コンテンツ学会 多田彰氏『Web2.0最新トレンド』に参加した

コンテンツ分野を総合的に取り扱う新しい学会と銘打つ、「コンテンツ学会*1 が主催する、「コンテンツ学会サマースペシャル企画10日連続研究会シリーズ」が、8月17日(月)より始まっている。(期間中行われる講演会のプログラムは下記の通り。)



■開催日程・講師・テーマ


8月17日(月)渡辺弘美氏(アマゾンジャパン渉外本部長)
「日本はネットネイティブな国になれるのか(仮)」

8月18日(火)武山政直氏(慶應義塾大学経済学部教授)
「代替現実ゲームと消費者エンゲージメント(仮)」

8月19日(水)多田彰氏(ソフトバンク)
Web 2.0の最新トレンド(仮)」

8月20日(木)岡本真氏(ACADEMIC RESOURCE GUIDE)
「コラボのためのプラットフォーム設計ーARGを事例に」

8月21日(金)藤元健太郎氏(D4DR代表取締役社長)
「台頭するライフログビジネス(仮)」

8月24日(月)福井健策氏(弁護士・日本大学藝術学部客員教授)
「データベース化する世界と、著作権の課題 −Google和解期限を目前に−」

8月25日(火)森祐治氏(THINK代表取締役社長)
「日本コンテンツ海外展開の過去・現在とリバイバルプラン(仮)」

8月26日(水)楠正憲氏(マイクロソフト)
「ネット上の犯罪事案に対する事業者の対応と制度の国際動向(仮)」

8月27日(木)津田大介氏(ジャーナリスト)
「コンテンツビジネスと著作権-最新動向(仮)」

8月28日(金)前田智之氏(Contemporary Japan代表)
「モダンアーティストによる2016年東京オリンピック招致活動(仮)」

全日司会:金正勲氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授)


どのテーマも非常に興味深く、また、講師の顔ぶれも非常に粒ぞろいであることに驚いた。コンテンツに係わる諸課題に関して、自らトレンドセッターであろうとする意欲が十分に感じられる企画だと思う。しかも、狭義のコンテンツに係わる問題領域から出発しながら、もっと広い社会的な課題が浮かび上がって見えて来るような課題設定なので、普段直接仕事や研究で関わっている人以外にも関心を持ってもらえそうだ。


全部参加したいところだが、残念ながら他の用件の制約もあり、そうもいかない。やむなくこのうちの5テーマにつき、参加を申し込んだ。


手始めに、昨日(8月19日)、ソフトバンクの多田彰氏の講演を聞いたので、簡単に感想等をご報告する。



開催概要


日時:  8月19日(火)

時間:  18:30〜20:30

場所:  デジタルハリウッド大学秋葉原メインキャンパス

      (秋葉原ダイビル7階)

テーマ: Web 2.0の最新トレンド

講師:  多田彰氏(ソフトバンク)



Web2.0の現状


テーマである、「Web 2.0の最新トレンド」というのを見て、正直なところ少々驚いた。今回参加した人達はどう感じたのだろうか。日本でも「Web 2.0」というキーワードは市場を席巻したバズワードではあったが、さすがにそのブームは収束して、今では特殊なケースでしか使われなくなってきた印象がある。講演の中で、多田氏自身語っていたが、梅田望夫氏の「残念」発言が、ちょうど日本のWeb2.0ブームの終息宣言となったと感じている人は少なくないのではないだろうか。以降、大不況の到来もあいまって、日本のネット業界にも明らかに「停滞感」が居座っている。


ただ、米国を初め、世界的な動向を見ると、ユーザー参加の大トレンド=Web2.0とするなら、終息するどころか、新たな局面へ移行してさらに大きく拡大しつつある。これをまず今回のオーディエンスに認識/再確認させるべく、『Social Media Revolution』というタイトルの動画の紹介からプレゼンがスタートした。残念ながら、動画のほうは、その場ではうまく起動しなかったが、内容は日本語で別途紹介された。一つ一つはどこかで見た記憶のある情報ながら、確かにこれだけ並べてみると、やはりただ事ではないトレンドのうねりを再認識させられるのは確かだ。印象的なものを以下いくつかピックアップしてみる。



Social Media Revolution


・昨年米国で結婚した人の8人に1人はソーシャルメディアで出会った。

・5000万人ユーザーに達するまでにかかった年数。
 ラジオ:38年、テレビ:13年、ネット:4年、iPod:3年。
 Facebookが1000万ユーザーに達するまでにかかった期間は9ヶ月弱。
 iPhoneアプリは10億個に達するまで9ヶ月弱だった。

