セカイカメラの何に『ワクワク』するんだろう?

セカイカメラの配信開始


9月24日、iPhone向けアプリとして、2008年の「TechCrunch50」で話題をさらった「セカイカメラ」の配信が開始された。 さくらのマネージドサーバ


これは、現実空間の位置情報を取得し、その場所でiphoneのカメラアプリから見られる映像に情報や画像等を重ね合わせて表示することができるAR(拡張現実)アプリだ。配信当日は、非常に不安定だったが、大分落ち着いて来ているようだ。ほぼ想定通りのスペックだが、やはり自分で試してみるとちょっとワクワクしてしまう。特に、こんなところには何もないだろうというような場所に貼られたエアタグを見つけると、妙に感動してしまう。



評価概観


ネットに出て来ているレビューをざっと見たところ、やはりAR(拡張現実)に興味を持つ人がまずレビューを書き始めていると思われ、かなり甘めの評価が多い印象がある。概ね、次のような感じだ。

 『とりあえずイメージしたアプリになっている』
 『いくつものビジネスモデルへと発展する可能性をあらためて感じる』
 『但し、位置精度等、今後の課題もまだ相当に大きい』
 『実際に見てみると、ワクワクする。面白い。』

非常に厳しい意見も多い


ただ、まだあまり評価を書いていないであろう、『冷静』な批判眼を持って事態を見守っている人の中には、相当に辛口の評価を下している人も多いと思う。大きな話題になりながら、期待過剰で結局萎んでしまった『セカンドライフ』を連想する人も少なくないかもしれない。また、位置情報系ビジネスの進化系ないし、派生系としての可能性を見ている人に取っては、この程度のできばえでは、まだ正確な地図に基づいた精緻な情報提供の方に分があると考えるのも無理はない。空間を正確に特定できるほどの位置精度があれば、もちろん広告宣伝での利用を含むさまざまな展開の可能性があることは誰しも認めるところだが、まだこのセカイカメラでは、実現は難しいと言わざるを得ない。



『ワクワク』感を分析しておくべき


だが、使う人の中に、何故か『ワクワクする』『面白い』と評価する人がいる。必ずしも数は多くないかもしれないが、どうしてそう感じるのか。それは多くの人が共有できる面白さに繋げて行く事はできるのか。それを起点にビジネスを展開できる可能性はありうるのか。ビジネスを仕掛けたいと考えている人は、今はきちんと分析して、理解を深めておくことが何より大事だと思う。(私自身なぜ自分が面白いと感じるのか、このワクワクの正体は何なのか、初めて ARを見た時から自問自答してきた。) おそらくそれは萎んでしまった『セカンドライフ』に対しても同様だろう。見栄えが派手で宣伝に使えそうと安易に考えて飛びついた企業はともかく、あの独特の世界観に、何らかの可能性を感じてワクワクしていた人は(私も含め)沢山いた。セカンドライフ(および類似のサービス)が萎んだ理由をきちんと分析して、理解を深めた人は、きっとあのユーザーの『ワクワク感』をレバレッジとしていつか何らかのビジネスを成功に導くに違いない。



『ワクワク』『面白い』の理由は?


ちなみに、『面白い』と評価する人のコメントは、具体的にはどういう感じなのだろう。

下馬評を聞いていた段階では「ふうん」だったけど、こうして実物を見てみると「これはすごい」。まさに「電脳コイル」の世界がそこにある。iPhoneを持っている人は必携のアプリがまた一つ誕生した。


404 Blog Not Found:#sekaicamera - セカイカメラを通してみた世界


これは普段、辛口の評価が多い、小飼弾氏のコメントだ。意外なほど、手放しな高評価である。だが、実物を見て、どうしてすごいと感じたのだろう。


このことを解明するのに、もう少しわかりやすく、参考になるコメントがある。


地図は実用的な情報であって、それ自体は、決して面白いものではありません。電車で言うなら時刻表や路線図みたいなものであって、ワクワクする駅の景色や車窓の風景ではありません。GoogleMaps apiが出たときに、Google Mapsを使った面白いゲームらしきものが出たりしましたが、やっぱり地図は地図でしかないと思うんですね。(航空写真は面白いですが、海には恐怖を感じるので苦手)全体を俯瞰する情報としては地図は最適なインターフェースでが、「ラスト10m」を表すにはちょっと足りないかなと思っていました。一言で言うと「萌えない」。
 
F's Garage @fshin2000 :セカイカメラは、21世紀のネットスケープになるか?!

