やはり日本企業に大きなチャンスが来ているのではないか

激しさを増す景気動向


1月13日に、内閣府から08年12月の景気ウオッチャー調査の結果が出て来ているが、街角の景況感を示す現状判断指数(DI)と2―3カ月後の景況感を予測する先行き判断DIは、いずれもデータを比較できる2000年1月以降の最低記録を3カ月連続で更新したようだ。予想されたことではあるが、『一段と激しさを増している』ことがわかる。

景気ウォッチャー調査(平成20年1月調査結果(抜粋))



史上まれにみる伝播のスピード


10年位の単位で見れば、世界各国で、大きなリセッションは何度かあったが、今回は確かに過去に例がない事態と言えそうだ。全世界すべて同時に不況入りしており、しかも相互の関係が緊密で、伝播のスピードが異常に早い。この様子では世界のどこかで大きな異変が起こるたびに、思わぬ影響/インパクトに脅かされることも当面避けられないだろう。あらためて金融商品が如何に安易に国境を超えていたか、ということでもある。輸出入審査が非常に厳しい自動車や石油製品などの貿易を経験した私としては、その落差に今更ながら唖然とする。規制緩和はいいけれども、いわば金融毒入りミートボールが税関に引っかからずに世界中で売られたわけだから、これはやはりシステム自体に問題があったとしか言いようが無い。



日本だけが無事?


ただ、如何に世界同時不況であっても、どこかにまだ深刻さ度合いにおいてましな地域はないのかと言えば、何とそれは日本ということになりそうだ。あくまで相対的とは言え、冷静に見れば、中国に次ぐ世界第二位の外貨準備高(08年末現在:1,030,647百万ドル)、個人金融資産も1,500兆円ある。幸か不幸か世界が好景気で湧いていたときも日本にはさほどバブルと言える状況がなかったため、他国と比べると銀行も痛んでいない。(もちろん、まだ本当のところはまだわからない。約1兆5,000億円の含み損を抱えていると言われる農林中金のような例がこれから続々と明るみに出てくるかもしれない。) 


これは一方で、さらなる円高が予感されることも意味し、近年の日本経済を引っ張った自動車、電気等の輸出産業の業績がさらに悪化する可能性が高いということにもなる。相対的な日本の強さを個別企業が生かすことは難しそうだが、資産を持つ企業にとっては有利なM&A株式投資のチャンスであることは確かだろう。また、三井物産戦略研究所所長の寺島実郎氏やコンサルタント大前研一氏がおっしゃる通り、国家ファンドをしたてて、新エネルギーや海洋資源開発に乗り出したり、日本の長年の宿願でもある資源や食料関連企業に大規模投資を行うべき時期というのも、確かにその通りかもしれない。



業界別壊滅度リスト


その日本の中でも業種別に見ると、相当に深刻度合いには開きがあるようだ。その点で、最近話題になった、Chikirin氏の日記の1月8日のエントリーである、業界別の"壊滅度"リストは、(身につまされはするが)面白かった。
業界別の”壊滅度”リスト - Chikirinの日記


壊滅度を5段階に分けて、格段かにカテゴライズされる業種をリストアップして説明してある。個別には異論もあろうが、どの業種に属していようと、会社(およびその経営者)は、狭義の自分の会社のドメインだけではなく、他業種に起きていることを含めて全体として俯瞰してみることで、自らの会社の経営の舵をどの方向に切って行くべきなのか、ヒントが見えてくるはずだ。  特に、どの業種のどの会社が不況下でも収益を落とさず、あるいは向上させているのか、意外な気づきはないのか研究してみることは、自分の会社の窮地を救う窮余の一策を編み出すために大変重要だと思う。かつて、経営の神様、ピーター・ドラッカー氏は、意外な事実を発見したときには徹底してそこを追求する姿勢の重要性を説いていたものだ。



