理系が隔離される日本に未来はあるのか


師匠ブログ


他の人と同様、私にも、いわゆる『師匠ブログ』が存在する。自分がブログを書くにあたり、参考にさせていただいているブログのことだ。もちろん、参考にさせていただくと行っても、ビジュアルの構成がすばらしいブログ、テーマ選定やタイトル設定がすばらしいブログ、地道な取組みに頭が下がる人ブログなど、様々な観点がある。しかも、すばらしいと感じても、自分がとても真似出来ないと感じるブログも少なくない。また、中には自分とすごくテーストが近くて、書こうと思っている事がすごくかぶっているブログを発見することもある。



『Chikirinの日記』に脱帽


そんな様々な『師匠ブログ』の中でも、最近、Chikirinさんの『Chikirinの日記』には、感心させられることが多い。さほど奇抜で物珍しいテーマが選定されているわけではないのだが、何気ないテーマをハッとするような切り口でさばいて、軽妙な語り口でテンポよくまとめていく手腕には脱帽だ。『あ!! それは自分も言いたかった事だ!』と飛び上がることが何度もある。


9月30日のエントリー、『理系は隔離して田舎にとじこめろ?』も、読んで思わず膝をたたいてしまった。
理系は隔離して田舎にとじこめろ? - Chikirinの日記


ざっとこんな感じの内容だ。

大学間競争が激しくなって大学の経営が苦しい中、生徒獲得の目的で、一度は郊外に移したキャンパスを都心に戻す大学が増えているのだが、都心に呼び戻すのは、文系学部だけで、理系は田舎に残す大学が多くなっている。しかし、これでは、理系の学生は文系の学生と切り離され、画一的、閉鎖的な環境に置かれることになる。それで本当にこれから日本が育てていきたい理系人材が育つのか?


内容もさることながら、次のようなアイロニーの効いた語り口がなんとも軽妙だ。

技術立国の人材育成方針として、手始めに「理系学生を田舎に隔離せよ」ってことなのかな。そんでもって研究に没頭させたら世界に通用する研究者や技術者が生まれるだろうという作戦?

『文系』と『理系』が分離する日本


実際、重厚長大からITに至るまで、エンジニアを沢山抱える企業を経験してみて、私が一番嘆かわしいことの一つは、日本では『文系』と『理系』があまりに分離してしまっていることだ。理系について言えば、まさに『隔離してとじこめろ』というのが、これまでの多くの企業の方針だったと言って過言ではないだろう。いい技術を開発してくれさえすれば、金勘定も、経営も、ビジネスも『文系』に任せておいてくれればいい、という姿勢が透けて見える企業ばかりだ。高度成長期にはその手分けが機能したのかもしれないが、今はマイナス面ばかりが目立つ。


日本の理系がつくる製品は、大変技術レベルの高いすばらしいものが多く、確かに一度は世界を制覇したかに見えた。だが、今では技術レベルの高さだけでは世界の競争に勝てないことがはっきりしつつある。最近では、携帯電話などその最たる例だ。もっとも、『理系がいいものをつくっても、文系がそれを売ることができないのが負ける原因だろう』、という意見も聞こえてきそうだ。確かに、一面の事実ではある。理系と切り離された文系の技術理解のレベルの低さもかなり深刻だ。日本のメーカーでは、理系を社長にするか文系を社長にするか、ということがしばしば議論になる。理系が社長になると経営のことがわからず、文系が社長になると技術がわからずエンジニアがついてこない、というわけだ。



場所のオーラは創造力の源


これをシリコンバレーと比較すると、時に愕然とする。『最高の技術者で最高の経営者』があたりまえのようにごろごろいるからだ。Chikirinnさんが暗に言いたいことの一つだと思われる。今の日本の田舎に隔離されていては、スティーブ・ジョブズビル・ゲイツセルゲイ・ブリンといった人材が輩出するとは到底思えない。しかも、日本の田舎は、非常に残念なことに『ファスト風土化』(三浦展氏の造語。地方社会において固有の地域性が消滅し、大型ショッピングセンター、コンビニ、ファミレス、ファストフード店、レンタルビデオ店、カラオケボックス、パチンコ店などが建ち並ぶ風景が全国一律となったことをさす。ファスト風土とは - はてなキーワード)していて、多様化とはほど遠いのが実情だ。


今はインターネットのおかげでどこにいても情報収集は可能で、コミュニケーションも取れるから、企業も大学も、コストが安くて自然も豊富な田舎のほうがいい、というまことしやかな意見もある。では、どうしてシリコンバレーのような『場所』が特別なのか。(シリコンバレーはすでに没落しつつあるという説もあるが、それは取り敢えずおいておく。)場所のオーラが創造力活性化の源であることは認めざるを得ないのではないのか人を惹き付ける『アンカー力』のあるオーラを持った土地に多様な人が集まって切磋琢磨しているうちに奇跡が起こる。一度でもその空気を体験した事のある人にとっては、そんなことは常識だ。


日本に最後に残された、垂直統合/閉鎖系を強みとする自動車産業も、電気自動車への移行を期に水平分業/解放系へと移行する可能性が高い。『隔離』『閉鎖』『モノカルチャー』からどうやって脱却するかが、企業でも大学でも、大きな課題であるはずだ。


Chikirinさん風に結べば、こういう感じだろうか。

これからの日本はエンジニアにファストフードだけ食わせて、下流パラダイス鎖国をめざす作戦? ふーん。 じゃーね。