どんな不況が来てもweb2.0のエッセンスは死にはしない

米国IT企業で始まっているレイオフ


米国では金融不況の影響はすでに実体経済の不況へと移行しつつあり、IT企業周辺でもレイオフが始まっている。slashdotがピックアップしている企業名で見ても、早々たる企業名が並んでいる。規模もかなり大きくなって来ている。(HP:2万人以上、米Yahoo!:1000人規模、 Xerox:3000人規模等)
海外IT企業、次々とレイオフを発表 | スラド



まだ過小評価されている今回の危機


上記記事でもそうだが、まだ日本のIT企業やその周辺のメディア、ブログエントリーを見た限りでは、対岸の火事とみるようなのんびりした雰囲気さえ感じられる。だが、私は、米国の現状を知れば知る程、本当に世界の歴史を変えてしまうような出来事が起きていることを感じてしまう。



米国はやはり未曾有の危機にある


たとえば、米国の自動車市場だが、米調査会社のオートデータによる10月の新車販売台数(速報値)は、前年同月比31.9%減、これを年率に換算すると1,056万台となり、25年8ヶ月ぶりの低水準になるという。2005年が約1,700万台だから、3年間で日本の市場が丸ごと消えてしまったことになるGM(ゼネラル・モータース)は、このままでは来年の初めにもキャッシュ不足(債務超過)となることを自ら認めて政府への援助を要請しているが、手元資金の一時的な不足というよりは、魅力的な車をつくる能力そのものが無くなってしまっていること自体の問題なので、今後どれほどの規模の援助が必要なのか想像もつかない。


オバマ新大統領は、GM救済に言及しているから、なにがしかの救済策は出てくるのだろうし、実体経済が破綻しないためには、救済せざるを得ないだろう。だが、金融、住宅、自動車と経済全体に波及効果の大きい分野がすでにこれほど痛んでいれば、今後、他業種からも続々とデフォルト宣言/救済要請が出てくるのは確実だ。と思う『ディープ・リセッションの到来』はすでに所与として、来るべき状況に備えないといけない


米国で緊急救済のために準備された緊急資産もこのままではあっというまに失われてしまいそうだ。昨年5月末の段階で、米国の連邦政府と地方政府の財政赤字累積学は、約5,910 兆円にも達していたという。つい先頃、金融危機を乗り切るために必要な資金として、55兆円必要であることが発表されたばかりだが、とてもこれでは足りないことはすでに関係者の一致した見解といっていい。すでに、オバマ政権は、デフォルト宣言するのが確実、というような見方も出て来ている
http://www.europe2020.org/spip.php?article565&lang=en


そうならないために、ドル札の輪転機をフル稼働させても(今すでにそれをやっているようだが)、やってくるのはハイパー・インフレ/超円高の可能性が高く、いずれにしても、米国だのみ、ドル中心の構造は崩壊しつつある。



現実を見据えてこそ


私はここでいたずらに悲観論をぶちたいわけではない。ただ、今回の危機は、『構造』そのものを変えてしまうインパクトがあり、それは薄っぺらい個人の経験やそれにもとづく見解など吹き飛ばしてしまう可能性が高いということだ。ここ数十年の状況が依って立つ前提条件そのものが根こそぎ変わってしまうだろうということだ。事実に目を背けていては、この津波に流されてしまうだけだが、まっすぐ事実を偏見や先入観を持たずに見る事ができれば必ず起死回生のチャンスはあると信じるからこそ、何度も危機に言及するのだ。



web2.0バブルは終焉?


