利潤追求がすべてになった社会の貧しさ

派遣切りへの批判と企業の立場


急激に業績見通しを下方修正した自動車産業等を中心に、大量の派遣労働者の解除が相次ぎ、しかも特に製造業の派遣労働者は誰が見ても、社会的弱者が多いことから、対象企業の『社会的責任』を問う意見が多くなって来ている。最近の共産党は、そのような世論の後押しを受けていることもあろうが、志位委員長が日本経団連御手洗冨士夫会長と会談したり(共産党委員長と経団連会長の会談は初めて)やトヨタ自動車に要求書を渡したり、とても元気がよい印象がある。高木連合会長も、朝日新聞のインタビュー記事で、派遣労働者に対する企業の姿勢を非難し、派遣労働者の雇用維持を企業の社会的責任と考える立場を明確にしている。しかも、派遣法などの規制緩和を許し、不安定雇用を増やした責任を認め、懺悔するとまで言い切っており、強い調子の決意表明となっている。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/081218/plc0812181820015-n1.htm
派遣の正社員化を/共産党、トヨタ車体に要請
「大企業の非正規大量解雇、許されない」高木・連合会長


最近、こういう企業姿勢を非難する世論は強くなって来ているため、なかなか企業擁護の意見は発言しにくい空気もあるが、当然企業側としては、『企業存続ができなくては、社会的責任も果たせない』『法律は遵守している』『このままでは労務費の安い海外にもっと生産拠点を移さざるを得ない=結果的に日本の雇用が守れない』等主張したいところだろう。確かに企業個々の責任というより、政治対応の稚拙さに、より大きな問題があることは否めない。



利潤の極大化だけでは・・


どちらの主張にもそれなりの理はあり、勝ち負けを簡単に決めれる問題ではないけれども、少なくとも景気が大きく後退する局面においては、現状のシステムでは社会的弱者の窮乏があまりにひどく、緊急の対策はどうしても必要だし、短期的な問題解決と並行して、抜本的な恒久対策は不可避であることははっきりした。そして、社会の全域が行き過ぎた資本主義で全面的に覆われた状態では、如何に合理的で、社会全体での利潤の極大化がはかれたとしても(日本は資本主義が行き渡ったとは言えないというご意見もあろうが)、それだけではより住み良い社会が実現できるとは限らない、というあたりまえのことを再認識させられるきっかけとなったように思う。



重要な価値は見えにくく管理しにくい


経済的利益増大が、より良い社会構築のための重要な要素であることは確かだし、そしてそれは指標が見えやすく目標設定も容易だが、社会的な友愛、文学や芸術の感動、相互扶助の精神、家庭生活の充実など見えにくく、指標化などおよそ不可能な価値が、経済的利益増大によって阻害され、衰退していくのなら、本末転倒も甚だしい。極端な話、経済的利益が多少損なわれても、相互扶助、友愛が溢れた社会が創れるのなら、そのほうが生きやすいく納得のできる社会になるのではないのか。見えにくいからといって、無視してよいどころか、本来人間に重要な価値というのは、見えにくく管理できないもののほうが多いはずだ。『自由』『愛情』『感動』などどれ一つとして、簡単に見える化など出来はしない。



現代の経営者と過去の経営者


だが、そのような価値が低く扱われる社会では、まさに目に見えてそこにいる人間の人格的な輝きが失われて行く。その顕著な一例を、昨今の企業経営者と、過去の経営者の発言の差に見る事ができる。
以下の経営者の発言集は、オリジナルは2ちゃんねるだろうか。誰が集めたのかはわからないが、よくぞ集めたのもだと思う。私自身、感動した。
なりゆきタイムラー:【経済】 "車が売れない" 自動車業績、総崩れ…ホンダは下期赤字転落★2 - livedoor Blog(ブログ)


まず、最近の経営者の発言から。(断っておくが、ここに上がっている経営者は、現代日本では超一流の経営者ばかりである。奥田氏など、ある時期直接そばで過ごす機会を得たことがあるが、基本的には豪放磊落で人情味に溢れた人格者だ。時代の空気がこのような発言をさせている、ということだと思う。)


奥田 碩(日本経団連名誉会長 トヨタ自動車相談役)
「格差があるにしても、差を付けられた方が凍死したり餓死したりはしていない」
「マスコミの厚労省叩きは異常。報復しようかと。スポンサー引くとか」


