インターネットの本質を理解した企業は不況でも成長する

web2.0のコンセプトにある魅力を改めて評価してみると


前回のエントリーに続き、『web2.0のもたらしたコンセプト、無料経済のインパクト等のコアの部分は、苦難の時代を乗り切るコア・エッセンスとなっていく可能性がある』、とはどういうことなのか、具体的に述べてみる。


web2.0は儲からない、何も生み出していない』という見解も、一面の事実ではあるのだが、それでも、やや視野狭窄気味で、結論を急ぎすぎているきらいがあると思う。 確かに、『無償の労働力やクラウドソーシングなど不特定多数の人にアウトソーシングすることをあてにしてきた企業』や『集客すれば必ずビジネスになることだけを過信した企業』にとっては、上場もできず、google等の企業に買収もされないまま、ビジネスモデルも思いつかないでいるうちに、景気が悪くなり万事休すということになるかもしれない。だがそれは、大前研一氏の言い方を借りれば、旧大陸での法則でものを見ようとしているように見える。インターネットがもたらした新大陸の法則は、まだ安易な解釈を許さない厳しさはあるものの、それを理解しているものにとっては簡単に探検を諦めてしまうことはできない魅力に溢れている


特に、Andrew Keen氏の見解のように、『何でも無料であるべき』と考える、お金に余裕があって暇な連中が一時の熱狂に浮かされて騒いでいただけで、不況になり職を失ってお金がなくなれば、目が覚めるだろう、というような一見常識的な見解は、まさに旧大陸の判断軸の賜物のように私には思える。なぜなら、無料の前提となっている、『人が無償で貢献したくなる理由』が見えていないと思われるからだ。貢献者は時に金銭動機とは別のところで、モチベートされ、あるいは自主的に貢献する。そしてそれは、利用する側がクレバーなら宝の山だからだ。不況で消えてしまうのではなく、不況だからこそ貴重な資源になっていくと思われる。


では、なぜ人は無償で貢献するのか?



人は喜んで無償で貢献する


ちょうど、ハーバード・ビジネスレビューの2008年12月号*1に、『インテュイット 無償の貢献を引出すビジネスモデル』という記事があり、上記と同じ込見出しの記事があって、下記の分類による説明がある。多少私自身の説明で補って解説してみたい。

  • 意識されない貢献
  • 実用的なソリューション
  • 社会的報酬
  • 名声
  • 自己表現
  • 利他主義


意識されない貢献

アマゾンでの購買は、それ自体がアマゾンの推奨エンジンに自動的に貢献している、と考える事もできる。googleの検索も、参加すること自体が googleの利益となる仕組みになっている。だが、これはユーザーがアマゾンやgoogleに何か貢献しようと考えた結果ではない。便利なサービスなので使っているだけだ。だが、しかける側のビジネスモデルが秀逸なら、ユーザーが喜んでそのしかけられたシステムを利用して、同時にしかけた側も儲けるということが成り立っている。日本では、価格コムやアットコスメなどの提供サービスも同じ分類に入れて良いだろう。ユーザーはあくまで自分の利便性のために参加しているだけだが、これが口コミ情報を他の潜在ユーザーに提供して、購買を促し、また購入行動(購入意向データの意図しない提供)が蓄積し、時にこれをユーザーデータとして企業に販売する、というwin-winの関係を通じて全体のループはどんどん拡大していく。


実用的なソリューション

米国のデリシャス、日本のはてなブックマークなどは、ユーザーがブックマーク等の実用的な目的から使用している。ご存知の通り、ブックマークサービスは、自分がブックマークを整理するのに便利なだけではなく、自分と同様の傾向を持つ人のブックマークを見たり、一般的にどのようなブックマークが多いのか知る事でより多くの優れた情報を得ることができる。同時に、副産物として、他の人々にとっても有益なインデックスができあがる。これも、ユーザーはあくまで自分の利便性を考えて喜んで使っているだけだ。


社会的報酬

米国のfacebookや日本のmixiのようなSNSソーシャル・ネットワーク・サービス)への参加に、金銭報酬を求めて参加する人はいないだろう。だが(社会的報酬という言い方がどうかは別として)、コミュニティへの参加を通じて共通の関心を持つ人を見つけたり、就職先を見つけたり、潜在顧客を探したり、さまざまな報酬を得る事ができるがゆえに、多くの人が参加してくる。


名声/尊敬

アマゾンのレビュー、ウィキペディアでの他の貢献者からの尊敬、2ちゃんねるニコニコ動画に見られる内輪での賞賛など、今では多くの機会を通じて、(匿名であれ)名声を高め、尊敬を得ることができる(得たと感じることができる)。


自己表現

自分でブログを書いていて思うのだが、これは他人から評価を受けたり、営業活動のきっかけになったりというような、実際の報酬もないではないが、一番基本的なのは自己表現ができる爽快感だと思う。これは経験してみないとなかなかわからないことかもしれないが、こうやってブログを書いて、後で読んでみると、本当に自分が自分と考えていた枠が広がって行く気がする。そのことに実に爽快感というか、充実感があるのだ。また、読者からのフィードバックに単純に喜ぶという動機もさることながら、自分の考えがさらに洗練される機会となることが、だんだんと楽しみになったりする。自分でこういう視点を持つと、他の人の同様の動機の行為が如何に沢山あるかを見つけることができる。もちろん、ブログだけではない。はてなブックマークのように、他人が書いた記事に短いコメントをつけるという形の参加でも、同様の自己表現の充実を感じている人は少なからずいるはずだ。


利他主義

純粋な利他主義はもしかすると必ずしも多くはないかもしれないが、動機のいくばくかに利他主義的な気持ちを持つ人が少なからずいるということには、しばし感じることだ。レストランの評価など、そういう熱意に支えられているとしか思えないことも多い。


これらは、すべてインターネットがもたらし、また増幅した活動だ。そして、web2.0の結果と言ってもよいだろう。不況になっても簡単に消えてなくなるどころか、むしろ活況となる可能性がある。


■マネタイズについては?