・もしFacebookが国家だったら世界4番目。

・2009年に米国の文部省が発表したところによると、
 オンラインで教育を受けた人の方が、対面で教育を受けた人より優秀である、
 との結果。

・高等教育を受けている人の6人に1人がオンラインで教育を受けている。

・80%もの企業がLinkedInを使って求人活動をしている。

アイルランドノルウェイパナマの人口よりもFollowerがいるTwitterユーザーがいる。

・世界で2番目に大きな検索エンジンYouTube

Facebookスペイン語版はユーザーがみんなで翻訳した。
 かかった期間は4週間。Facebookのコストはゼロだった。

・世界の20大ブランドについて発表すると、その結果の25%はソーシャルメディア

・人々は、Googleの検索ランキングよりも、ソーシャルメディアによる
 評価の方を気にしている。

・従来のTVキャンペーンで効果が出ているのは18%だけ。

・Jeff Bezos(Amazonの社長)によると35%の書籍販売はKindle向け。


米国では、Web2.0で総称される現象は、ソーシャルメディアの方に軸足を移して、ますます活性化しているという。その点、やはり日本とは様相がなかり違うようだ。



競合トレンド


トレンドという点では、多田氏の説明では、Yahoo! / Data Production → Google / Link Production → Facebook Twitter / Social Graph Production ということになる。よって、Web2.0の王者と言われたGoogleの独り勝ち時代は終焉すると見る。その根拠の一つとして、それまで一貫して伸びて来たGoogleの株価が2008年末に大きく下落したことをあげる。一般に、株価というのは、半年から一年後を見越して変化すると言われる。現在、 2009年の8月だから、その前提が正しければ、そろそろ明確にその徴候が現れて来てもよいころ、ということになるがどうだろうか。現状のGoogle は、Windowsに対抗するOSの導入(Google Chrome OS)やコミュニケーション・プラットフォームの集大成とも言える、新しい企画(Google Wave)等を続々と発表してきており、戦略的にもますます盤石に見える。多田氏の説明の中でも、長い経緯を経て協業を決めたMicrosoftYahoo!連合も、その成果を得てGoogleに対抗するには、少なくともかなりの時間がかかるとの見解だ。


ただ、Web系のサービスは戦略の正しさが必ずしも市場での成功に直結しない。しかも、もう少しスコープを広げてみると、競合相手は、それだけではない。トレンドを左右するキーワードである『クラウド』関連でも、サンのCTOのグレッグ・パパドポラス氏の言う、「世界には5つのコンピュータしかいらない』の『5台』の候補である、アマゾン、SalesforceIBM等は強力な競合となる潜在力があるし、最近アップルがストレージ・キャパシティーを急拡大する計画があるとの情報もある。Googleが独り勝ちを続けるのは容易なことではない。(ちなみに、多田氏は、注目すべき企業/プロジェクトとして、『IBM Smart Planet』を上げている。Web2.0との直接の関係は多少見えにくいが、確かに興味深い。)

IBM クラウド - Japan



Hype Cycle for Emerging Technologies


また、トレンドを把握するための参考として、2008年8月に発表された、ガートナーの『Hype Cycle for Emerging Technologies, 2008』が紹介されていた。
ガートナー | プレス・リリース | ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2008年」を発表



手法自体は、1995年に考案されたもののようだが、今回最新のテクノロジーを選んで、今後市場やビジネスにインパクトのあると考えられる最新のテクノロジーを選んで分析してある。すでに発表されてから、1年が経過しているものの、あらためて見ると意外に興味深い。Web2.0が、すでに『幻滅期』に入れてあるのは笑えるが、最盛期とも言える、FacebookTwitterについても、『過度な期待のピーク期』から『幻滅期』に入ろうとしていることだ。もっとも、Hype Cycleの理論自体、『過度な期待のピーク期』から『幻滅期』を経て初めて安定期を迎えるということなので、Web2.0Facebook、も Twitterも一旦幻滅期を迎えても、再度復活すると見られているようだ。(セカンドライフも、ということになるがこれはどうだろう。)



日本の停滞の原因の一つ


プレゼンで、少々残念に感じたのは、日本のことがあまり語られていなかったことだ。(『残念』と総称されてしまった?) 質疑では、日本の停滞の原因の一つとして、過度な『コンプライアンス』、過剰な『情報漏洩』忌避などで萎縮している現状について言及されていたが、その点は私もまったく賛成だ。さらに問題だと思うのは、この状況が日本の競合力低下の原因となっていることに鈍感な人があまりに多いことだ。日本人は、自家用車については、ほんの些細な傷にも厳しく反応する。(米国人などとは対照的だ)そのため、中古車市場は日本では長く活性化しないとさえ言われて来たが、このままでは、過剰反応体質が日本の情報産業のアキレス腱になりかねない。多少意図を持って、緩和していくことも必要だろう。