では、ITウェブ業界の構造変革とは何だろう。取り敢えず、web2.0はどうなるのだろう。


リーマンブラザーズの破綻前、すなわち今回の本格的で全面的な危機に突入する前の段階で、すでに『web2.0バブル終焉』、『web2.0は儲からない』、という見解は続出していた。にしむらひろゆき氏など、そもそも「Web2.0は何も生み出していない」と一刀両断するような人さえいた。(「Web2.0何も生み出していない」 ひろゆき氏一刀両断 : J-CASTニュース)そして、この経済危機だ。もうweb2.0などと言うのも恥ずかしいという雰囲気さえ感じるようになってきた。


中でも、Wiredvisionによると、従来からweb2.0の背後にある、『無料経済』コンセプトに異を唱えて来たAndrew Keen氏などは、今こそ、と言わんばかりに、『無料経済』がもてはやされる風潮そのものを切って捨てる。

「何でも無料であるべき」という風潮を嫌っていると公言してきたジャーナリスト、Andrew Keen氏は、無償の労働力やクラウドソーシング[企業などがインターネットを利用して不特定多数の人にアウトソーシングすること]をあてにして事業を継続してきたウェブ企業はショック状態にあると指摘する。

「無料であることは、本当に大量失業時代の労働の未来なのだろうか?」と、Keen氏は最近のブログの記事で問いかけている。同氏の答えは「もちろん違う」というものだ。

「要するに、誰もが他に定職を持ち、大金を稼いでいるときなら無償で働くことも構わないわけだが、職を失い始めると、人々の金に対する態度が変わり始めるはずだ」と、Keen氏は電話取材に対して述べた。
http://wiredvision.jp/news/200810/2008102421.html


日本でも、その優れた設計とコンセプトで爆発的な人気を博したニコニコ動画を運営するドワンゴがまだかなりの赤字であることが発表され、ネット関係者に冷や水を浴びせた形になった。
ドワンゴ、最終赤字23億円に拡大へ 繰延税金資産を全額取り崩し - ITmedia ニュース
ドワンゴ下方修正、17億円の最終赤字に 「ニコ動まだ貢献せず」 - ITmedia ニュース


その後すぐに、『ニコニコ動画を黒字化する50の方法』というようなエントリーが上がって、大変面白かったが、これなど、関係者の焦りというか、願いというか、せっかくインターネットのシーンに大変興味深く、インパクトの大きいムーブメントが起きているのに、この火を消したくない、という祈りの気持ちが伝わってくるような気がした。
ニコニコ動画を黒字化する50の方法 - 論理的なアイディアはまだかい?


本当のところ、どうなるのか。



実はこれからが本番


結論を言えば、多くのインターネットサービスが、消えてなくなることにはなるだろうが、web2.0のもたらしたコンセプト、無料経済のインパクト等のコアの部分は消えてしまうことはないと考える。むしろ、この苦難の時代を乗り切るコア・エッセンスとなっていく可能性がある。(むしろ消えてなくなる可能性があるのは、歴史的な使命をとっくに終えているのに、無理に生かされていた、日本の多くの企業であり、すっかり古びてしまったビジネスモデルの方だろう。) 


web2.0や無料経済のもたらすインパクトは、確かにまだ一部企業(google等)しか、ビジネスとしての成功に昇華させていないかもしれない。だが、熱烈に受け入れられるコンセプト、革命的な思想、個人に真の自由を与えることのできる可能性など、我々はすでに見てしまった。我々はすでにあの熱気を知っている。あの可能性が与えてくれるわくわくした気持ちを感じてしまっている。これは、無料とか有料とかいう問題ではない。もう後戻りはできない。人はパンによってのみ生きているのではない。


しかも、まだ無料経済等の本当の意味も整理されず、混乱しているのが実情とは言え、ビジネスのレバレッジとなりうる沢山の要素のスープのような状態が今出現しているではないか。あの可能性のスープを前に、何もせずに諦めてしまうのでは、ビジネスへの執着が足りないと言われてもしかたがないと思う。それは、web2.0というだけではなく、インターネットの可能性そのものと言ってもいいが、そのインターネットの存在があってこそ現出する可能性の一端を見せてくれたのがweb2.0と呼ばれるムーブメントだったのだと思う。


次回は、web2.0や無料経済の実例に言及しつつ、この議論をもう少し先に進めてみたい。