恐慌でも生残る(3)シフト先を押さえる


日を追うごとに深刻さをます日本経済


このシリーズは今回で3回目だが、今日も日経平均がバブル後最安値をあっさり更新して、82年以来、26年ぶりの安値となった。実体経済への影響はもはや避けられない。だが、悲観している暇があったら、早く動き出そう。ピンチをチャンスに変えるためには、少しでも早く頭を切り替えて行く事が肝心だ。



シフト先を押さえる


前二回に引き続き、『恐慌でも生残るために今しておくこと』の第三回目、『シフト先を押さえる』について書いて、完結しておきたい。



開き直りのエネルギー


急激な不況の到来によって、消費者は割高なものや見せびらかし消費を控えて、低コストで必要不可欠な消費にシフトせざるをえない。誰が考えてもあたりまえのこととも思えるだろう。ただ、あえて『恐慌』の際に、ということで取り上げたのは、こういう緊迫した時期、多くの人が苦境に沈まざるを得ない時期というのは、シフトを思い切って進めようとする、強い『動因』が働くことが多いからである。こういう、『開き直りのエネルギー』は、既存のプレーヤーにとっては破壊のエネルギーとなるが、新しい事業を創り上げようとするプレーヤーにとっては、チャンス創出エネルギーになる。


不況期に市場をよく観察していると、業種単位で需要が伸びるところがいつくもある。そして、その需要の周辺にはサービスの拡大が見込める派生需要がたくさんある。すでに起きている需要増もあるが、これから起きてくるであろう需要を一早く見つけて、準備をすること、これが『シフト先を押さえる』ことである。シフトするであろう先に、今、適当な受け口が無ければ、起業のチャンスにもなりうる。



不況でもなくなると困るもの


不況からさらに恐慌にまで至ることを前提とした場合、需要を大幅に落とすであろう業種や企業、そして、その製品やサービスが提供する便益や効用に注目して、不況だろうが恐慌だろうが、無くなっては困るもの、困りはしないかもしれないが、無くなって欲しくないものを見つけて行く。そうするとそこに候補となる(シフトする)需要は沢山見つかるはずだ。その際には、特に、私が前回までにご説明した、『低価格だがセンスがいい』『不安感にうまく対処する』を参考にすると、候補の絞り込みにも役立つと思う。


事例(1)自転車


典型的な例の一つは、『自転車』である。


すでに、自転車関連の需要は好調であり、企業としても順調な会社が多い。世界的な自転車部品製造販売企業である『シマノ』、大規模自転車専門店のチェーン展開をする『あさひ』、その他電動アシスト自転車の先鞭をつけたヤマハ発動機なども入れていいかもしれない。(電動アシスト自転車については、警視庁が、電動による補助率を最大2倍に引き上げることを決定して、12月1日から施行される、という後押しもある。)


原油/ガソリン高騰のあおりを受けて、自動車から自転車へのシフトは進んで来ている。金融危機以来、皮肉な事に原油価格は若干下がって来ているが、今度は、家計の切り詰めがシビアーになってくることが予想され、ガソリンの無駄遣い忌避は一層強まる可能性が高い。そうなると、さまざまなタイプの自転車がその用途にあわせて見直されたり、新しい価値が発見されたりするだろう。そして、その関連消費はいずれも活発になることが考えられる。


ちなみに、日本の自転車の普及率は、ほぼ一人一台であり、日本は一大自転車王国と言える。但し、そのほとんどは、『ママチャリ』と言われる、低速で安全に走れる利便性に優れた自転車である。これは、意外に知られていないようだが、『ママチャリ』は『世界で日本と北朝鮮だけ』と言われるほど、非常に特殊な商品である。(もちろん北朝鮮のママチャリは日本からの輸出品である。) 道路交通法で、自転車も歩道を通行してよいという条件の下にママチャリが開発されてきたという特殊事情もある。ただ、問題は、ママチャリは低速で大変安定性の良い設計にはなっているが、最高速は毎時10km前後のため、自宅から近隣の商店街や電車の駅までが行き先としての限界である。だから、電車の一区間以上を越える距離の用途には使えない。それは、自動車やその他の公共交通機関に代替できないことを意味する。よって、今後は主として『脱ママチャリ』にビジネスチャンスがあると考えられる。



事例(2)SaaS /データセンター


また、各社とも設備投資としてのIT予算は縮小するだろうが、ニーズそのものが無くなる訳ではない。そうすると、現在本格的な浸透がまだやや不透明な、 SaaS(SaaSとは|Software as a Service − 意味 / 定義 / 解説 / 説明 : IT用語辞典)等はこれを期に浸透することも考えられる。同様に自社のデータ・センターを拡大せずに、アマゾンやグーグル、ヤフーが提供しているサーバーおよびデータ・センター関連のサービスを使う企業も増えるだろう。



成長のチャンス


繰り返すが、ここでのポイントは、消費者の『開き直りのエネルギー』であり、漸進的なシフトを問題にしているわけではない。シフトは急速に起こるだろう。そのエネルギーが働きそうなところを、よくウオッチして準備するのが肝要だ。他社がフリーズしている間こそ、普段はできない構造変革を成し遂げて、大きく成長するチャンスである。そのように前向きに考えて、この逆境を乗り切ろう。