ただ、一方で、実際にいくら集客しても、結局マネタイズが出来ているのは、莫大な広告収入を挙げるgoogleのようなごく一部の企業で、大多数は消えてしまうのであり、ビジネスへの活用は難しいとする見方が多くなって来ているのも確かだ。(これがまさに、web2.0は儲からない、とする嘆きそのものだったいする。)


だが、インターネットの新大陸に本当に日々住んでいる人ならわかる通り、ビジネスのチャンスを広げ、拡大するためのレバレッジに利用できる要素はものすごく沢山ある。中には、すでにここから成功を引出した実例も数多い。これも、ハーバード・ビジネスレビューの2008年12月号に、『インテュイット 無償の貢献を引出すビジネスモデル』の記事に挙げてある分類を利用させてもらいつつ、整理してみた。

  • コスト優位性
  • 規模拡大の優位性
  • 競争優位
  • 顧客サービス
  • マーケティング
  • 資本資源
  • 社員の支援
  • デザインおよび製品開発
  • 製造


コスト優位性

ウィキペディアの情報、SNSへの書き込まれる情報、価格コムやアットコスメに書き込まれる口コミ情報等、事実上コストはゼロである。その他の方法で収集するためのコストを比較の対象にすると大変な優位性がある。


規模拡大の優位性

無数の人の集積、膨大な収集物はそれ自体が優位性を持つことがある。イーベイやYahoo!オークションの商品棚には、それこそ無数の商品が並んでいる。


●競争優位

いわゆるネットワーク外部性によって、構造的な競争優位を構築することもできる。もはやあたりまえ過ぎる話だが、Yahoo!でもgoogleでも参加する人が増えれば増えるほど、そのサービスの競争力は上がって行く。すなわち、集客数の増大が競争優位の力の源泉になる。


●顧客サービス

ユーザーが他のユーザーの質問に無料で答える、オンライン・サポート・フォーラムなどがこの典型例と言える。秀シリーズサポートフォーラム。OK WaveのようなQ&Aサイト(およびその企業利用)もここに入る。
また、ハイアットが提供している、『ヤット・イット』http://209.85.175.132/search?q=cache:sd1Mdnl3M1oJ:japan.hyatt.com/pdf/release/yattit_mar2008.pdf+%E3%83%A4%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A4%E3%83%83%E3%83%88&hl=ja&ct=clnk&cd=2&gl=jp&lr=lang_ja&client=firefox-aはハイアットの顧客とコンシェルジュから寄せられたアドバイスを集計して、ユーザーに評価させるシステムで、顧客へのサービスを充実すると同時に、コンシェルジュの負担軽減に貢献している。


マーケティング

これは、何より一番ポテンシャルがある領域と言える。何せ、ユーザー情報がものすごく多量で多様に収集できるようになってきているだけではなく、ユーザーにアプローチする手法もものすごく増えている。TVコマーシャルのように膨大なコストがかかるわりに効果が不明なものを、ネットで代替させることで、企業も単位あたり効果を向上させることができる可能性もある。


社員の支援

社内イントラネットが有効に活用されれば、特に多数の地域にまたがり従業員が多い企業など、社員の連携、意欲の醸成、プロジェクトの促進等に貢献することが幾つかの成功例から知られている。


資本資源

やや特殊な例かもしれないが、記事ではスカイプの例が挙げられている。スカイプのインタネット電話ソフトは無料で配布され、ユーザーのPCの余剰能力を利用して、同時に1.200万件までに通話を管理している。資本設備を持たずに、全世界規模の通信システムを構築しているということができる。


デザインおよび製品開発

リナックスやファイアー・フォックスのようなオープン・ソース利用が典型例である。記事では、クリエイティブ・アートの分野で、スレッドレスという会社が、ボランティアのデザイナーやアーティストにデザインを提供してもらって、生産すべきデザインをユーザーに選んでもらっている事例が載っている。


製造

フォックス・ブロードキャスティングが放送するTV番組『アメリカン・アイドル』のプロデューサーは制作プロセスの一部を視聴者に依託しているという。



チャンスをつかんでいくべき


実のところ、すでに語り尽くされたと言ってもいい観点なのだが、今あらためて整理してみるべき時が来ているように思う。こうして並べてみると、あらためて不況だから消えてしまうという類いのものではないことを再認識させられる。既存の価値、品質基準、顧客、ブランド等に過度に捕われると、これらのポテンシャルを正しく評価できないかもしれないが、一方で、守るべきものがないベンチャー企業等にとっては、やはり乾坤一擲のレバレッジとなる可能性を秘めている。不況が深刻になってくると、背に腹は変えられず、開き直ってやるべきことは何でもやるというメンタリティが一般的になる可能性があり、ポテンシャルをポテンシャルで終わらせないで、実施にこぎ着けるような事例はむしろ増えて行くのではないか。そういう意味で本当の競争と淘汰の時代がやってくる。そして、その厳しい時代を乗り切るためのヒントがこれだけあるのだ。頭を整理して、何ができるのか、あらためて考え直してみたいものだ。