過剰反応を乗り越えて


上記のように、マクロの状況分析に思いを馳せると、日本で典型的に起きているのは、心理的な過剰反応と言えそうだ。もちろん、自動車のように米国経済と緊密だった業種は、直接の被害も甚大で深刻な雇用問題を引き起こしているわけだが、今のところそこまで影響を受けていない業種も多い。例えば、小売り業についても、高価な商品の販売は激減しているようだが、スーパー、ディスカウント店等、健闘しているといっていいし、逆に不況をバネに業績を延ばし始めている企業さえある。だが、多くの場合各種の分析から見えて来るのは、企業と消費者の過剰防衛反応だ。これは、近年の日本社会のセフティーネットの脆弱さが背景にもあるため、無理からぬところもあるが、少なくとも企業の側から言えば、今の日本こそ仕掛けて行くべきチャンスは多い。というより、仕掛けて行かなければ、縮小均衡の末にマクロの荒波に飲み込まれて行くことになるだろう。



1929年の大不況の教訓


ルディー和子さんのブログ、『明日のマーケティング』に 非常に興味深いエントリーがある。(「大恐慌」時代に成功したマーケティング戦略)今は、1929年の大恐慌の再来か? と盛んに言われているわけだが、マーケティングに関して、大恐慌の時代から学ぶべき教訓について言及されている。大不況のニュースに不安になった消費者は、まだ実施的被害を被っていない市民も買控えし、それに呼応してどの企業でも、うんざりするほど『低価格』、『コスト削減』のオンパレードだ。だが、1929年の恐慌を経て1929年以前より成長を遂げた企業のマーケッティング戦略はほとんどすべて同じなのだという。

この長期にわたる不況の時代に、恐慌が始まった1929年以前よりも成長を遂げた企業がいる。そういった企業は、他の企業に比べて、どういった異なるマーケティング戦略を採用したのだろうか? これについては、恐慌再来が叫ばれるようになった2008年春ごろから、アメリカでも、いくつかの記事が書かれている。そして、面白いことに、ほとんどすべてが同じ結論に達している。


 簡単にまとめると、大恐慌を生き抜いただけでなく繁栄した企業は、「不景気などまるで存在していないかのように、一般大衆が消費できるお金を以前と同じくらい持っているかのようにふるまった会社」なのだ。「他の企業がコスト削減から広告費を減らしたなかで、広告をし続けた会社」なのだ。競合他社の広告が消費者には見えにくくなっていくなかで、以前と同じように広告するから目立つ。他の企業が消極的に対応するなか、積極的なマーケティングを展開することで、こういった企業は低いコストで市場シェアやROIを向上することができた・・・・というのが共通する結論だ。
http://newmktg.typepad.jp/blog/2008/12/now4-925f.html

この例として、P&G、シボレー(GM)、ケロッグ等が揚げられている。いずれもその後20世紀を代表する企業にのし上がっている。(GMはついに命脈がつきかかっているが・・) 競争戦略の基本は、『他社とは違うことをやること』である。不況時に皆が一斉に『コスト削減』『広告費削減』に走る中、その時期に広告宣伝をし続ければ、他社のノイズが減っているのだから顧客への浸透は抜群だろう。仮にマクロの消費者マインドの冷え込みに当面は阻まれるたとしても、消費者のマインドシェアは激的に書き換えられるはずだ。景況が好転した時には、実際の市場シェアも激的に向上することは疑いない。



仕掛けるか消えるか


もちろん、ルディー和子さん自身言及されているように、これは不況に耐える企業体力(内部留保)がある会社が結局強く、強い会社はますます強くなるというあまり面白くない結論を逆から言っているだけに見えるかもしれないが、冷徹な事実として、そのような優勢劣敗が起きるのが大不況期、ということだろう。上記に述べた通り、実際に世界的に見れば相対的にチャンスのある日本であるだけに、仕掛けた会社と仕掛けなかった会社の差が非常に大きくなる可能性が高いことは留意しておくべきだろう。しかも、今は、資本よりも知識/知恵が大事な時代だ。多少誇張して言えば、『敢然とチャレンジする知恵ある会社』となって飛躍を遂げるか、大不況の波間に消えるか、そのどちらかを選ぶことを余儀なくされるわけだ。


今は覚悟を決めるべきとき。一番言い聞かせるべきは自分自身なのかもしれない。