莫大な可能性


私は、地図に『萌え』を感じる人を少なからず知ってはいるが、私自身は『萌える』どころか、ワクワクしたり面白いと思った事は一度もない。(大抵の人はそうだろう。)なぜなら、地図は現実の土地ではない。その現実の土地から、実用的な情報だけ抜き取り、その他の要素をすべて捨象しているからだ。だからこそ逆に利便性という価値において地図は際立っているとも言える。


だが、現実の土地は、本来それを知覚する人間がいなければどんな定義も成り立たないものだ。そして、人は実に多様に知覚し解釈し定義する。ある人にとっては非常に『神聖』であり、『思い出』が蓄積しているかもしれない。ある人にとっては恐怖と畏敬の対象かもしれない。ある人は、その空間にある風の流れ、臭い、光の強さ等と共にそれを感じているだろう。いわば人間の知覚や記憶や表象の種類だけ、土地や空間の種類もある。人は自分の心の宇宙に自分だけの世界を創造して持っている。そしてこの創造された世界はその人の知覚に基づいて、土地や空間のような現実に存在するものとして現れる。それは一つとして同じではない。だから、セカイカメラのようなツールを与えられた人々が、その独自の創造を空間に言語化したりビジュアル化してエアタグを貼付けるようになると、想像以上に豊穣な世界ができあがる可能性がある、ということだ。同時にそれは、コミュニケーションのフィールドとして、莫大な可能性を秘めているということでもある。


だから、セカイカメラのようなサービスが本当の意味で飛躍するとすれば、やはりキーワードは『コミュニケーション』だと思う。



セカンドライフニコニコ動画


ちなみに、セカンドライフが人を集めることができなかった理由について、私が最も納得の行く説明を展開しているのは、元国際大学の研究者で、現日本技芸のリサーチャーである濱野智史である。セカンドライフと比較して、圧倒的に多くの人を惹き付けた、ニコニコ動画との対比で次のように語る。


本の中で使った言葉をそのまま繰り返しますと,セカンドライフのようなメタバース・サーヴィスは「真性同期」,つまりそこにいるユーザー同士は常にリアルタイムで接する必要があるサーヴィスです.かたやニコニコ動画の方はというと,私はそれを「擬似同期」と呼んでいて,皆がバラバラのタイミングでサイトやサーバを訪れてコメントを書いているのに,あたかも今いっしょの空間にいてワイワイガヤガヤとお祭り騒ぎのように盛り上がっているように感じられる.
 メタバースのほうは,そういう盛り上がりは感じられにくい.なぜかというと,同じ時間に同じ場所に行かないと他のアヴァターさんがいないから,妙に寂しい雰囲気になってしまう.だから「セカンドライフって,今人気だよ!」って聞いて実際にアクセスしてみたら「あれ,誰もいなくない?」みたいな話になって,結果みんな「誰もいないぞ,実は人気なんかないじゃん」としか言わない(笑).そういう,ある意味ではお粗末な状況になってしまったのが,当時のメタバース系サーヴィスの実態だったわけです.


ICC ONLINEE | ARCHIVE | 2010 | ICC メタバース・プロジェクト | メタバース研究会

使える分析ツール


この「真性同期」「擬似同期」の概念は、セカイカメラをベースとしたサービスを創り上げるための分析ツールとしても、大変貴重なものだと思う。現段階のセカイカメラでは、特定の場所に出かける必要があるという意味で、ニコニコ動画ほどの『擬似同期』性の演出は難しいが、エアタグの形で蓄積しておける、という意味でセカンドライフほど『真性同期』というわけではない。しかも、工夫次第では、ニコニコ動画とはまた違った意味で、『萌える』『擬似同期』性を演出できる可能性を秘めていると思う。


だから、今後の展開は大変楽しみだが、一方、一応業界の中にいる私としては、安閑としてはいられない。



<関連リンク>


【AR本命】セカイカメラという一歩を踏み出せ!9


【Twitter/iPhone】セカイカメラ・拡張現実がもたらす未来の予想を収集してみた | 突撃びじであ! - 実体験レポート&レビュー


http://matome.naver.jp/odai/2125376651857095713


セカイカメラ前夜祭で出てきた単機能ARアプリたち:CloseBox & OpenPod:オルタナティブ・ブログ