兼CEO)
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木村忠正(東京大学大学院総合文化研究科准教授、国際大学GLOCOM客員研究員)
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司会:渡辺智暁(国際大学GLOCOM主任研究員)

17:30 閉会

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挨拶:小林陽太郎(学校法人国際大学理事長)



結果報告リンク


開催日から若干間が開いてしまったので、すでに報道やブログによる報告がいくつか上がって来ている。それに、当日はニコニコ生放送で中継されていた。(これ自体、非常に画期的なことだ。)また、twitterによる当日の報告をしていた人もいた。下記、いくつかの報告のリンクをピックアップしておくので、アウトラインについてはそちらをチェックしてみて欲しい。


『GLOCOM フォーラム 2009 「ICT、社会変革、オープンなネット参加〜オバマ政権の構想と日本の可能性〜」』のニコ生視聴した。 - workshop PCエンジンおしゃれ計画
GLOCOMフォーラム2009を聞きに行った - akoblog@はてな
本日ニコニコ生放送で「GLOCOMフォーラム2009」中継 - 夏野剛氏ら講演 | マイナビニュース
ネットによる社会変革の可能性:GLOCOMフォーラム2009に参加: ICHINOHE Blog



開催趣旨


イムリーなテーマ設定や講演者/パネリスト陣の豪華さもあってか、参加者は非常に多かった。私自身、どのような話になるのか非常に興味があり、楽しみにしていた。以下は、開催趣旨からの抜粋である。どんなシナリオが今の日本に可能なのだろうか。

http://sites.google.com/site/glocomforum09/

日本はブロードバンドインフラの面では世界最先端であり、娯楽性の高い優れたサービスがあるが、ビジネスや社会の大きな変革につながるようなICTの活用は進んでいない。本フォーラムでは、オバマ政権の大胆なICT活用や日本の先駆的なネット事業にヒントを得て、日本の組織・社会においてICTの可能性を引き出して国際競争力を高めるシナリオを探る。


オバマ政権下でのITC活用と比較した場合、日本の現状との違いが大きいことは誰にも否定のしようのないことだが、その理由、真の原因が明示されなかったこともあって、やや議論の焦点がずれた観があった。ブログを読んだり当日の参加者の感想を聞いてみると、そのあたりに消化不良を感じたのは他の参加者も同様だったようだ。ただ、私自身は、ITCの先端にいるメンバーの率直な感想から、現代の日本のITC、というよりもう少し狭義のインターネット利用の問題点が典型的に垣間見えて、大変興味深かった。かなり遅いレポートとなってしまったが、そのことは、少しだけでも書いておこうと思う。



『基調講演』としての夏野氏のプレゼン


日本におけるITC/インターネットの浸透と今後の展望については、まず、夏野氏のプレゼンが『基調講演』となった。(概要は、次の記事に詳しい。ASCII.jp:夏野剛氏、ガラパゴスケータイの未来を語る (1/3))プレゼンの中の『浸透』に関わる部分について非常に大雑把にまとめると、おおよそ以下のポイントが提示された。

・過去10年間に、まさにIT革命が起きて、ものすごく多くのことが変わった。
 奇跡的。日本の社会も物凄く影響を受けて変化した。


・日本はITに関して遅れていると言われるが、iモードニコニコ動画等、
 世界の先端のサービスもある。携帯サービスの充実度やその利用者の多さも、
 ここまでは日本が先頭にいたと言っていい。まだ競争優位はある。


・日本のIT革命は道半ばで、これからは生活インフラとして利用が間違いなく伸びる。

これを受けて、ネットイヤーグループCEOの石黒さんから、インターネットによるマーケティングという点では日本はまだ遅れており、現状では宣伝領域の一部に使われているだけ。商品開発、販促、営業、販売等には、まだインターネットのポテンシャルがほどんど使われていない。どんどん利用が進んでいる米国と比較すると、差がさらに広がりつつある。インターネット接触時間が増えて来ている状況から見て、日本にはまだ非常に大きなポテンシャルがある、というお話があった。また、ジャーナリストの津田氏からは、いろいろあるが、インターネットはいいもので、このまま育って欲しいという主旨のお話が最初にあった。



強烈なアンチテーゼ


ここで、非常に興味深いアンチテーゼとして、東京大学の准教授、木村氏から、日本のインターネット利用を世界各国との比較で見ると、日本はコロンビアと同程度のレベルで、世界で一番利用が進んでいないとさえ言える、という指摘が出る。以下、かなり断片的だが発言の幾つかを拾ってみた。