宮内義彦オリックス会長 元規制改革・民間開放推進会議議長)
「パートタイマーと無職のどちらがいいか、ということ」


奥谷禮子(人材派遣会社ザ・アール社長 日本郵政株式会社社外取締役 アムウェイ諮問委員)
「格差論は甘えです」
「競争はしんどい。だから甘えが出ている。個人の甘えがこのままだと社会の甘えになる」


篠原欣子(人材派遣会社テンプスタッフ社長)
「格差は能力の差」


南部靖之(人材派遣会社パソナ社長)
「フリーターこそ終身雇用」


林 純一(人材派遣会社クリスタル社長)
「業界ナンバー1になるには違法行為が許される」


渡邉美樹(ワタミ社長)
「24時間仕事のことだけを考えて生きろ」 「人間はなにも食べなくても[感動]を食べれば生きていけるんです」


箕浦輝幸(ダイハツ工業社長)
「最近は若者があんまりお金を持ってないと、いうのがあって若者が少し車離れしてるんですね、
それで(聞き取れない)お金がないって事でそういう 連 中 が少し安い車という流れも少しある」


次に、過去の経営者の発言集から。何かが根本的に違うことを感じていただけるはずだ

岩崎弥太郎三菱財閥創始)
「およそ事業をするには、まず人に与えることが必要である。それは、必ず後に大きな利益をもたらすからである」


本田宗一郎本田技研工業創業者)
「社長なんて偉くもなんともない。課長、部長、包丁、盲腸と同じだ」


土光敏夫(旧経済団体連合会第4代会長)
「社員諸君にはこれから3倍働いてもらう。役員は10倍働け。俺はそれ以上に働く」


ヘンリー・フォード (フォード・モーター創業者)
「奉仕を主とする事業は栄え、利得を主とする事業は衰える」
「ほかの要因はさておき、我々の売上は、ある程度賃金に依存しているのだ。より高い賃金を出せば、
その金はどこかで使われ、ほかの分野の商店主や卸売り業者や製造業者、それに労働者の繁栄につながり、それがまた我々の売上に反映される。全国規模の高賃金は全国規模の繁栄をもたらす」


松下幸之助松下電器産業(現パナソニック(笑))創業者)
「産業人の使命は、水道の水のごとく物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価値で提供することにある。
それによって人生に幸福をもたらし、この世に楽土を建設する」


渋沢栄一(実業家)
「その事業が個人を利するだけでなく、多数社会を利してゆくのでなければ、決して正しい商売とはいえない」


早川徳次(シャープ創業者)
一.近所をよくする。近所を儲けさせる。二.信用、資本、奉仕、人、取引先、この五つの蓄積を行え。
三.よい人をつかんだら、決して放すな。四.儲けようとする人は、儲けさえあればいいんだ。何事にも真心がこもらない。
五.人によくすることは、自分にもよくするのと同じだ。人を愛することは、自分を愛するのと同じだ。
事業の道も処世の道も、これ以外のものはない。」

浅田彰氏の言う通りだ


先日、京都造形芸術大学教授の浅田彰氏の発言を引用したが、まさに下記の一言に現状の有様は集約されている。あらためて引用する。現代思想は今こそ有効だー現代思想について真面目に考え直してみる - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る

行き過ぎた資本主義は世界をテクノキャピタリズムに巻き込み、プラグマティックな工学知とそれによる利潤追求がすべての世の中になってしまっている


人間社会をより良いところにするためには、実用的な知識、見えやすい明晰知だけでは充分ではないということを、あらためて主張しておきたい。歴史の知、哲学の知、野生の思考、宗教、健全な直観、文学や芸術、愛情や友愛、それらは一見不合理に見えるものを沢山掬い上げる。だが、本来人間は合理と不合理の合成された存在だ。そんなあたりまえのことをもっとあたりまえに皆が語り合えるようにならないものだろうか。



何が大事なのか見極めたい


効率、実用、利潤等の合理的な価値だけに絡めとられてしまうことの貧しさは、多くのIT長者やヘッジファンドのトレーダーが巨額の報酬を手にした後の金の使い方が、驚く程幼稚かつ低俗で、寒々としていることが多いことにも典型的に現れている。どうひいき目に見ても、彼らが、本田宗一郎氏や、土光敏夫氏のような巨大な人格の魅力を放っているとは思えない。そんなことを皆が思い出すことができれば、苦しい時代もそれなりの意味があったと、後で笑顔で語り合えると思うのだがどうだろうか。