・米国がインターネットを社会的関与を促進するツールとして
 育ててきたことに比べると日本は非常に遅れている。

・日本ではインターネット利用に関しては、デジタルデバイドが大きい。

・インターネットに対する一般的な社会的信頼感が低く、
 サイバースペースに対する不信感が強い。

・EC(エレクトロニック・コマース)の利用率が低い。

・現実の社会生活空間とサイバースペースが分断されて相互に連結する力がない。

・情報源としてのメディアは日本は突出してテレビの利用比率が高い。

・インターネットに対する社会的信頼感が低い。

・20代女性のインターネットに対する不安感が非常に大きい。

・インターネットを介した人付き合いの広がりの欠如が顕著。

・低い社会的信頼感を払拭し、オープンなネットワークに
 対応できるよう日本人のマインドを変えて行く必要がある。

夏野氏の見解を真っ向から否定する内容と思われ、思わず冷や汗をかいてしまったが、案の定、夏野氏から猛烈な反発があった。日本人のブログが米国と同じくらい多いこと、iモードはじめ携帯メールの利用の多さ、出会い系サイト利用の多さ(女子高生の50%は出会い系を利用?)等をあげて、50才以上くらいはだめだが、20〜30代はそうでもないはず、として、デバイドは単純に年齢(年代差)の問題では? と切り返す。



やはりそうなのか


だが、これに対して木村氏は、日本は何故か日記の利用が非常に高いが、どちらかというとモノローグで、音声通話を使わないことにも見られるよう、迂回したコミュニケーションが主になって来ており、離れた関係でのコミュニケーションはまったく活性化していない事、また、ネットを活発に利用するのが、全体の10%程度という統計から、出会い系利用の数字は説明可能と、冷静に反応する。


石黒さんも、米国では利用者が急拡大しているアドネットワーク*1 *2を日本企業が全く使わない現状から、インターネット利用に不信感、という木村氏のお話に思い当たる節がある、という反応を見せる。


津田氏は、デバイドという点では、著作権や薬品のインターネット販売に関する議論での、『大人』の余りの反応の悪さや誤解について語る。


このあたりから、議論が噛み合なくなって行った。50代以降の層、中でもリーダーシップを発揮すべき経営者のレベルや意識が低いことは認識が一致したが、それはもはや言わずもがなというものだろう。



問題の根は深い


日本のインターネット利用は、デジタルネイティブと言われる若年層が社会の中核を構成するようになってくるにつれて、拡大していくことは間違いない。また、今でも携帯電話でのメールの頻繁なやり取り等、利用そのものは広範囲に浸透していることも本当だろう。だが、木村氏の指摘にあるように、今の日本の(携帯電話を含む)インターネットは、安定した自分の周辺の安定した関係を超えて、外部の新しい機会や関係を拡大していくために利用されているとは言えない。そういう意味では、問題の核心は、狭義のインターネット問題でも年代問題でもない。閉鎖的だが強固な会社共同体が、経済のグローバル化に伴い解体してみると、個人も企業も、そもそも外部に新しいものを見つけていくようなメンタリティーやマインドはなく、仕組みもできていないことに気づいて呆然としているということだ。そして、そういう現実に対する解決策がほとんど機能しておらず暗中模索状態にあることが問題なのだと思う。山岸俊男氏の『安心社会から信頼社会への移行期にある日本』という概念ツールで解読した方がわかりやすい問題と言える。(山岸氏の著書、*3をご参照。私も前に関連エントリーを書いた。せっかくだから『派遣切り』問題を基にできるだけ深く考えてみる - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る


ここで提示された問題は、ビジネスの前線にいるものにとっても大変重要であることは言うまでもない。石黒さんの言うように、『明らかにビジネスポテンシャルはあるのに市場が反応しない』、という状況をどう打開して行けばいいのか。その答えを見つけないことには、ありそうで見えない幻覚のような市場に翻弄されることになる。議論は必ずしも噛み合なかったが、非常に貴重な論点や課題が生のまま姿を現した今回のセミナーは、非常に有意義だったと私は思う。(けしてアイロニーで言っているのではない。この居心地の悪さに気づくことは非常に貴重な一歩だと思うからだ。)関係者の皆様のご苦労にあらためて敬意を表したい。